• 3.外国語科における教科書や教材の活用及びコミュニケーション活動に関する実態調査
  •  外国語科における教科書や教材の活用及びコミュニケーション活動に関する実態を本県の中学校及び高等学校の英語科担当教師と生徒を対象に,質問紙により調査した。
    (1)  調査の対象
    ア 生徒 無作為に調査校を抽出した。抽出した中学校数は12校で,1学級ずつ調査した。さらに,3学年の調査対象人数のバランスが取れるように,各学年4学級になるように配慮した。抽出した高等学校数は11校で,第2学年の生徒1学級ずつ調査した。回答者数は中学校377人,高等学校292人である。
    イ 教師 無作為に抽出した県内の公立中学校100校,高等学校50校から, 中学校については英語科担当者各校1人,高等学校については英語科担当者各校2人を対象とした。回答者数は中学校99人,高等学校98人である。
    (2)  実施時期 平成12年9月2日(土)から9月8日(金)まで
    (3)  調査結果及び分析

     英語学習で期待する成果(表1)
    教師: 英語の指導の成果として生徒に特に期待している事項は,次のうちどれですか。一つ選んで下さい。
    生徒: 英語の授業を受けた成果として,何を最も期待していますか。一つ選んで下さい。

     中学校の教師は,英語のコミュニケーション能力が育つことを期待している割合が高い。次に割合が高いのが英語が好きになることである。一方,高等学校の教師は, 英語が好きになることと日本や外国の文化の理解が深まることを期待している割合が高い。これは,中学校では,英語の基礎を身に付けさせることに視点を置き,語彙や文法を学ばせながら英語の運用能力を高める指導を行っているのに対して,高等学校では,英語の基礎の指導から英語を用いて何かを学ぶことに視点が移っているためだと考えられる。
     生徒は,中学校,高等学校共に英語のコミュニケーション能力が育つことを期待している割合が高い。生徒のこの期待に応えるような指導を教師は実践することが大切である。次に,良い成績を取ったり,上級学校への入学試験に合格することにつながることを期待している生徒も多く,それらが生徒にとって無視できない現実であることが分かる。英語のコミュニケーション能力を高めるような指導を展開しながらも,生徒の現実的な問題にも対応できるような指導を教師は実践することが望まれていると言える。
     英語の授業内容(表2)
    教師: 英語の授業では,主に次のうちどのようなことを行っていますか。一つ選んで下さい。
    生徒: 英語の授業では,主にどのようなことを行ったらよいと思いますか。一つ選んで下さい。

     中学校の教師は,生徒にコミュニケーションの手段として英語を使う活動に取り組ませる授業を行う割合が高い。高等学校の教師は生徒に教科書の内容や文法を詳しく説明する授業を行う割合が高い。この違いは, 高等学校入学時の生徒に戸惑いをもたらしている可能性がある。
     生徒は中学校,高等学校共にほぼ同じ割合で,教科書の内容や文法を詳しく説明する授業とコミュニケーションの手段として英語を使う活動に取り組む授業を選んでいる。生徒からは,いずれにも偏ることのない授業を展開することが求められていると考えられる。
     英語の授業におけるコミュニケーション活動内容(表3)
    教師: コミュニケーションの手段として英語を使う活動として,主に次のうちどのようなことを生徒にさせていますか。二つ選んで下さい。
    生徒: 英語の授業では,主に次のうちどのような活動を行ったらよいと思いますか。二つ選んで下さい。


     中学校の教師は,インフォメーション・ギャップ等を利用したコミュニケーション活動をさせたり,教科書等の対話文を参考にして,生徒に対話を作らせて練習・発表させている割合が比較的高い。高等学校の教師は,インフォメーション・ギャップ等を利用したコミュニケーション活動をさせている割合が低く,教科書等の英文を読ませ,情報や書き手の意向を理解させたり,教科書等の内容について英語でQ&Aを行ったり,教科書等の英文を,人に内容が伝わるように音読させるような活動を行っている割合が高い。中学校では音声によるコミュニケーション活動中心の授業が行われ,高等学校では英文の内容理解を重視したコミュニケーション活動中心の授業が行われていることが結果に対照的に表れた。
     生徒は,中学校,高等学校共に,教科書等の英文を読み,内容を理解する活動を行う授業を望んでいる割合が高く,次にインフォメーション・ギャップ等を利用したコミュニケーション活動を行うことを望んでいる割合が高い。教師に対する調査では割合が低かった,英語で手紙を書いて送ったり,電子メールを書いて送ったりする活動を望む生徒も少なくない。これらのことから,教科書の内容を十分理解できることが生徒にとっては大切な要素であることや,情報の伝達を実際に行う活動を生徒が望んでいることが分かる。
     以上のことから,中学校においては,音声によるコミュニケーション活動に加えて,教科書の英文を読み,情報や書き手の意向を理解させるような活動を充実すること,高等学校においては,インフォメーション・ギャップ等を利用したコミュニケーション活動を充実することが必要であると言える。加えて,中学校でも高等学校でも,手紙を書いて送ったり,電子メールを書いて送ったりするような,相手がいて,情報の伝達を実際に行うコミュニケーション活動を授業内容に加えることが,生徒の意欲を引き出す上で効果がありそうである。
     コミュニケーション活動を実施する上で配慮すべきこと(表4)
    教師: 生徒にコミュニケーションの手段として英語を使う活動を行わせる際に,最も配慮すべきことは次のうちどれだと思いますか。一つ選んで下さい。
    生徒: 授業で英語でのコミュニケーション活動をする際に,先生に最も望むことは次のうちどれですか。一つ選んで下さい。

     中学校,高等学校共に,教師は英語でのコミュニケーション活動をする際には,英語の実際の使用場面を踏まえた活動を設定することが大切であると考えている割合が高い。次に中学校の教師は活動に必要だと思われる文法事項の事前指導が大切だと考えいる割合が高い。これは,中学校での学習内容が基礎的なものであることを反映したものであると考えられる。一方,高等学校では文法事項よりも語彙の事前指導が大切だと考えている割合が高い。これは,高等学校段階ではコミュニケーション活動に必要な文法事項は概ねすでに指導が済んでおり,使える語彙を増やすことがコミュニケーション活動の充実につながるからであると考えられる。高等学校で行うコミュニケーション活動が,中学校で行うものよりも複雑なものになることから,活動の手順を分かりやすく説明することが必要であると考える割合が中学校の教師より,高等学校の教師の方が高い。
     生徒は,教師と同じように,英語の実際の使用場面を踏まえた活動を設定することを望んでいる割合が高いが,高等学校の生徒が教科書に関連した活動を設定することを望む割合が高くないことを除けば,その他の選択肢もあまり偏ることなく選んでいる。これは,生徒がコミュニケーション活動をする上で,必要とするものが多様であることを示している。語彙の学習を必要とする生徒もいれば,文法事項の学習を必要とする生徒もいる。活動の手順が十分に理解できないままコミュニケーション活動に取り組んでおり,教師に活動の手順を分かりやすく説明してもらうことを必要だと考える生徒もいる。これらの事柄については,教師は授業を展開する上で配慮する必要がある。
     外国語指導助手の役割(表5)
    教師: 外国語指導助手には,授業において主にどのような役割をもってもらっていますか。二つ選んで下さい。
    生徒: 外国人の先生には,授業で主にどのようなことをしてもらいたいですか。二つ選んで下さい。

     外国語指導助手に授業で主にもってもらっている役割は,中学校,高等学校共に,コミュニケーション活動の指導である割合が高い。次に,生徒と個別に会話をすることの割合が高い。第三に,中学校では日本人教師と対話等のモデル,高等学校では英語圏の文化の話をすることである。この違いは,生徒の学習段階を反映したものであると考えることができる。
     生徒が外国語指導助手に授業中に主にしてもらいたいこととしては,コミュニケーション活動の指導の割合が最も高い。次に中学校の生徒は日本人教師との対話等のモデルを見たいという割合,英語圏の文化について話をしてもらいたいという割合が高く,高等学校ではそれらが順序を入れ替えて割合が高くなっている。教科書の本文や例文の音読をしてもらいたいと考えている生徒がそれらについで割合が高くなっていることを合わせて考えると,外国語指導助手のネイティブ・スピーカーとしての英語の音声を生で聞きたいという生徒の気持ちが表れていると考えることができる。その反面,個別に会話をすることを選んでいる割合は,教師が選んでいる割合ほど高くはない。一対一の会話の難しさや恥ずかしさ等の情意的な要素等が生徒に影響を与えていることを示していると考えられる。外国語指導助手には,コミュニケーション活動の指導の他,ネイティブ・スピーカーとしての,あるいは英語圏の文化の中で生活してきた者としての特色を十分生かすような指導ができるように教師は配慮したいものである。
     教科書の使い方(表6)
    教師: 授業では教科書を主にどのように使っていますか。一つ選んで下さい。
    生徒: 授業では教科書をどのように使ったほうがよいと思いますか。一つ選んで下さい。


     教科書をすべて取り上げて授業を行っている教師は,中学校で76.5%,高等学校で62.2%である。その中で補助教材を活用している教師の割合が高い。教科書の必要な部分だけを取り上げて授業を行っている教師の割合は,中学校よりも高等学校の方が高く,高等学校は教科書の活用の仕方の自由度が,中学校に比べて高いことを反映していると考えられる。
     教科書をすべて取り上げて授業を行うことを望んでいる割合と教科書の必要な部分だけを取り上げて授業を行うことを望んでいる割合が,生徒と教師では逆転している。教科書の必要な部分だけを取り上げて授業を行うことを望んでいる生徒は,中学校で61.8%,高等学校では71.9%に及ぶ。ただし,その場合でも補助教材を活用することを望んでいる生徒は多い。これらのことから,教科書については,教科書を教えるのではなく,教科書で教えるという学習指導の基本に戻って授業展開を考える必要があると言える。その際,必要に応じて補助教材を活用することが授業を充実する上で大切な点であると言える。
     教科書以外の教材(表7)
    教師: 授業では教科書以外に主にどのようなものを教材として使っていますか。二つまで選んで下さい。
    生徒: 授業では教科書以外にどのような教材を使ったらよいと思いますか。二つまで選んで下さい。

     教師は,中学校,高等学校共に,英語の指導用に作成された市販の教材と教科書の内容に添って作成したハンドアウトを使っている割合が高い。その他に使っている教材は,中学校では,食品のパッケージ等の英語圏で日常使用されている物が12.6%である。これは,コミュニケーション活動を充実させるために用いられていると思われる。また,英語圏の映画やラジオ番組やテレビ番組を用いている割合が6.3%あり,生徒が生きた英語に触れる機会を設定しようとしていると思われる。高等学校では,英語圏の映画やラジオ番組を用いている教師の割合が7.9%あり,英語圏で日常使用されている物を用いている教師の割合が4.2%である。それらの使用割合が高くない理由の一つとして生徒の英語力に合ったものを入手し,授業での活用の仕方を工夫する手間が必要になることがあげられる。英字新聞や英字雑誌を用いている教師の割合が中学校の1.6%に比べ,高等学校では3.7%であるのは,生徒の学習段階が反映していると考えられる。
     生徒は,中学校,高等学校共に英語の学習用に作成された市販の教材を除くと,英語圏の映画やラジオ番組やテレビ番組を使ったらよいと考えている割合が高く,生きた英語への関心の高さが分かる。英語圏で日常使用されている物を使ったらよいと考えている割合も低くない。英字新聞や英字雑誌については,高等学校の生徒の15.4%が選んでおり,生きた英語が反映した実践的な内容の教材を用いた英語指導が求められていると考えられる。多少手間が必要であろうとも,そのような教材を授業に取り入れることが大切であると考える。
     調査結果のまとめ
     本調査の結果,次のことが明らかになった。
    (ア)  中学校,高等学校共に,生徒は英語のコミュニケーション能力が育つことを英語の授業を受けた結果として期待している割合が高い。
    (イ)  中学校,高等学校共に,教師は,教科書の内容や文法を詳しく説明することと,コミュニケーションの手段として英語を使う活動に取り組ませることのいずれにも偏ることのない指導をすることが生徒から求められている。
    (ウ)  中学校,高等学校共に,授業では英語の実際の使用場面を踏まえた活動を行う必要性が高いが,その際,語彙や文法などの指導を行うことや活動の手順を分かりやすく説明することなどの配慮が生徒から求められている。
    (エ)  外国語指導助手が,ネイティブ・スピーカーとしての,あるいは英語圏の文化の中で生活してきた者としての特色を十分生かすような指導ができるように,教師は配慮することが大切であると考えられる。
    (オ)  生きた英語に触れられるような教材を授業に取り入れることが,生徒から求められている。

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