【授業研究4】
   高等学校第3学年政治・経済「環境権・・・写真を用いた表現活動」を通して自分の考えの見直しができる場の設定を重視した学習指導の在り方
 
(1)  授業の構想
   本研究の主題は「自らの問題意識をもとに,主体的に調べて考える社会科学習の指導の在り方」である。この主題に迫るためには,まず,「なぜ調べるのか」「何を調べるのか」「どのように調べるのか」など調べる目的を明確にし,調べる見通しをもたせることが必要である。その点をふまえて,個々の生徒が自分なりの調べ方ができるように,教師が一人一人の生徒の個性を把握した上で指導することが重要だと考える。その上で生徒に,調べたことをもとにした自分なりの考えをもたせることが大切である。さらに,自分の考えをまとめる機会や他の生徒の考えと比較する機会を設定することにより,個々の考えを深めていく必要がある。
 本学習では「新しい人権」の一つである「環境権」の学習において,この権利が主張されるきっかけとなった四大公害訴訟を中心に調べることにより,「良い環境とは何か」「なぜ環境権が主張されたのか」「環境権を守るためには何が必要か」などを考える。この学習を通して,それまでは受動的に授業に参加していた生徒が,能動的に授業に参加できるように,調べる時間を多く取り入れたい。さらに,個人の能力に応じた調べ方ができるように,図書館やインターネットを自由に使えるように配慮する。その上で,その事件を象徴する写真を選び,題と説明文をつける活動を通じて考えを深めていく。このような学習の後に,他人と自分の考えを比較する場を設定することで,自らの考えや意見を確認し,物の見方や考え方を広めていくことができるようにする。「環境」については,小学校や中学校ですでに学習した内容を含んでいるので調べやすいと考えられが,さらに踏み込んだ考察をするために,調べ学習のまとめの段階では,公害の被害者の立場で考えるだけではなく,加害者の視点で見つめる。そうすることにより一つの事象を多面的とらえさせたい。
 
(2)  指導の手だて
   主体的に調べるための工夫
    (ア)  学習前の実態調査
       小学校・中学校での学習がどの程度定着しているのかを知るために,単元が始まる前に実態調査を行い,それを参考に個人の能力や理解度に応じた助言できるようにする。
    (イ)  調べる内容や方法の選択
       調べる内容や方法を自己選択させることにより,生徒が積極的に課題に取り組む姿勢をつくる。学習をすすめる中で,支援を必要とする生徒については,こまめに助言をしたり,同じ内容を調べている生徒とペアーを組ませたりする。その際には,その生徒がペアーを組んだ生徒に頼り過ぎないように注意をしながら見守りたい。
    (ウ)  情報収集のための場の設定
       主に図書館を調べ学習の場として設定する。図書館の書籍やパソコン・インターネットを使い自由に調べる環境を整備しておく。また,インターネットを利用して調べる生徒が多数いる場合には,放課後のパソコン室が利用できるように手配をしておく。
   情報交換の場を設定する工夫
     グループを作り,調べた内容を確認しあうことにより,不足していることや間違って認識していることに気づく。さらに,調べた内容から写真に題と説明文を付けることを通して,自分の考えを引き出し,各生徒がそれをグループ内で発表することにより,各々がもう一度自分の考えを振り返り,見直すことができるようにする。
 
(3)  学習指導案
   指導計画(9時間)
   
   本時の指導
    (ア)  目標
       各自が学習課題について調べて感じたことや考えたことを,「写真に題と説明文をつける」という学習活動を通じてまとめることができる。
    (イ)  準備・資料
       ・ビデオ・ワークシート・参考図書・パソコン・デジカメ
    (ウ)  展開
     
 
(4)  授業の考察
   主体的に調べるための工夫
    (ア)  学習前の実態調査
       単元が始まる前に,この単元の中に出てくる語句や事件ついての調査を行った。調査と言っても,その読みと意味・内容を理解しているか否かをたずねる簡単なものだった。予想していた以上に自分の考えをまとめる作業に差が出たために,説明や助言の段階で分かりやすい言葉の使用や詳しい内容説明といった配慮が必要とされた。また,語句の意味がわからないという生徒がかなりの数を占めたため,解説プリントを用意し,学習の中で随時確認ができるようにした。
    (イ)  調べる内容や方法の選択
       積極的に課題に取り組む姿勢をとるためには,学習課題を限定せずに,テーマにそって個人が自由に課題を選択するはずだったが,生徒たちが自発的にグループをつくり,そのグループごとに課題を設定し調べ学習を行っていた。それは,それまでのグループ学習の経験から,一人では「大変だ」「めんどくさい」「わからない」といった不安を抱いたため,自発的にグループをつくり活動をしていったのであろう。お互いが助け合いながら進めていくという良い側面が見られた一方で,できる生徒に頼ってしまい学習に偏りが出てしまったという部分もあった。
 調べる方法については,書籍やインターネットを自由に使いながら学習ができるように準備した。特に,インターネットの使用については,漠然と検索エンジンを使い,関連のあるホームページを1つずつ調べていくことによるかなりの時間の浪費が予想されたので,ある程度絞り込みを行い,関連のあるホームページのショートカットを学習用フォルダの中にまとめておくことで,時間の節約と調査対象の限定を行った。しかし,限定することにより調べた内容の幅が狭くなってしまった。調べ学習を行う上で,時間を費やすということは仕方のないことであり,時間的な余裕がある中で作業を進めさせた方がより効果が期待できる。実際インターネットを使う段階おいて,漢字の苦手な生徒に対しては,ふりがな機能つき検索エンジンを使用して学習するように指導した。この機能を使うことにより,書籍で調べる場合よりも追究の意識が途絶えずに学習ができたように思えインターネットを使用した利点が現れた。どの検索エンジンを使い調べていくかなどの技術を習得した上で,インターネットを調べ学習の中に取り入れていくとさらに効果や能率が上がると思われる。
    (ウ)  情報収集のための場の設定
       実態調査の中の「学習問題をあきらめずに,最後まで調べ続けられるためには,どんなことが必要ですか。」という問いに対して「資料収集のためにコンピュータや図書館等を自由に使えること。」という回答が多かったように,図書館で友人と情報交換をしながら調べ学習を行っていく生徒たちの表情や行動は普段の教室での学習よりも生き生きとしていた。いつもは学習活動にほとんど参加しない生徒がコンピュータの前に座り,インターネットを使い何かを調べていた。授業内容とは関係ないことかと思ったが,自分で選んだ学習課題を追究するために一所懸命に取り組んでいた。また,数人で本を見ながら楽しそうに作業しながらその内容は学習課題について調べていた。このような光景が多く見られたことから,調べ学習を行う上で情報収集のための場の設定は非常に重要であると再認識した。しかし,ただ単に場だけ設定すればそれでうまくいくわけではなく,学習目的に合った場の設定や助言が必要不可欠なものである。
   情報交換の場を設定する工夫
     前述のように,生徒たちが自発的にグループ内での情報交換を行いながら,調べた内容について確認しあっていた。また,写真に題と説明文をつける活動においては,まず,写真を選ぶ段階で調べた内容を振り返り,題と説明文を付けることにより考えを整理していった。自分の考えを整理する過程で,自然と意見交換がなされ,グループ内発表へとスムーズな移行ができた。だが,自由に話をする場合と違い,特別の場を設定して自分の考えをあらためて発表する時点では恥ずかしさや難しさが生じてしまい,発表を上手にこなせない生徒もいた。その一方で,気の合う生徒同士がグループを構成していたため,他の生徒の発表を聞いた上で思ったことを自由に話し合っている姿も見られ,自分の意見の見直しができる状況が設定できたと考えられる。ただ,生徒たちの中には,情報交換に熱心な生徒と,発表や情報交換が苦手な生徒とがおり,苦手な生徒については,グループ内発表を行う段階での発表指導を丁寧に行い,「自分の意見をより良く伝えることができる。」という自信をもたせることは大切である。こうした手だてを講ずることで発表に対する苦手意識を取り除くことができるではないかと考える。


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