○ | 本センターの統一研究主題「生きる力をはぐくむ学校教育」 平成8年7月に示された第15期中央教育審議会第一次答申では,「溢れる情報の中で,子供たちが誤った情報や不要な情報に惑わされることなく,真に必要な情報を取捨選択し,自らの情報を発信し得る能力を身に付けることは,子供たちにとってこれからますます重要である」と指摘し,各学校段階を通じた系統的,体系的な情報教育の実施により「生きる力」の大切な要素として情報活用能力の育成を図ることが重要であると提言している。 また,この答申では,教育の改善・充実のために,情報機器や情報通信ネットワーク環境を整え積極的に活用するとともに,学校の施設・設備全体の高機能化・高度化を図り,学校自体を高度情報通信社会に対応する「新しい学校」にしていく必要があると提言している。そして,「高度情報通信社会は,コンピュータを単体で活用するのではなく,それらが情報通信ネットワークによって,一体となって機能するところに,その本質がある。」と指摘し,情報通信ネットワークを活用した教育について,今後の動向を見据えつつ,さらに積極的に研究開発に取り組んでいく必要があると明示している。 以上のことから,情報教育に関する研究では,子供たちの情報活用能力の育成を図ることをめざして,校内LANを活用した教育の在り方を究明し,統一研究主題「生きる力をはぐくむ学校教育」にアプローチしようと考えた。 |
|
○ | 「ITで築く確かな学力」 平成14年8月に初等中等教育におけるITの活用の推進に関する検討会議から「ITで築く確かな学力−その実現と定着のための視点と方策−」が報告された。この報告書には,新しい時代に必要な資質と情報活用能力の育成を踏まえつつ,教科の目標を達成し,「確かな学力」の向上にITの果たす役割と意義の重要性が記されている。また,ITを用いて得られる教育効果を以下のように示している。
ITで築く確かな学力の実現と定着のために重要なことは,ITを用いた授業をどう展開するかである。コンピュータを配置しただけでは,またはITが整備されていても学校の教育活動に生かされなければ何の意味もない。校内LANの有効性を授業での利用の面から捉え,具体的な利用方法を提示し,理論的な背景を究明していくことは,これからの教育活動において十分に有意義であると考える。 |
|
○ | 情報教育に関する研究の成果を踏まえて 本センターの平成12・13年度の情報教育に関する研究「インターネットを利用する教材の開発」(研究報告書第37号)において,インターネットの効果的な利用方法やインターネットを利用した教材の作成及びその方法等について,調査,研究を行った。この研究では,「インターネットを利用する教材」を「静的なWeb教材」,「動的なWeb教材」,「対話的なWeb教材」に分類し,研究授業によって,それぞれの効果を検証した。さらに,インターネットを利用する教材としてWeb教材を23本作成し,「教材開発上の留意事項」も示した。 この研究では,主に次のようなことが明らかになった。 まず,「インターネットを利用する教材」の開発においては,特に「ねらい」と「内容」の吟味が重要であるということである。この吟味を疎かにすると,教材の学習に対する効果が薄いものになってしまう。さらに,対話的なWeb教材の作成ではサーバの管理,スクリプト言Web教語やプログラミング言語への理解等,ある程度専門的な知識も不可欠であるということである。 本研究では,前回までの研究を受けて,インターネットの利用にとどまらず,ネットワーク利用の観点から,広く校内LANを効果的に利用する授業の在り方を究明する必要があると考えた。 |
(1) | 研究期間 平成14年度から平成15年度の2か年とする。 |
|||||||||||||||
(2) | 研究協力員 この研究を進めるにあたって,研究協議会,授業研究を行うために研究協力員を委嘱した。研究協力員は以下のように,小学校,中学校,高等学校に所属する教師とした。 |
|||||||||||||||
|
(1) | 校内LANの利用についての基礎研究 | |
@ | 校内LANの利用方法について 校内LAN利用における可能性,有効性を探り,校内LANの「効果的な利用」について追究する。 |
|
A | 「校内LANを効果的に利用する授業」について 校内LANの利用環境,利用場面等に十分留意しながらの授業構成を考慮するとともに,校内LANを効果的に利用する授業展開を追究する。 |
|
(2) | 授業研究実践 研究協力員9名(平成14年度)の各学校において授業実践を行う。 |
|
(3) | 授業実践からの考察とそのまとめ 校内LANを効果的に利用する授業実践を振り返りながら,以下の観点において考察する。 |
|
@ | LANの利用形態について | |
A | 校種,教科(科目・領域別における授業の実践事例 |
(1) | 「校内LANを効果的に利用する授業」についての基本的な考え方 「校内LANを効果的に利用する授業」について考察するにあたり,校内LANの効果的な利用方法について協議した。その結果,次のように利用方法がまとめられた。 |
|||
@ | 周辺機器の利用 周辺機器としては,ディジタルカメラやライブカメラ,温度・湿度・気圧などの自動測定装置などについて協議した。これらをネットワークに接続すれば,時間や場所にとらわれない学習が可能である(これらの実践事例として,本研修センタ−の平成12・13年度の情報教育に関する研究「インターネットを利用する教材の開発」が参考になる)。 |
|||
A | グループウェアの利用 これは教育用グループウェアを想定している。グループウェアはLAN環境を前提として設計されており,電子ノートやディジタルポートフォリオ,電子掲示板など様々な活用方法が考えられる。これらを利用することで,ネットワークを介した新しいタイプのコミュニケーションが生まれるだけでなく,学習の成果を簡単に振り返ったり,ディジタル媒体に記録したデータにより,すばやく大勢の生徒に教材などを配布したりすることができる。本報告書においても教育用グループウェアを利用した授業実践を紹介する。 |
|||
B | データの蓄積とその利用 インターネット上には様々な教材が公開されているが,校内LANの中にWebサーバやファイルサーバを設置することによって,その学校独自の教材や生徒の作品等のデータを保存し,学習に利用することができる。さらに,多くのデータを蓄積することによって利用価値が高まり,生徒の学習態度や取り組み方にも変化があらわれることが予想される。このような利用方法が現在の環境の中で注目すべきものと考え,多くの時間をかけて協議し,実際の授業研究にも取り入れることにした。 また,これらのデータの取り扱いに関して,十分に配慮しなければならない著作権や情報モラル,セキュリティについても協議した。 |
|||
C | インターネットの利用 インターネット上の教材や資料,ソフトウェアなどの学習利用について協議した。インターネット上には膨大な情報が蓄積されているが,その中から児童生徒の実態や授業内容に合ったものを厳選しておくことが重要である。そのためのリンク集も,多くの学校で独自に設置してあることがわかり,その管理方法,著作権,情報の信頼性,情報の更新方法などについても協議した。 |
|||
D | その他サーバの利用 CGIやASP,JAVAなどの利用についても協議し,インターネット上に公開されているプログラムを利用すれば,インタラクティブな教材等を比較的容易に作成することができることがわかった。他にもストリーミングサーバなどの利用も協議されたが,専門的すぎると考え,今回は研究の対象外とした。 |
|||
(2) | 校内LANの利用における有効性とその効果 校内LANが整備されることにより,学校における日常的な活動はあらゆる場面でより効果的になる。いつでもどこでもインターネットを使える学習環境が提供できることで,体育館や運動場などで行われる学校行事のライブ配信をすることもできる。もちろん体育の授業などにおいても教師や児童生徒たちはインターネットが利用できる。授業における校内LANの利用は学習活動・指導の支援として非常に効果的である。 校内ネットワークのイメージ |
|||
@ | 学習活動としての支援 児童生徒は,情報の収集,創造,発信などを通しながら学習活動を展開する。校内LANを用いることで,普通教室でもWebページから必要な情報を収集したり,電子メールで,学校外の人々とも意見交換したりすることが可能となる。そのため,情報の収集範囲が広くなり,問題解決の様々な糸口が発見できると考えられる。 また,調べたいことが離れた場所にあっても,インターネットを利用すれば,その地域の児童生徒などと情報を交換,共有することができるため,より詳しい調べ学習が可能になる。このことにより,共同作品の制作なども広範囲でできるようになる。 インターネットで,より多くの人に向けて自分の作品を発信すれば,いろいろ考えながらWebページを作成するようになるので表現力の向上にも寄与できる。さらに,電子メールや電子掲示板を利用することで,自分の意見や学習,活動に対しての評価を多くの人から得ることが可能であるため,自己の振り返りにもつながっていくものと考えられる。 また,校内LANを用いることで,児童生徒ばかりでなく,教師間のコミュニケーションが図れたり,教材を手分けして,効率よく作成したりすることができる。同じフォーマットで教材を作成していれば連結や入れ替えもすぐにできる。また,校内のサーバを利用すれば調整,相談の時間がとれないときでも,各自の都合のよいときに意見交換等ができる。 このように校内LANによって児童生徒の学習活動,教師の活動をより多様にかつ効率よく支援していくことができる。 |
|||
A | 学習指導としての支援 学習指導と校内LANの関わりは今回の研究主題の核となる部分である。確かな学力の定着には「わかる授業」が不可欠な要素となる。「わかる授業」で児童生徒の学習意欲を喚起することができ,結果的に確かな学力の向上につながる。 「わかる授業」のためには,チョークと黒板以外にも画像,動画,音声,グラフ,統計など多様な教材を準備し,提示していくことが必要となり,また,その教材の素材,提示法等の工夫が不可欠になってくる。 校内のサーバに教材コンテンツを置くことによって,「いつでも」,「どこでも」,「だれでも」同じ情報が共有できるため,児童生徒は学習の機会を逸することなく自己の問題解決に臨むことができる。 教師にとっても,校内LANを利用することにより,校外から電子メールなどを用いて様々な情報を集めることができたり,校内の教師同士の教材の共有化,共同制作が可能になることで効果的な学習指導に役立てたりすることができる。 たとえば,授業において児童生徒から質問があった場合,Webページから検索したり,学校外に向けて電子メールを送信したりして,回答を探し出すことで学習指導に広がりをもつことができる。これにより,児童生徒の発見,解決しようとする意欲を自然と引き出すことがさらにできるようになる。また,電子掲示板,電子メールによって授業の感想等を得ることで,多くの児童生徒と様々なコミュニケーションをすばやくはかることができる。 以上のことから,校内LANを利用することによる学習指導への支援は大きいといえる。 |
|||
B | 学習の評価としての支援 | |||
|
||||
(3) | 授業研究 平成14年度に,各協力員の各学校において,校内LANを利用した授業研究を実施し,検証を行った結果が次ページからの【授業研究1】〜【授業研究9】である。 |