研究主題 学ぶ楽しさや充実感を味わう算数・数学科学習の指導の在り方

 算数・数学科の研究のねらい
   学ぶ楽しさや充実感を味わう算数・数学科学習に関する実態調査を,児童生徒及び教師を対象として実施し,その結果を踏まえて小学校,中学校,高等学校ごとに授業研究を行い,学ぶ楽しさや充実感を味わう算数・数学科学習の指導の在り方を明らかにする。
 
 研究主題に関する基本的な考え方
  (1)  算数・数学科の改善の基本方針と研究主題との関連について
     教育課程審議会答申(平成10年7月29日)の教育課程の基準の改善のねらいを踏まえ,算数・数学科の改善の基本方針では,算数・数学の学習を通じて児童生徒にどのような資質や能力を育てていくかが記され,これからの算数・数学科教育において重視すべきねらいが示されている。そのねらいは,数量や図形についての基礎的な知識と技能を身に付けていくこと,算数・数学を通じて考える力を育てること,自ら進んで活用していくなどの望ましい態度を育てることであると記されている。これらのねらいに迫るために,児童生徒が「自ら課題を見つけ,主体的に問題を解決する活動を通して,学ぶことの楽しさや充実感を味わいながら学習を進めていくことができるようにすることを重視」すると述べられている。このことから,算数・数学を学んでいく過程で,児童生徒が「学ぶ楽しさや充実感」を味わうことのできる学習活動を展開するとともに,そのための指導方法や指導体制の工夫改善に努めなければならないと考える。
  (2)  「学ぶ楽しさや充実感」を味わうとは
     小学校学習指導要領解説算数編(平成11年5月文部省)(以下,小学校解説と表す。)では,「楽しさと充実感は,算数の内容や方法の本質にかかわるものである。自らの主体的な活動によって,数量や図形についての意味が本当によく分かったときには,学ぶことの楽しさが感じられる。自分で実際に作業をしたり,体験をしたりして算数を学習するのも楽しいことである。数量や図形についての知識や技能を確実に身に付けたときには充実感が感じられる。自分で数学的な考えを生かし工夫をして算数の問題を解決できたときにも楽しさと充実感が味わえる。」と述べられ,さらに,「楽しさや充実感」を味わう学習活動によって,算数への関心や意欲が高まるとしている。中学校学習指導要領解説−数学編−(平成11年9月文部省)(以下,中学校解説と表す。)には,教師から知識などを伝えられ,単にでき上がった数学を知るのではなく,数学を学ぶことへの意欲を高めるとともに,数学を学んでいく過程を大切にすることが述べられ,「数学を創造し発展させる活動を通して数学を学ぶことを経験させ,その過程の中にみられる工夫,驚き,感動を味わい,数学を学ぶことの面白さ,考えることの楽しさを味わえるようにすることが大切である。」と記されている。また,高等学校学習指導要領解説数学編理数編(平成11年12月文部省)(以下,高等学校解説と表す。)には,「数学的活動では,数学が作られてきた過程を追体験するなど発見の喜びや活動の楽しさを味わうことができ,小学校や中学校と同様実質的に『楽しさ』を含んでいる。ただ,高等学校の目標では『楽しさ』にとどまるのではなく,数学的活動を通して,数学への興味・関心を一層喚起するとともに,論理的思考力,想像力及び直観力などの創造性の基礎を養うことを目指している。」と記されている。
 以上のような点から,「学ぶ楽しさや充実感」を味わうとは,児童生徒が算数・数学のもつ有用性や美しさに触れること,論理的に考えたり発見したりすること,算数・数学を創り上げたり活用したりしていくことなどの体験や経験を通して,児童生徒が楽しさや充実感を心に深く感じ取ることと考える。児童生徒にとって,算数・数学の学習が楽しく進められ,学習活動に対する充実感がもてることは,児童生徒に算数・数学への興味や関心を一層もたせ,学習への意欲を高めることにつながるものといえる。また,児童生徒が「学ぶ楽しさや充実感」を味わえるようにしていくためには,児童生徒の発達段階を考慮し,児童生徒自身が自分の目で見て,自分の体で感じ,自分の頭を使って考えていきながら主体的に算数・数学の世界にかかわっていくような授業の確立を目指さなければならないと考える。
 なお,算数・数学の学習において児童生徒は,様々な考え方や解き方で問題を解決していこうとし,自分なりの課題解決の過程において児童生徒一人一人の個性が発揮される。本研究では,児童生徒理解を基盤に,個の違いを認め,児童生徒一人一人が「考えようとすること,考えていること,考えたこと」という一連の活動の中で味わう「学ぶ楽しさや充実感」を重視し,この「学ぶ楽しさや充実感」は算数・数学を学ぶことへの関心や意欲を高めていくことにつながるものと考える。
  (3)  算数的活動・数学的活動と「学ぶ楽しさや充実感」を味わうこととの関連について
     小学校解説には,算数的活動について,「児童が目的意識をもって取り組む算数にかかわりのある様々な活動を意味しており,作業的・体験的な活動など手や身体を使った外的な活動を主とするものがある。また,活動の意味を広くとらえれば,思考活動などの内的な活動を主とするものも含まれる。」とある。算数的活動を積極的に取り入れることによって,児童の主体的な活動が期待でき,算数の楽しさやよさが感じられ,感動のある学習になると述べられている。
 数学的活動については,中学校解説では,「観察,操作,実験など具体的な活動を通して,ものごとの関係やきまりを見いだしたり」,「確かな根拠を基にこれを論理的に考察し,数学的認識を次第に高めていく」活動とある。このような活動を通して,生徒は自らの知識を再構成したり,数学を学習することの意義を見いだしたりすると述べられ,このことは「学ぶ楽しさや充実感」に通じるものといえる。また,高等学校解説には,数学的活動は,生徒の主体的な活動を促すとともに,次の三点を強調するものであると述べられている。それは,身近な事象との関連を一層図り,数学化の過程を重視すること,数学的考察・処理の質を高めること,見いだした数学的知識の意味を身近な事象に戻って味わったり,いろいろな場面に活用したりすることである。高等学校においては,思考活動が中心となるものの数学化の場面や数学的考察・処理の過程では,観察,操作,実験などの活動も含まれ,新しい理論や定理等を発見した喜びや,活動の楽しさや充実感を味わうことができるといえる。
 算数的活動・数学的活動は,児童生徒が主体的に取り組み,算数・数学を創り出す活動ととらえ,児童生徒が算数・数学を学んでいく過程で,算数・数学のよさ,数学的な見方や考え方,算数・数学を学ぶことの意義などを児童生徒自身が感じ取る活動と考える。算数的活動・数学的活動は,「学ぶ楽しさや充実感」を味わうことに大きな意味をもつといえる。つまり,「学ぶ楽しさや充実感」は,算数・数学をただ教えられたり覚えたりすることでは得られず,児童生徒自らの活動すなわち算数的活動・数学的活動を通して実感し,味わえるものと考える。


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