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授業研究のねらい
溶液の凝固点降下について,導入実験を行うことで生徒の意欲を引き出し,凝固点が何に影響を受けているか予想した上で実験を行う。得られた結果および他の班の結果から法則性を見つけ出し,自分の予想との比較や話し合いをする中で自分の考えを深めていく。このように論理的に考える過程を通して,科学的な思考力を育てる。その際,結果の予想を班で話し合い,発表の場を持たせることで,自分の考えを確認・修正し,課題をより正確に把握させ,主体的に取り組めるように促す。そして,班ごとに溶液及び測定数と濃度を決めさせることにより個別化をめざし,独自の検証実験として責任をもって取り組めるようにする。データをグラフに表すことによって溶液の濃度と凝固点の関係に気づかせる。さらにクラス全体でデータを共有することで凝固点降下に関する法則を導きださせる。 |
(2) |
自ら論理的に考える過程を通して科学的な思考力を育てるための手だて
ア |
実験への意欲を高める工夫
導入実験として,水の凍る瞬間を観察させたりジュースを凍らせてアイス作りをすることで,生徒の興味・関心を高め,生徒が自ら主体的に実験に取り組むようにする。溶液が身近な材料でよく冷却できるように,寒剤は食用塩と氷水を使用し,マグネチックスターラーとかくはん子で十分寒剤をかくはんする。 |
イ |
課題を把握させるための工夫
身近な溶液(ブラックコーヒー(無糖),コーヒー(加糖),乳酸飲料(原液),乳酸飲料(希釈))の凝固点測定の実験結果から凝固点が何と関係しているか予想し,その理由を考え全体で意見交換をする中で,課題を明確にさせる。それを実験計画書に書くことで,全員がより正確に課題を把握し,意欲的に実験ができるようにする。 |
ウ |
課題を検証させるための工夫
グルコース,スクロース,尿素の3種類の溶液から1つを選び,さらにそれぞれの溶液において,自分の班の予想を確認するための実験(測定数と濃度の設定)を組み立てることで,班独自の検証実験として取り組めるようにする。その際,実験時間を有効に使うために,0.1mol/kgごと,0.1〜1.0mol/kgまでの濃度の各溶液を準備する。 |
エ |
実験結果を共有し法則性を導かせる工夫
実験結果をまとめたグラフを各班ごとにOHP用紙に記入させ,クラス全体に提示することで情報を共有し,そのなかで思考の整理を促す。さらに,各班のグラフを重ね合わせることで,凝固点降下に関する法則を導かせる。 |
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授業の実践
ア |
単元名 溶液の性質(14時間扱い)
第1次 溶解と濃度(5時間) |
第2次 希薄溶液の性質(7時間) |
沸点上昇 |
… |
1時間 |
凝固点降下 |
… |
5時間(本時) |
浸透圧 |
… |
1時間 |
第3次 コロイド溶液(2時間) |
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イ |
「凝固点降下」の指導計画
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(4) |
授業の結果と考察
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授業研究の成果
ア |
生徒に主体的に取り組ませるためには,生徒の興味・関心を高めておくことや事前に結果の予想をさせたり,他の考えと比較させたりして,十分に課題を把握させておくことが大切であることが明らかになった。 |
イ |
実験させる溶液や濃度,測定数を各班に組み立てさせることで,各班が責任をもち,意欲的に検証実験を行うことができた。 |
ウ |
各班の結果をグラフ化させ,全体に共有させることで,結果を一般化させて法則性に気付かせることができた。 |
エ |
ゆとりをもって,興味・関心を高める導入実験,測定方法を習得する実験,法則性を予想させる実験,法則性を検証する実験を取り入れることにより,生徒は無理なく法則性を導くことができ,一連の過程を通して科学的な思考力を育てられたと思われる。 |
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今後の課題
「溶液の性質」において自ら論理的に考える過程を通して科学的な思考力を育てる指導の工夫の研究を行った結果,次のような課題が残された。
ア |
今回使用した以外の溶質,溶媒を使った実験の工夫 |
イ |
実験において適切な測定方法,測定回数などまで生徒の発想が及ぶような指導の工夫 |
ウ |
生徒が思考を深められる討論を展開できるような表現力の育成の工夫 |
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