研究のまとめ
   生活科では,学習が単に活動するだけにとどまっていて,自分と身近な社会や自然,人にかかわる知的な気付きを深めることが十分でない状況も見られることが指摘されている。本研究では,子どもの多様な個性の中で,子どもの気付きに着目した。気付きのもっている特徴を明らかにし,子どもの知的な気付きを大切にする生活科学習の指導の在り方という視点で実態調査を実施し,その結果を踏まえて,「子どもの気付きが成立するような活動の場を保証する。」,「子どもが知的な気付きを自覚できる。」,「子どもが発する気付きを教師自身が知的だと受け止める。」,「子どもの気付きが,次の活動に生きる。」ための指導をねらいとして,四つの手だてを講じ授業研究を行った。2年間,四回の授業研究により,これらの手だてが,子どもの知的な気付きを大切にする指導として有効であることが分かった。ここでは,研究の成果についてまとめてみる。
  (1)  「子どもの気付きが成立するような活動の場を保証する。」ための指導について
     子どもの気付きが成立するためには,まず,「子どもが身近な環境に興味・関心をもつこと」や「子どもの思いや願いを生かす」ための手だてが大切である。子どもが身近な環境に興味・関心をもつために,感動や驚きが生まれるような活動の計画,ティーム・ティーチングの導入,人材マップの整備,具体的な活動や体験のより一層の重視,自由な気付きを保障するブレイン・ストーミングの実施などの手だてを講じた。また,子どもの思いや願いを生かすために,多様な素材や用具の準備,ヘルプカードの導入,調べ方カードなどを用いて指導を行った。そして,これらを実践する際には,生活科における気付きのもっている四つの側面を考慮しながら指導を実施した。手だてを講じたり,いろいろな学習カードを作成する際に,子どもたちの気付きの特性を考慮することは,「子どもの気付きが成立するような活動の場を保証する。」上で有効であった。例えば,子どもたちは活動が始まると,一つのことに夢中になり,狭い範囲で活動してしまうことが多い。そのため,図1の「はっけんビンゴ」を活用した。子どもは,広い範囲で活動し,多くの気付きを得ることができた。また,単元「なかよしたんけんたい」で,子どもたちが近くの川で活動した時の気付きをまとめる際に,写真のように,体育館に活動した川の状況を再現し,虫の鳴き声のBGMを流すなどの手だてを講じた。子どもたちの作成した,探検マップの内容などを見ると,これらの手だてが,子どもたちが気付いたことを自覚する上で効果があったことが分かる。
 
  (2)  「子どもが知的な気付きを自覚できる。」,「子どもが発する気付きを教師自身が知的だと受け止める。」ための指導について
     子どもが知的な気付きを自覚したり,子どもが発する気付きを教師自身が知的だと受け止めるためには,子ども自身が,自分を振り返り,自分自身や自分の生活について理解を深められるように,教師が,体験や観察などの校外での学習活動の中で,子どもの様々な気付きを見取るための手だてを講じることが大切である。そのために,子どもたちの気付きを見取るための発見カードや概念地図等の活用,子どもたちの気付きをどのように支援するか支援表の活用などを実施した。また,体験活動の後,振り返りや互いの体験を共有する場の設定等も行った。これらは,子どもたちが気付きを自覚したり,教師が子どもの気付きを見取ったりするのに効果的であった。例えば,子どもが自分の気付きを自覚し,教師が,子どもの気付きを見取るための目的で,図2の「わくわくはっけんまっぷ」を活用した。これは,子どもは,気付いたことを文字で記録するより絵を描いて記録しておいた方が記憶に止めやすい実態があるため,描画法と概念地図法を組み合わせた学習カードである。子どもたちは,発表会の準備の時間等で活用し,生活科マップの作成や,教師の子どもたちの気付きの見取りに効果的であった。
 
  (3)  「子どもの気付きが,次の活動に生きる。」ための指導について
     子どもが自分を振り返り,自分自身や自分の生活について理解を深めるためには,多様な子どもの気付きをどのようにして見取るか,また,その気付きにどう対応するか,あらかじめ支援の計画を立てておく必要がある。そのために,子どもたちの気付きを見取るための発見カードや概念地図等の活用をしたり,子どもたちの気付きをどのように支援するか,支援表を活用したりした。これらの手だては,子どもの気付きを次の学習の活動に生かすのに,効果的であった。例えば,発表会の準備や,話し合いの際に,図2の学習カードを活用した。子どもたちは,公園の野草のにおいや,蝉の声など,写真では発見できない気付きを発表したり,川の土手に咲いていた花の種類やつぼみの大きさ,昆虫の羽根の色など細かなところの気付きを発表したりすることができ,より深まった話し合いになった。子どもたちが体験したことによる気付きが,次の活動に生きるのに効果的だったことが分かる。
 
   本研究では,知的な気付きを大切にする生活科学習の指導の在り方について研究を進めてきた。知的な気付きを大切にするためにも,生活科における気付きのもっている特徴について,教師が十分理解し,どうしたら子どもの知的な気付きを,効果的に授業の中に生かせるか工夫をすることが大切となる。


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