生活科における学習指導に関する実態調査
   研究主題の基本的な考えに基づき,知的な気付きを大切にする生活科学習の指導の在り方を究明するために,教師や児童の実態について調査を実施した。
  (1)  調査対象
   
 児童…  県内の小学校8校の第2学年からそれぞれ1学級を対象とした。回答者数は,計224人である。
 教師…  無作為に抽出した県内の公立小学校100校の生活科主任に回答を依頼した。回答者数は,計100人である。
  (2)  実施時期
 平成13年9月3日(月)から平成13年9月7日(金)まで
  (3)  調査結果及び分析
     調査内容と結果は表1〜12に示す。なお,表中の数値は,全て総回答数に対する各問の回答数の割合(%)である。
     児童の実態調査の分析
      (ア)  授業への取り組み(表1)(表2)
 子どもたちの生活科に対する好感度は非常に高く,生活の学習が好きと答えている児童が70%近くいる。生活科が,触れる,作る,探す,育てる,遊ぶなど直接働きかける児童の学習活動を重視していることも一因であると考えられる。また,表2より探検したり,ものを作ったりすることは好きだが,発表会をすることなどはあまり好きではないことがうかがえる。表現活動は活動の楽しさや気付きなどを再確認したり次の活動へ広げたりするのに大切な活動である。小グループにおける発表にしてより発表しやすい場の設定や,パビリオン形式にして,学習内容を楽しいものにするなど,指導の方法を工夫していく必要があると考える。
      (イ)  授業中の活動について(表3)(表4)
授業中に自分の気付きを友達に伝えることに慣れていない児童の姿がうかがえる。活動の中で児童の気付きを意識させたり,伝えたりする場面を確保するなどの工夫も大切だと考える。また,授業の終わりに振り返りカード等を使って,活動の時に気付いたことを書いたり,日常生活の中での様々な気付きを,発見カードに書いたりするなど,気付きを,書き留める習慣を付けることも効果があると考える。
 表4では,生活科の授業において分からないときは,家の人や友達に聞いたり,先生に聞いたりと,初めに,身近にいる人に尋ねる児童が,約70%いることが分かる。また,本で調べたり,専門家の人に聞いたりする児童も,約30%いる。多様な方法で問題解決をしようとしている児童への支援として,どのようにして調べたらよいか,調べる方法を知らせたり,人にものを尋ねるときの尋ね方の指導を行ったりすることが,大切であると考える。
      (ウ)  相互評価と学習の広がり(表5)(表6)
 友達のよいところや工夫しているところなどを見つけられる,と感じている児童が多いことが分かる。相互評価により,お互いのよい点に気付き,自分の活動も振り返ることができ,次の活動への意欲が高まるものと考えられる。
 また,表6より,生活科の学習が事後にも何らかの形で生かされていることが分かる。生活科の目標である「自立への基礎を養う」ために,学習が広がり,深まるような学んだことを実生活に生かせるような,児童の主体的な学びを重視することが大切であると考える。
     教師の実態調査の分析
      (ア)  「知的な気付き」を大切にすることを意識して授業を行っているか(表7)
 選択肢ア,イを合わせて95%を超えることから,児童の「知的な気付き」を大切にすることを意識した授業が実践されていることが分かる。身近な人や社会,自然と直接かかわる活動から生まれる様々な気付きを大切にしたいという教師の姿勢が推察できる。
      (イ)  「知的な気付き」が育つ場面(表8)
 選択肢アが34.5%と多いことから,児童が身近な人々や自然と直接かかわっている場面で「知的な気付き」が育つ,と考えている教師が多いことが分かる。身近な人や社会,自然と直接かかわる活動から生まれる様々な気付きを大切にしたいという教師の姿勢が推察できる。また,友達と自分の活動を比較・検討している場面や,工夫した表現活動をしている場面で育つと考えている教師も多いと思われる。児童の主体的な活動を通しての様々な気付きを自分なりの方法で表現したり,友達の活動や気付きと比較することでかかわっている対象への思いがさらに深まり,新たな気付きが生まれてくると考えられる。そのためにも,自分の気付きと,友達の気付きを比較・検討する時間を十分に確保する必要がある。
      (ウ)  「知的な気付き」を大切にする上で問題になること(表9)
 選択肢イの回答率が33.9%と高い,これは,それぞれの児童の思いや願いが多様であるため,児童一人一人に応じた支援を行うことが難しいという,学校の現状を示すものである。学習活動の中で書いた発見カードなどから,一人一人の気付きを見取り,指導に生かしていくことが重要である。
 また,日常の生活での児童のつぶやきに耳を傾け,共感し,自然などに対する興味関心が高まるような学級の雰囲気づくりをすることが,選択肢アの児童の思いがもるようなきっかけ作りをすることにつながると考えられる。一人一人に応じた支援のために,ティーム・ティーチングの実施や,保護者や地域の方に授業への協力を依頼するなどの指導形態を授業に取り入れ,その活用を通して授業改善していく必要があると考える。
      (エ)  「知的な気付き」を大切にする手だて(表10)
 「知的な気付き」を大切にするために講じている手だてで多かったのは,選択肢イの「人や自然とふれあう場面を多くする」ということであった。生活科の学習では,児童の実態や地域を知り,地域とのかかわりを一層重視し,地域に愛着がもるような体験活動を積極的に取り入れたいと考える。そのためには,児童に,ふれあう対象である人や自然と,どのようにふれあうことが大切か,その目的と方法を明確に意識付け,児童が主体的に活動できるような手だてを講じることが大切と考える。また,ふれあう体験を通して得られる様々な気付きを表現する場を多く設定することによって自分の気付きを自覚することができ,次からの活動を広げ,深めることができると考える。
      (オ)  「知的な気付き」を生かすための効果的な働きかけ(表11)
 効果的な働きかけとして多かったのは選択肢アとオである。児童は活動の中でいろいろなものを見ているが,それを気付きとして自覚していないことが多い。事前に,活動の内容や目的を知らせ,目的意識をもって学習活動を行わせることにより,気付きを自覚し,その後の活動の広がりや深まりにつながるものと考えられる。
      (カ)  児童の「知的な気付き」の評価方法(表12)
 評価においては,選択肢エとイの選択率が高かった。児童の気付きを把握することの大切さや,活動する中での見取りの必要性を指摘しているものである。児童が体験したり,活動したりした中での表情・仕草・つぶやきなどは児童理解の上で重要であり,それらを的確に把握することで望ましい授業展開をすることが可能になる。また,児童自身が,自らの気付きを自覚し,自覚したことを伝え合うためにも,発見カードや自己評価カードを工夫し,次の活動への広がりや深まりにつながるようにすることが大切だと考える。児童の活動をさらに発展させるためにも,児童の心や感性の広がりと深さを十分に感じ取り,評価の手だてを工夫していきたいものである。
  (4)  実態調査のまとめ
     教師は,生活科の学習において,子どもの知的な気付きを大切にすることの必要性を感じ,楽しい活動の中から学びや気付きが生まれるよう,具体的な体験活動を重視し実践している。しかし,子どもの自発性に基づいた活動を行う際に,どのようにしたら一人一人の子どもの気付きを見取り,子どもに気付きを自覚させ,次の活動につながるように気付きを広げ,深めさせることができるか,ということに難しさを感じている。子どもの知的な気付きを大切にするには,子どもの主体性が発揮できるような学習活動を,積極的に行い,その中で生まれる気付きを自覚させ,学級の友だちに広めることが大切である。そうすることにより,子ども一人一人の思いや願いがふくらみ,深まりのある活動が行えるようになると考える。また,子どもの気付きを評価することでは,発見カードを用いて評価しており,子どもたちの自己評価や授業中のつぶやき,発表など,表現活動を重視していることが明らかになった。


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