3.自ら学び,自ら考える力をはぐくむための理科学習に関する実態調査

 県内の公立小学校,中学校,高等学校の児童生徒及び教師を対象として,自ら学び,自ら考える力をはぐくむための理科に関する実態調査を実施した。
(1)  調査対象
ア 児童生徒 県内の公立小学校10校の第5学年・中学校12校の第2学年・高等学校11校からそれぞれ1クラスを抽出した。回答者数は,小学校261人,中学校385人,高等学校420人の計1066人である。
イ 教師 無作為に抽出した県内の公立小学校100校・中学校100校・高等学校50校から,小学校については第5学年担当者1人,中学校については第2学年理科担当者1人,高等学校については理科担当者2人を対象とした。回答数は,小学校100人,中学校100人,高等学校98人の合計298人である。
(2)  実施時期 平成12年9月2日(土)から平成12年9月8日(金)まで
(3)  調査結果及び分析
 児童生徒を対象とした調査内容と結果については,表1〜6に示し,教師を対象とした調査内容と結果については,表7〜12に示す。なお,表中の数値は各問毎の回答者数に対する回答数の割合(%)である。
 児童生徒の実態調査の分析
 児童生徒を対象にした調査では,児童生徒の理科学習への取り組み等を調べ,その現状を明らかにするとともに,授業研究の参考にすることにした。その概要については次のとおりである。
(ア)  理科の学習が良かったと感じるとき(表1)
 全体の数字で見ると,多くの児童生徒が「観察,実験で何かがわかったとき」や「器具の操作がうまくできるようになったとき」を挙げている。また,「自分の方法で観察,実験を行ったとき」と「自分が予想したとおりの結果が出たとき」を次に挙げている。
 こうした結果から,児童生徒は「知りたい」,「やってみたい」といった学習に対する意欲が満たされ,主体的に学習に取り組み,成就感が味わえたとき,理科学習に喜びを感じていることが分かる。

 表1 理科の学習が良かったと感じるとき(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 観察,実験で何かがわかったとき 44.1 43.9 53.3 47.7
 器具の操作がうまくできるようになったとき 49.8 41.0 33.6 40.2
 自分の方法で観察,実験を行ったとき 26.1 26.0 18.3 23.0
 自分が予想したとおりの結果がでたとき 23.4 21.8 21.2 22.0
 学級やグループの仲間と話し合いながら問題を解決しているとき 21.5 16.9 21.4 19.8
 先生に実験を見せてもらったとき 16.5 15.1 15.5 15.6
 観察,実験の結果や,わかったことをまとめているとき   8.4 13.5   9.8 10.8
 自分の考えを学級やグループの仲間に話しているとき   3.4   3.1   4.5   3.8
 学級やグループで,他の児童生徒の考えを聞いているとき   2.3   3.1   4.0   3.3
 その他   0.0   3.6   8.3   4.6
(イ)  観察,実験の目的,見通し,方法について(表2〜4)
 表2は,小学校,中学校,高等学校のどの校種でも,実験の目的が分かっていること示している。
 表3では,小学校の約8割,中学校の約5割,高等学校の約4割が「よく行っている」や「だいたい行っている」と答え,小学校,中学校は,概ね実験の結果を予想したり見通しをもって実験をしているが,高等学校では観察,実験の理解が不十分になりつつあることがうかがわれる。
 表4では,小学校の約7割,中学校の約4割,高等学校の約3割が「よく行っている」や「だいたい行っている」と答えている。小学校は,自分たちの考えた方法で観察,実験を行っているが,中学校は,それが不十分になりつつあることがわかる。高等学校では,内容が高度になることもあり観察,実験の方法まで生徒の発想が及ばない実態がうかがわれる。

 表2 実験の目的が分かっていますか(%)
選 択 肢 全体
 よく分かっている 21.8 10.7   9.3 12.9
 だいたい分かっている 62.5 54.2 51.7 55.2
 どちらともいえない 11.1 21.7 19.1 19.1
 あまり分からない   4.2   9.9 16.7 11.2
 まったく分からない   0.4   3.4   3.1   2.5


 表3 実験の結果を予想したり見通しをもって実験をしていますか(%)
選 択 肢 全体
 よく行っている 31.4 11.5   8.1 15.0
 だいたい行っている 48.3 39.0 35.1 39.7
 どちらともいえない 15.7 30.6 32.2 27.6
 あまり行っていない   3.8 13.4 17.3 12.6
 まったく行っていない   0.8   5.5   7.3   5.1


 表4 自分たちで考えた方法で観察,実験を行っていますか(%)
選 択 肢 全体
 よく行っている 19.2   9.1   5.0 10.0
 だいたい行っている 54.0 30.3 24.4 33.8
 どちらともいえない 21.1 36.8 31.8 31.0
 あまり行っていない   5.0 16.4 22.2 15.9
 まったく行っていない   0.8   7.3 16.5   9.3
(ウ)  観察,実験で生じた疑問の調査について(表5)
 小学校で約7割,中学校の約4割,高等学校の約3割が,「よく思う」や「少し思う」と答えている。このことから,小学校では, 観察,実験で生じた疑問が,児童の新たな学習意欲を喚起することにつながっていると考えられる。中学校,高等学校では,内容が難しくなり疑問まで考えが及ばなかったり,学習全体への意欲の欠如を示すものと考えられる。

 表5 観察,実験の後,疑問に思ったことを調べたいと思いますか(%)
選 択 肢 全体
 よく思う 12.9   7.9   4.4   7.7
 少し思う 52.9 33.9 28.4 36.5
 どちらともいえない 24.5 23.7 26.0 24.8
 あまり思わない   8.4 23.2 25.2 20.3
 まったく思わない   1.5 11.3 16.0 10.7
(エ)  「自分の考え」をもって学習している場面について(表6)
 全体の数字で考えると,「予想(仮説)をたてるとき」,「観察,実験をするとき」,「観察,実験の結果をまとめるとき」が高い。
 対照的なのは,「観察,実験をするとき」と答えた児童生徒は小学校,中学校,高等学校と学年が進むにつれて減少しており,「観察,実験の結果をまとめるとき」は増加していることである。これは,小学校,中学校,高等学校と学年が進むにつれ観察, 実験内容が複雑になり,結果をどうとらえ,どうまとめていくかの場面で,自分の考えをもつことが必要となってくるためと考えられる。

 表6 「自分の考え」をもって学習している場面(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 予想(仮説)をたてるとき 44.1 46.2 48.1 46.4
 観察,実験をするとき 63.2 40.0 28.3 41.1
 観察,実験の結果をまとめるとき 24.1 32.5 38.3 32.7
 グループでの話合いや観察,実験 23.0 25.5 22.9 23.8
 学習課題を見つけだすとき 18.0 20.5 15.7 18.0
 自然のきまり(約束)をみつけだすとき 11.1 14.5 15.2 14.0
 学級全体での話合いやまとめ   3.1   8.1   6.4   6.2
 その他   0.0   0.8   3.3   1.6
 教師の実態調査の分析
 教師は普段の授業のなかで,「自ら学び,自ら考える力」の育成についてどのように意識し,指導に取り組んでいるか調査を行った。その概要については次の通りである。
(ア)  「自ら学び,自ら考える力」の育成のために重視している事項(表7)
 全ての校種で,「結果を考察し,結論を導きだせる」ことを一番多く答えている。特徴的なのは,まず,小学校,中学校の教師が「学習計画を自ら立て,解決活動ができる」ことを,重視していることである。そして,小学校,中学校,高等学校と学年が進むにつれ「知識・技能が日常生活の中ではたらく」ことを重視していることである。
 小学校,中学校,高等学校になるにつれ,知識・技能が実際の生活の場で使える応用へと,重視する事項が変化しているものと考えられる。また,小学校では「児童生徒自ら課題作りができる」が3番目に多く,自ら課題を作り,主体的に取り組むことを重視していることも特徴的である。

 表7 「自ら学び,自ら考える力」の育成のため理科で重視している事項(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 結果を考察し,結論を導きだせる 63.0 62.0 58.2 61.1
 学習計画を自ら立て,解決活動ができる 53.0 53.0 13.3 39.9
 知識・技能が日常生活の中ではたらく 29.0 36.0 48.0 37.6
 学習を自己評価し,振り返りができる 12.0 21.0 18.4 17.1
 児童生徒自ら課題作りができる 39.0 20.0 15.3 13.3
 特に重視していない   0.0   1.0 13.3   4.7
 その他   1.0   0.0   3.1   1.3
(イ)  問題解決的な学習のそれぞれの学習過程で重視している事項(表8〜10)
 表8から,教師が「発問や事象提示の工夫」を最も重視していることがわかる。特徴的なのは,小学校,中学校の教師は「自然の事象に直接触れる場の設定」や「自由に試みたり操作することができる」を重視しているが,高等学校の教師は「興味・関心のもてる教材開発」や「多様な問いを引き出す演示実験」を重視していることである。
 小学校,中学校の教師は,児童生徒に,身近な事象に実際に触れさせたいと考えているが,高等学校の教師は,学習内容に抽象的事項が増えてくるため,教材開発や演示実験によって,生徒の興味・関心を喚起したいと考えていることがわかる。
 表9から,「見通しのもてるレポートやワークシートの工夫」,「共通の課題のグループで協力して解決」, 「観察,実験の材料や器具の自作や準備」など,教師が様々な手だてを考え工夫している様子が浮かび上がってくる。
 表10からも表9と同様な傾向が見られるが,特徴的なのは高等学校の教師が「既習事項を提示し考察やまとめに活用」を強調していることである。これは,既習事項の提示を行うことにより,知的な体系の構築を図ろうとしているためと考えられる。

 表8 問題を見つけ,課題づくりのために具体的に行っている事項(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 発問や事象提示の工夫 48.0 60.0 52.0 53.4
 自然の事象に直接触れる場の設定 56.0 51.0 33.7 47.0
 自由に試みたり操作することができる 58.0 41.0 10.2 36.6
 興味・関心のもてる教材開発 20.0 23.0 40.8 27.9
 多様な問いを引き出す演示実験 17.0 17.0 29.6 21.1
 特に行っていない   1.0   1.0   8.2   3.4
 その他   0.0   0.0   2.0   0.7


 表9 児童生徒が計画を立て,解決活動ができるように行っている事項(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 見通しのもてるレポートやワークシートの工夫 59.0 72.0 43.9 58.4
 共通の課題のグループで協力して解決 35.0 50.0 32.7 39.3
 観察,実験の材料や器具の自作や準備 39.0 38.0 28.6 35.2
 課題の共有化のための話合い活動 30.0 20.0   8.2 19.5
 地域の教材の活用   9.0   4.0 21.4 11.4
 特に行っていない   1.0   3.0 20.4   8.1
 その他   0.0   0.0   1.0   0.3


 表10 観察,実験結果の考察,まとめの活動のために行っている事項(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 まとめやすいレポートやワークシートの工夫 46.0 71.0 57.1 58.1
 グループや全体で話合いや発表を行う 71.0 56.0 17.3 48.3
 結果のまとめ方について学習している 35.0 30.0 30.6 31.9
 自由な表現方法で発表を行う 31.0 29.0 15.3 25.2
 既習事項を提示し考察やまとめに活用   9.0   5.0 34.7 16.1
 特に重視していない   1.0   0.0 10.2   3.7
 その他   0.0   0.0   2.0   0.7
(ウ)  論理的に考え判断する力を高めるのため重視している事項(表11)
 表11から,論理的に考え判断する力を育てるために教師は,レポートやワークシートを活用し考えを具体的に記入させ,結果から判断し,自ら結論を導き出させ,他の児童生徒の考えと比較検討させたり,様々な手だてを講じていることが分かる。特徴的なことは,中学校の教師の多くがレポートやワークシートの活用を挙げ,小学校の教師の多くが他の児童生徒の考えとの比較検討を挙げていることである。

 表11 論理的に考え判断する力を高めるのため重視している事項(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 レポートやワークシートを活用し,考えを具体的に記入する 45.0 75.0 54.1 58.1
 結果から判断し,自ら結論を導き出す 33.0 40.0 40.8 37.9
 他の児童生徒の考えとを比較検討する 59.0 34.0 12.2 35.2
 グループを含めた児童生徒の話合い 44.0 31.0   9.2 28.2
 結果から新しい予想(仮説)をたてる 10.0   9.0 13.3   5.0
 特に講じている手だてはない   0.0   0.0 15.3   5.0
 その他   1.0   1.0   4.1   2.0
(エ)  知識・技能が生活に生かされ,総合的にはたらくための事項(表12)
 表12から,教師が「日常生活や身近な自然現象と既習事項との関連づけを行う」,「身近な素材の活用,生活に生きる例の提示」を重視して,学んだ知識・技能が総合的にはたらくようにするために工夫している様子が分かる。しかし,「他の教科の既習事項を把握し,総合的な理解を得させる」ことは全体でも少なく,自分の教科指導だけにとどまっており,児童生徒に他教科との関連を含めた,総合的な理解を得させるための指導が重視される必要があると考えられる。

 表12 知識・技能が生活に生かされ,総合的にはたらくための事項(%)
選 択 肢(二つまで選択) 全体
 日常生活や身近な自然現象と既習事項との関連づけを行う 57.0 68.0 61.2 62.1
 身近な素材の活用,生活に生きる例の提示 58.0 55.0 51.0 54.7
 基礎・基本を重視し,発展的学習へ 42.0 37.0 34.7 37.9
 知識・技能が生活に生きる事例を考えさせる 26.0 28.0 24.5 26.2
 他の教科の既習事項を把握し,総合的な理解を得させる 11.0   6.0   6.1   7.7
 特に講じている手だてはない   2.0   0.0   3.1   1.7
 その他   3.0   1.0   2.0   2.0
(4)  実態調査結果のまとめ
 児童生徒の実態について
 児童生徒が理科の学習が良かったと感じるのは,自分の方法で観察,実験を行うなど主体的に観察,実験に取り組み,予想通りの結果を得るなど成就感を味わい,「知りたい」,「やってみたい」という学習に対する意欲が満たされたときであると言える。
 一方,理科の観察,実験について,小学校の児童はその目的,予想や見通しについて,ほぼ把握して行っていると言えるが,中学校,高等学校の生徒では理解が難しくなり,特に予想や見通しをもてる生徒は半数近くまで減少している。また,自分たちで方法を考え取り組むことが,小学校に比べて中学校,高等学校で少なくなり,生じた疑問を次の新たな学習意欲へとつなげることができなくなっている。
 こうしたことから,観察,実験に際して,事前に観察,実験の全体像,目的,見通し,方法を児童生徒に捉えさせ,自分の考えをもって観察,実験に取り組むなど,主体的な取り組みができるようなゆとりある指導がより一層必要であると言える。
 児童生徒は様々な場面で自分の考えをもって学習に取り組んでいるが,特に多いのは,小学校,中学校では観察,実験の予想を立て実際に行う場面であり,高等学校では予想を立てたり結果をまとめたりする場面であることから,やはり,観察,実験に予想を立て,実際に観察,実験を行い,その結果をまとめる場面を通して,児童生徒は自ら考え,学習に取り組むと言える。
 教師の実態について
 教師は児童生徒に自ら考え,自ら学ぶ力を育成するために,学習計画を立て解決活動ができること,結果を考察し結論を導き出せること,知識・技能が生活の中で生きてはたらくことなどを重視している。そして,一連の問題解決の学習の流れの中で,発問や事象提示の工夫,自然の事象に直接触れること,自由に試みたり操作すること,教材開発などを通して児童生徒が問題を見つけ,課題づくりができるように指導している。
 児童生徒が捉えた課題に対して,教師は「レポートやワークシートの工夫」や「グループ活動」を取り入れ,材料や器具を自作するなど様々な手だてを工夫している。こうした児童生徒の学習活動を通して,教師は論理的に考え判断する力を高めるためにレポートやワークシートを活用し,考えを具体的に記入させたり,実験結果から結論を導き出させたりと様々な手だてを講じている。また,教師は,児童生徒の知識・技能が生活に生かされ,総合的にはたらくようにするために工夫している。特に小学校の教師は,他の児童の考えとの比較検討の中から,論理的に考え判断する力を高めようとしていると言える。

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