授業研究
   研究主題「学ぶ楽しさや充実感を味わう算数・数学科学習の指導の在り方」に関する基本的な考え方と実態調査の結果を踏まえ,研究主題に迫るための手だてを講じ,二年間にわたり小学校,中学校,高等学校で授業研究を行った。
  (1)  小学校における授業研究
     一年目の授業研究は,小学校第5学年「分数のたし算とひき算」の単元を扱い,学習課題の工夫,解決の過程を大切にする工夫,友達との話し合いに参加できる場の工夫に視点を置き,授業を展開した。
 本時の学習課題を設定するにあたっては,二つの工夫点がある。一つ目は,課題そのものの工夫である。一般に,分数のたし算を扱う導入課題は,ジュースや牛乳などの液量やひもやリボンなどの長さを扱っている場合がほとんどである。いくつかの教科書を調べてみても,長さ,面積,重さ,距離などを扱ってはいるものの,具体的な液量を扱ったものが圧倒的に多い。今回,比較的取り扱われない「時間」を素材に選んだのは,以下の理由からである。
     視覚的に同値分数をとらえることができる。
 液量や長さなどを問題の題材として取り上げると,数直線などに置換しなくては視覚的にとらえにくいが,1時間を単位として,20分=1/3時間,30分=1/2時間と,時計の文字盤などで視覚的に見ることができ,同分母分数に変形しやすいと考える。
     同値分数を見つけやすい。
 時計の文字盤を手がかりにして,1分ごとや10分ごとに区切って考えることにより,いくつかの同値分数を見つけることができ,多様な解法を導きやすいと考える。
     時計の文字盤を利用することにより,作業を通して答えが見つけられる。
 解決方法が見つけられない,どうしたらよいのか手がつけられない子どもたちにとって,作業を通して自分なりに解決が図れることは,友達との話し合いに参加できるために,重要なことであると考える。
     答えの確かめが容易である。
 比較的,液量の方が扱いやすい課題ではあるが,いざ実際に答えを実験で確かめようとすると,誤差が生じやすいのに加えてかなりの事前準備が必要となると考える。
     二つ目は,学習課題の文末の表記である。「何時間になるだろうか」ではなく,「どんな方法で解決できるだろうか」とした。これは,答えさえ求めればよいというのではなく,自分はこんなふうに考えることができたという点に重きを置いたもので,多くの解決方法を期待するものである。
 友達との話し合いに参加する場の工夫については,授業のどこにどのように話し合いを位置付けるかが,授業を展開していく上で重要な点であると考える。算数科の授業の中で話し合いというと,いわゆる「練り上げ」と言われるものを指し示すことが多いが,本授業で考えた話し合いとは,いくつかの解法の中で,どれが一番効率的かといった価値を見いだすだけのものではなく,「答えさえ合えばよいのではなく,様々な解法を考える」ことや「たとえ,つたない考え方かもしれないが,きちんと受け止める」ことを基盤とした話し合いである。今回の授業では,「○○さんの意見をもとに」,「○○だから○○」といった他者との関連付けを図るような言い方や論理的なつながりが明確になる言い方を大事に取り扱っていきたいと考えた。
 以上のような点を踏まえ,児童の考える過程や伝え合う活動を通して,児童が学ぶ楽しさや充実感を味わえるように,前述したような手だてをもとに,授業研究を行った。
 その結果,学ぶ楽しさや充実感を味わうということにかかわる児童の思いは,児童の課題に対するあるいは課題解決に対する知的な好奇心と大きくかかわるということが分かった。, また折り紙を用いて計算の仕方を考えたり,確かめたりする算数的活動を位置付けたことにより,考える楽しさや友達と学び合う喜びや達成感を味わうことができた。今後の課題として,児童自身が自分の思いや考えを表現していく中で,学ぶ楽しさや充実感を味わうとともに,基礎・基本を身に付け,さらに考える力を育てるための指導法の工夫があげられる。具体的には,課題そのものの在り方や提示の仕方をさらに工夫すること, , 児童が知的に葛藤する場面を設定し算数における表現力を高める手だてについてさらに追究していく必要があると考える。
 なお,二年目となる本年度の小学校における授業研究については,次のとおりである。


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