研究主題に迫るための手だて
  (1)  児童生徒一人一人が国語科の基礎・基本の内容を繰り返し学習できる「時間と場」を確保する。
 児童生徒一人一人の言語能力を伸ばす国語科学習の指導を展開するためには,基礎・基本の力を習得することを重視することになる。個性の伸長は,話すこと・聞くこと,書くこと,読むことの確かな国語の力を習得しながら築かれるものと考える。しかし,それらを順位的にとらえずに,多様な言語活動の学習計画の中に指導を位置付けて児童生徒に身に付けさせていくことが大切である。
  (2)  児童生徒が主体的に学習を進められるような,学習の形態や方法を工夫する。
 児童生徒の国語科の学習に対する関心や意欲を高めるということから指導を考える必要がある。一人一人違う,学習への興味・関心を高めるためには,学習方法や学習過程を個別化したり学習の題材を選択させたりする工夫が必要となる。このような教師の工夫により言語を主体的に操作する児童生徒の学習が期待できると考える。
  (3)  児童生徒一人一人の言語能力に関する個人ファイルや個人表(カルテ)を作成して計画的に学習の成果を評価する。
 評価は教師自らの学習指導の改善のために手がかりとなるものである。児童生徒一人一人の学習の成果をできる限り把握することで,児童生徒の主体的な学習の改善を図るための指導を,個に即して行うことが可能となる。同時に,児童生徒にとっては教師による評価が自分の学習状況を把握する情報となり,自分自身の学習のどこが十分でどこが不十分なのかを知ることができると考える。
  (4)  児童生徒一人一人が学習活動の中で相手意識,目的意識,場面意識,方法意識,評価意識(以下,五つの言語意識とよぶ。)を明確にできるようにする。
 国語科の学習においては,その言語活動を「誰に対して」「何のために」「どのような場面(状況)で」「どのように」行うものであるのかを学習者に意識させることが重要である。このことによって児童生徒は評価の観点が明確となり,自己評価や相互評価を適切に行えるようになる。そして,どのような言語能力が身に付いたのか,あるいは付かなかったのかを確認することができる。この確認により,児童生徒は言語能力を伸ばすために次回の学習活動を意欲的に進めることができると考える。
 
 授業研究
   研究主題「発達段階に応じて言語能力を育成する国語科学習の指導の在り方」についての基本的な考え方と実態調査の結果を踏まえ,具体的な手だてを講じ,小学校,中学校,高等学校で授業研究を行った。
〈一年目の授業研究〉
  (1)  小学校第4学年「感動を伝えよう〜私が好きな一編の詩〜」
     本単元は,童謡詩人金子みすゞの作品を学習材として,作品を読み広げる過程で一人一人の児童が抱いた自分なりの考えや思いを伝えたい相手に手紙文として伝えるという「書くこと」領域の学習指導である。よりよく相手に伝えるために「相手や目的に応じて,適切に書くこと」や「書こうとする事の中心を明確にしながら,段落と段落との続き方に注意して書くこと」を学ぶことができるようにした。指導の手だては以下の5点である。
   
 個の思いを生かす学習材の工夫
 個人表(カルテ)の活用
 面接による支援
 話合いによる相互評価
 学習カードへの保護者からの支援
     これらの手だてにより授業を行った。授業では,作品を読み広げる過程でその子なりの気付きや考えの中心になりそうな事柄を見付けられた場合に教師は個人表に記しておき,学習カードへのコメントとして支援したり,面接の際に本人なりのよさを伝えたりした。その結果,児童は自分のよさを認められたことで書こうとすることの中心が明確になり,書く内容にも深まりが見られるようになった。また,「何をどのように書くと,自分の思いがうまく相手に伝えられるか」について話し合い相互評価をする場を設定したところ,自分の意見と友達の意見との違いを自覚できるようになり,相手や目的に応じた文章の構成や適切な表現についてそれぞれの考えが深められるようになった。
  (2)  中学校第2学年「ニュース番組を制作しよう」
   
 「ニュース番組」形式の導入
 学習の手引きの活用
 個人カルテの活用
 録音機器の活用
     これらの手だてにより授業を行った。その結果,「サイコロ並べゲーム」で話す力として押さえた「全体から部分へ」話す学習が,番組制作のグループ活動の中で特に項目を立てて話すことなど話の構成について意識が高くもたれ,スキル的な学習として効果があることが分かった。また,学習の手引きの中で毎時間の学習で身に付けなければならない言語能力を明記しておいたことで,どのような話し方を心がけなければならないかについて明確にとらえ学習を進めることができた。次に,個人カルテを活用したことで学習過程の中で個に応じた指導を充実させることができた。また,生徒に「個人カルテ」の内容に即した自己評価のためのプリントを使用させたことで,どのような言語能力を身に付けなければならないか,評価意識をもって学習に取り組ませることができた。
  (3)  高等学校第2学年「私が哀号とつぶやく時」(五木寛之)
     本単元は,五木寛之の「私が哀号とつぶやく時」を学習材として,生徒自身が疑問や課題を発見したり,さまざまな情報を収集,選択,活用して自分の考えまとめたり,相手に的確に表現できたりする言語能力を育成する「読むこと」領域の学習指導である。多様な生徒たち個々が自分自身で取り組むために段階的に学習活動を進め,国語の不得手とする生徒も学習に取り組めるように,また,得手とする生徒は表現力や語彙力を豊かにすることができるようにした。指導の手だては以下の3点である。
   
 課題設定の工夫
 生徒の状況に応じた学習活動の工夫
 生徒一人一人に自分の考えを文章化させる工夫
 理解した内容を発展させ,それを深化させる工夫
     これらの手だてにより授業を行った。その結果,教師の発問に対する答えに当たる部分を本文から抜き出す,抜き出した箇所を自分の言葉に置き換えて文章化する,文章から考えたことを一般化するという生徒の学習状況に応じた学習活動によって,生徒は自分なりに考えを表現して,徐々に高度化していけることが分かった。また,教師が生徒の考えを肯定的に評価することで生徒の自由な自分自身の考えを導くことができた。
   二年目の授業研究は,次のとおりである。


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