ア |
授業研究のねらい |
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小学校解説には,A表現の領域の内容として,「一人一人のよさを生かした発想のよさや美しさなどを構想し,手などを働かせ表し方を工夫するなど,創造的に表現する能力やデザインや工作の能力を高めることをねらいにしている。」とある。さらに,児童の造形活動については,「児童が,体験をもとにして,形や色などにかかわり,それらの特徴から思い付き,かいたりつくったりしながら,そこから,新たなことを発想し,表し方を試し,行きつ戻りつしながら進むものである」とあり,そのような活動は,「自分らしい新たな思いや表し方をつくりだす創造活動の基盤となる」とある。本校児童の図画工作の授業における様子を見ると,夏休みの思い出の絵をかいたり,粘土で動物をつくったりするときには,体験をもとにしながら思いを広げ,楽しく製作している。また,作品をつくる過程では,迷ったり,試したり,失敗したりしながらも進んで活動している。これらのことから,児童は,自分のよさや自分らしさを発揮していく過程の中で,自ら発見したり,試行錯誤したりしながら,表現することの楽しさや喜びを味わっていくと考えられる。
そこで,身に付けた体験や興味・関心を大切にしながら,児童のよさを引き出し,創造的に表現させることが,自分らしい造形活動ができる児童を育てることにつながるのではないかと考える。そのため,自分らしい表し方を見付け出させる手だてとして,表し方や動かし方をいろいろと試すことができるように,身近な材料と気軽に触れ合える場を設定していきたい。さらに,いろいろな動かし方を試したり,考えをまとめたりする道具として,コンピュータを工夫して活用したい。そして,自分らしい表し方を見付け出す活動の中で,いろいろと試しながら表し方を考え直したり,自分の表し方の変化を見直したりすれば,児童は,自分のよさを発揮しながら,創造的な表現ができるのではないかと考えた。 |
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イ |
児童のよさを引き出し,創造的に表現させるための手だて |
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(ア) |
材料や表現方法を選ぶことができる場の設定 |
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児童のそれまでの体験や興味などを考えながら,身の回りにある様々な材料を集め,材質や用途,色などの観点でいくつかのグループに分けて用意しておく。また,自分の使ってみたい材料についてもそれぞれに集めさせておく。そして,新しい発想につながるように,その中に道具としても活用できそうなものも備えておき,思い付いたことを試しながら,身近な材料に実際に触れさせることを考えた。 |
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(イ) |
多様な表現方法を選ばせるための工夫 |
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@ |
多様に発想が広がる題材の設定 |
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題材名を「見て!ほら動くよ。」とし,動いて見える作品を使って,自分の思いを表現するということにより,児童の興味・関心が高まり,より発想がふくらむものと考えた。また,「お世話になった○○○へ感謝の気持ちをこめて」という副題を付け,今まで自分の過ごした学校や家庭での生活を振り返り,身近な人やもの,施設などについての思い出などを想起させることで児童の思いが,より強いものとなるのではないかと考えた。 |
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A |
表現の道具としてのコンピュータの活用 |
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小学校学習指導要領総則の指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項において,「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動を充実する」とあり,教具としての活用を通して慣れ親しむことを基本としている。また,コンピュータの特質を生かすことで,児童の表現技術上の幅を広げることができ,創造性を高める学習過程に必要な「試行錯誤」が容易になると考えた。そして,小学校解説の指導計画の作成と内容の取り扱いの中に「用具としてコンピュータ,写真機,コピー機などの機器の利用については,児童が体全体の感覚を働かせ身をもって経験する表現活動が基礎であるという考えから,機器を中心にして児童の表現を考えるのではなく,いろいろな用具の中の一つとして扱い,児童一人一人の発想や構想などの能力の育成を図るために利用することが大切である」と述べてある。そこで,本研究においては,コンピュータを児童一人一人の発想や構想などの能力の育成を図るための道具として活用することにより研究主題に迫ることができるのではないかと考えた。本授業では,つくったものを動いて見えるようにする道具としてコンピュータを使用する。
そのときの児童のコンピュータとのかかわり方を授業では,つくったものを動いて見えるようにする道具としてコンピュータを使用する。そのときの児童のコンピュータとのかかわり方を図1のように考えた。まず,児童一人一人が思い思いの自分にあった材料を生かしてもとになる作品の製作をする。次に,自分のつくったものが動いて見えるようになる方法を考えてから,必要な枚数の画面をディジタルカメラで撮影する。そして,連続して1枚ずつ画面が映し出せるようにJavaScriptのプログラムを利用することにより,特にソフトウェアを用意しなくても作品を見ることが可能となり,児童は容易に作品の見直しができるものと考えた。そこで,コンピュータを使用して動く映像を確認しがら,自分の思いに合うようにつくったり,つくり直したりすることで,作品にまとめていくことができれば,児童一人一人のよさを引き出しながら,発想や構想の能力が育成できるのではないかと考えた。 |
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(ウ) |
表現における一人一人の思いや実態をとらえるための工夫 |
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題材名や副題から想起された児童の思いをより適切に把握するために,カードに言葉や絵などそれぞれの気持ちを表しやすい方法で記録させた。さらに,それを基にしながら児童と1対1で対話していく中で,児童のイメージをより明確にさせていくとともに実態の把握をし,それを指導援助に生かすことを考えた。 |
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(エ) |
一人一人が自分の思いや工夫したことなどを発表したり,他者のよさを認め合ったりする場の設定 |
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製作の過程においてお互いの作品を見合える場面を設定することで,友達の作品をヒントに新たな発想をしたり,感謝の気持ちを伝えたい相手も呼んで全体での発表会をすることでお互いのよさを認め合ったりする場を設定することを考えた。 |
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ウ |
授業の実践 |
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エ |
授業の分析と考察 |
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(ア) |
自分なりのこだわりをもって取り組ませるための手だてについて |
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児童が小学校第6学年で卒業学年でもあるということから,今までお世話になった身近な人物,施設,物などへの感謝の気持ちをテーマとして設定した。そして,それらに関係した忘れられない思い出や出来事から,そのときの気持ちについても振り返らせることで,児童の思いをより強いものとすることができた。そして,一人一人の思いをカードに記入させたり,個別に話をしたりすることで,児童自身の思いがより明確にでき,教師側でも把握することができた。そのため,今までよりも児童自身に考えさせるような言葉掛けができ,より個に応じたかかわりがもてたものと考える。このことにより,児童は,自分なりのこだわりをもって取り組めたことが感想からも伺えた。 |
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(イ) |
自分の思っているような表現をさせるための手だてについて |
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児童は自分たちのつくった作品が,動いて見えるようになるということで,より興味関心をもって取り組むことができた。また,導入の段階で動いて見えるようになる仕組みを理解させる手だてとしては,ソーマトロープのように絵を描いたものを手を使って動かすような別の方法で考えさせ,それが,コンピュータを使うことで立体などいろいろなものでもできるようになるのだということで理解させた。このことにより,児童は,自分の感謝の気持ちに合うように,つくったものを動かす方法を試行錯誤をしながら考え,まとめ組み立てていく力(構想力)を身に付けながら,こだわりをもって製作することができた。また,ディジタルカメラを使うことで,作品の撮影を何枚も納得するまで行ったり,コンピュータで動いて見える様子を確認してから,思いに合わないところを撮影し直したりしながら,こだわりをもって製作することができた。これらのことより,児童は,表現したいイメージを思い浮かべながら,自分の思っているような表現により近づけたものと考える。 |
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オ |
授業研究の成果と課題 |
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(ア) |
成果 |
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小学校6年間の生活を振り返り,今までにお世話になった人や物,施設などへの感謝の気持ちをこめた作品づくりをしようという投げかけから,児童は自分の体験をもとにしながら発想を広げ,伝えたい思いをふくらませていった。そして,その思いをもとに様々な材料と触れ合ったり,見付け出したりする中で,自分なりの表現方法で作品づくりを進めることができた。
自分なりの思いをもとにして,自分のつくったものをアニメーションにするためにディジタルカメラで撮影を行う段階では,撮影の場所や背景,方法などに一人一人自分なりのこだわりが感じられ,多様な活動が見られた。
作品を撮影する場面においては,ディジタルカメラに映し出された画像を見ながら,何度も作品の撮影位置の見直しをする姿が見られたり,撮影してアニメーションとして動く様子を見ながら,自分の思いに合わないところを見付け出し,再度撮影に挑戦しながら,自分の思いに合った作品にまとめることができた。
作品を動いて見えるようにする段階では,先につくった友達の作品を興味深く鑑賞し,その中から見付けた表現のよさを認め合ったり,自分の作品に生かしたりする姿も見られた。 |
(イ) |
今後の課題 |
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○ |
今回の授業においては,一人一人のよさや可能性が生きて働く場としてコンピュータの活用を考えた。さらに,様々な素材を用いた題材の開発にも努めていきたい。 |
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○ |
児童一人一人の製作途中における作品へのこだわりや思いをより的確に把握したり,指導に生かしたりできるような手だてについても,今後,さらに考えていきたい。 |
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