教育相談に関する研究

学校生活適応のための指導・援助の在り方

−学校生活スキル尺度の開発とスキルトレーニングの実践を通して−
研究の概要
 本研究の目的は,学校心理学の援助領域である学習面,心理・社会面,進路面,健康面という枠組みを用い,児童生徒が学校生活を送る上で出会う発達課題・教育課題の解決を促進するスキル(以下,学校生活スキル)の個人差を測定するための尺度を作成することである。先行研究「中学生の学校生活スキルに関する研究」(飯田・石隈,2002)で作成した学校生活スキル尺度(中学生版) を参考にして,児童生徒,教師を対象とした自由記述調査及び仮のスキル尺度を用いた予備調査等を行い,尺度に採用する項目を選定した。収集・選定された項目を基に,小学生505名,中学生891名,高校生585名を対象に調査を実施した。その結果,小学校51項目,中学校51項目,高校49項目からなる学校生活スキル尺度(茨城県教育研修センター版)が作成された。因子分析の結果,この尺度は自己学習スキル,進路決定スキル,集団活動スキル,コミュニケーションスキル,健康維持スキル等の下位尺度から構成されていることが示された。次にこの尺度の信頼性・妥当性の検討を行ったところ,各下位尺度においてある程度の信頼性と妥当性が確認された。さらに,本研究の取り組みとして,校種別にスキル項目に焦点を当ててトレーニングを実践し,その有効性を確認した。
理論研究
(1) 問題
 不登校やいじめ,校内暴力など,いわゆる児童生徒の学校不適応と呼ばれる現象が社会的問題となっており,そのための対応の方策が求められている。特に不登校の問題について,文部科学省の学校基本調査によると,平成13年度の小中学校における30日以上欠席した児童生徒数は138,722人となり,平成3年度の66,817人から10年間で倍増し,過去最多となっている。また,全児童生徒数に占める割合は,小学校で0.36%,中学校で2.81%であり,小学生275人に1人,中学生36人に1人が不登校といえる。平成14年度に「不登校」を理由として30日以上欠席した不登校児童生徒は,小学生,中学生の合計で131,252人(前年度比5.4%減,出現率1.18%)であり,平成3年度以来初めて減少しているものの,学校教育の制度の下,児童生徒が基礎的・基本的な内容や社会性などを身に付ける上で,早急に対応しなければならない状況になっていることを示していると考えられる。文部科学省では,教育相談体制を充実させるためにスクールカウンセラーを派遣するなどしてその対応を行っているが,増加する不登校児童生徒の状況に歯止めをかけるには至っていない。
また,LD(学習障害)やADHD(注意欠陥/多動性障害)をもつ児童生徒など,特別な援助ニーズをもつ児童生徒への注目が高まり,教育の変革に対する社会的ニーズの高まりとともに「心の教育」や「生きる力の教育」などが提唱されている。
 そして,児童生徒の変化として,社会性にかかわる問題がますます際立ってきているとの指摘もある(國分・小林・相川,1999)。「友達と遊べない」「孤立をしている」など非社会的な子どもと,「すぐに怒り出す」「泣き出したらとまらない」などの感情のコントロールを不得手とする子どもが確実に増えてきているのである。こうした子どもの変化の要因は,地域の結びつきが失われたこと,異年齢の遊び集団が消失したこと,教育力のある「大家族」が崩壊したことなどさまざまに考えられる。子どもの学校不適応問題の背景に,こうした子ども同士の結びつきの弱さや人付き合いが苦手で情緒不安定な子どもが増えてきていることが考えられる。
(2) 心理教育的援助サービス
@ 誰を援助するか(whom)
 学校心理学では,学校教育は,児童生徒が「個人として生きる力」や変動しつつある「社会で生きる力」を育てるというヒューマン・サービスを行っているという視点に立ち,3段階の心理教育的援助サービスという考え方を提唱し,援助サービスの充実化を目指している(石隈,1999)。心理教育的援助サービスは,「一人ひとりの子どもの学習面,心理・社会面,進路面,および健康面における問題状況の解決を援助し,成長を促進することをめざす」教育活動である。3段階の心理教育的援助サービスとは,児童生徒が必要としている援助のレベルに応じて,援助サービスを提供するという考え方であり,一次的援助サービス,ニ次的援助サービス,三次的援助サービスという3段階からなっている。図1のように一次的援助サービスとは,すべての児童生徒を対象とし,一般の発達過程に起こりうる問題への対処能力の向上を援助する予防的・発達促進的援助サービスである。二次的援助サービスとは,問題を抱え始めている児童生徒をスクリーニングし,その問題が重大化しないように早期発見,早期介入を目指す援助サービスである。三次的援助サービスとは,不登校児や軽度発達障害など,問題を抱える児童生徒を対象とし,個別の教育計画を立て援助チームを組み対応していくことである。

図1 3段階の援助サービス,その対象,および問題の例
A 子どもの何を援助するか(what)
 現在の教育現場が抱えている問題と向かい合うとき,問題が発生してからの援助と同様に,すべての児童生徒を対象とした一次的援助サービスの充実は必須のものである。一次的援助サービスは問題が明らかになる事前の活動であり,そこで重要になるのが,「何に焦点を当てて援助サービスを提供していくのか」という問いである。
 心理教育的援助サービスでは,一人ひとりの子どもが,ひとりの「人間」として,そしてひとりの「児童生徒」として,学校生活を通して課題に取り組みながら成長するということが尊重される。したがって,子どもが出会っている問題状況が,心理教育的援助サービスの焦点となる。問題の背景にある「課題」に注目し,「課題への取り組み」に焦点を当てるのである。すなわち心理教育的援助サービスは,子どもの学習面,心理・社会面および進路面,健康面に焦点を当てながら,主として子どもの発達課題と教育課題への取り組みを援助するのである。従来,学校教育の中では,子どもの問題状況は不登校,いじめ,障害といった分類の中で検討されることが中心であったが,発達援助という考え方に立って子どもをサポートするのである。
 小学生(児童期)と中学生・高校生(青年期)の子どもが取り組む発達課題について,子どもの学習面,心理・社会面,および進路面の課題を整理した表があるので,表1として挙げておく(石隈,1999)。
表1 子どもの発達上の課題
<児童期>
@ 学習面
基本的な読み書き計算ができるようになる。
日常の生活で出会う概念について学ぶ。
社会の歴史や制度のあり方について学ぶ。
具体的な材料を対象として,論理的に思考できる。
A 心理・社会面
感情を統制し,深め,他者への共感と結び付けられる。
自己に対しての肯定的で的確な態度を形成する。
勤勉に学び,生活する態度を身に付ける。
道徳の原則を内在化して,自律的に道徳的な判断ができる。
友達関係を広げ,同年齢の集団の一員として行動できる。
B 進路面
あこがれる対象をもつ。
あこがれの職業が言える。
空想でよいから,将来の夢が語れる。
<青年期>
@ 学習面
抽象的な思考や科学的論理が実行できる。
社会の仕組みを理解して,社会の問題点を把握し,批判できる。
内面の言語化が可能になる。
A 心理・社会面
身体的な変化を受け入れ,対処することができる。
親から情緒的に自立し,自分なりに行動し,判断する。
親しい友人を作り,親密かつ率直な話ができる。
性役割の変化に応じて行動できる。
異性とのつきあいにあこがれ始めたりする。
B 進路面
同輩との関連で,自己の相対的位置付けを知り,自分なりの個性的な価値について自信をもつ。
社会的役割を積極的に体験することで,「ありたい自分」について語れる。
社会の価値を知った上で,自分なりの価値や倫理をもち,行動に生かしている。
進路の選択を考え,方向を見いだす。
意見・価値観の異なる他者との関係がつくれる。
葛藤を解決する力を身に付ける。
現実と夢のギャップに気付く。
 乳児から青年までが取り組む発達課題について理解するのに,エリクソンの発達理論が有効であるとされるので,表2のように整理してみた。
表2 エリクソンの発達理論
時  期 特    徴 発達課題
乳児期
(0〜1歳ころ)
生きるために他者の世話を必要とする
「与えられる存在」
基本的信頼感の獲得
幼児期初期
(1〜3歳ころ)
自分で動き回り,自己主張をする。
「意志する存在」
自律性の獲得
幼児期後期
(4〜6歳ころ)
野性的で,エネルギーに満ちている。
「かくありたいと想像する存在」
自発性の獲得
児童期
(7〜12歳ころ)
知識や技能を身に付け,仕事を完成させる喜びを味わう。
「学ぶ存在」
勤勉性の獲得
青年期
(13〜22歳ころ)
急激に身体が成長し性的成熟が生じ,第二次性徴とともに青年期が始まる
「自分とはなにものか」問う存在
アイデンティティ(自己同一性)の確立
 子どもが取り組む各発達課題は,その段階だけではなくそれ以後も継続的に取り組まれていくものであり,心理教育的援助サービスを行うとき,子どもが今取り組んでいる発達課題とアイデンティティ(自己同一性)の理解が必要となる。
 次に学校教育は子どもの発達に応じて計画され実施されるべきであり,教育課題の設定においては,子どもの成長にはどのような課題が必要か,学校教育はどの課題についてどのように支援できるかを検討することが必要である。子どもの代表的な教育上の課題について整理した表があるので,表3として挙げておく(石隈,1999)。
表3 子どもの教育上の課題
<小学生>
@ 学習面
小学校での学習に興味・関心をもつ。
学校や家庭で学習する習慣を獲得する。
集団での学習生活に適応する。
45分,学級担任の教師の指導援助にしたがって,授業に参加する。
宿題をきちんと行う。
授業の内容を理解する。
A 心理・社会面
小学生として誇りをもつ。
親のいない学校で,情緒の安定を維持する。
友達を作り維持する。
集団の学習や活動に適応する。
学級担任の教師と適切な人間関係をつくり維持する。
学級の友達と適切な人間関係をつくり維持する。
B 進路面
学習や遊び場面で、自分の行動について選択する。
自分の得意なものや楽しめるものを見つける。
学級活動を通して役割をもつ意味を知る。
中学への進学について決定する。
<中学生>
@ 学習面
中学校での学習に興味・関心をもつ。
学習習慣を維持・強化する。
各教科の授業に参加し,理解する。
小学校時代の学習成果を補いながら,生かしながら,新しい教科内容を理解する。
中学時代の学習生活や学習内容に応じる学習方略を獲得する。
高校受験の準備の学習を行う。
A 心理・社会面
中学生である自分を受け入れる。
入学した中学校を受け入れ適応する。
自分のイライラを受け入れ,対処する。
学級や部活動で,親しい友人を作る。
学級担任の教師や教科の教師と適切な人間関係をつくり維持する。
B 進路面
学習内容と将来を結びつける。
学級や部活や生徒会活動などで,自分の行動について選択する。
自分の将来設計をしてみる。
将来の進路について,複数の可能性を考え情報を収集する。
具体的な進路について教師・保護者に相談して決定する。
<高校生>
@ 学習面
高校での学習に興味・関心をもつ。
学習習慣を維持・強化する。
小学校・中学校時代の学習成果を補いながら,生かしながら,新しい教科内容を理解する。
高校時代の学習生活や学習内容に応じる学習方略を獲得する。
大学受験や就職試験などの準備の学習を行う。
A 心理・社会面
高校生である自分を受け入れる。
入学した高校を受け入れ適応する。
学校への不安や不満に対処する。
クラスや部活動や地域で,親しい友人を作り,議論する。
クラス担任の教師や教科の教師等と適切な人間関係をつくり維持する。
B 進路面
クラスや部活や生徒会活動などで,自分の行動について選択する。
学校生活を通して,自分の適性を吟味し,将来設計をしなおす。
職業について理解する。
進路について,多様な情報を収集し,具体的な進路を選択する。
B 折り合い
 不登校,いじめ,軽度発達障害などの問題から,学校生活で苦戦する児童生徒が増えている。学校教育における心理教育的援助サービスの焦点の一つは,児童生徒の学校生活における問題状況の解決である。問題状況は,児童生徒と学級・学校など環境との「折り合い」(田上,1999)という視点からとらえることができる。具体的には,児童生徒の「学習スタイルや行動スタイル」と「学級や学校で要請される学習活動や行動」の折り合いがうまくいかないとき,児童生徒も教師も苦戦する。例えば不登校についていえば,子どもと学級・学校との折り合いがうまくいっていないということが考えられる。子どもが環境に合わせる力が弱くなって登校していないのか,環境の方がその子どもに合わせる柔軟性がないから登校していないのか,あるいはその両方かもしれない。その子どもと学校のどの辺の折り合いが悪かったかをまず理解すると,その子どもや学級をサポートしていくヒントになる。
 折り合いがついているというのは,3点からチェックする。
  第一に,その場所にいて楽しい。
  第二に,誰か知り合いがいるとか,友達がいるとか,人間関係がある程度ある。
  第三に,そこで課題に取り組んだり,何か自分で意味を見出せたりする。
 子どもが勉強で苦しんでいるときには,その子の勉強の仕方とこちらの教え方との折り合いが悪いのかもしれない,ということを頭の中に入れておくとよい。子どもたちのサポートにおいて,子どもが環境に折り合う力を伸ばすという方向と,環境が様々な子どもと折り合う柔軟性を伸ばすという方向が考えられる。双方向での援助が必要であるが,苦戦している児童生徒に対しては環境側の柔軟性が鍵となる。今,学校や地域に問われていることは,いろんな子どもが暮らしやすいように,いかにして柔軟性を高めるかということである。そのことにより子どもは学校生活により適応し,精神的な安定を増すのである。学校生活で苦戦している児童生徒へのサポートを考えるとき,折り合うという視点から捉えなおしてみることは,発達援助的なかかわりの上で重要な示唆を与えてくれる。
(3) 学校生活スキル
@ 学校生活スキルとは?
 本研究は,「何に焦点を当てて援助サービスを提供していくのか」という問いに対する1つの提案を試みる。具体的には,小学生,中学生,高校生が学校生活を送る上で出会うことが予測される,発達しつつある個人として出会う課題である発達課題と学校というコミュニティの中で生活する者として出会う課題である教育課題に対処する際に役立つスキル(以下,学校生活スキル)に焦点を当てるのである。
 学校不適応の問題に大きく関与していると思われるもののひとつに社会的スキルが考えられる。子どもたちは,様々な人間関係の中で生活しており,なかにはその人間関係や対人行動に困難を感じたり,うまく関係が結べず,仲間関係から引っ込んでしまう子どもや,逆に周囲の者に攻撃的にしかかかわれない子どもがいる。一方,周囲の者と好ましい関係を結び,何の問題も感じない子どももいる。このような子どもは,好ましい人間関係を結び,維持していくための知識をもち,具体的にその技術を使いこなしていると考えられる。社会心理学では,このような人間関係に関する知識と具体的な技術やコツを総称して,社会的スキル,あるいはソーシャルスキル(social skills)と呼ぶ。社会的スキルとは,「社会的な相互交流において正の強化がもたらされるような,つまり一般的に好ましい結果がそこに生ずるような一連の社会行動」である(Michelson et al,1983)。社会的スキルが欠如していると,非行に走りやすくなったり,学業についていけなくなったりすることが多く,仲間からの受け入れが悪く,将来にわたって学業成績や社会適応がよくないことが,すでに海外の研究で明らかになっている(Michelson et al.,1983;Matson & Ollendick,1988)。日本における研究においても,社会的スキルと適応上の問題との間には一定の相関があることが認められており,人間関係が好ましい子どもは,社会的スキルを適切に発揮していると考えられる。
 社会的スキルを発揮するには,少なくとも次の表4のような5つの過程を経ると仮定されている(國分・小林・相川,1999)。
表4 社会的スキルを発揮する5つの過程
@ その場の状況や相手の状態を的確に読み取り,判断する。
A その対人状況の中で何を目指すべきか対人目標を決定する。
B 対人目標の達成のためには,いかに反応すべきか対人反応を決定する。
C 対人反応を的確に実行するために感情をコントロールする。
D 自分の思考や感情を言語行動(言葉),非言語行動(手振り・身振りなど)を用いて相手に伝える。
 こうした中で,飯田・石隈(2002)は中学生を対象とした社会的スキル訓練を行い,その結果を確認し,一般の発達過程に起こりうる問題に対して援助する予防的・発達促進的援助サービスとして活用できる可能性を示している。学校心理学では児童生徒のもつ援助ニーズから,援助サービスの焦点を学習面,心理・社会面,進路面,健康面という4つの領域から捉えている。本研究はこの学校心理学の4つの援助領域という枠組みを用いて学校生活スキルを捉えることを試みるものである。
 現在まで行われているスキルに焦点を当てた研究には,社会的スキルやスタディースキルなど様々なものがある。飯田・石隈(2002)は,これらスキル研究で共通でもたれているスキルの基本的性質に関する認識を,社会的スキルの定義(庄司,1991)とライフスキルの定義(WHO,1994)を参考にしてまとめている。それによると,ある行動が援助の対象とされるスキルであるためには,@その行動が学習されるものであること,Aその行動を身に付けることが個人の目標達成に有効であること,Bその個人が生活する場面でその個人の問題や課題解決に役立つこと,Cその個人が暮らしている社会や文化の中で受け容れられる行動であること,が必要であるとされる。
 本研究で焦点を当てる学校生活スキルも,今学校でそのスキルを援助対象として教育していくことを考えたとき,このスキルの基本的性質を満たしている必要がある。しかしながら,児童生徒の様々な領域におけるスキルを幅広く包括的に測定できるスキル尺度は日本では作成されていない。各領域における児童生徒のスキルの達成度や欠如を測定し,心理教育的援助サービスに対する児童生徒の援助ニーズを把握するためには,このような多面的なスキル尺度が必要である。前述の学校心理学の援助領域の枠組みとスキルの基本的性質に関する認識を参考に,本研究では小学生,中学生,高校生の学校生活スキルについての基本的な視点を以下の表5のような行動として定義する。
表5 学校生活スキルの基本的な視点
@ 学習される。
A 学習面,心理・社会面,進路面,健康面の領域で,小学生,中学生,高校生が抱える発達課題・教育課題の解決を促進する。
B 学校適応において個人の目標達成に有効である。
C 学校という場面で受容される。
D 学校で教育できる。
 また,本研究におけるスキルは,本人に認知されたスキルであり,操作的定義では,本研究で作成する学校生活スキル尺度(茨城県教育研修センター版)の得点が高い者ほどスキルが高いということにする。
A 学校生活スキルトレーニングの基本的な進め方
 本研究の第三の目的であるスキルトレーニングにおいては,先行研究や文献等を参考に(國分・小林・相川,1999),次の表6のような社会的スキル発達のメカニズムを踏まえることとした。
表6 社会的スキル発達のメカニズム
@ 教えられて(言語的教示)
 子どもたちは,親や周囲の大人から,言葉で社会的スキルを教えられ,それを実行することによって身に付けるのであり,言語的教示が動機付けとなる。
A 結果から学んで(オペラント条件付け)
 子どもたちは,言語的教示に従って実行した行動や,自分が偶然とった反応が,肯定的な結果(自分の欲しい物が手に入る,ほめられるなど)をもたらすことを知ると,その肯定的結果を得ようとしてその行動を繰り返すようになる。反対に,自分の行動や反応が否定的な結果(無視される,叱られるなど)をもたらせば,その行動をとらないようになる。子どもたちは,自分がとった行動の結果から社会的スキルを学ぶのである。このタイプの学習を「オペラント条件付け」と呼ぶ。
B 人のまねをして(モデリング)
 子どもたちは,他の人がとった反応や行動がどんな結果をもたらしているのか観察して社会的スキルを学ぶ。また,他の人の反応や行動をまねてみることで学ぶ。このようなタイプの学習を「モデリング」と呼ぶ。
C 試してみて(リハーサル)
 子どもたちは,人間関係に関する知識を頭の中で何回も繰り返し反復したり,動を実際に何回も反復して社会的スキルを身に付ける。場合によっては,親や教師が,社会的スキルを繰り返し練習させることもある。頭の中で知識を言語的に反復することを「言語リハーサル」,行動レベルで繰り返し練習することを「行動リハーサル」と呼ぶ。
 このように,子どもたちは,社会的スキルを,「言語的教示」「オペラント条件付け」「モデリング」「リハーサル」を通して獲得していくとされる。
 授業における学校生活スキルトレーニングも,この4つの原理にそった方法を踏まえ,図2の様に授業における学校生活スキルトレーニングの構成を考えて計画・実践に取り組むことを考えた。その際,トレーニングに当たる教師は,あたたかな受容的な態度で臨むことと,楽しい雰囲気づくりに留意するとともに,子どもたちの考えや感情を受け入れながら,ゆったりしたペースで進めることを心がけた。
授業の展開
導   入
展   開
ま と め
ホームワーク
インストラクション(言語的教示)
教えようとするスキルの重要性に気付かせながら,言葉でスキルを教える。

モデリング
ロールプレイなどを用いて,スキルの見本を見せてまねさせる。
リハーサル
ロールプレイなどを用いて,適切なスキルを,子どもの頭の中や実際の行動で何回も繰り返し反復させる。

フィードバック
やってみたことをほめたり修正したりして,スキルを日常生活で実践する意欲を高める。

定着化(学術用語では「般化」)
練習したスキルを実際の場面で使えるうに促す。
図2 学校生活スキルトレーニングの授業構成
(4) 本研究のねらい
 学校生活スキル研究の意義として,子どもたちがスキルを身に付けていないと,学校生活の様々な場面で苦戦しやすく,生きるのが不便になりやすいと考えられることから,スキルを身に付けさせることを通して,現在の学校における生活状態を改善することができ,学校生活における様々な対人関係場面での葛藤やストレスに,適切に対処できる可能性が増すという予防的効果が考えられる。
 以上のことを踏まえ,本研究の目的は次の3つとする。
第一の目的は,学校生活を送る上で出会う発達課題・教育課題に取り組んでいく上で求められる学校生活スキルの項目を収集・選定することである。スキルを教えていくためには,子どもの現状から問題を把握して課題を設定する必要がある。
第二の目的は,学校生活スキルの個人差を測定するための尺度を作成し,その信頼性・妥当性の検討を行うことである。子どものスキルの実態を把握し,どの領域のスキルが,どの程度身に付いているのかを明らかにしておく必要がある。また,スキルトレーニングの実践の後で有効性を確認するためにも,スキルの測定は必要となる。
第三の目的は,学校生活スキル尺度に応じて,スキルトレーニングを計画し,実践することを通してスキルが習得されたかどうかについて検討することである。


[目次へ]