算数・数学科における「学ぶ楽しさや充実感」を味わうことに関する実態調査
   研究を進めるにあたり,県内の小学校,中学校及び高等学校の児童生徒及び教師を対象として,算数・数学科の「学ぶ楽しさや充実感」を味わうことに関する学習について,質問紙により実態調査を行った。
  (1)  調査の対象
   
 児童生徒…  校種別に学校規模や地域性を考慮して,調査校を抽出した。抽出した小学校は8校で第5学年1学級ずつ,中学校は5校で第2学年2学級ずつ,高等学校は10校で第2学年1学級ずつ調査をした。回答者数は小学校児童221人,中学校生徒337人,高等学校生徒366人の計924人である。
 教師…  県内の公立小学校100校,公立中学校100校,公立全日制高等学校50校を無作為に抽出した。小学校については各校1人,中学校については数学科担当者各校1人,高等学校については数学科担当者各校2人を対象とした。回答者数は小学校100人,中学校100人,高等学校100人である。
  (2)  実施時期  平成13年9月3日(月)から9月7日(金)まで
  (3)  調査結果及び分析
   
  •  調査項目数は,児童生徒と教師に対してそれぞれ4項目とした。
  •  児童生徒及び教師への質問の観点や内容は同一のものを考えた。
  •  調査項目アからエについての質問を枠内に示し,その結果を表1から表4に示した。
  •  表中の数値は各問ごとの回答者数に対する回答数の割合(%)である。
      【以下,質問内容の抜粋と集計結果の分析と考察を掲載】
     普段の算数・数学の授業を楽しいと感じているかどうかについて(小学生の質問は省略)
     
 あなたは,普段の数学の授業を楽しいと感じていますか。あてはまるものを一つ選び,回答欄に記号で記入してください。(中学生,高校生用)
 あなたは,普段の算数・数学の授業で,どのくらいの児童生徒が楽しいと感じていると思いますか。該当するものを一つ選び,回答欄に記号で記入してください。(教師用)
      表1−1 授業を楽しいと感じているかどうかについて
      《児童生徒》(%)

  小学校 中学校 高等学校
ア いつも楽しいと感じている。 10.4 10.1 4.4
イ 楽しいと感じるときがよくある。 23.1 20.7 12.0
ウ ときどき楽しいと感じる。 51.6 49.3 45.6
エ 楽しいと感じるときがめったにない。 14.9 19.9 38.0


表1−2 授業を楽しいと感じているかどうかについて
      《教師》(%)

  小学校 中学校 高等学校
ア ほとんどの児童生徒が楽しいと感じている。 14.0 3.0 0.0
イ およそ半数程度の児童生徒が楽しいと感じている。 75.0 60.0 21.0
ウ 楽しいと感じている児童生徒は半数に満たない。 11.0 37.0 55.0
エ 楽しいと感じている児童生徒はほとんどいない。 0.0 0.0 24.0
       各校種ごとに,「算数・数学の授業をどの程度楽しいと感じているか」について調査した。
 小学校児童では「ウ ときどき楽しいと感じる。」が51.6%,「イ 楽しいと感じるときがよくある。」が23.1%,中学校生徒では,項目ウが49.3%,項目イが20.7%で,小学校とほぼ同じ傾向が見られる。高等学校生徒においては,項目ウが45.6%,「エ 楽しいと感じるときがめったにない。」が38.0%となっている。「ア いつも楽しいと感じている。」では,4.4%で小中学校の半数にも満たない。高等学校生徒では,数学が本来得意であることや他の教科と比べて数学という教科が好きであるという意識が大きく左右しているものと思われる。なお,各校種とも項目ウの数値が一番高いことから,単元や学習活動,内容によっては,「楽しい」と感じるようである。また,小学校,中学校,高等学校と学年が進むにつれて,「楽しい」と感じる割合が減ってきている。このことは,学習内容の系統性が強くなったり,学習内容が難しくなったりすることが,児童生徒の「楽しい」と感じる思いに大きくかかわるように思われる。
 教師側に目を向けてみると,小学校では「イ およそ半数程度の児童生徒が楽しいと感じている。」が75.0%,「ア ほとんどの児童生徒が楽しいと感じている。」では14.0%である。中学校では,項目イが60.0%,項目アが3.0%となっている。高等学校においては,項目イが21.0%,項目アについては該当数がなく,「ウ 楽しいと感じている児童生徒は半数に満たない。」が55.0%である。高等学校教師には,小中学校教師に比べ,楽しいと感じている生徒の数が少ないという思いがある。また,「エ 楽しいと感じている児童生徒はほとんどいない。」の数値に目を向けてみると,小中学校では該当数がないものの高等学校においては,24.0%と比較的高い値となっている。高等学校においても生徒が数学の授業が楽しいと感じるよう,授業展開の工夫改善に努めなければならないと考える。
     算数・数学の授業で楽しいと思うときについて(小学生の質問は省略)
     
 あなたは,数学の授業で楽しいと思うのはどんなときですか。あなたの考えに近いものを二つ選び,回答欄に記号で記入してください。(中学生,高校生用)
 あなたは,児童生徒が算数・数学の授業で楽しいと思うのは,どんなときだと思いますか。あなたの考えに近いものを二つ選び,回答欄に記号で記入してください。(教師用)
      表2 授業で楽しいと思うとき(%)
  小学校 中学校 高等学校
児童 教師 生徒 教師 生徒 教師
ア 学習課題や問題の内容や意味が分かったとき 35.7 23.0 54.3 21.0 55.5 40.0
イ 解決する問題に興味や関心がもてたとき 30.3 38.0 26.1 32.0 18.3 22.0
ウ 解決への見通しが自分なりにもてたとき 24.0 19.0 16.6 15.0 27.9 32.0
エ 自分の力で工夫して問題を解決できたとき 44.8 82.0 43.3 78.0 47.3 70.0
オ 自分の考え方と友達の考え方を比べて違いが分かったとき 17.2 2.0 8.9 2.0 5.7 1.0
カ 新しい考え方に気付いたり,新しい知識が得られたりしたとき 31.2 31.0 22.0 45.0 26.8 33.0
キ 自分なりに学習のまとめができたとき 13.6 2.0 11.6 4.0 10.4 2.0
ク その他 2.7 1.0 7.4 1.0 6.0 0.0
       小学校児童では,「エ 自分の力で工夫して問題を解決できたとき」が44.8%, 「ア 学習課題や問題の内容や意味が分かったとき」が,35.7%,「カ 新しい考え方に気付いたり,新しい知識が得られたりしたとき」が31.2%となっている。中学校生徒及び高等学校生徒では,小学校とは逆に,項目アがそれぞれ54.3%,55.5%と高く,次に項目エが中学校生徒で43.3%,高等学校生徒では47.3%で中学校高等学校ともに同じ傾向を示している。特に,中学校生徒及び高等学校生徒は,「自分の力で工夫して問題を解決できたとき」よりも「学習課題や問題の内容や意味が分かったとき」に楽しいと思う傾向が強い。また,「イ 解決する問題に興味や関心がもてたとき」では小学校児童30.3%,中学校生徒26.1%,高等学校生徒18.3%であり,特に小学校においては,授業において解決する問題に対する興味や関心が「楽しさ」と結び付いていることが分かる。また,中学校では「ウ 解決への見通しが自分なりにもてたとき」の数値が他の校種に比べ低い。これは中学校教師にもいえることであり,中学校では,生徒が見通しをもつことや生徒に見通しをもたせることと,授業で楽しいと思うときとの結び付きの弱さがうかがえる。
 教師側の結果では,小学校では項目エが82.0%,項目イが38.0%,項目カが31.0%である。中学校においても,項目エが78.0%,次いで項目カが45.0%,項目イが32.0%となっている。高等学校では,項目エが70.0%,項目アが40.0%,項目カが33.0%である。小学校,中学校,高等学校とも各項目の中で,項目エの数値が非常に高いことが示されている。このことは,教師は生徒が問題を解決できるか,できないかということと「楽しさ」を関連付けてとらえている傾向が強いことを示していると思われる。また,小学校教師では「解決する問題に興味や関心がもてたとき」,中学校では「新しい考え方に気付いたり,新しい知識が得られたりしたとき」,高等学校においては「学習課題や問題の内容や意味が分かったとき」に,児童生徒が授業で楽しいと思っている。このことから,各校種ごとの違いも見られた。なお,各校種とも「オ 自分の考え方と友達の考え方を比べて違いが分かったとき」,「キ 自分なりに学習のまとめができたとき」の数値が他の項目に比べてかなり低い。児童生徒の数値と比較しても低く,このことは,指導や授業展開を考えたとき,教師は考え方を比べ違いが分かることや学習のまとめができることを,授業における児童生徒の「楽しさ」と結び付けて考えていない傾向があるものと受け取れる。
     熱中したり満足したりする授業について(小学生の質問は省略)
     
 あなたは,数学の授業で熱中したり満足したりするのは,どのような授業ですか。あなたの考えに近いものを二つ選び記入してください。(中学生,高校生用)
 あなたは,どのような算数・数学の授業を展開すれば,児童生徒が熱中したり満足したりすると思いますか。あなたの考えに近いものを二つ選び記入してください。(教師用)
      表3 熱中したり満足したりする授業(%)
  小学校 中学校 高等学校
児童 教師 生徒 教師 生徒 教師
ア 課題や学習したいテーマなどが自分で選択できる授業 25.8 45.0 27.3 36.0 26.2 22.0
イ ドリルやプリントなどを使って,反復練習や繰り返し学習ができる授業 21.3 12.0 28.2 10.0 40.2 34.0
ウ コンピュータなどを操作して考えることができる授業 63.3 31.0 28.8 28.0 29.0 29.0
エ 一人でじっくり考える時間が十分にある授業 16.7 14.0 32.0 15.0 38.5 29.0
オ グループで活動したり,みんなと話し合ったりする授業 48.9 29.0 46.9 43.0 35.2 23.0
カ 二人以上の先生がいて質問や疑問にすぐに答えてくれる授業 10.9 46.0 10.4 41.0 16.4 36.0
キ 友達や先生が,自分の解き方や考え方を分かってくれた授業 10.0 19.0 12.5 22.0 12.3 19.0
ク その他 2.3 2.0 1.5 3.0 2.2 6.0
       小学校児童では「ウ コンピュータなどを操作して考えることができる授業」63.3%,「オ グループで活動したり,みんなと話し合ったりする授業」48.9%,「ア 課題や学習したいテーマなどが自分で選択できる授業」25.8%である。中学校生徒では項目オが46.9%,「エ 一人でじっくり考える時間が十分にある授業」32.0%,項目ウが28.8%となっている。高等学校では,「イ ドリルやプリントなどを使って,反復練習や繰り返し学習ができる授業」が40.2%と数値が一番高く,項目エが38.5%,項目オが35.2%となっている。各校種ごとに傾向の違いが見られた。小学校児童では,コンピュータを活用していくことに「熱中したり満足したりする」傾向が強い。児童は興味や関心をもって授業に取り組んでいるものの,コンピュータを操作することに熱中したり満足したりするのか,自分が考えていく過程でコンピュータを有効な学習ツールとして活用していくことに熱中したり満足したりするのかを細かく見ていく必要があるように思う。中学校及び高等学校生徒は,一人でじっくり考える時間やグループで活動したり話し合う場を求めている。特に,高等学校生徒では,項目イの数値が小中学校に比べてかなり高く,項目エの数値の高さとも関連付けて考えれば,一人でじっくり学習に取り組むことが,熱中したり満足したりすることと結び付いているといえる。
 教師側の考えに目を向けてみると,小学校では,「カ 二人以上の先生がいて質問や疑問にすぐに答えてくれる授業」が46.0%,項目ア45.0%,項目ウ31.0%となっている。中学校では,項目オ43.0%,項目カ41.0%,項目ア36.0%である。高等学校では,項目カ36.0%,次いで項目イ34.0%である。各校種とも児童生徒が熱中したり満足したりするために,教師はティーム・ティーチングによる授業を強く考えているものの,児童生徒の熱中したり満足したりする思いはそれほど高くない。また,中学校においてはグループ活動,高等学校では反復練習や繰り返し学習をあげ,生徒の考えとも一致している。なお,「キ 友達や先生が自分の解き方や考え方を分かってくれた授業」については,教師側の数値が児童生徒側の数値に比べ高く,教師と児童生徒との考えに違いが見られる。小中学校では,項目アの課題やテーマが選択できる授業について,同じようなことがいえる。
     問題解決に向かう方法(態度)について(小学生の質問は省略)
     
 あなたは,次の計算問題をどのような方法(態度)で解決しようとしますか。あなたの考えにもっとも近いものを一つ選び,回答欄に記号で記入してください。(中学生,高校生用)
 あなたは,児童生徒が次の計算問題を解くとき,どのような方法(態度)で解決する児童生徒が多いと思いますか。あなたの考えにもっとも近いものを一つ選び,回答欄に記号で記入してください。(教師用)
     計算問題  4.7×1.9+4.7×5.8+2.3×4.7
      表4 問題解決に向かう方法(態度)(%)
  小学校 中学校 高等学校
児童 教師 生徒 教師 生徒 教師
ア 自分から,左から順に筆算で答えを求めようとする。 29.9 71.0 28.8 67.0 41.8 47.0
イ 友達と分担して筆算で答えを求めようとする。 7.7 1.0 2.4 0.0 1.1 0.0
ウ すぐに電卓を使って計算しようとする。 9.0 3.0 11.6 3.0 5.2 14.0
エ 電卓を使わず,工夫して計算できる方法を見つけようとする。 38.0 11.0 24.9 10.0 34.2 4.0
オ めんどうくさいと感じ,すぐにやろうという気がおきない。 8.1 6.0 18.1 12.0 9.0 28.0
カ 簡単に計算できる方法を早く教わろうとする。 5.9 6.0 8.0 6.0 5.2 7.0
キ その他 0.9 2.0 1.8 2.0 3.3 0.0
       小学校児童では,「エ 電卓を使わず,工夫して計算できる方法を見つけようとする。」が38.0%を示し,「ア 自分から, 左から順に筆算で答えを求めようとする。」が29.9%となっている。中学校生徒は,項目アが28.8%で項目エが24.9%であり,高等学校生徒では,項目アが41.8%,項目エが34.2%である。中学校高等学校ともに同じ傾向にあるものの,小学校児童とは逆の傾向を示している。小学校児童では工夫して方法を見つけようとする傾向が強く,中学校及び高等学校生徒では難易な問題ともとらえず,あれこれ考えずに計算で求めていこうとする傾向が見られる。
 一方,教師側の考えでは,項目アが各校種とも数値が高く,小学校教師では71.0%,中学校教師でも67.0%と極めて高く,高等学校教師では47.0%となっている。特に,小中学校教師と児童生徒との考えの差が大きく,高等学校教師では項目エについて生徒との考えの差が極めて大きい。教師側は,児童生徒との考えとは逆に,工夫して計算しようとすることよりも,筆算で答えを求めていくだろうという考えをしている。「ウ すぐに電卓を使って計算しようとする。」でも小中学校教師はいずれも3.0%と低く児童生徒との考えの差が見られる。ただ,高等学校教師においては,教師が14.0%で生徒が5.2%であり小中学校とは逆の傾向が見られる。電卓を使って計算するだろうという考えは,小中学校教師より高等学校教師の方が強い。
 なお,「オ めんどうくさいと感じ,すぐにやろうという気が起きない。」では,中学校生徒で18.1%と小学校児童や高等学校生徒の2倍以上の数値が示されている。中学校教師及び高等学校教師もそれぞれ,12.0%,28.0%と高く,注目すべき点である。学ぶことへの意欲や試行錯誤したり創意工夫したりしながら学ぶことが必要であり,試行錯誤や創意工夫のある学習を通して「学ぶ楽しさや充実感」が味わえるといえる。学習への意欲付け,試行錯誤や創意工夫をしながら問題を解決していく態度の育成に努めていくことが望まれると考える。
  (4)  実態調査のまとめ
     「授業を楽しいと感じているかどうか」については,小中学校,高等学校と校種が進むにつれて,「楽しいと感じる」,「楽しいと感じている」の割合は低くなっている。算数・数学を学ぶことの楽しさや充実感を,児童生徒自身が味わえるよう指導方法の工夫改善に努めなければならないと考える。また,各校種を問わず,児童生徒は「授業で楽しいと思うとき」として,自分の力で工夫して問題を解決できたときを選択している割合が高い。教師は,児童生徒以上にその割合が高くなっている。児童生徒が自分の力で工夫して問題を解決できるためには,基礎・基本の確実な定着が必要となると考える。特に,小学校においては,児童が基礎的・基本的な知識や技能を身に付けること,また中学校では基礎的・基本的な内容の習得に力点を置いた指導の工夫が望まれるといえる。
     本実態調査の結果,各校種では,特に次のことが明らかになった。
     小学校において
      (ア)  児童は問題が解決できたときのみならず,課題や問題の内容や意味が分かったとき,新しい考え方に気付いたり新しい知識が得られたりしたとき,解決する問題に興味や関心がもてたときなど,様々な場面で授業の楽しさを感じている。教師は解決する問題に興味や関心がもてたときや新しい考え方に気付いたり新しい知識が得られたりしたときに児童が楽しさを味わうと考えている。
      (イ)  児童はコンピュータを活用していくことやグループ活動,話し合い活動に取り組む授業に熱中したり満足したりする傾向がある。教師は児童が課題やテーマを選択できる授業に児童の熱中したり満足したりする思いがあると考えている。
     中学校において
      (ア)  生徒は学習課題や問題の内容や意味が分かったとき,解決する問題に対する興味や関心がもてたときに授業が楽しいと思っている。教師は新しい考え方に気付いたり新しい知識が得られたりしたときに,生徒が楽しいと思うと考えており生徒の考えとの違いが見られた。
      (イ)  生徒はグループ活動や話し合い活動に取り組んだり,一人でじっくり考える時間が十分にある授業に熱中したり満足したりする。教師も同様の考えをしている。
     高等学校において
      (ア)  生徒は,学習課題や問題の内容や意味が分かったときに授業が楽しいと思っている。教師は生徒が自分の力で工夫して問題を解決できたときに,生徒は授業が楽しいと思っていると強く考えている。
      (イ)  生徒はドリルやプリントなどを使って反復練習や繰り返し学習ができる授業,一人でじっくり考える時間が十分にある授業に熱中したり満足したりする。
      (ウ)  問題解決に向かう方法(態度)について,生徒は計算してすぐに答えを出そうとする傾向が小中学校よりも強いものの,工夫して解決しようとする態度も見られる。


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