研究主題に迫るための手だて
  (1)  問題意識をもち続けさせるためには,児童生徒がこれまでに培った基礎・基本を基に,学習の目的や課題,対象を明確に整理しながら問題解決の見通しをもち,自分の考えを推し進めて課題追究ができるように,多様な学習方法の中から方法を選択できるような場を設定する。
  (2)  追究の見通しをもたせ,主体的に調べさせようとするには,追究過程で児童生徒が調べて発見した事実やその事実に基づいた個々の見方や考え方をもとに,社会的事象の多面性に気付かせることを通して,一人一人が自分の考えの変容をじっくり振り返り,自分の考えを見直すことができる振り返りの場を設定する。
  (3)  自分の考えを深めるためには,児童生徒一人一人が,調べた事実から考えをまとめ自分なりの方法で表現・発信することによって,追究の結果に対する互いの見方や考え方などの共通点や相互の関連を吟味・検討し,自分の見方や考え方をより明確なものにするためのまとめ場を設定する。
 
 授業研究
   研究主題「自ら問題意識をもとに,調べて考える社会科学習の指導の在り方」について基本的な考え方と実態調査を踏まえ,具体的な手だてを講じ,小学校,中学校,高等学校において授業研究を行った。
〈1年目の授業研究〉
  (1)  小学校における授業研究
     1年目の授業研究は,小学校第6学年「戦争を体験した人々のくらし」の単元を扱い,児童が問題意識を基に問題解決の見通しもつための工夫,児童が,追究の過程で主体的に調べ考えるための工夫,児童が,追究結果について相互の関連を生かしながら見方や考え方を深めるための工夫に視点を置き授業を展開した。
 問題意識を基に問題解決の見通しをもつための工夫として,事前に家庭での聞き取り調査,学習課題の設定と選択のための支援を行った。聞き取り調査を基に自分の調べたい課題ごとに小グループを組み,自分の調べたい問題を選択したことにより,調べる動機や目 的を明確にすることができた。
 追究の過程で主体的に調べ考えるための工夫では,資料を生かすための場の設定やゲスト・ティーチャーの活用を行った。4台の可動式のノートパソコンを利用しインターネットが自由に使えるようにしたり,ゲスト・ティーチャーを招き自由にインタビュー取材を行えるようにしたりすることで,調べ方や調べる内容を自己選択させることができ,児童の主体的な追究活動を促す上で効果的であった。
 追究結果について相互の関連を生かしながら見方や考え方を深めるための工夫では,中間発表会の設定やニュースタッチの発表会の導入,ゲスト・ティーチャーの発表会への参加を行った。自分で調べたこと以外の考えを聞くことができたり,調べたことを吟味し深く考えたりする活動ができ,児童が内容を自分なりに選択しながら自分の見方や考え方を深めていく上で有効であった。
  (2)  中学校における授業研究
     中学校における1年目の授業研究は,中学校第2学年地理的分野「さまざまな面からみた日本」の単元を扱い,生徒が問題意識を基に問題解決の見通しをもつための工夫,生徒が,追究過程で主体的に調べ考えるための工夫,生徒が追究結果について相互の関連を生かしながら,見方や考え方を深めるための工夫に視点を置き,授業を展開した。
 問題意識を基に問題解決の見通しをもつための工夫として,学習課題の設定と学習課題選択,ティーム・ティーチングによる支援などを行った。教師2名による学習課題ごとのティーム・ティーチングを行うことで,生徒一人一人に応じてより細かな支援を行うことができ,生徒の調べようとする意欲もより高めることができた。
 追究過程で主体的に調べ考えるための工夫では,インターネットや電子百科事典を使えるよう数台のノートパソコンを用意した。さらに,学校や村の図書館から借りてきた資料を教室に置いて自由に活用できるようにしたことで,課題解決に必要な資料収集や情報活用などの力を培うのに効果的であった。
 追究結果について相互の関連を生かしながら,見方や考え方を深めるための工夫では,中間検討会の設定,グループ内発表会の設定などを行った。同じ学習課題を調べている生徒同士で中間検討会を開き,調べ方や考え方などについて互いに発表し合ったことで,生徒自身がそれまでの調べ方や見方・考え方を効果的に再構成していくことができた。グループでの発表会とその後の話し合いは,生徒の社会的事象に対する見方・考え方を再構成する上で有効であった。
  (3)  高等学校における授業研究(地理歴史)
     1年目における授業研究は,高等学校第3学年日本史「金融恐慌」の単元を扱った。まず金融恐慌に至る道筋を流れ図(「フローチャート」)で整理し,次に現代の経済問題を解決するという課題を設定して,自分なりのフローチャートを作成させた。その際,ア 既習経験をもとに自分の考えを構築し,問題を解決するための見通しをもたせるための工夫,イ 自分の考えと他の考えとを比較検討し,相互の関連を考えさせるための工夫,ウ 意見の交流を図り,互いの考えの関連を考えさせるための工夫,エ 意見を相対化させるための工夫,の四つの手だてを用いて,生徒一人一人が論理的に結論を導き出せるように注意を払い,授業を展開した。
 自己の考えを図式化し,思考の筋道を目で確認することができる「フローチャート」は,生徒に論理的に物事を考えさせるには効果があった。また教師が助言を与える際にも,それぞれの生徒の論理の筋道が一目で分かるため,指導と評価がしやすかった。生徒自身も,自分の考えの矛盾しているポイントをすぐに確認できた。さらに,生徒が互いに意見を交換する場面においても,相互の意見を無理なく認識できた。そして「フローチャート」は,意見が対立した際にも,互いの意見の中に論理的妥当性を見いだすことができた。物事を考えるにあたって,さまざまな知識を整理統合し,合理的に問題解決を図っていくための思考力を高める方法として「フローチャート」は有効な手段であった。
  (4)  高等学校における授業研究(公民)
     1年目における授業研究は,高等学校第1学年政治・経済「選挙制度を調べてみよう」の単元を扱い,調べる内容や方法が自己選択できるような工夫(ア 基礎的事項の理解 イ 課題設定と課題選択),自分の考えの見直しができるような情報交換の場の設定に関する工夫(ア グループ学習の支援 イ 発表の内容・方法に対する支援),追究の結果について,調べた事実や自分の考えを交流する発表会の工夫(ア 発表会の設定 イ マークシートを利用した評価)に視点を置き,授業を展開した。
 個々の意見を比較・検討するグループ学習は,お互いの見方や考え方を確認するのに効果があった。また,マークシートを利用して生徒が相互評価したことにより,集中して発表を聞くことができ,他人と自分の見方・考え方を比較する上で効果があった。
 
フローチャート


自分の考えを発表する様子


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