【教材4】地域素材を生かした理科教材の開発
岩瀬町立西中学校 教諭 大木 弘志
(1)  教材開発のねらい
 平成14年度より,小・中学校において,新しい学習指導要領が完全実施となる。授業の中でもインターネットを利用する場が多く設定されるようになり,理科においても観察・実験の技能としてコンピュータやインターネットの操作を身に付けることが盛り込まれている。しかし,多くの情報が公開されているインターネット上から,授業に適したページを探し出し,かつ活用するためには十分な準備が必要である。そこで,各市町村などで副読本として使用されている既存の資料を使い,Webページ化してインターネット上から利用できるようにしたり,学習に適したデータベースとしたりするなど,教材データのリンク集を作成して学習の手がかりとなるようにすることを考えた。地域に密着した資料を利用することによって生徒の興味・関心が高めることができ,また,インターネットに接続されたコンピュータがあればどこからでも利用できることから,選択理科や総合的な学習の時間にも活用する場が広がることも期待できる。
 私の前任校である笠間市立笠間中学校では,笠間市の教育委員会が編集した「笠間の自然」を利用して,身近な植物について調べ学習を行っていた。この「笠間の自然」をWebページに公開し,授業に活用した実践を紹介したい。
(2)  教材の内容
 中学校理科において最初に学習する,1年生理科2分野「植物の生活とその特徴」では,身近な生物についての観察,実験を通して,生物の調べ方の基礎を身に付けさせるとともに,植物のつくりとはたらきを理解させ,生徒が植物の種類やその生活についての認識を深めることを目的とする。この単元のまとめとして,植物を分類したり,植物データベースや植物検索のリンク集を利用して植物を調べたりする活動を通して知識を深め,植物界全体を概観できるようにする学習が設定されている。その学習で,生徒が野外観察時に見つけた植物について調べ学習を行うときに,インターネット上の自然データベースが活用できる。
 「笠間の自然」は,植物を「学校・公園・庭などの栽培植物」「学校周辺の野生植物」「荒れ地や道ばたの植物」「池・湿地・水田のあぜなどの植物」「森林の植物」「農作物」「菌類等」「温室植物」と生育場所によって分類し,更に季節ごとに整理している。これをハイパーリンクを利用してWebページに再構成し,植物名からの索引をつけて目的とする植物に関する情報の掲載場所を分かりやすくすることにより,生徒が自主的に利用できるようにする。
(3)  開発の方法
 開発環境
(ア)  カラースキャナ‥‥‥Canon CanoScan FB636U
 資料をデジタルデータ化するために使用。写真を読み込むには,A4判サイズ読み込み用のフラットベットタイプが扱いやすい。また,USBケーブルでパソコンと接続でき,電源を別に用意する必要もない。
(イ)  画像処理ソフトウェア‥‥‥Jasc software Paint Shop Pro Ver.7
 カラースキャナで読みとった画像を,余白等を切り取った後,JPEG形式に変換して保存する。今回は,Paint Shop Proの画面上からカラースキャナを操作して,資料のトリミングなどをした。
(ウ)  Webページ作成ソフトウェア‥‥IBM ホームページ・ビルダーV6
 ページの中の画像位置を確かめながら,ハイパーリンクを利用して,次々とページをめくるようなWebページを作成することができる。
 開発の手順
(ア)  著作権に関する配慮
 「笠間の自然」の著作権は笠間市教育委員会がもっているので,以下のような文書を作成し,許可をいただいた。

笠間市教育委員会殿
(責任者学校長名)
ホームページ掲載許諾願い
 笠間中学校の公開ホームページの中に,笠間市の紹介,授業用データベースとして,下記の図書の内容をホームページ化し,掲載したいと思います。
 つきましては,文章の転記,図版掲載の許諾をお願いします。
 なお,作成したホームページには,各図書の出版者,執筆者,作者等を明記します。また,他の出版物より引用されたと思われる図表等については,掲載はしません。
  1.  図 書 名    笠間市教育委員会発行「笠間の自然」

  2.  目   的    笠間市紹介,授業用データベースとして

  3.  公開時のURL  http://www.kasama-kasama-j.ed.jp/○○○○/

 「笠間の自然」に掲載されている写真の多くは,市の職員や市内小中学校の先生方が撮られたものであったので,快く掲載を許可していただいた。しかし,引用されている部分については,著作権上の問題からWebページ化は見送ることとした。
(イ)  カラースキャナ読み込み
 「笠間の自然」(図4-1)をデジタルデータにするために,植物資料のページをカラースキャナを使って読み込んだ。写真は高解像が望ましいが,画像が大きくなるとデータ量も大きくなり,実際に使用する場合にブラウザソフトウェアによってWebページが表示されるまでの時間がかかるようになってしまう。今回は,360dpi,100%,フルカラー設定にして,1ページ単位で読み込みを行った。
(ウ)  画像の処理
 カラースキャナで読み込んだ画像は大きいままなので,画像処理ソフトウェアによって周囲の余白を切り取りなるべく小さな画像とする(図4-2)。保存するファイル名は,検索等でも使いやすいように,本のページ番号を使う。
 テキストデータ部分は,OCRソフトウェアを使って,画像からテキストに変換すると再入力の必要がなくなる。手間を少なくするためには,テキスト部分もそのまま画像としてWebページに貼り付けてしまう方法もある。
(エ)  Webページ作成
 Webページ作成ソフトウェアを使って, 処理した画像やテキストデータを再構築していく(図4-3)。
 保存するファイル名は,「(本の)ページ番号.htm」とする。
 検索しやすいように,名前や季節,場所による索引のページを作成し,ハイパーリンクを利用してつなげていく。
 これらのページをトップページ(図4-4)にリンクさせ,Webページを完成させる。
 これらのWebページを,笠間中学校の公開ホームページ内にある理科の部屋に登録し,インターネットから利用できるようにした。


 また,インターネット上から植物を検索できる「植物検索リンク集」(図4-5)を作成し,「笠間の自然」のデータベース上にない植物について調べたり,同じ植物についてもさらに別の情報を調べようとすることができるようにする。
(4)  教材の活用例
 単元名 植物のなかまとその特徴
 単元の目標
 多様な植物に関心をもち,図鑑やコンピュータソフトなどを用いて植物の種類を探究しようとするとともに,日常生活においても身近な植物とのかかわりを深めようとする。
(自然事象への関心・意欲・態度)
 調べたい植物の特徴を自ら作成した分類表,図鑑,コンピュータなどの図や記述と対比して調べることができる。
(科学的な思考)
 身近な植物をその特徴に基づいて分類し,その植物の属するグループを図鑑やコンピュータなどを活用して知る方法を身に付けることができる。
(観察・実験の技能・表現)
 身近な植物の名前やグループ名を指摘したり,学習したことを手かがりに植物界を概観することができる。
(自然事象についての知識・理解)
 学習計画(3時間取り扱い)  ○囲み数字は本時
学 習 内 容 学 習 活 動
 被子植物をグループ分けする。 被子植物のからだのようすを調べ,単子葉類と双子葉類に分ける。
 身近な植物をその特徴から分類する。 植物を分類する視点について知り,学習した植物を分類する。
B 身近な植物をコンピュータなどで検索し,調べる。
 本時の指導
(ア)  目標
 コンピュータやインターネットの植物データベースを用いて,植物について調べようとする。
(自然事象への関心・意欲・態度)
 植物の特徴に基づいて目的の植物を分類し,検索することができる。
(観察・実験の技能・表現)
(イ)  準備・資料
野外観察で作成した植物標本,植物の写真,身近な植物,インターネット接続コンピュータ,植物データベース(笠間の自然),植物検索Webページリンク集,レポート用紙
(ウ)  展開


授業に使用したWebページ
IWNET(http://www.edu.pref.ibaraki.jp/iwnet/)
筑波実験植物園(http://www.tbg.kahaku.go.jp/)
とりで植物図鑑(http://www.city.toride.ibaraki.jp/)
群馬大学Botanical Garden(http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/)
「しょくぶつ」しらべ(http://www.hikamigun.kaibara.hyogo.jp/kensaku01.htm)
植物検索事典「なんやろ」(http://www1-1.kcn.ne.jp/~sueminam/)
ハイパー植物図鑑(http://www.fb.u-tokai.ac.jp/WWW/hoshi/plant/plant.html)
草の名は(http://kusanonawa.tripod.co.jp/)
素人植物図鑑(http://www.mars.sphere.ne.jp/tamukai/)
(エ)  今後の課題
 今回の授業は11月に行ったので,春に作成した植物標本や写真,秋に花を咲かせる植物(サルビア,ノコンギク,キクイモ,セイタカアワダチソウ,ススキ,コスモス等)を利用した。生徒は,植物名の知識が少ないため名前からの検索ではなく,季節や生えている場所を中心にデータベースから植物を探していた。また,画像が多いため,どうしても呼び出しに時間がかかってしまう。このようなことから,植物データベースの内容の充実と,検索方法も多方面から行えるようにするなど操作性の改善をする必要があると感じた。
 また,今回は著作権に関して笠間市の教育委員会が配慮してくださり,多くのWebページをデータベースとして作成することができたが,一般の図書は複数人の著作権が絡む場合など,問題が多く,データベース化には多くの課題が残されている。
 データベースは,情報がより多く登録されることによって使い勝手がよくなっていくものである。今回の「笠間の自然」のような地域に応じたデータベースを増やすことにより,生徒が関心をもって情報を探し,更に自ら調べようとする意欲を高められるような教材にしていきたい。


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