総合的考察
(1) 学校生活スキル尺度(茨城県教育研修センター版)の開発
 本研究は,学校生活で児童生徒が苦戦しないようにするためには,どんなスキルを身に付けておけばよいかという視点に立ち,先行研究(飯田,石隈,2002)を参考に,校種別に4つの領域における学校生活を送る上で必要なスキル項目を検討するとともに,教師と児童生徒を対象とした自由記述調査を実施し,併せて小学生・中学生・高校生の学校生活スキル項目を収集した。収集された項目に対し,項目ごとの検討・吟味や追加・修正の過程を経て,仮の「学校生活スキル尺度」を選定し,予備調査を実施した。その結果を基に,校種別の学校生活スキルの個人差を測定する項目として適切であるかを検討し,校種別の項目を選定した。こうした過程を経たことで,校種別の学校生活スキルの適切な項目を得ることができたと思われる。
 さらに,こうして収集・選定された学校生活スキル項目を基に,校種別の学校生活スキル尺度(茨城県教育研修センター版)を作成し,その信頼性・妥当性を検討した。まず因子分析の結果,校種別に次のような学校生活スキルの因子が示された。

<小学校>
@ 「将来について考えるスキル」(進路決定スキル)
A 「集団場面で生活するスキル」(集団活動スキル)
B 「勉強を自分ですすめていくスキル」(自己学習スキル)
C 「課題に取り組むスキル」(課題遂行スキル)
D 「健康について相談するスキル」(健康維持スキル)
E 「友だちとかかわるスキル」(コミュニケーションスキル)
F 「自分の健康に気をつけるスキル」(健康維持スキル)
<中学校>
@ 「進路決定スキル」
A 「相談スキル」
B 「集団活動スキル」
C 「健康維持スキル」
D 「自己学習スキル」
E 「コミュニケーションスキル」
<高校>
@ 「コミュニケーションスキル」
A 「進路決定スキル」
B 「自己学習スキル」
C 「集団活動スキル」
D 「健康維持スキル」

 次に,学校生活スキルの下位尺度の信頼性・妥当性を検討するため,信頼性に関しては内的一貫性および再テスト信頼性から,妥当性に関しては「学校生活に関するアンケート」と学校スキルの相関から,各下位尺度はある程度の信頼性・妥当性を有していることが確認された。
 以上のことから,この尺度は,小学生・中学生・高校生の学校生活スキルを測定するアセスメント道具として今後学校教育現場で活用できると考えられる。
(2) 学校生活スキル尺度(茨城県教育研修センター版)の活用について
 本尺度の活用については,第一に,学年の始めや学期の始めに各児童生徒の今後の援助について考える段階で,児童生徒の援助ニーズを把握するために実施することが考えられる。この尺度から得られる情報を活かして,学校生活スキルが定着していない児童生徒の早期発見や早期対応,および学級全体で指導を必要とするスキル項目の発見に役立つと思われる。学校生活スキルトレーニングの実践は,予防開発的に学級全体を対象として行ったり,個別的援助に活用したりすることができると考える。
 第二には,この尺度を活かして,学校生活スキルに焦点を当てたスキルトレーニングの様々な工夫ができることである。また,授業の前後でこの尺度を実施することで,児童生徒の自己のスキルに対する評価の変容を検討することができる。さらに,学校生活スキルトレーニングが,学校生活に必要なスキルを身に付けるために有効かどうかの検討も可能である。
 第三には,スキル尺度についての調査にみられる児童生徒の自由記述や,スキルトレーニング後の児童生徒の感想などから,「自分のこれまでのことをよく考え直してみたいと思った」「自分で意識したり,実際にやってみることで,自分の気持が変わるんだということが実感できた」というコメントが多く得られたことから,この尺度を実施することは,児童生徒の自己理解を促し,自分の行動を見直し,自分自身の力で問題状況が大きくなるのを予防するのに役立つと思われる。
(3) 学校生活スキルトレーニングの実践と今後の課題
 学校生活スキル尺度の開発を通して得られた知見を基に,試行的に学校生活スキルに焦点を当てたスキルトレーニングの授業実践を行った。授業実践の前後における意識調査や児童生徒の観察,ワークシートの記述などから,児童生徒が自己理解や他者理解を深めたり,学級集団が快適に感じられたりした様子が多くうかがえたことから,学校生活スキルトレーニングの有効性をある程度確認することができたと考える。
 本研究においては,学校生活スキル尺度の開発に大部分の時間をかけたために,スキルトレーニングの実践については,まだ試行的な段階にとどまった。今後の課題について4点述べる。
@ 「学校生活スキル尺度は,項目数が多いことから,実際に学校現場で活用する上でどれを優先的にしたらいいのかなど,もっとわかりやすく示す工夫をが必要である。
A 学校生活スキルトレーニングの効果の評価や実際の児童生徒の行動を把握するためには,児童生徒の自己評定ばかりではなく,他者評定法を併用するなどして,実際の児童生徒のスキルの獲得を正確に把握する必要がある。
B 学校生活スキルトレーニングについて,児童生徒の発達段階や学級における実施時期,長期や短期で実施する際のスキルの選定やトレーニング内容の開発,個別的な配慮を要する児童生徒への対応,授業展開時における具体的な手だてなど,よりよい学校生活適応を目指したトレーニングの在り方を究明していく必要がある。
C 学校生活スキルトレーニングの『手引き書』を作成し,普及・浸透を図る。


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