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研究主題に迫るための手だて |
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理科の学習及び学習指導に関する実態調査の結果を踏まえ,次のような手だてを講じて研究を進めた。 |
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(1) |
児童生徒の驚きや疑問を引き出し,自ら課題をとらえることができるように,授業の導入における事象提示の仕方や指導方法を工夫する。 |
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(2) |
児童生徒が発想した予想や仮説に基づいて,観察,実験を行いデータを集積したり,結果を導き出せるように,教材・教具や指導方法を工夫する。 |
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(3) |
児童生徒が自ら観察,実験の結果を考察し,まとめたり,新たな課題を見いだせるように,話し合い活動や発表の場を設ける。 |
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5 |
授業研究 |
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研究主題に基づき,指導方法の改善や教材・教具の手だてを講じ,小学校,中学校,高等学校(物理・地学)で授業研究を行った。 |
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(1) |
1年目の授業研究 |
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ア |
小学校第6学年「水よう液の性質」における自らの考えを深める活動を通して問題解決能力を育てる指導の工夫
理科の学習において,児童の問題解決能力を育てるためには,一人一人の考え,技能及び知識などを把握し,児童一人一人の考えに基づく学習やそれに対する支援を行うことが必要である。そこで,学習活動の中で児童一人一人の既有の考えを明確にし,それを基に小集団などの話合いの中で児童の考えを深める活動を行い,問題解決能力を育成していきたいと考えた。
問題解決能力を育てるための手だてとして次の4点を実践した。
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○ |
自分の考えが表現しやすいワークシートの工夫 |
○ |
ブレーンストーミングによる話合い活動 |
○ |
意欲を高めるための自由試行の場の設定 |
○ |
振り返り活動を活発にするディスプレイ型ポートフォリオ |
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水溶液に溶けている物質を明らかにするための実験方法を考える際に,ワークシート上に子供のキャラクターを登場させ,その子が考えた方法を予想させた。児童は言葉や絵で表現していく中で,自分の考えを明確にもつことができた。そして,同じ予想をした児童で小集団をつくり,その中でブレーンストーミングによる話合いをした。児童は小集団の中で,自分の考えを発表し,お互いの考えを吟味する活動を意欲的に行った。この活動により自由な発想ができ,多様な考えを引き出すことができたと考えられる。さらに,水溶液の中に溶けている物質を調べる観察,実験において,児童の考えを基にして方法を検討し,自由に確かめていくことができる時間と場を確保し活動させた。児童は,課題意識をもって意欲的に取り組んだ。自分が考えた観察,実験を基に活動を振り返り,もう一度取り組んだり,手直して検証したりした。児童は自分の考えを確かめていった。自分が考えた方法で予想通りの結果が得られない児童は,小集団内で話合いをし情報を交換しながら,方法の見直しをして実験を行った。観察,実験の際,児童は結果や気づいたことなどを,付せん紙に記入し,机上の用紙に掲示していった。得られた結果を考察する場面でも一人一人の考えを容易に比較することができた。また,自分の活動の振り返りも結果や考えの類型化や抽出をすることが容易になり,自分の考えを深めるのに有効であった。
以上のように,児童は自らの考えを表現するとともに,様々な情報を効果的に取り入れ意欲的に学習に取り組んだ。それにより問題解決能力の育成につながったと考える。
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イ |
中学校第1学年「力と圧力」における自ら課題をとらえ解決できたという達成感をもてる指導の在り方
生徒が自ら課題をとらえ,それを解決できたときに達成感をもち,より理科が好きになると考える。そこでまず,驚きや疑問をもたせる導入の工夫により「どうしてかな」「調べてみたい」という問題意識をもたせる必要がある。そして,その問題意識に基づいて課題設定を行い,課題を解決するために見通しをもって観察,実験を行うことにより,自分の力で解決できたという満足感や達成感をもつことができるであろうと考える。次のような指導の手だてで授業研究を行った。 |
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○ |
問題意識をもたせ課題をとらえさせる事象提示の工夫 |
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○ |
課題解決の手助けとなるようなワークシートの工夫 |
○ |
達成感がもてる振り返りの仕方の工夫 |
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事象提示で自作教具の巨大なビニル袋に生徒を乗せて空気を入れたことは,生徒が問題意識をもつことに効果があった。生徒は,ビニル袋と人の間に挟む板の大きさによってビニル袋のへこみ方が違うことから,圧力が関係することに気付きはじめていた。そこで,キーワード(面積・力・へこみ)の提示をしたことにより,生徒は資料1に示す課題をとらえることができた。 |
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資料1 各班の課題の一覧(全11班:( )内の数字は実施した班の数)
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課題解決まで見通しをもってスムーズに行えるようにしたワークシートの工夫は,話し合いやまとめの場面で互いの情報を交換する際に有効であった。また,満足度という形で振り返りを行うことにより,課題解決ができたという達成感をもつことができたと考えられる。 |
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ウ |
高等学校物理U「気体の分子運動」において,一人一人の主体的な観察,実験を通して問題解決能力の育成を目指す指導の工夫 |
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高等学校での物理の授業の学習形態は,教師主体の授業が多く,自然の事象に興味・関心をもち,物事を自分で考えていこうとする力は育ちにくい。そこで本研究では,生徒一人一人が主体的に観察,実験に取り組む過程を通して問題解決能力の育成を目指すこととし,次のような手だてで実践した。 |
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○ |
生徒の興味・関心を引き出し,課題をとらえるための演示実験の工夫 |
○ |
一人一人の興味・関心に応じて課題に取り組むための工夫 |
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・ |
各自の興味・関心で選んだ熱機関を個別に製作する。 |
・ |
時間内での製作を可能にするワークシートと材料を準備する。 |
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○ |
自分の考えを表現し,結果をまとめるための班編成の工夫 |
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導入段階で,フラスコに熱湯をかけて中の水を噴出させる演示実験を行った。熱湯をかけ続けると噴き出す水の勢いが弱くなっていく様子を観察させ,どうすれば元のように勢いよく水を噴出させることができるかを考えさせることで,生徒の興味・関心を引きだし,課題をとらえさせることができた。そして,「熱機関は得た熱の一部を捨てて,仕事をしている」という仮説を検証するために,「ヘロンの蒸気機関」,「ビー玉スターリングエンジン」,「蒸気船」の三つの熱機関の中からどれか一つを選び,個別に製作させることにした。班単位の生徒実験では,傍観者となる生徒がどうしても出てしまうが,今回は自分で製作して仮説を検証する活動なので,主体的に取り組むことができたと考える。このことは,それぞれの熱機関の製作で,よりうまく動かそうと工夫する姿や「自分で選択して行う実験はやる気も出ておもしろいので,もっとやりたい」という感想からもうかがえた。さらに,一つの班に三つの熱機関の製作を全て含むように班編成を工夫し,製作した熱機関を実際に動かして自分の考えを説明させることにした班の中では自分だけしかやらない製作及び仮説検証なので,それぞれの生徒が責任をもって活動に取り組み,その結果と考察を班員に説明した。そして,三つのどの熱機関も動かし続けるためには,熱を奪う必要があるという結論を導き出した。
以上のように,生徒一人一人が主体的に観察,実験に取り組む過程を通して問題解決能力の育成を目指すことができたと考える。 |
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エ |
高等学校地学TB「地質図」における地質模型製作を通して問題解決能力を育てる指導の在り方 |
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研究のねらいは,野外学習の場をもたない学校において,一般的に理解しにくい平面図である「地質図」を,地質模型をつくることにより体験的に地質図の理解を深めると共に,問題解決能力が身に付くようにすることである。指導の手だては以下の三点である。 |
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○ |
材料や製作手順まで考えた地質模型の製作 |
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○ |
地質模型製作の企画書作成 |
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○ |
地質模型を使った発表 |
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「材料や製作手順まで考えた地質模型の製作」という課題から,生徒は,完成させる地質構造の構想を立て,実際にどのような材料を使いどのような方法を使わなければならないかを考えた。考えの似た生徒同士で班編制を行い,その後の各班での話合いにより材料や取り入れる構造を検討し企画書を書かせた。企画書作成時,各班の発想を大切にしながら,材料は加工しやすいもの,地質構造は,断層,しゅう曲,不整合のいずれかを入れるように指導した。このことから,生徒の課題をとらえる力や実習の結果を予想したり,実習の方法を考えたりする力が養われたと考えられる。資料1は,各班の企画書の内容と指導によって実際に製作した模型の表である。ユニークな発想がうかがわれる。 |
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資料2 各班の企画書の内容と実際の製作した模型
班 |
構成 |
企画書の内容 |
→ |
製作した模型 |
地質構造 |
材料 |
地質構造 |
材料 |
1 |
男3 |
断層 |
食パン |
断層 |
発泡スチロール |
2 |
女2 |
不整合 |
発泡スチロール |
傾斜不整合 |
発泡スチロール |
3 |
女4 |
断層or不整合 |
ケーキ |
逆断層 |
年度 |
4 |
女3 |
断層 |
発泡スチロール |
断層 |
発泡スチロール |
5 |
男2 |
級化,不整合,断層 |
ケーキ |
不整合,貫入,級化,断層 |
ケーキ |
6 |
女2 |
断層 |
チョコ,クッキー |
断層 |
チョコ |
7 |
女3 |
断層 |
粘土 |
断層 |
粘土 |
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最後に,班ごとに地質模型を使い発表を行った。自分たちの作った模型に対する愛着から,地質図に対する興味・関心が高まり理解も深まった。また,発表において,カメラを使いモニターに模型を映したり,地質図の代用として模型の上からのスケッチや,断面図の代用として模型の横からのスケッチを黒板に掲示したりしたことは,実習結果からまとめる力を育成する上で有効であった。 |