B C小学校第5学年健康について相談するスキル(健康相談スキル)
 ここでは,小学校5年生を対象に,健康相談スキルの一つである「からだの調子がおかしいとき,ほうっておかないで大人に相談することができる」というスキルに焦点を当てたトレーニングの実践を紹介する。
学級の実態について
 男子8人,女子14 人の計22 人の学級である。明るく,素直で何事にも真面目に考え取り組む児童が多いが,自ら判断して行動したり,表現することは苦手である。
 中にはコミュニケーションのとり方が分からなかったり,体の調子が悪くても我慢してしまうA男・B子・C子や保健室に来ても自分の様子を言葉で伝えられないで涙を流してしまうD子がいる。また,思春期が始まって恥ずかしさを感じてきている児童が何人かいる。そこで,自分の健康状態を身近にいる大人に相談できるようなスキルが必要であると考えた。
目標
自分の健康管理をする上で,体調が悪くなったりした時は無理をしないで,近くにいる大人に,体の様子を伝えることが大事であることを知り,早めに自分で伝えることができるように練習をして実際の行動に移せるようにする。
指導計画
トレーナー…養護教諭  補助者…担任
事前アンケート(資料1)
第1時(学習1) 家の人や担任の先生に相談するときの練習
第2時(学習2) 保健の先生に相談する時の練習
事後アンケート(資料1)
活動の実際
(ア) 活動の経過
<第1時>
(イ) 活動の内容
 はじめに学級の雰囲気を和らげるため,しりとりゲームを実施した。1回目は,緊張していてなかなかゲームが進まなかったが,だんだんと慣れてきて大きな声も出て笑顔でゲームをすることができた。
 ブレインストーミングでは,「体の調子がおかしいとはどんなことか」思いついたことを考えさせたところ,内科的な症状を挙げたのが多かったが,ねんざ・骨折なども挙げることができた。
 メインのロールプレイは,「視力が低下してきたAが相談する時」の場面を設定したシナリオをもとに楽しく役を演じていた。役割を交代することで,相談相手である大人の気持ちも感じとることができ,相談しようとする気持ちが高まったようだ。
 学習1での振り返りワークシートの「この授業は楽しかったですか。」の質問では,「すごく楽しかった。」が17 人,「楽しかった。」が3人,「ふつう」が1人で,「楽しくなかった。」「ぜんぜん楽しくなかった。」と答えた児童はいなかった。「ロールプレイはうまくできましたか。」の質問では,「とてもよくできた。」が8人,「よくできた。」が10人,「ふつう」が3人で,「あまりできなかった。」「ぜんぜんできなかった。」と答えた児童はいなかった。
 「お母さんや先生になった時の気持ちはどうでしたか。」の質問では「少しだけお母さんになった気分が味わえた。」「言ってもらってうれしいような気がするんだなあと思った。」というように母親や担任の気持ちになれたようだ。
 「A男・A子さんになった時の気持ちはどうでしたか。」の質問では,「なんだか不しぎな気持ちで楽しかった。」「言った方がすっきりするんだなあと思った。」というように表現することのよさを感じることができた。
 「この授業をして,気がついたことや感じたことを書きましょう。」の感想には,「私が本当に体調が悪くなったときに必要な言葉だなと思った。」「やっぱりがまんしないでいうことが大切なんだと思った。」というような内容があり,相談することの大切さを感じ,相談しようとする気持ちがうかがえる。
 2時間目の「保健の先生に相談する時の練習」は,子どもたちが楽しみにしている宿泊学習で,体調が悪くなった時に保健の先生に相談するという場を設定した。まず自分でシナリオを考えて,それをもとにグループでのシナリオを作成してロールプレイを実施した。シナリオには児童の個性が表れていた。
 学習2での振り返りワークシートの「体の調子がおかしいとき,ほうっておかないで大人へ相談する仕方の勉強をしてあなたはどう思いましたか。」との質問では「前より相談しようと思うようになった。」が19 人,「あまり変わらない。」が2人,「相談しようとは思わない。」と答えた児童はいなかった。「またこのような授業をしたいと思いますか。」の質問では,「したいと思う。」と全員が答えていた。「この授業をして,気がついたことや感じたことを書きましょう。」の質問の答えには,「相談したら,もしかすると,楽しみにしていたことができなくなるかもしれないけど,できるだけ相談しようと思った。」「気持ちが悪くなったりした時,ちゃんと相談した方がいいことが分かりました。」「これからは,ぐあいが悪くなった時,がまんしないで,ちゃんと話そうと思いました。」などと書かれてあり, 児童が相談することの意義を理解してきたことが分かる。
(ウ) 事前・事後の調査とアンケート
 明るく,素直な児童たちの姿を見ていると,自分のことは身近な家族や担任には何でも話せる児童たちがほとんどであろうと思っていた。しかし,事前アンケートからは,健康のことは何でも話せていそうな児童でもあまり話せていないと答えていた児童が多かった。
 アンケート結果を点数化し,1項目の達成度を1,2,3,4点として,一人の最高総得点を16点とした時,表1健康相談スキル得点の事前・事後の比較からも分かるように,事前アンケートの平均点数は12.05,事後は12.59で0.54ポイント上昇した。項目別では1,3,4の項目は上がったが,2の項目は0.14ポイント下がった。
表1 健康相談スキル得点の事前・事後の比較

健康相談スキル 事前 事後 t値

からだの調子がおかしいとき、ほうっておかないで大人に相談することができる 3.09 3.23 -1.00
からだの調子がおかしいとき、その様子を言葉で伝えることができる 3.14 3.00 .83
からだの変化からくるなやみについて、だれかに相談することができる 2.64 2.86 -1.10
自分の考えを家族にはっきりと伝えることができる 3.18 3.50 -2.08 *

合計 2.05 12.59 -1.28
 学級の一人一人の総合点数は3分の2の子どもが上がっていた。また,気になる子どもは全員が上がっていたが,一番気になるD子が一番で4点上がっていた。相談しようとする気持ちが高まったようだ。
 事前のアンケートの感想には,記入する子どもはいなかったが,事後の感想では,ほとんどの児童が相談すると答えていた。D子は「どのくらい悪くなったら,相談すればいいですか。」と相談しようとする気持ちを具体的に表現していた。
表2気になる児童の総合点数
  事前 事後
A男 11 14
B子 13 14
C子 11
D子 12
E男 10 12
また,「こんな授業をすると,なんだか知らないけれど,言う自信がでてきたみたいな感じです。これからも,このような授業を続けてほしいと思います。」「このアンケートで自分はあまり大人に言わないほうだと思った。」など,自分を振り返っていた児童もいた。
(エ) 授業後の教師の働きかけと児童の様子
担任は日常の学校生活において児童の話に耳を傾け休み時間には一緒に遊んだり,ゲームをする時間を多くとるように努めた。また,授業の中では児童が安心して自分の考えを発表できるような言葉を使ったりして授業の雰囲気にも心がけた。
保健室では,来室した際にはていねいに接し,児童の気持ちを大事にすることに心がけたり,授業後の感想を話題として,相談しようとする気持ちが継続したりするようにかかわった。そのような日常のかかわりが,相談しやすい関係づくりに役立ったと考える。
まとめ
(ア) 反省
ロールプレイでの場面設定はもう少し検討すれば良かったのではないかと感じた。また,グループ内で発表してから全体発表にすれば不安感が少なくてすんだと思わ れる。
振り返りは十分な時間を確保して,いろいろな考えがあることを広めることが大事である。
(イ) 考察
自己表現が上手にできない児童が多くなっている今日,健康相談スキルトレーニングを実施し,スキルを学習することは有効である。
継続して実施することにより,健康相談スキルを高められると予想される。
養護教諭が,授業を通して児童一人一人とふれ合うことは,より多くの児童との人間関係づくりとなる。
(ウ) 今後の課題
健康相談スキルは他のスキルより低い傾向にあるので,発達段階に応じたトレーニングの必要性を感じる。
トレーナーの研修を深め,ねらいに沿った学習内容と発問・留意事項をより細かく検討することが大切である。

資料1  事前・事後のアンケート
健康について
このアンケートは体調が悪くなった時相談したり,その様子を言葉で伝えたりしているかについて調べるためのものです。
皆さんの答えは全体の傾向としてまとめるものであり,一人ひとりの答えがそのまま利用されることはありませんので,できるだけ思いつくままに答えて下さい。
はじめる前に下の太線の中に,学年・組・男女を記入してください。
必ず全部の質問に答えてください。
友達と相談したりしないで,自分の考えで書いて下さい。意味のわからないところがあったら,手をあげて先生に聞いてください。
    年    組    男子・女子    (あてはまるほうに○)    
下の質問を読んで,今のあなたにどのくらいあてはまると思いますか。次の1〜4の数字であなたがあてはまると感じる度合いを,それぞれの質問について選んで○を,つけてください。
1=まったくあてはまらない
2=どちらかといえばあてはまらない
3=どちらかといえばあてはまる
4=よてもよくあてはまる










 
 
 

































体の調子がおかしいとき,ほうっておかないで大人に相談することができる。
体の調子がおかしいとき,その様子を言葉でつたえることができる。
体の変化からくるなやみについて,だれかに相談することができる。
自分の考えを家族にはっきりと伝えることができる。
質問はここまでです。ご協力ありがとうございました。
このアンケートについて,何か感想があったら下のスペースに自由に書いてください。
 
 
 
 
資料2  お母さんや担任とのロールプレイ
 Aさんはしばらく前から,テレビを見たり本を読んだりするとき,見えにくかったりすることが多かった。このごろは黒板の文字が,ぼやけたりすることがある。そこで,大人に相談しようと思った。
お母さんに相談
ねえ〜お母さん・・・。
どうしたの?
あのね〜・・・。
なにかあったの?話してみないとわからないじゃないの。
私,このごろテレビが見えずらくなってきたの。
いつ頃からなの?
1学期のなかごろからなの。
早く目医者さんに行かないといけないんじゃないの。
明日にでも目医者さんへ行こう。
担任に相談
先生。私,相談したいことがあるんですけど・・・。
担任 どんなことかな?
あの〜。このごろ黒板の字がぼんやりしてきたの。
担任 視力がおちてきたのかな?
お家の人には話してあるの?
う〜ん。まだ家の人には話してないの。
担任 それじゃー。まず,家の人に話してみようか。
先生からも連絡するから,Aさんからも話してね。
資料3  ワークシート(児童の感想)
ねえ,きょうの授業のかんそうを教えて(その1)
    年    組  名前    
この授業は楽しかったですか。
すごく楽しかった 楽しかった ふつう 楽しくなかった ぜんぜん楽しくなかった
(    ) (    ) (    ) (    ) (    )
ロールプレイはうまくできましたか。
すごく楽しかった 楽しかった ふつう 楽しくなかった ぜんぜん楽しくなかった
(    ) (    ) (    ) (    ) (    )
お母さんや先生になった時の気持ちはどうでしたか。


A男・A子さんになった時の気持ちはどうでしたか。


この授業をして,気がついたこと感じたことを書きましょう。



資料4  ワークシート(ロールプレイ)
 5年生のBさんは2泊3日の宿泊学習にでかけました。1日目の昼食を食べた後,気持ちが悪くなりました。でも楽しみにしていた宿泊学習です。次はハイキングなので,みんなで説明を聞いていました。近くにいた保健の先生がBさんに声をかけました。
保健の先生
Bさん。
顔色が悪いようだけれど,どこか具合が悪いんじゃないの?
 
保健の先生
 
 
保健の先生
 
 
資料5  ワークシート(児童の感想)
ねえ,きょうの授業のかんそうを教えて(その2)
    年    組  名前    
この授業は楽しかったですか。
すごく楽しかった 楽しかった ふつう 楽しくなかった ぜんぜん楽しくなかった
(    ) (    ) (    ) (    ) (    )
体の調子がおかしいとき,ほうっておかないで大人へ相談する仕方の勉強をしてあなたはどう思いましたか。
前より相談しようと思うようになった あまり変わらない 相談しようとは思わない
またこのような授業をしたいと思いますか。
したいと思う どちらともいえない したいと思わない
この授業をして,気がついたこと感じたことを書きましょう。





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