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心理教育的援助サービスにおける3種類のチーム
学校における児童生徒とのかかわりは,授業,特別活動,相談など,教師やスクールカウンセラーによる「直接的なかかわり」と,援助チームなどを通した「チームでのかかわり」がある。チームでのかかわりは,次の三つの種類に整理できる。
ア |
特定の児童生徒に関する「援助チーム」
児童生徒の学級担任,保護者,教育相談担当などからなる「援助チーム」で,児童生徒の問題状況についての情報を収集し,意味づけしながら(アセスメントしながら),援助方針・計画を立て,援助を実践していく。 |
イ |
心理教育的援助サービスを充実させる「援助コーディネーション委員会」学年,学校レベルでの援助サービスのコーディネーションを行う。児童生徒の援助サービスの状況について検討し,援助サービスについて調整する。具体的には,学年部会,教育相談部会,生徒指導部会などが,援助サービスのコーディネーション委員会として機能しているといえる。また学習障害児の状況の把握(アセスメント)と援助サービスの計画や調整を行う「校内委員会」には,援助コーディネーション委員会の機能が期待される。 |
ウ |
学校全体の援助サービスのシステムに関する「運営委員会(マネジメント委員会)」
援助サービスのマネジメントを,学校の管理職や主任などからなる企画・運営委員会が職員会議を通して教員の意見を反映しながら進める。修学旅行,運動会,文化祭などの行事,保健室や相談室の運営,スクールカウンセラーの活用方針など,学校の援助サービスのマネジメントにとって重要な課題である。 |
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A |
援助チームについて
援助ニーズが大きい児童生徒のためには,児童生徒の学級担任の教師,保護者,スクールカウンセラーなどがチームとなって援助サービスを行うことが望ましい(石隈,1999)。
援助チームの目的は,児童生徒の学習面,心理・社会面,進路面,健康面における問題状況の解決を,複数の専門家と保護者とで行うことである。援助チームの主な機能として次の点が挙げられている。
ア |
多方面の専門家からなり,児童生徒を総合的に理解できる。 |
イ |
児童生徒の問題状況の効果的な解決を目指す。 |
ウ |
教師が児童生徒を効果的に指導・援助するための案を具体的に提供する。教師を情緒的にサポートする機能をもつ。 |
エ |
保護者を含む。保護者が家庭でできる指導・援助案を具体的に提供する。保護者の情緒的サポートも行う。 |
オ |
構成員の援助する力が向上する。その援助する力は他の児童生徒にも生かされ"予防的" に働く。 |
援助チームについて中学校の場合を考える。中学校における二次的援助サービスのニーズは極めて高い。そこで,ケースごとにその都度特別なチームを編成するよりも,日常活動している学年を母体としてチームを編成する方が実際的だろう。つまり,あるケースにおいては,学年職員プラス養護教諭でチームを編成し,別のケースでは学年職員プラス情緒障害学級担当教諭で編成するという具合である。
その利点は大きく二つある。一つは,通常の学年会議の延長としてコンサルテーション(作戦会議)が設定できるため,単独でコンサルテーションを設定することに比べて時間的障壁が少なく,メンバーを集めるための労力も少ないということ。もう一つは,多くの職員が参加することにより,援助に当たって適材適所の取り組みがしやすいということである。
ただし,実践を進めた結果,保護者を交えたチームを編成する必要が生じた場合には,保護者の心理的負担を考慮して,チームを少人数(4〜5人程度)に絞った方がよいだろう。 |
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B |
援助チームにおけるコンサルテーション
コンサルテーションの場を設定し情報収集や援助案を検討する段階では,ひな形となるべき援助チームシート(資料1)や援助資源チェックシート(資料2)を作成し,その項目を埋める形で会議を進行することが有効である。
援助チームシートは,援助の立案のためのシートである。児童生徒の学習面,心理・社会面,進路面,健康面という四つの枠が用意されていて,児童生徒についての情報が心理・社会面に偏ったり,学習面に偏ったりすることを防ぎ,援助ニーズをもつ児童生徒の多方面な情報や援助資源に気付けるようにしてある。援助資源チェックシートは,児童生徒の問題解決に援助的な機能をもつ人的資源や物的資源発見のためのシートである。児童生徒に関係のある友人や教師や関係機関などを一目で把握できるように工夫されている。チームを組んで援助する際のメンバー選択のアセスメントにも利用できる。
援助チームシートや援助資源チェックシート活用の利点をまとめると,次のような事項が挙げられる。
ア |
参加者が共通の視点に立って話合いを進めることができる。 |
イ |
様々な領域の情報を総合的にとらえることができる。 |
ウ |
問題点ばかりでなく,自助資源に目を向けることができる。 |
エ |
シートに記入することによって,今後の観察の視点が分かる。 |
オ |
援助に際し「だれが・いつ・どこで・何を・どうする」等の役割分担,が明確になる。 |
カ |
比較的短時間で援助案をまとめることができる。 |
キ |
コンサルテーションの回数を重ねた際の変容が明らかになる。 |
学年や学級で最近気になっている児童生徒について,援助チームでアセスメントし,問題が児童生徒の発達を妨害するほど重大にならないよう,そして児童生徒が自らの発達課題を達成しながら成長していけるよう指導・援助していくことが大切である。教師を含めた援助チームでコンサルテーションを行うことにより,教師のアセスメントや指導・援助の能力が向上する。
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C |
援助チームシート,援助資源チェックシートとその使い方
「援助チームシート」と「援助資源チェックシート」は,援助資源を発見・活用し,チームでの援助を促進するために開発した記入用紙である。
ア |
援助チームシート(情報収集と援助案作成のためのシート)
これは,情報のまとめと援助の立案のためのシート(A4版)である。このシートは,4領域(学習面,心理・社会面,進路面,健康面)にわたる情報を収集し分析するプロセス(石隈1999)」と援助の立案を一つの表の中で行う。その際,誰がいつからいつまでその子のために何を行うかが明確になされることを目標とする。「障害のある子ども用」(Ver.3)は生活面を加えた5領域となっている。
これらのシートは,児童生徒とかかわりのある人たちとチームで援助する時に使用する。
さらに,保護者や児童生徒の面接時に,援助者が自分自身で児童生徒の情報を整理して援助案を立てる時にも活用できる。
(ア) |
情報収集の記入の仕方(A)(B)(C)欄
表を二分した上段は,領域別の情報収集の欄である。横軸の項目が援助ニーズの領域を表しており,その領域ごとに生徒自身の自助資源(よい所)(A)」「援助が必要なところ(B)」「今まで試みた援助の方法(C)」について,情報を収集し記録する。自分の言葉で明確に簡単に記入すればよい。この表を埋めることで「分かったこと」「分からないこと」「したこと」「していないこと」が明確になる。この情報収集の欄のみを記入するだけでも,4領域別の子どもの援助に足りないところが見えてくる。
また,援助チームシートVer.2Plusは,標準的な質問項目がついているため,初めて使う方にも利用しやすく,全生徒対象の引き継ぎ時等に利用すると,統一した情報収集が可能となる。 |
(イ) |
援助方針の記入の仕方(D)欄
上記の情報から,この時点での援助方針(援助の大きな柱)を話し合い箇条書き等で記入する。その生徒に対して援助可能なとりあえずの目標等を決めることでよい。援助方針を共通理解することで援助の方向性が一致し,一貫した援助が可能となる。このことは,援助を受ける側の混乱を防ぎ,子どもに安心感を与えることにつながる。 |
(ウ) |
援助案の記入の仕方(E)(F)(G)欄
表の下段は,援助方針に添いながら領域別の援助案を記入する欄である。ここでは,援助方針(D)に沿って,チームで話し合いながら援助案を記入することで役割分担を明確にする。上段の「援助が必要なところ(B)」の欄に対して(A),(C)を加味しつつ「これからの援助で何を行うか( E)」の欄を考えると援助案が立てやすい。チームで話し合う際は,それぞれが自分の立場で「その子やその親あるいは担任に対して自分は何ができるか」を考え,小さく具体的な案(たとえば「本人が登校した際には自分も必ず一声掛ける」「担任の立場では親に言いにくいことを親と信頼関係のある自分が伝える」等)を提案するとよい。援助案の役割分担(F)と期限(G)を決め,次回の話し合いの際に「これからの援助で何を行うか(E)」の欄の内容を再吟味し援助案を修正する。 |
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イ |
援助資源チェックシート(援助資源は開発のためのシート)
これは,援助資源すなわち「子どもの問題解決に援助的な機能をもつ人的資源や物的資源(石隈1999)」の発見のためのシート(A4判)である。このシートは,短時間に記入することができ,教師やスクールカウンセラーが,その児童生徒と関係のある友人や教師や関連機関などを一目で把握できるように工夫されている。
○ |
援助資源名の記入の仕方
シートの四角内の上方に細字で明記されている援助資源(例えば友人など)の名前を記入していく。その際,その生徒と今かかわりのある人の名前を書き込む。したがって,担任と保護者は必ず記入する。他の援助資源名は,かかわれるようになってからその時点で追加して記入する。援助資源名の書き込みは簡単に短時間で記入ができるため,担任が二者面談時や家庭訪問時に記入したり,一度にたくさん生徒の訪れる保健室の養護教諭が短時間に記入することもできる。また,教師やスクールカウンセラーが保護者と面接した際に得た援助資源の情報や校内の他教師から得た援助資源の情報を追加して書き込むと,さらに正確なチェックシートができる。年度当初にシートに記入すると,「援助資源の数が少ない(特に級友等)」,あるいは「あっても関係が稀薄」等に,担任や養護教諭等が気付くきっかけになり,予防的な意味合いを持つ。援助資源の把握は,ネットワークの拡大にもつながり,欠かすことのできない心理教育的アセスメントの一つである。援助資源を発見し,チームに参加することで,より綿密なアセスメントが可能となり援助の立案に役立つのである。
【援助チームシート類一覧】
シート名 |
目 的 |
使 用 対 象 |
援助チームシートVer.2 |
- 問題をもつ生徒の情報収集・援助案作成および引き継ぎ用
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個人使用および援助チームで使用
(小・中・高校共通) |
援助チームシートVer.2Plus
(標準的な質問の小項目つき) |
- 問題をもつ生徒の情報収集・援助案および引き継ぎ用
- 全生徒対象の情報収集用(予防)
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個人使用および援助チームで使用
(初心者および学年間,校種間引き継ぎ用) |
援助チームシートVer.3
(障害のある子ども用) |
- 障害のある生徒の情報収集・援助案作成および引き継ぎ用
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個人使用および援助チームで使用
(特殊教育用) |
援助資源チェックシート |
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個人使用および援助チームで使用
(小・中・高校・特殊教育共通) |
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