【授業研究1】 小学校第6学年「家族に贈ろう,心をこめたプレゼント」における生活に生きて働く基礎的な知識と技能を身に付けるための指導の在り方
(1)  授業研究のねらい
 2年間の家庭科学習によって児童は,家庭生活を大事に考え,家族に対して感謝や思いやりの気持ちをもつようになってきている。そこで,この学習では,自分の家庭生活を見つめて,布を用いた生活に役立つ物を製作し,活用できるようにすることをねらいとしている。一人一人の家庭も,家族への思いも違うことを配慮し,教材を限定せずに工夫して製作させるようにしたい。その際に,時間の見積もりや自分の技能,材料の準備や作り方など,具体的な問題が考えられる。どう課題をもち,解決していくかを十分に考えさせ,その計画や製作過程も大切にしたい。そして,この学習が今後の製作や生活に役立つようにし,身に付けた基礎的な知識と技能が生涯にわたって生きて働く力となることを期待したい。
(2)  研究主題に迫るための手だて
 問題解決的な学習の充実を図るための工夫
 製作する物は,一人一人の思いを大切にし,自分の家庭生活や家族を見つめることから考えさせる。目的意識を明確にすることは,製作意欲を高めることになる。布を用いて何を製作するかを自分の実生活に照らし合わせて決定していく過程は大切であり,どのように調べていくか,話合いを通してじっくり考えさせる。
 また,製作する物を決めたあとには,自分の技能に応じて,製作にかかる材料や製作手順,製作時間についての見通しをもった計画が立てられるように支援していきたい。観察したり,試し作りをしたりして実感的に確かめながら構想を立て,課題を自分なりに解決できるようにするために,製作しようとする作品例や製作段階ごとの見本などを用意する。
 製作する物によってグループを編制し,課題について考えたり調べたり,話し合ったりして解決の方法を共有できるようにする。課題を解決しながら製作していくその過程を価値あるものと考え,学びの記録として一冊のノートにして残す。
 個に応じた指導方法
 アドバイザーとしてゲスト・ティーチャー(以下「G・T」という。)の活用を図る。授業内容について,G・Tと打ち合わせを十分にしておく。さらに,授業時間以外にも児童と触れ合う機会を設け,スムーズに学習が流れるよう配慮する。
 基礎・基本を身に付ける工夫
 縫い方の工夫に児童自身が気付いて,自力で解決できる環境をできる限り整えていく必要がある。基本的な縫い代の始末としての三つ折り縫いや二度縫い,簡単な手縫いの縫い方については,班ごとに手にとって見られるような標本を用意して児童が選択して取り入れられるようにする。製作に必要な用具については,「家庭科室の使いかた」のしおり等を使い,安全な作業ができるように指導する。
 生活に生かす工夫
 児童の思いから自由に教材を決めるので,材料も児童が選ぶことになる。目的に応じた材料を購入するために,計画の段階で材料の選び方や買い方について考えさせる。作品例には,家庭にある不用な布の再利用も取り入れ,活用できることにも気付かせる。
 「学習カード」は,毎時間,学習に対する自分の取り組みを記号と自由記述で書き込むようにする。そして相互評価も取り入れ,振り返ったり認め合ったりすることで充実感を味わい,次の活動意欲につなげるようにする。
 「家庭科だより」で家庭科の学習を保護者に理解してもらい,家庭との連携が図れるようにする。
 また,製作した物が家族にとってどのように役立ち,喜ばれたかを報告する学習を設定する。そして,生活に役立つ物を製作する喜びを互いに分かち合うとともに,製作計画や方法等が適切であったかどうかを自分なりに反省する。その際,友達の製作計画から他の物も作ってみようという意欲を高めるようにする。
(3)  授業の実践
 題材  家族へ贈ろう,心をこめたプレゼント
 題材の目標
 家族に感謝する気持ちを,プレゼントという形で表し,製作した物を生活に活用し,家庭生活をより楽しくしようとすることができる。
(家庭生活への関心・意欲・態度)
 生活に役立つことを考えて,布を用いて製作する計画を立て,工夫して製作することができる。
(生活を創意工夫する能力)
 生活に役立つ物を,布を用いて計画に従って製作することができる。
(生活の技能)
 生活に役立つ物を工夫し,それらを活用することで家庭生活が楽しくなり,また,家族関係が潤いのあるものになることを理解することができる。
(家庭生活についての知識・理解)
 学習計画(9時間取り扱い)
(ア)  構想
(イ)  本時の学習計画及び評価規準(A:十分満足できる,B:おおむね満足できる)
 本時の学習
(ア)  目標
 家族への思いを込めた作品についての具体的な計画を立てることができ,製作意欲を高めることができる。
(イ)  展開

(4)  授業の結果と考察
 問題解決的な学習の充実を図るための工夫について
 課題を決める場合,その解決方法についてもみんなで話し合った。「何気なく聞いてみよう。」「キッチンを探してみよう。」という話合いは,製作に対する関心・意欲を高めることになった。
 児童が作りたいと願う作品の見本を用意したことで,児童は具体的なイメージをつかむことができた。「なべつかみ」のひもの付け方は児童のつまずきやすいところである。チュ―ル地の透き通る標本によって構成を理解して説明図に書き込むことができた。ブックカバーのような,構造や布端の始末が難しい物については,具体的にイメージをつかむための試し作りが効果的であった。
 製作する物によるグループの編制は,いつでも相談できたり励ましあったりできて製作への意欲を高めることができた。課題や解決方法を共有しあうということは,今後のいろいろな場面でも役立ち,応用をきかせて課題解決する力を付けることができると考える。
 個に応じた指導方法について
 G・Tとして保護者に参加してもらったことは,児童にとっても,家庭科の授業を理解してもらう上でも効果的だった。学習のめあてを十分に理解してもらうために,事前の打ち合わせを綿密に行ったことにより,円滑に授業ができた。児童がいつでも相談できるアドバイザーがそばにいることは,活動意欲を持続することにつながった。また,児童は,自分の考えをしっかりともってアドバイスを受けることができた。



G・Tと児童のかかわり

 基礎・基本を身に付ける工夫について
 自分の作りたい物については具体的なイメージがつかみにくいものである。段階標本は問題を解決するのに役立った。また,布端の始末については,簡単な縫い方の見本が役立った。「家庭科」の最初の学習で「家庭科室の使いかた」のしおりを配り,全体説明をしているが,安全面を配慮した指導は作業前にも必ず行った。準備から後片付けまでを一連の学習として考え,繰り返し指導してきたために児童は用具を正しく使うことができるようになってきた。
 生活に生かす工夫について
 キットの商品は,便利であるが,布の模様が限定されてしまうことや,やや高い値段になることも知らせた。児童は,クッションの布地のみを買うなど,キットの商品を上手に利用していた。同じ大きさの布でも値段の違うものを意図的に用意したため,児童はキャラクターものや,やや厚めの布は値段が高いことに気付くことができた。
 問題に出会ったときに学習を振り返る「学習カード」は学習意欲を高める上で役に立った。自由記述は,次の指導の目安になり,教具開発のヒントにもなった。児童の楽しみは, 一緒に学習した友達の励ましやほめ言葉であり,うれしそうにコメントを読んでいた。
 「家庭科だより」や発表会により,家庭との連携を図ることができた。また,手作りの楽しさや便利さを実感し,家でも実践したいという意欲を高めることができた。



学習カードへの記入

(5)  授業研究の成果と課題
 自分の家庭生活や家族を見つめることから課題を見つける学習は,より一層児童に「家庭」や「家族」を意識させることとなった。
 一人一人の思いも家庭も違うということで,教材は自由にし,問題解決的な学習として計画を立てさせたが,計画は見通しをもった具体的なものとなり,製作意欲を高めることができた。様々な標本を活用しながら,計画段階で自分の技能や時間的なものを考慮して修正するなど,主体的に取り組むことができた。
 「学習カード」は,児童の実態や反省に合わせて手作りにして進めていった。製作前や製作中,製作後の足跡を児童は大切にしていた。家庭生活や家族への思いが学習全体から感じられた。学習過程を重視することで,今後の生活にも生かせるような応用力を身に付けることができた。
 保護者をG・Tとして招くことで,個に応じた指導が十分にでき,児童は集中して学習に取り組むことができた。また,布の扱い方やミシン学習,手縫いの基礎など,今までの学習のまとめとして基礎・基本を十分に復習することができた。
 製作した物を家族にプレゼントした後の発表会や「家庭科だより」の発行は,児童の意識や家庭での実践力を高めることにつながった。
 生活に生きて働く基礎的・基本的な知識と技能を身に付けさせるために,児童が主体的に学習に取り組む教材の開発と児童の実態に合わせた題材構成の研究をさらに深めていきたい。

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