3 | 音楽科における個に応じた学習指導の工夫改善に関する実態調査 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
県内の公立小学校,中学校の児童生徒及び教師を対象として,児童生徒の音楽科学習に対する取り組みや,教師の学習指導に関する実態を調査し,その結果を分析した。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(1) | 調査対象 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(2) | 実施時期 平成14年9月12日(木)から9月20日(金)まで | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | 調査結果及び分析 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ア | 児童生徒の実態調査の分析 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 授業の楽しさ(表1) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表1 授業の楽しさ(%)
「音楽の授業は楽しいですか」の問いに対して,「ア いつも楽しい」,「イ だいたい楽しい」の児童生徒全体の割合が70.7%であるが,小学校児童の79.1%に対し中学校生徒は65.0%と低くなっている。また,「エ 楽しいと感じるときはない」は児童の4.6%に対し生徒は9.5%と高くなっており,これらの結果から,小学校より中学校において音楽の授業を楽しんでいる生徒の割合が少なくなってきていることが分かる。 |
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(イ) | 授業の楽しさ(表2) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表2 授業の楽しさ(%)
「どんなときに『楽しい』と感じますか」の問いに対して,小学校児童は「イ 楽器を演奏しているとき」の割合が43.2%と高く,「ア 歌を歌っているとき」,「ウ 音や音楽を聴いているとき」,「エ 歌に楽器を加えて演奏しているとき」の順になっている。中学校生 徒はアが40.2%と高くなっており,ウ,イ,エの順で続いている。表現領域3分野の中でみると,「オ 音や音楽をつくっているとき」の創作分野と中学校におけるエの合唱奏形態による表現活動が極端に低くなっている以外は,児童生徒が各内容にわたり音楽の授業を楽しんでいることが分かる。 |
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(ウ) | 授業の楽しさ(表3) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表3 授業の楽しさ(%)
「どのように学習しているときが『楽しい』ですか」の問いに対して,児童生徒全体の割合が「ア クラス全体」,「イ グループ」の順に高い。小学校児童は,アに続いて「ウ 友だちと二人組」が中学校生徒の7.7%に対して26.2%と高くなっており,生徒はアに続いてイが42.2%と高くなっているのが大きな違いとなっている。 「オ その他」については,無回答以外では「楽しいときはない」がほとんどで,中学校で多くなっている。 |
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(エ) | 指導について(表4) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表4 指導について(%)
「どのように先生から教わりたいですか」の問いに対して,児童生徒いずれも「ア クラス全体」,「イ グループ」の順に高くなっている。小学校児童は「ア クラス全体」と「ウ 友だちの二人組」が中学校生徒より高い割合になっており,中学校生徒では「イ グループ」が児童より高くなっている。 「エ 個別」と「オ 二人以上の先生」,つまりティーム・ティーチング(以下,T・Tと表す)はともに割合が低く,児童生徒いずれも,友だちと一緒に学ぶことを望んでいる様子がうかがえる。 |
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(オ) | 身に付けたい力(表5) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表5 身に付けたい力(%)
「どのようなことができるようになりたいですか」の問いに対して,小学校児童は「ウ 上手に楽器を演奏したい」の割合が32.9%と高く,「ア 楽譜が読めるようになりたい」,「イ 上手に歌いたい」と「オ 聴いた音楽のよさが分かりたい」,「エ 音や音楽をつくれるようになりたい」の順で続いている。中学校生徒はイが30.6%ともっとも高く,ウ,ア,オ,エの順になっている。 児童生徒全体では表現領域の中ではエの創作分野が9.9%と低いまた児童生徒は器楽・歌唱表現の技能とともに,読譜力を身に付けることを望んでいる割合が高い。 |
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(カ) | よさの発見について(表6) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表6 よさの発見について(%)
「自分や友だちのよい点を知るのはどんなときですか」の問いに対して,児童生徒いずれも「ア 一生懸命学習に取り組んでいるとき」が過半数を超え,次に「ウ 上手になったのが分かったとき」が高い割合で続いている。さらに,児童は「イ 先生にほめられたとき」が続いている。 これらの結果は,児童生徒の頑張りに対して教師が激励,賞賛することで,児童生徒が自らのよさを認識し,活動の意欲付けとなりうることを示しているものと考えられる。 |
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イ | 教師の実態分析 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 授業の楽しさ(表7) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表7 授業の楽しさ(%)
「音楽の授業を,どれくらいの児童生徒が楽しいと感じていると思いますか」の問いに対して,全体で「イ 半数程度」が67.0%と非常に高く,「ア ほとんど」が続いて高い。それに対して「ウ 半数に満たない」は6.5%であり,「エ ほとんどいない」が0.0%となっているのも特徴的である。また,アについては小学校の割合が高いが,イ,ウと中学校の割合が徐々に高くなっていることが分かる。 これらのことから,教師はある程度の児童生徒が,音楽の授業を楽しんでいる,と感じていることが分かる。 |
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(イ) | 個性を発揮できる場(表8) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表8 個性を発揮できる場(%)
「より個性を発揮できると考えられるのは,どの場面だと思いますか」の問いに対して,小学校では「ウ 音や音楽をつくっているとき」,「イ 楽器を演奏しているとき」,「ア 歌っているとき」の順に続いており,中学校ではアが45.0%と高く,ウ,イの順で続いている。「エ 鑑賞しているとき」は全体で1.5%と低く,「オ その他」は,「できるだけ多くの場面でとらえる」 と答えた教師がほとんどである。 小学校では表現領域ア,イ,ウの3分野それぞれにおいて個性を発揮できるととらえているのに対し,中学校でアが高いのが特徴的である。 |
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(ウ) | 「個に応じた学習指導」の意識(表9) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表9 「個に応じた学習指導」の意識(%)
「どの程度『個に応じた学習指導』を意識して指導していますか」の問いに対して,全体では「イ ときどき意識している」が69.0%と高く,「ア 常に意識している」が28.0%で,「ウ あまり意識していない」が3.0%となっている。 アとイを合わせるとほとんどの教師が,「個に応じた学習指導」を意識しながら指導を行っていることが分かる。 |
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(エ) | よさや可能性の評価方法について(表10) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表10 よさや可能性の評価方法について(%)
「児童生徒のよさや可能性をどのような方法で評価していますか」の問いに対して,全体及び小学校・中学校ともに「ア 授業における観察」をほとんどの教師が行っている。さらに,「ウ 学習カード等の提出物」が過半数を超え,「エ 児童生徒の自己評価」,「オ 児童生徒の相互評価」が続いている。 「イ 事前・事後のアンケート」については全体で5%以下と低くなっている。 児童生徒のよさや可能性などの評価については,ほとんどの教師が観察を中心に行い,様々な評価方法を交え,より客観的に評価を行おうとしている様子がうかがえる。 |
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(オ) | 基礎・基本の指導形態について(表11) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表11 基礎・基本の指導形態について(%)
「基礎・基本を指導する場面において,どのような形態で指導しますか」の問いに対して,全体では「イ グループ学習中心」が50.0%と高い。小学校・中学校ともに「ア 一斉指導」,「エ 個別学習中心」,「ウ ペア学習中心」,「オ T・T中心」が続いている。 エについては,中学校の9.0%に対して小学校では18.0%と,比較的高くなっている。 「カ その他」では,「題材によって指導形態を変える」と「複数の指導形態を組み合わせる」という答えがみられる。 |
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ウ | 児童生徒と教師の共通事項での比較分析 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
この調査の中で,教師と児童生徒や小学校と中学校でデータを比較分析し,共通内容の事項でまとめてみた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 歌唱指導について(表12) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
歌唱指導についての問いで,児童生徒全体は「ア 同じくらいのレベルの友だちと一緒に教わりたい」の割合が57.7%と高く,「エ グループの中の上手な友だちから教わりたい」,「オ 二人で組んで教わりたい」,「ウ 一人で教わりたい」が続いているのに対して,教師全体では,「エ グループ学習での学び合いを活用した指導」が53.0%と高く,「ウ 個別指導」,「イ T・Tを活用した指導」,「ア 習熟度に応じたコース別指導」が続いている。 児童生徒が習熟度に応じた指導やグループ学習による学び合いを望んでいるのに対し,教師側はグループ学習における学び合いを活用した指導や個別指導を考えており,習熟度に応じた指導の割合は低い。グループ学習による学び合いが共通している反面,習熟度に応じた指導や個別指導に関しては,意識の相違が見られる。 表12 歌唱指導について(%)
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(イ) | 器楽指導について(表13) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
器楽指導についての問いで,児童生徒全体は「ア 同じくらいのレベルの友だちと一緒に教わりたい」の割合が44.4%と高く,「エ グループの中の上手な友だちから教わりたい」,「オ 二人で組んで教わりたい」,「ウ 一人で教わりたい」が続いている。小学校教師は「エ グループ学習での学び合いを活用した指導」が38.0%,中学校教師は「ウ 個別指導」が40.0%と,小学校・中学校ともにこの二項目が高くなっている。続いて,「ア 習熟度に応じたコース別」,「オ ペア学習での学び合いを活用した指導」の順になっている。 児童生徒が習熟度に応じた指導やグループ学習による学び合いを望んでいるのに対し,教師はグループ学習による児童生徒同士の学び合いや個別指導による器楽指導を考えており,「(ア) 歌唱指導について」の結果と同様に,技能差が表れた時の学習法と指導法については意識の相違があることが分かる。 表13 器楽指導について(%)
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(4) | 実態調査のまとめ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
実態調査の結果,次のようなことが分かった。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 児童生徒は,歌唱や器楽の表現活動を中心に,友達と音楽の幅広い活動を楽しんでいる。また,歌唱や器楽の技能や読譜力をのばしたいと児童生徒は望んでいる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 教師は「個に応じた学習指導」をある程度意識しながら,基礎・基本の指導においてグループ学習中心の授業を展開している。また,児童生徒のよさや可能性などの評価については,教師自身の観察を中心に,様々な評価方法を交え,より客観的に評価を行おうとしている様子がうかがえる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ウ | 表現指導において技能差が生じたとき,児童生徒が習熟度に応じた指導やグループ学習による学び合いを望んでいるのに対し,教師はグループ学習による児童生徒同士の学び合いや個別指導による指導が有効であると考えている。 |