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アセスメント
アセスメントは, 指導・援助の対象となる児童生徒が課題に取り組むうえで出会う問題や危機の状況についての情報の収集と分析を通して, 心理教育的援助サービスの方針や計画を立てるための資料を提供するプロセスである。アセスメントの対象として, 援助者自身, 児童生徒, 環境がある。
援助者自身をアセスメントする意義として, 援助者の価値観や考え方がアセスメントのプロセスに影響を与えるので, 援助者についての丁寧なアセスメントが大切である。それから, 援助者が児童生徒の環境の構成要素になっているため, 援助者の立場や関係, 能力をどう生かすかアセスメントする必要がある。
児童生徒では, 児童生徒の発達課題と教育課題への取り組み状況を把握することが重要である。そして, 児童生徒が困難を感じている問題状況やそれを解決するための力(自助資源)に注目する。
最後に環境では, 学校や地域, 家庭が対象である。児童生徒の発達課題や教育課題への取り組みにとって, 環境がどのように関係しているかに注目する。つまり, 児童生徒の援助ニーズや自助資源と環境をどう結びつけるかということや,児童生徒の行動にどう役立てられるかということである。
そこでアセスメントにおいて大切な視点が筑波大学の田上不二夫(1999)の提唱する「児童生徒(個人)と環境の折り合い」である。学校心理学では,とくに@児童生徒の学習スタイルと教授スタイル, A児童生徒の行動スタイルと学校や学級で要請される行動などの折り合いである。児童生徒が学校・学級や家庭など環境と折り合いがいいとは,@楽しんでいる,A人間関係がある,B課題に取り組んでいるという3 点からアセスメントできる。そして,心理教育的援助サービスは, 児童生徒が環境に折り合う力を伸ばすことを援助する側面と, 環境がさまざまな子どもの学習や行動のスタイルに折り合う柔軟性をもつようにする側面とをもっている。
アセスメントの主な方法として,児童生徒の観察,面接・遊戯,心理検査及び児童生徒の援助者との面接がある。心理教育的援助サービスでは,アセスメントと援助サービスを並行して行うことが重要である。それはアセスメントに修正を加えながら援助サービスをしていくことが有効だからである。
さらに,心理教育的援助サービスを効果的に行うために,児童生徒を取り巻く援助者がチームを組んで,チームでアセスメントを行い,チームで援助することが効果的である。チームの構成員としては,学級担任の先生,養護教諭,教育相談係,保護者等が考えられる。 |
(イ) |
カウンセリング
学校心理学では,「カウンセリング」を児童生徒が課題に取り組みながら成長するのを助ける人間と人間のかかわりを通した援助活動であるととらえる。
したがって,カウンセリングには,授業,保健室での相談,そしてカウンセラー等による面接が含まれる。心理教育援助サービスとしてのカウンセリングにおける主たる担い手は,教師とスクールカウンセラーである。
学校心理学では「3種類の人間関係」というカウンセリングのモデルを,提供している(石隈,1999)。このモデルは, 面接だけでなく授業におけるサポートも含めたカウンセリングのモデルである。このカウンセリングモデルは,援助者が児童生徒の理解者としてかかわる(Being-In),援助者が児童生徒の味方としてかかわる(Being-For),援助者が児童生徒と人間としてかかわる(Being-With)の3種類の人間関係からカウンセリングを整理している。Being-Forでは,さらに4種類のサポート(情報的サポート,道具的サポート,情緒的サポート,評価的サポート)で整理されている。茨城県教育研修センター教育相談課(2000)の研究チームは, 学習意欲を高める授業の在り方について,この4種類のサポートから研究している。 |
(ウ) |
コンサルテーション
コンサルテーションとは, 専門性や役割の異なる援助者同士が児童生徒の問題状況について検討し今後の援助の在り方について話し合うプロセス(作戦会議)といえる(石隈,1999)。
教師や保護者は,児童生徒の問題(不登校,非行,学業不振や学習意欲の低下,いじめなどの人間関係,障害など)をどう援助するか悩むことが多い。児童生徒の問題について,最初は自分で解決しようとするが,ときには同僚や配偶者に相談する。それでも解決が困難なときコンサルテーションを考える。教師や保護者からの援助依頼を受けて,教育相談担当,養護教諭,生徒指導主事,学年主任,あるいはスクールカウンセラー等がコンサルタントとして,学校教育やスクールカウンセリングの専門家の立場から,コンサルティ(教師や保護者)が児童生徒の問題解決を効果的に援助できるように働き掛ける。つまり,コンサルタントは教師や保護者を通して間接的に児童生徒を援助する。複数の援助者(教師,保護者,教育相談担当,スクールカウンセラー等)でつくる児童生徒の「援助チーム」はコンサルテーションのひとつの形態といえる。
コンサルタントに求められる能力として,人間関係に基づく問題解決を促進する能力,児童生徒の問題状況への援助についての知識とスキル,児童生徒を援助するチーム作り(ネットワーキング)の能力等がある。
コンサルテーションの留意点として,実施するタイミングとコンサルティへの心理的配慮が挙げられる。 |
(エ) |
コーディネーション
コーディネーションとは「学校内外の援助資源を調整しながらチームを形成し,援助チームおよびシステムレベルで,援助活動を調整するプロセス」である。具体的には援助チームにおいて,教育相談担当,養護教諭,生徒指導主事,学年主任などがコーディネーターとして機能する。学校,学年レベルのコーディネーションは,教育相談部会,生徒指導部会,学校保健部会,学年部会などが,援助コーディネーション委員会として機能する。この委員会は,教育相談係,スクールカウンセラー,養護教諭,障害児教育担当などの援助サービスのリーダーとなる者と校長又教頭からなる。ここで,教師,保護者らが援助している困難な事例について検討し,援助の方針と学校内外の援助資源の活用について助言を行う。学校で援助コーディネーション委員会を組織し,定期的に会議をもつのがよい。スクールカウンセラーが援助のコーディネーターになるという方向も検討できるが,現状では複数の援助者のチームによるコーディネーションが適切であろう。モデルとして,児童生徒の状況のアセスメント及び援助の方針については,主としてスクールカウンセラーと教育相談係がコーディネーション(ソフト面のコーディネーション)を行い,学内の援助資源の活用や援助チームの形成・維持(ハード面のコーディネーション)については,生徒指導主事,学年主任,管理職などがリーダーとなることが考えられる。
援助コーディネーション委員会では,提出された事例について検討し,援助ニーズの大きさに応じて二次的援助サービスや三次的援助サービスを行うことを提案するのである。その際,援助チームの構成員や学外の関係機関との連携の必要性と緊急性についても助言する。 |