(3)  調査研究
@  「児童生徒の悩みと相談相手」に関する意識調査の概要
 研究の目的
 本研究は,児童生徒における「悩んだ経験」「悩んだときの苦しさ」並びに,悩んだ経験をした児童生徒の「相談相手」に関する意識調査をもとに,学校心理学の立場から,児童生徒に対する心理教育的援助サービスの在り方について検討するものである。研究の目的は第1に,「悩んだ経験」「悩んだときの苦しさ」の実態を明らかにする。第2に,「悩んだ経験」のある児童生徒の中で「苦しんだことのある児童生徒の相談相手」の傾向を明らかにする。第3に,児童生徒と教師との「意識」のずれを明らかにすることである。
 質問紙の作成
 質問紙は,「スクールカウンセラーに求められる役割に関する学校心理学的研究」(石隈・小野瀬)で用いられた質問紙をもとに検討し,小・中・高の校種別に作成した。特に,「学習面」「心理・社会面」「進路面」「健康面」の四つの視点に, 「その他」の項目を加え,児童生徒の悩みの傾向をつかみやすくした。質問項目は,問1で「悩んだ経験」,問2で「悩んだときの苦しさ」,問3で「相談相手」,問4は「困りごと」や「悩みごと」がある児童生徒を対象に自由記述の欄を設け,より具体的に実態がつかめるよう配慮した。
 調査の時期と対象者
 調査は,平成12年11月に小(5・6年生5校・11クラス461人)・中(1・2・3年生3校・16クラス613人)・高(1・2・3年生5校・14クラス558人)の児童生徒1,632人を対象に実施した。また,平成12年12月から平成13年1月に,初任者研修受講者,5年次研修受講者,小(229人)・中(178人)・高(192人)の教師599人を対象に実施した。
 分析方法
(ア)  児童生徒の悩みと相談相手(資料3
 全児童生徒の調査結果を,相談相手ごとに分類し集計
(イ)  悩んで苦しんだことのある児童生徒の悩みと相談相手(資料4,,10
 悩んだ経験があり,その時「とても苦しかった」「少し苦しかった」と感じた児童生徒を抽出し,相談相手ごとに分類し集計
(ウ)  児童生徒の悩みと相談相手に関する教師の認識(資料511
 児童生徒の悩みと相談相手に関する教師の認識についての結果を,相談相手ごとに分類し集計(複数回答のため,100%を越えたところもある)

 以上の結果から,各校種別に目的を踏まえ,特徴的な項目を絞り分析した。
 参考資料として,巻末に調査用紙を添付する。必要に応じて参照していただきたい。
A  小学校教師及び小学生へのアンケート調査
 結果と考察
(ア)  小学生の悩みと相談相手(資料3
 学習面について
 「悩んだ経験」があると答えた児童が,他の四つの領域に比べて高くなっている。特に,「授業内容が分からない」「勉強する気になれない」といった悩みは,児童の大部分が経験していることが分かる。相談相手としては,親・兄弟姉妹や友人が多い。「気になることがあるために勉強が手につかない」や「何となくやる気がわかない」「親にいろいろ言われる」で悩んだ経験がある児童は,「相談しない」が多くなっている。
 心理・社会面について
 「自分の性格や体格」や「友人関係」,「対教師不満」で悩んだ経験がある児童が多い。特に,「自分の性格や体格」や「友人関係」では,半数以上が「悩んで苦しかった」と答えている。相談相手では,「好きな人のこと」や「クラブ・委員会活動」での悩み以外は親・兄弟姉妹への相談が多い。「相談しない」が全ての項目で3割を越えている。
 進路面について
 半数以上が「悩んだ経験」を有している。しかし,「親と意見が合わない」では,「悩んだ経験」が低い。中学受験が,一部に限られているからであろう。「悩んだ苦しさ」においては,「中学生活について心配なこと」が高くなっている。中学生活への情報提供(一次的援助サービス)が必要であろう。
 健康面について
 「悩んだ経験」については,他の領域と比べ低い値を示している。しかし,「悩んだ苦しさ」では,「身体の変化」「腹痛,頭痛」「体のだるさ」で高い値を示している。相談相手では,「教師」と答えた児童が他の領域と比べ高くなっている。
 その他について
 児童の半数は,「学校に行きたくない」と悩んだ経験がある。また,「学級に居づらい」も含め,悩んだ経験がある児童の半数が,「苦しんだ」と答えている。しかし,「相談しない」が3割いる。
(イ)  悩んで苦しんだことのある小学生の悩みと相談相手(資料4
 学習面について
 各質問項目に対する「親・兄弟姉妹」「友人」「教師」への相談の割合が,資料3に比べて高くなっている。反面, 「相談しない」の割合が低い。これは,誰かに相談し,解決を図ろうとしている現れで,援助の必要性が読みとれる。また,「分かる授業」(一次的援助サービス)が求められる。一方,授業中のささいな変化を見逃さずに観察する必要がある。
 心理・社会面について
 「好きな人のことで悩んでいるとき」の質問項目では,「友人」に相談する割合が,また,「先生に対して不満があるとき」の質問項目においては,「親」に相談する割合が資料3に比べて,非常に高くなっている。
 「自分の家庭のことで,心配なことがあるとき」の質問事項では,「誰にも相談しない」の割合が高い。家庭環境の変化が児童に及ぼす影響は計り知れないところがあり,情報を十分に得て対処していく必要がある。
 進路面について
 学習面同様,各質問項目に対する「親・兄弟姉妹」「友人」「教師」への相談の割合が,資料3に比べて高くなっている。反面,「相談しない」の割合が低くなっている。これは,誰かに相談し,解決を図ろうとしている現れで,援助の必要性が読みとれる。「親・兄弟姉妹」に相談する割合が高い項目もあり,家庭との連携が必要である。
 健康面について
 すぐにでも改善しなければならないものも含まれており,誰かに相談することで解決を図っている。相談相手としては,他の領域に比べて「教師」に相談する割合が高い。
 その他について
 二つの質問項目共に,「誰にも相談しない」の割合が,資料3に比べて高くなっている。一人で苦しんでいる児童に対して,多面的に状況を把握し対処していく必要がある。
(ウ)  小学生の悩みと相談相手に関する教師の認識(資料5
 教師が,児童に対し「悩んだ経験」があるだろうと考えた割合を資料3と比較してみると,「進路面」「健康面」「その他」で大きな隔たりが見られる。「進路面」では,「将来の自分」「中学校生活」で隔たりが見られる。適切な情報提供(一次的援助サービス)をするなどして,問題の解決を図る必要がある。さらに,教師が見落としている「悩みを抱えた児童」を発見するためのチェックシートも必要になる。
 「悩んだ苦しさ」については,全ての項目で教師は,「苦しいだろう」と認識している。また,「教師に相談するであろう」と答えている割合が高い。しかし,児童の回答では「親・兄弟姉妹」「友人」等に相談する割合が高い。教師が積極的に児童にかかわり,問題となる状況等を見つける努力が必要である。
 まとめ
(ア)  小学生を取り巻く状況を考慮した,援助チームの必要性
 調査結果から,児童の悩みや「悩みの苦しさ」は多種多様であり,相談相手は,「親・兄弟姉妹」「友人」が多いこと,教師の認識とは大きな隔たりがあることが分かった。このことから,悩みをもつ児童に対して,児童を取り巻く状況を十分に把握するとともに,教師だけではなく,「親・兄弟姉妹」「友人」を含めた援助チームで支援することが,問題解決に必要であるといえる。
(イ)  児童の悩みを見つけ,教師との認識のずれを補うチェックシートの活用
 児童の悩みが深く「誰にも相談しない」児童が予想外に多いことから,問題を早期に発見できる項目や,教師との認識のずれを補う項目を含むチェックシートの作成が必要と思われる。


[目次へ]