【授業研究1】 小学校第5学年「言葉から生まれるリズムでアンサンブルをつくろう」において児童が個性的,創造的な学習活動をより活発に行うことができる指導の在り方
 
 授業研究のねらい
   実態調査(平成15年6月26日実施第5学年3組36人)によると,「音や音楽をつくっているときが楽しい」と答えた児童は7人で「音や音楽がつくれるようになりたい」と答え,た児童は8人だった。このことから,児童は「つくって表現する」活動の経験が少なく,その楽しさを十分に味わっていないことが考えられる。
 また,前出の教師の実態調査の表8の分析を見ると,児童が個性を発揮できるのは「音や音楽をつくっているとき」と考えている教師が多い。これは,児童が歌唱や器楽の表現活動において,技能が伴わず十分に自分の思いが生かせない場合が考えられるが,「つくって表現する」活動では,苦手意識をもった児童でも自分の発想を生かし,個性的,創造的に表現の工夫をすることができるからととらえているためと考えられる。
 そこで,言葉から生まれるリズムを組み合わせ,ボイス・アンサンブルをつくる活動に取り組むことにした。言葉から生まれるリズムは分かりやすく,児童にとっても取り組みやすいと考えた。また,児童の自由な発想から楽しい作品が生み出され,つくって表現する楽しさを味わうことができるのではないかと考えた。
 
 個性的,創造的な学習活動をより活発にするための手だて
  (ア)  題材設定の工夫
     リズムづくりをするにあたり,誰もがあまり抵抗なく行えるボイス・リズムを取り入れた。言葉から生まれる簡単なリズムや面白いリズムを組み合わせ,自分たちの発想を生かしながら一つの作品に仕上げていくことは,児童にとってはとても興味深いものであり,個性的,創造的な活動につながるものと考えた。
  (イ)  指導法の工夫
     導入時の工夫
       第一次の導入では,地名で作られた「世界地図のフーガ」を鑑賞し,児童に発想の面白さやボイス・アンサンブルの楽しさを感じてもらう。また,教材「中華の気持ち」(子どもの作品)を使って,グループや学級全体でボイス・アンサンブルをすることにより,身近な言葉からいろいろなリズムが生まれることに気付かせ,学習への興味・関心をもたせるようにする。
     学習カード,チェックカードの活用
       個性や創造性を発揮させるためには,児童が主体的に活動できるようにすることが不可欠である。そこで,学習の流れが分かる学習カードを準備し,計画や活動の記録をしながら学習を進める。また,できあがったアンサンブル曲を練習する際,アンサンブル練習や表現の工夫が行いやすいようにチェックカードを用いて,より創造的な活動になるようにする。
     学習形態の工夫
       児童が自分たちの活動の中で必要に応じて個別学習ペア学習グループ学習など様々な学習形態の組み合わせを工夫することにより,より主体的,意欲的に活動し,個性的,創造的な学習になるようにする。
 
 授業の実践
  (ア)  題材 言葉から生まれるリズムでアンサンブルをつくろう
  (イ)  学習の流れと評価(7時間取り扱い 本時は第5時)
   
  (ウ)  本時の学習
     目標
       つくったリズムの組み合わせを工夫したり,自分たちのイメージに合う表現を工夫したりしている。
     展開
     
 
 授業の結果と考察
  (ア)  題材設定の工夫について
     児童の音楽活動がより個性的,創造的なものになることをねらいとし,言葉から生まれるリズムを組み合わせてボイス・アンサンブルをつくる活動を題材とした。グループごとにテーマを決め,そのテーマから連想できる言葉を集め,言葉から自然に生ずるリズムや言葉に合うリズムを考え,それらの中から異なるリズムや面白いリズムを組み合わせてアンサンブル曲をつくっていった。言葉からリズムをつくることに戸惑いを感じていた児童も,つくり方が分かってくると,発想が広がりリズムづくりを楽しむようになっていった。
 その結果,「音や音楽をつくって表現するときが楽しい」と答えた児童は,検証前の7人から26人に増えた。その理由として,言葉からリズムをつくったことや自分や友達の発想を生かして自由につくれたのが面白かったこと,お互いのリズムを合わせてアンサンブルできたことなどをあげている。本題材での活動がより個性的,創造的な活動につながったと考える。
  (イ)  指導法の工夫について
     導入時の工夫
       第一次の導入で,児童に発想の面白さやボイス・アンサンブルの楽しさを感じてもらいたいと考え,地名で作られた「世界地図のフーガ」の鑑賞を行った。これまで経験してきた音楽のイメージとは違った音楽にふれ,児童は戸惑いや驚きの表情もあったが,とても興味を示した。リコーダーの演奏に苦手意識をもっていて,音楽の学習にあまり意欲的でない児童もとても興味を示した。「もう一度聴きたい」という要望がたくさん出された。
 次に,子どもの作品である「中華の気持ち」を使って,ボイス・アンサンブルを行った。この作品は,四つの言葉(ギョーザ,肉まん,お茶,ごま団子)から生まれたリズムを組み合わせてつくられたアンサンブル曲である。子どもの感性から生まれた作品であるため,親しみのもてる言葉で,リズムも自然で易しい。この曲を学級全体やグループで演奏し,児童はボイス・アンサンブルの楽しさを感じ取ることができた。また,グループでつくりあげていく作品のイメージをもつこともできた。
 以上のように,導入時にボイス・アンサンブルを鑑賞したり,実際にアンサンブルをしたりすることで,個性的,創造的な活動への意欲付けが十分にできた。
     学習カード,チェックカードの活用
       個性や創造性を発揮するためには,児童が主体的に活動できるようにすることが不可欠であると考える。そこで,学習の流れが一目でわかる学習カードを作成し,見通しをもって活動できるようにした。また,1時間ずつの学習の振り返りや自己評価ができる欄も設け,個々の取り組みの様子やつまずきを教師がチェックしながら,支援していくようにした。
 リズムを組み合わせ,アンサンブル曲としての形ができてきた頃から,チェックカードを用いて表現の工夫ができるようにした。チェック項目は,次の六つを提示した。
       言葉のイメージとリズムが合っている。
       リズムの組み合わせや重ね方を工夫している。
       イメージに合ったテンポ(速さ)である。
       曲の変化に合わせて強弱を工夫している。
       声の高さが言葉のイメージに合っている。
       発音が言葉のイメージに合っている。
       チェックカードを活用することで表現も豊かになり,より個性的,創造的な活動を促すことになった。
     学習形態の工夫
       児童が意欲的に学習を進めるために,学習内容と関連を図りながら様々な学習形態の組み合わせを工夫した。
<一斉学習>
 鑑賞曲を聴いて感想を述べたり,お互いの演奏を発表し合って意見の交換を行ったりする活動では,互いの感じ方の違いや発想の面白さに気付き,それを認め合いながら表現を深めることができた。また,教材「中華の気持ち」を学級全体で演奏し,ボイス・アンサンブルの面白さや楽しさを感じることができた。
<ペア学習>
 グループ全体でアンサンブル練習を行う前に,ペアを組んで拍の流れを感じながらリズムを組み合わせることをした。相手を交換することで,相手のリズムと自分のリズムの組合せを楽しみながら,よく聴き合って演奏することができるようになった。
<グループ学習>
 互いに意見を出し合ってテーマを決めたり,個人でつくったリズムをグループで検討したりと活発に活動することができた。アンサンブルがうまくできた時の喜びも大きく,友達と協力してつくることができてよかったと感じた児童が多かった。
 このように学習形態を工夫することで,互いの個性をより感じ取りながら,自分たちの表現したいイメージを膨らませ,よりよい表現をめざして工夫を重ねることにより,創造性を大いに発揮することができた。
 
 授業の成果と課題
  (ア)  ボイス・アンサンブルは場所や時間を問わずに取り組むことができ児童がより個性的創造的な表現活動を行うのに有効であった。
  (イ)  導入で用いた鑑賞曲や子どもの作品による教材は,児童の興味・関心・意欲をもたせるのに有効であった。
  (ウ)  学習カードは学習の見通しをもって主体的に活動させるために有効であった。また,学習の振り返りや自己評価ができる欄を設けたことにより,個々の取り組みを教師がチェックしながら支援することができた。チェックカードは表現の工夫ができるように,六つの項目を明示したことにより,個性的,創造的な活動を促すことにつながった。
  (エ)  学習内容に合わせて学習形態の組み合わせを工夫したことにより,児童は互いの個性をより感じ取ることができ,自分たちの表現したいイメージを膨らませ,よりよい表現をめざして工夫を重ねることができた。
  (オ)  一つのグループを6人(男子・女子混合)で構成し,一つの作品に仕上げていくようにしたため,消極的な児童の発想が生かされにくいところがあった。グループ構成やどのような支援をしたらよいかが今後の課題である。


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