実践例1
モデル1を基にした校内支援体制
組織の機能を統合した新しい支援体制


T 校内支援体制ができるまで
  平成11年度  特別な配慮を要する子どもを理解するための校内研修
   特別な配慮を要する子どもを効果的に指導するには,全職員がそれらの子どもについて理解したり,支援方法について研修する機会を設けたりすることが必要だと考えました。そこで,本校の特殊学級担任が企画して,校内研修を実施しました。
 

                研修後の通常の学級担任の感想

  平成12・13年度  理解と支援のための体制づくり
   本校では,これまでに生徒指導部が中心の「配慮を要する児童に対する共通理解」と,特殊教育部が中心の「校内就学指導委員会」,保健安全部が中心の「身体的に見守りたい児童」の3つの会議を行っていました。
 
↓  そこで,3つの組織が別々に行っていた会議の機能を見直しました。
   平成12・13年度は,それらを「配慮を要する児童に対する支援委員会(校内委員会)」に統合して,子どもの支援を行うことができるようになりました。
  平成14年度  支援推進委員会の設置
   「配慮を要する児童に対する支援委員会」をつくるにあたっては,特殊学級担任がキーパーソンとなり牽引者の役割を担ってきました。しかし,校内委員会を組織としてさらに上手く機能させていくためには,会議を企画運営するワーキンググループが必要になってきました。そこで,支援に関係する校務分掌からメンバーを選出して「支援推進委員会」を組織しました。
U 組織の構成員
   「配慮を要する児童に対する支援委員会」は,全職員がメンバーとなっています。
   「支援推進委員会」は,生徒指導主事,養護教員,特殊学級担任から成ります。
   「支援会議」と「支援状況連絡会」は,全職員による会議です。
   「ケース会議」は,支援する子どもに直接かかわる教員が集まって行う会議です。
V 組織の役割
   「支援推進委員会」は,特別な配慮を要する子どもを全職員で支援していく時,中心になって活動する組織です。「支援会議」や「支援状況連絡会」を開いたり,必要に応じて「ケース会議」を開いたり,専門機関と連携を図ったりします。
   「支援会議」では,通常の学級に在籍し何らかの支援が必要な子どもや,特殊学級に在籍している子どもの困難の状況や支援方法について協議します。
   「支援状況連絡会」は,「支援会議」が行われない月に開く小会議です。ここでは,子どもの変容を報告したり,事例検討を行ったりします。
   「ケース会議」は,「支援状況連絡会」で報告された急を要する問題や担任1人では対処が困難な問題について,その支援方法を検討する場としています。
W 支援体制の年間計画
   平成14年度  配慮を要する児童に対する支援   年間計画
支援に関する会議 関連
5月 支援会議(1)  
6月 支援状況連絡会 ⇒ ケース会議 市就学指導委員会(1)
7月 支援会議(2)  
9月 支援状況連絡会 ⇒ ケース会議  
10月 支援状況連絡会 ⇒ 就学指導関係  
11月 支援状況連絡会 ⇒ 就学指導関係 市就学指導委員会(2)
12月 支援状況連絡会 ⇒ ケース会議  
1月 支援状況連絡会 ⇒ ケース会議 市就学指導委員会(3)
2月 支援会議(3)  
X LD(学習障害)が疑われる子の支援体制
  どんな子ども
     Aは友達と上手に付き合うことが苦手で喧嘩になったり孤立したりしがちです。
     先生の手伝いや掃除などは一生懸命取り組むことができます。
     学力は中程度ですが,文字を書くのが苦手です。発表意欲はありますが,要点を整理して伝えることも苦手です。
     体全体の筋力が弱く,よだれが出ていることがあります。
  気づきのポイントは
     低学年のときから,自分の気持ちや考えを言葉で上手く伝えることが苦手でした。
     文字を書くのが遅かったり,字形が整わなかったりしていました。
     体育や図工の学習,給食の時間に不器用さが目立っていました。
  こんな支援体制で
    (1)  支援の経過
「支援会議」で共通理解
↓  子どもの実態について担任から報告
 全職員で共通理解
「ケース会議」で支援方法の検討
↓  支援のための校内資源についての話し合い
 具体的な支援方法の決定
「支援状況連絡会」で担任の支援
↓  全職員による事例検討
 通常の学級における支援方法を検討
子どもへの支援
    (2)  支援の実際
      @  「支援会議」で子どもの実態を把握
         Aの担任から,Aは「自分勝手な行動が目立つ「友達の過ちが許せず,喧嘩になる」「苦手なことはあきらめて努力しない」等,生活や学習に困難がみられる事が報告されました。
      A  「ケース会議」で支援方法を検討・決定
         支援に焦点を当てた授業研究
 Aの担任が算数の授業を公開し,校内研修を行いました。授業後の協議では,Aの支援に役立っていることや今後工夫すべきことが話し合われました。
         特殊学級による支援
 「ケース会議」での話し合いをもとに,週1時間,特殊学級で支援することにしました。Aの好きな活動(基地作りや木工作業)を取り入れ,最後まで一人の力でやりとおす完成体験を積ませました。また,自分の気持ちを話すためのソーシャルスキルトレーニングを行いました。
      B  「支援状況連絡会」での事例検討
         Aの事例検討を全職員で行いました。Aを自分が担任したらこうしようという気持ちで「座席など周りの環境づくりをする。」「達成可能な目標をもたせる。」「Aが楽しめる活動を通して周りに認めてもらう。」「ロールプレイを取り入れた指導をする。」等の意見を出し合いました。
    (3)  支援の結果
       「支援会議」「支援状況連絡会」「ケース会議」で協議したことをもとに,Aの担任は,学級でできることから支援にあたってきました。特殊学級担任も,側面から支援してきました。Aの変容について,「支援状況連絡会」で,以下のように報告されました。
     
仲のよい友達ができてその友達を気遣う様子が見られるようになった。
友達とのトラブルが少なくなった。
学習中の発言は、要点をとらえて手短に言えるようになってきた。
漢字など時間のかかる宿題でも最後までやれるようになった。
Y まとめ
   支援体制づくりのポイント
    (1)  特殊教育についての校内研修
        特殊教育についての校内研修をすることによって,特別な配慮を要する子どもへの支援の必要性と,具体的な支援方法を検討する場の必要性が明らかになりました。
    (2)  既存の委員会を整理統合した体制づくり
       既存の委員会を整理統合することによって,新たな支援体制を構築することができました。そのために,校務分掌が増えるという職員への負担感が少なく,職員に好意的に受け入れられました。
    (3)  コーディネーターの必要性
       新たな支援体制を構築するにあたり,職員の関心やニーズを把握し,取り組みに反映させていくためには,コーディネーターとなる人が必要です。本校では,特殊学級担任がコーディネーターとなって支援体制づくりに取り組みましたが,学校の実情に応じて生徒指導主事や教務主任,養護教員等がコーディネーターになることも考えられます。
    (4)  記録の継続
       新たな支援体制による取り組みで,児童の実態や支援方法を継続してとらえ,記録することができるようになりました。
   今後の課題
    (1)  支援体制の継続
       新たにつくられた支援体制である「配慮を要する児童に対する支援委員会」が校務分掌の中に位置付けられました。生徒指導主事が中心の「支援推進委員会」(ワーキングチーム)が会議の運営をすることで,子どもへの具体的な支援ができるようになりました。全職員で子どもの実態を把握し,全職員で支援方法を協議することが,個に応じた支援方法を獲得する近道と考えています。今後も,全職員による支援体制を継続,充実していかなければならないと考えています。
    (2)  学習支援の強化
       子どもの困難の改善には,学習支援が重要だと考えます。本校の4年生,5年生に学習に関するアンケート調査(平成14年2月)を実施したところ,60%の子どもが「勉強で困っていることがある。」と答えました。子どもたちの「分かるようになりたい。」というニーズに答えるためにも,学習支援の在り方を検討していく必要があると考えます。
    (3)  専門機関との連携
       「学習障害児に対する指導について(報告)」では,校内委員会と専門家チームの役割について述べられています。校内委員会は全校的な支援体制を前提として問題の正確な実態把握とその対応を役割とし,専門家チームは,学習障害か否かの判断と教育的対応について専門的助言指導を役割とします。「配慮を要する児童に対する支援委員会」の継続的な取り組みによって,子どもの実態を継続的にとらえ,専門家との連携を図りながら,子どもたちを支援していかなければならないと考えています。


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