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生活科の研究のねらい |
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生活科学習の指導に関する実態調査を実施し,その結果を踏まえて授業研究を行い,子どもの知的な気付きを大切にする生活科学習の指導の在り方を究明する。 |
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研究主題に関する基本的な考え方 |
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教育課程審議会の中間まとめ(平成9年11月)において,生活科の現状と課題について,「一部に画一的な教育活動がみられたり,単に活動するだけにとどまっていて,自分と身近な社会や自然,人にかかわる知的な気付きを深めることが十分でない状況もみられる。」ことが指摘された。また,教育課程審議会答申(平成10年7月)の生活科の改善の基本方針では,「児童が身近な人や社会,自然と直接かかわる活動や体験を一層重視し,こうした活動や体験の中で生まれる知的な気付きを大切にする指導が行われるようにする」と提言された。この答申を踏まえ,改訂された,小学校学習指導要領解説の生活編(平成11年5月)では,改善の基本方針の一つに,「直接かかわる活動や体験の中で生まれる知的な気付きを大切にする指導が行われるようにする」ことが挙げられている。以上のことから,教科に関する研究を進めるにあたり,研究主題である「個に応じた学習指導の工夫改善」において,生活科では,子どもの個性の一つである「知的な気付き」に着目し,子どもの知的な気付きを大切にする生活科学習の指導の在り方を究明することにした。 |
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(1) |
生活科における気付きの特徴 |
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「知的な気付きを大切にする指導」を考える上で生活科における気付きの特徴について述べることにする。
無藤隆氏注1)は,生活科における気付きの特徴について,次の四つの側面を挙げている。
一つ目は,「感じ取るものであること」である。「気付きが明瞭に認識されているものであれば,関連づけたり,他のもともともっている知識に統合したりしやすいが,生活科の活動の中ではそのような明瞭な認識はなかなか生じない。多くは半自覚的であり,おぼろげながら気付いているというものである。身近な環境とのかかわりにおいて,何となく感じるというところから,徐々に,その感じ方を自覚して,明瞭な認識へと進めていくという流れを生活科の授業として想定できる。」としている。気付きを子どもたちに自覚させるには,学習活動を振り返る活動が重要になると考える。
二つ目は,「場の中のものであること」である。「気付きとは,活動している場の中で生まれるものである。」そして,「気付きは,現場に存在するもろもろの人や物や活動との関連で生じたものであり,その場を離れると,忘れたり,どこがポイントだったか分からなくなったりする。その場での何らかの記録の活動や,その場での出来事や採取物や作品などを手がかりに思い起こす活動や,教師が子どものつぶやきから気付いたことの見当をつけておいて,後で言い添えてやることなどが必要になる。」としている。子どもたちの気付きを大切にするには,活動の場の写真や,ビデオなどを用いて,できる限りもとの現場の状況を示し,表現や振り返りの活動を行うことが大切であると考える。
三つ目として,「感動や驚きとともに生じるもの」である。「気付きは,純粋に知的なものであるとは限らない。感情と絡み合いつつ,生じる。対象にかかわり,何か心に響くものがある。対象のもつ生き生きとしたようすや独特の形・動きなどに子どもの感性が開かれ,共鳴を起こす。特に,感動や驚きといった,その子どもの心の深みに根ざした何かと響き合うことが,質の高い気付きを生み出すのである。」としている。感動や驚きを伴う体験活動を設定することが大切であると考える。
四つ目として,「存在の実感があること」である。「対象に対して具体的にかかわるとは,身体的にかかわっていくことであり,そこでの気付きとは身体的なかかわりにおける実感的な感覚から生まれるものである。気付きは,実際の活動において身体を用い五感を活用した体験から生じると言ってもよい。その体験において,子どもはかかわった対象や活動やさらには自分自身の存在の実感を得る。」としている。五感を通して得た気付きを,細かくとらえ直す手だてが大切であると考える。 |
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「子どもの知的な気付き」と「知的な気付きを大切にする指導」について |
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嶋野道弘氏注2)は,子どもの知的な気付きとして次の三つを挙げている。一つは,「具体的な活動や体験を通した気付き」である。この気付きは,「教師や友達の受け止め方により,次への活動のきっかけになったり,新たな認識の芽となったりする。」二つ目は,「次からの活動を広げ,深める役割を果たす気付き」である。この気付きは,「新たな視点をもっての探検に発展していく」可能性がある。三つ目は,「自分の活動を自分なりに納得することにつながる気付き」である。この気付きは,「自分自身の活動に自信をもつことができる。」
嶋野氏はまた,知的な気付きを大切にする指導とは,「子どもが発する気付きを教師自身が知的だと受け止め,次の活動に生かす手だてを講じることである。」としている。本研究においては,これらのことを踏まえ研究を進めることにする。 |
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(3) |
本研究における「子どもの知的な気付きを大切にする指導」について |
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これまで述べてきたことを踏まえて,本研究における,「子どもの知的な気付きを大切にする指導」とは,授業の中で発する,子どもの様々な気付きの中から,嶋野氏の言う三つの気付きにつながる気付きを,教師が知的だと受け止め,授業の中で生かしていくことだと考える。その際無籐氏による気付きのもっている特徴について教師が十分理解し,子どもの知的な気付きを,効果的に授業の中に生かせる手だてを講じることが大切と考える。
具体的には,次のアからエを視野において,研究のねらいに迫りたいと考える。
ア |
子どもの気付きが成立するような活動の場を保証する。 |
イ |
子どもが知的な気付きを自覚できる指導に努める。 |
ウ |
子どもが発する気付きを教師自身が知的だと受け止める手だてを講じる。 |
エ |
子どもの気付きが,次の活動に生きる手だてを講じる。 |
注1) |
無藤隆(お茶の水女子大学教授)「生活科事典」東京書籍,1996年 |
注2) |
嶋野道弘(文部科学省視学官)『新しい教育課程と学習活動の実際生活』,東洋館出版,1999年 |
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