A 小学校の実践2
 ここでは,各学年1学級ずつの,全校で6学級という小規模校における,援助チームによる実践の事例を示す。
 配慮を必要とする児童について
  A男(第2学年 男子)
  •  家族構成:父,母,祖父,祖母,本人
  •  情緒が不安定な面が目立ち,些細なことで激昂しやすい。原因が不明なままいらいらしている様子が多くなった。
  •  興奮し,周囲の人へ乱暴な言葉をぶつけたり,蹴ったり噛みついたりすることがある。
  •  同じ学級内の三次的援助サービスを必要とする児童たちの状態が良好になってきた中で,友達とのかかわり方や集団行動の取り方などの面で気になる児童として目立ってきた。
 援助チームの結成
 
(ア) 結成のきっかけ
  毎月1〜2回行われる各学級の児童についての報告・検討会で,第2学年の担任より,配慮を要する児童として報告された。その際に,チームをつくって対応していきたいとの希望が出された。
(イ) 援助コーディネーション委員会として
  「生徒指導協議会(校長・教頭・教務主任・生徒指導主事・教育相談係)」を「援助コーディネーション委員会」・養護教諭・該当学級担任によるとしてとらえて進めた。
 まず,教育相談係が生徒指導主事に援助チームの結成を提案し,生徒指導主事の賛成を得た。次に,生徒指導主事は,校長に結成について相談して承認を得ると教務主任と相談して援助チーム会議の日時・場所を決め援助チーム会議のメンバーについて教育相談係,第2学年担任とともに決定した。
(ウ)援助チーム会議のメンバー
   A男についての第1回目は「生徒指導協議会」のメンバーと,となりの教室に居て一緒に行動することも多く,第2学年の体育を担当している第1学年担任のB教諭を招集することにした。
 援助チームによる予防的な指導・援助の実際
  (ア)援助チーム会議の進め方
    司会進行役を教育相談係が務め,援助チームシート(表3)や,援助資源チェックシート(図4)を活用しながら,援助案を作成していった。
 進行の際には,進行役は,担任を責めるような話合いにしないこと,担任への情緒的サポートともなるような話合いにすること,A男のよさにも気付いていけるような話合いにすることを心がけた。
  (イ)話合いの実際
    主に,担任,第1学年担任,養護教諭より,A男についての情報が述べられた。また,A男の母親についての報告も担任からあり,学校でのA男の状態や担任の対応について理解を得られにくいという現状が分かった。
 これらの情報について,意見を述べ合う中で分析が深まり,新たな視点に気付くこともできた。
 また,援助チームシートを活用することにより,感情的な解釈にならずに情報を整理していくことができた。なお,表3の援助チームシートについては,今回は参考資料とするために詳しく記入した。
 話合いの結果,この時点における援助方針を以下のように立てた。
  • かっとして興奮している状態の時間を短くする。
  • 友達とのかかわりを増やす。
  • 担任と親との関係づくりをする。
  • A男を受け入れやすくするため,学級に落ち着いた雰囲気を育てる。
  (ウ)指導・援助の実際(第1回援助チーム会議〜第2回)
 経過とその後の援助活動について
   実際の援助の中で中心的メンバーとなったのは,担任,生活指導員であり,補助する場面があったのは,養護教諭,教務主任であった。そこで,第2回の援助チーム会議は,教育相談係の招集により,担任,養護教諭,教務主任,第1学年担任という,前回よりも少人数で行った。第1学年担任は,教室も身近でA男を見かける機会も多く,A男の担任にとって日常的に相談しやすい存在であるので加えることにした。生活指導員については,勤務態様の関係で参加できないため,後で担任や教務主任から援助の仕方について伝達することにした。
 そこでは,A男のその後の様子や,具体的に援助を行ったときの状態や反応などについて情報交換をした。A男は激昂する場面が少なくなってきたこと,腹を立てても立ち直りが早くなったこと,友達と遊ぶ場面も増えてきたことなどが分かり,同様の対応を続けていくことにした。しかし,その一方で,生徒指導部より提案されたアンケートを実施したところ「いつもいっしょにいたいと思う友達の名前」や「家に帰ってからよく遊ぶ友達の名前」を書く項目で,A男は一人の名前も書くことができなかったという報告もあった。そこで,友達と遊んでいる場面や楽しそうにしている場面で,A男に一人ぼっちではないという言葉かけをしていくという援助案を加えた。また,援助資源チェックシートの見直しを進める中で,母親を支える存在が加えられ,援助資源が増えていることを確認することができた。
 教育相談係は,援助チーム会議の内容を援助コーディネーション委員会(生徒指導協議会)の他のメンバーに伝えた。
 援助実践を振り返って
   援助チーム会議を実施する前までは,担任も,かかわりのあった他の教員もA男について,問題と感じる行動や気になるところにばかり目を奪われがちであった。しかし,援助チームシートを用いて複数のメンバーで情報を交換し,その情報について質疑応答や検討を進めていく中で,自助資源,援助資源というとらえ方に気付けるようになっていった。「資源」という観点で援助対象者について見直してみることが,具体的な援助案を考えていくためには有効であった。
 また,援助資源チェックシートの活用により,A男を取り巻く人的環境の変化や援助資源の増加などを明確にすることができた。さらに,具体的な人の名前が明記されることにより,チームによる援助が印象付けられ,担任への情緒的サポートとなったと考えられる。
A男については,今後,家庭との連携が不可欠である。学校行事として位置付けられている教育相談(二者面談)の機会などを活用しながら,親との信頼関係を深め,有力な援助資源の一人として援助チーム会議へ参加してもらえる状態を目指していきたい。
 本事例では,援助コーディネーション委員会のメンバーに1人の教諭を加えて援助チームを結成したため,大きなグループになった。
 本来ならば,援助コーディネーション委員会を開き,そこでケースに適した援助チームの規模やメンバーについて,大まかな方針を話し合う。しかし,本校は小規模校で,職員の役割が重複することが多く,また,全職員が個々の児童とかかわりをもつ機会も多い。このような中では,本事例のように,援助コーディネーション委員会のメンバーを全員含んだ援助チームを編成する場合もある。この場合は,時間や手間を省くことができ,理解を深めた援助体制がつくりやすい。今後も小規模校に合った援助チームの進め方を探っていきたい。

[目次へ]