【教材5】Webページを利用した定点観測情報の発信をする教材の開発
岩瀬町立西中学校 教諭 大木 弘志
(1)  教材開発のねらい
 インターネットの普及により,Cu-SeeMeやNetMeetingを利用して,離れた地域間でも画像等による交流が可能となり,更にコンピュータのOSやWebページの技術的な向上によって,ライブカメラの画像をWebページ上から定期的に発信できるようなシステムも簡易に作成できるようになった。また,気象要素を自動的に測定する機器(データロガー)も簡易に扱えるものが製品化されている。
 これらの機器を利用して定点観測情報をインターネットに発信して,それを生徒が利用すれば, 興味を深めたり関心を高めたりしながら各地の気象データを比較するようになるなど,大きな学習効果が期待できると考えた。
(2)  教材の内容
 学習内容
 中学2年生において学習する,理科2分野「天気の変化」のめあては,身近な気象の観察・観測を通して,天気変化の規則性に気付かせるとともに,生徒が気象現象の起こるしくみや規則性についての知識を深めることである。気温や湿度,気圧などの気象要素を測定し,雲の量を調べるライブカメラの画像や定点観測データを活用することにより,生徒が自ら天気の変化との関係や地域差を理解し,日常生活に役立てることができるようにする。
 教材の構成
 CCDカメラによるライブカメラ画像により,現在の天気や雲のようすを調べられるようにする。センサーを内蔵したデータロガーによって気温・湿度・気圧を連続して測定し,グラフ化する。これらをインターネット上に公開することによって,どこでも気象データを利用できるようにする(図5-1)。
(3)  開発の方法
 開発環境
(ア)  CCDカメラ‥‥‥SONY バイオカメラ
 USB接続,35万画素のデジタルCCDカメラ。電源はUSBケーブルを通してパソコン本体から得る。今回はUSBカメラを使用したが,ビデオキャプチャボードがパソコンに装備されていれば,家庭用ビデオカメラからのアナログ入力画像も利用できる。画素数が多い方が,よりきれいな画像を得ることができる。
(イ)  データロガー‥‥‥中村理科工業エコログ(ECOLOG)
 1つのボックス内に,気温・湿度・気圧・音・光の五つのセンサーと記憶メモリを内蔵しており,手軽に各種の測定ができる。センサーは,五つから任意に選択することができる。電池内蔵で,エコログ単独でも気温・湿度・気圧のみの測定なら,30分おきに60日間連続計測が可能である。パソコンにはシリアルケーブルを使って接続する(図5-2)。
 付属の専用データ分析ソフト「エコラボ」(EcoLab)によって,エコログの使用するセンサーの選択と測定間隔や測定機関の設定, データの読み取り,データ表示,グラフ化, 保存が行える。データの保存はCSV形式にも対応しており,Excel等の表計算ソフトを用いることにより二次利用することもできる(図5-3)。
 また,オンライン測定時にパソコンの画面上に刻々と変化するデータをグラフ表示することができるので,短時間での実験計測にも適している。
(ウ)  画像転送ソフトウェア‥‥‥ListCam
 インターネットWebカメラ用に開発されたフリーソフトウェアで,手軽に定点観測画像記録システムを構築できる。
 サーバコンピュータへのFTP機能を持っており,指定した時間間隔で公開中のWebページに最新の画像を自動転送し,公開することができる。ダイヤルアップ接続にも対応しているので, プロバイダのWebサーバにも転送することができる。
 また,ListCamの簡易版である「LcLight100」もあり,より手軽に設定ができる。
 (http://hp.vector.co.jp/authors/VA007537/ からダウンロード可能)
 開発の手順
(ア)  電子百葉箱の作成
 CCDカメラやセンサーを内蔵したデータロガーは,屋外に設置しなければならないので,風雨に耐え,かつ風通しがよいように作る必要がある。そこで,プラスチックのミニバスケットの中にUSBカメラと エコログを入れ,透明半球をかぶせて固定した簡易なものを製作してみた(図5-6,7)。
 これを風通しのよい日陰に設置し,ケーブルをネットワークに接続されたパソコンにつなぐことにより,ライブカメラ画像や気象データを発信することができる。
(イ)  ListCamの設定
 ListCam をパソコンにインストールして起動する(図5-8)。ほとんどの項目は初期値のままでよく,変更の必要はないが,画像のファイル名,一時保管場所,画像を取り込む時間間隔,転送先は環境に応じて設定する。画像を取り込む時間間隔(Capture Interval)は10分に設定した。次に,File Path画面を開いて,Live Directory Path,ファイル名(Filename)を確認する。特別なことがなければ,初期設定のままで問題ない(図5-9)。続いてFTP画面を開き,サーバコンピュータのHostName,HostDIR,UserID,Password を入力する。SendTestボタンをクリックし,画像データが転送されていれば設定完了である(図5-10)。

(ウ)  エコログの設定
 エコログは,長期間の測定が可能であるが,授業等に活用する場面と転送の手間を考え,1週間ごとに測定し,グラフをサーバに転送することにした。
 エコログをパソコンに接続し,データ分析ソフトウェア「エコラボ」を起動し,気温,湿度,気圧の3つの項目を指定する。次に,測定間隔を30分,測定時間を30日間に設定する。
 エコログの測定を開始させると,データがグラフ上にオンラインで継続的に表示されていく(図5-11)。
 1週間経過後,エコログ本体のスイッチで測定を停止する。表示されているグラフをそのまま使いたいので,キーボード上の「Altキー」と「PrintScreenキー」を同時に押して,グラフの表示部分のみをキャプチャする。画像処理ソフトウェアを起動し,「貼り付け」を実行するとキャプチャされたグラフ画像が表示されるので,これに名前をつけて保存し,サーバにFTPソフトウェアを利用して転送する。また,エコラボから数値データをCSV形式で保存し,同様にサーバに転送する。
(エ)  表示用Webページ作成
 Webページ作成ソフトウェアを利用して転送された,ライブカメラ画像と気温,湿度,気圧のグラフ画像を表示するWebページを作成する。また,ライブカメラ画像のファイル名とグラフ画像のファイル名がそれぞれ転送したものと同じなるようにして, 常に最新のデータが表示されるようにする(図5-12)。ダウンロードボタンを設定し,過去の測定数値データ等をダウンロードできるようにすることもできる。なお,今回は天気の変化のようすを比較したかったので,サーバはイントラネット用を使い,晴と雨の日が含まれる3日間のグラフを転送してみた。
(4)  教材の活用例
 単元名 天気の変化
 単元の目標
 身近な気象の観測を通して,天気の変化に対する興味・関心を高めることができる。
(自然事象への関心・意欲・態度)
 気象観測の記録などに基づいて,天気変化の規則性を見いだすことができる。
(科学的な思考)
 気温,湿度,気圧,風向などの観測の方法や記録のしかたを身に付けることができる。
(観察・実験の技能・表現)
 雲量と天気の関係,気温と湿度の関係について説明することができる。
(自然事象についての知識・理解)
 学習計画(4時間取り扱い)  ○は本時
学 習 内 容 学 習 活 動
 天気のようすを調べよう。 雲を観察し,雲のようすを調べる。
気温,湿度,気圧,風向などを観察する。
 天気はどのような変わり方をするのか調べよう。 1週間の観測結果から,気温・湿度・気圧に関する規則性を知る。
C 自分たちの地域と他の地域のようすを比較する。
 本時の指導
(ア)  目標
 コンピュータやインターネットの気象データベースを用いて,気象について調べようとする。
(自然事象への関心・意欲・態度)
 自分たちの地域と他地域との気象情報を比較し,違いを説明することができる。
(自然事象についての知識・理解)
(イ)  準備・資料
インターネット接続コンピュータ,気温・湿度・気圧センサー(エコログ),CCDカメラ,定点観測Webページリンク集,岩瀬町の気温・湿度・気圧のグラフ,レポート用紙
(ウ)  展開


授業に使用したWebページ
teiten2000 (http://www.teiten2000.org/index.html)
中村理科工業 (http://www.rika.com/)
e−気象台 (http://www.gec.gifu.gifu.jp/kyoukaHP/kishou/)
(4)  今後の課題
 今回作成した教材は,映像は現在のものを見ることができるが,気象情報に関しては過去の記録であり,時点でのデータを見ることはできない。また,Webページへのグラフ組み込みは手動であるため,1週間ごとにコンピュータを操作してデータを転送する手間もかかってしまう。
 授業においても,生徒から現在のデータを知りたいという声が多く聞かれた。
 定点観測を行い,気象情報をリアルタイムにインターネットに公開する場合,現時点での気象情報の発信もできることが望ましい。そのためにはセンサーから得られた情報を自動的にサーバコンピュータに送り,Webページに読み込むプログラムが必要である。「teiten2000」や「中村理科工業」のWebページでは,ライブカメラ及び現時点での気象データだけではなく,日時等を入力すると各地のデータをグラフ化して画面に表示する機能が備わっており,授業に有効に活用することができた。
 作成した教材を授業に活用していくためには,観測データを蓄積し,過去のデータも呼び出して,天候による変化と組み合わせて活用できるようなシステムの構築が望ましい。この部分の研究を進めて,カメラとセンサーを屋外に常時稼働させられるような電子百葉箱を作成し,Web ページから常に最新の情報を公開できるようにすることにより,学校においてもCCDカメラやセンサー類を用意するだけで定点観測が行えるようなシステムを開発していきたい。


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