C 中学校の実践1 | |||||||||||||||||||
ア | 早期発見のための方法 | ||||||||||||||||||
個別的援助サービスで学校が最もその力を発揮できるのは,二次的援助サービスではないだろうか。さらに問題が深刻化した場合,外部の専門機関との連携がポイントとなるなど,学校だけでは対処しきれないことも多くなる。したがって,学校現場で第一に配慮すべきは,「問題が深刻化する前にその兆候を発見し,早期に二次的援助サービスを開始すること」だろう。 このような考えから本校では,教師の個人差などによって判断の遅れが生じないよう,早期発見のための客観的な基準としてチェックリスト(表5)を活用している。 このチェックリストは,学校心理学(石隈利紀,1999)に掲載されている「SOSチェックリスト」を応用して名簿形式に作り直したものだが,名簿形式とすることで活用の幅を広げることができた。 たとえば,今回のように気になる生徒が出たときの「個別的・適時的活用」の他,学期始めにクラス全員についてチェックしてみるなどの「全体的・定期的活用」も可能である。さらに,教科担任に記入してもらうことや,記録を積み重ねてみるということも考えられるだろう。 A子に対する援助も,このチェックリストによる確認からスタートした。A子は,入学当初から明るく活発で学習能力も高い生徒だったが,2学期以降,交友関係が変化し何となく存在が目立たなくなっていた。気になった学級担任がチェックリストで調べたところ,A子には,学習面,心理・社会面を中心にいくつもの心配な項目があることが認められたため,A子を二次的援助サービスの対象としてとらえることにしたのである。 |
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イ | 学校を母体とした援助チームの編成 | ||||||||||||||||||
中学校における二次的援助サービスのニーズは極めて多いため,援助チーム編成にあたっては,ケースごとにその都度特別なチームを編成するよりも,日常活動している学年を母体としてチームを編成する方が実際的だろうと考えた。 その利点は大きく二つある。一つは,通常の学年会議の前後にコンサルテーション(作戦会議)を設定することが可能なため,時間的障壁やメンバーを集めるための労力が少ないという点。もう一つは,多くの職員が参加するので,適材適所の分担がしやすいという点である。 A子の場合もこの利点を生かし,学級担任から相談を受けた学年主任が場を設定し,学年職員+養護教諭の計11人のメンバーによって,援助チームを編成した。 ただし,保護者を交えたチームを編成する場合には,保護者の心理的負担を考慮して,チームを少人数(3〜5人程度)に絞るなどの配慮が必要だろう。 |
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ウ | コンサルテーション(作戦会議)の進め方 | ||||||||||||||||||
コンサルテーションでは,ひな型となるべき援助チームシート(表7)と援助資源チェックシート(図8)を作成し,その項目を埋める形で会議を進行した。 援助チームシートは援助案を立てるためのシートである。生徒の学習面,心理・社会面,進路面,健康面という四つの枠が用意されており,生徒についての情報が心理・社会面に偏ったり,学習面に偏ったりすることを防ぎ,援助ニーズをもつ生徒の多方面な情報や援助資源に気付けるようにしてある。 主な利点は,次のとおりである。 | |||||||||||||||||||
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もう一方の援助資源チェックシートは,生徒の問題解決に有効な人的資源や物的資源を発見するためのシートである。生徒にかかわることのできる人材や関係機関などが,一目で把握できるように工夫されており,チームを組んで援助する際のメンバー選択のアセスメントにも利用できる。 | |||||||||||||||||||
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エ | コンサルテーションの過程 | ||||||||||||||||||
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第1回コンサルテーションでは,まずA子の自助資源を見つけることから話し合いを始めた。 問題を抱える生徒への援助となると,つい目に見える問題を解消することにとらわれがちであり,結果として生徒の弱い面を刺激することに終始しがちである。その反省から,A子の自助資源を見つけ出し,A子のよさを伸ばす方向で教育的な援助をしようと考えたわけである。 話し合いの結果,次の四つの援助方針を立てた。 |
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設定した援助の内容は個別的なかかわりであるパーソナル・アプローチと集団的なかかわりであるグループ・アプローチに分けられる。 それぞれの詳細については, 後述する。 |
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初動のアプローチが望ましい方向から大きく逸脱することを避けるため,第2回コンサルテーションは,間隔を狭くして1週間後に実施した。 実際には,援助案が予定通り実践されているかどうかの確認が主であった。 |
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第2回コンサルテーションの結果,少しずつではあるがA子の状態がよい方向に向かいつつあることが確認されたため,第3回以降は1か月おきに開催するよう間隔を広げた。 その後,本人の回復に伴い第4回で終結しているが,毎週の学年会議の中で近況の報告を行うようにしている。 |
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オ | 2種類のアプローチ | ||||||||||||||||||
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個別の対応であるパーソナル・アプローチとしては,1対1のカウンセリングや遊戯療法が一般的であるが,チームの力を最大限に生かすため,A子の周辺に対する間接的な援助も併用することにした。つまり,A子を取り巻くさまざまな人的援助資源を活用し,多方面からのアプローチを試みたわけである。 具体的には,A子自身のカウンセリングに加え,友人B子によるピア・カウンセリング,B子との情報交換,家事の役割分担,母親との電話相談などである(図6参照)。 |
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グループ・アプローチとしては,構成的グループ・エンカウンターをはじめいくつもの方法が考えられる。それらはいずれも,一次的援助サービスに有効な方法として活用されているが,対象生徒の問題に合わせて方法や課題を選択したり,対象生徒の反応に留意して迅速に対応することによって,二次的援助サービスとしても機能するだろうと考えた。 今回は,構成的グループ・エンカウンターとジグソー学習を取り入れた。 |
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【実践例1:構成的グループ・エンカウンター】 構成的グループ・エンカウンターのプログラムの構成にあたっては,このA子を中心とした人間関係を改善することを主眼として,他者理解と他者受容に焦点を当てたエクササイズを組み合わせた(表6参照。) |
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【実践例2:ジグソー学習法】 ジグソー学習法とは,共同学習と教え合い学習を組み合わせたグループ学習方式(図7参照)で,学習が遅れ気味の生徒や学習に取り組む意欲が低下しがちな生徒が積極的に学習に取り組んだり,そうした生徒に対し周囲の生徒が好意的に教えるなどの効果がある(山内,1988)。 ジグソー学習を行う際,二次的援助サービスが必要な生徒について,その生徒が持ち味を発揮できるよう意図的に課題を設定することにより,より一層の効果が期待できる。 |
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カ | 結果と考察 | ||||||||||||||||||
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以上の結果,A子は程なく笑顔を取り戻し,以前のように学級のリーダーとして活躍できるようになった。今回行った二次的援助サービスの実践について,項目別に結果を振り返り考察してみる。 | |||||||||||||||||||
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最後に・・・A 子の問題は深刻化することなく解消されたわけだが,こうした場合,時に「もともと問題はなかったのではないか」という見方をされることもある。鋭い目をもった教師の意見が理解されず,生徒の状況の改善が取り組み(二次的援助サービス)の成果として認められないのである。 しかし,結果的に問題が発生しないことは何よりも意義深いことである。二次的援助サービスの中核となる教師は,そのことを自負し,そして,幾度となくコミュニケーションを繰り返したり実績を積み重ねたりすることによって,理解者・協力者を増やしていくことである。 そうした意味において,この実践の成立要因として忘れてならないことに,チームの母体となった学年職員の信頼関係があげられる。すばらしい仲間たちに恵まれたことに感謝し,本事例紹介のまとめとする。 |