６．研究内容

（１） 　研究主題に関する基本的な考え方
　変化の激しいこれからの社会を考えたとき，学習者である児童生徒の立場に立って，児童生徒に「自ら学び，自ら考える力」を育成することを重視した教育を行うことは重要なことである。
　教育課程審議会答申（平成10年７月29日）では，教育課程の基準の改善のねらいの一つとして，「自ら学び，自ら考える力」を育成することをあげ，思考力，判断力，表現力， 問題解決能力を育成し，創造性の基礎を培い，社会の変化に主体的に対応し行動できるようにすることを重視する必要があるとしている。
　そこで，本研究では，児童生徒の「自ら学び，自ら考える力」を育成することを目指して，各学校における学習指導の改善・充実に役立てることができるように，研究主題として，「自ら学び，自ら考える力を育てる学習指導」を設定し，研究に取り組むことにした。
ア 　「自ら学び，自ら考える力」の概念及び研究の視点
　児童生徒の「自ら学び，自ら考える力」を「既習の知識や経験をもとに，自ら課題を見つけ，自ら学び，自ら考え，主体的に判断し，よりよく解決する能力」ととらえた。
　そして，「自ら学び，自ら考える力」を育成するには，単に知識・技能を教授するのではなく，論理的な思考力，批判的思考力，判断力を養うことが大切であり，特に，
（ア） 自ら課題を見つけること
（イ） 自ら学ぶこと
（ウ） 自ら考えること
（エ） 主体的に判断すること
（オ） よりよく解決する能力を身に付けること
といったことに児童生徒が取り組むことが重要である。
イ 　「自ら学び，自ら考える力」を身に付けるための場面の設定
　教育実践の場では，児童生徒が学び方やものの考え方を身に付けることが大切であり，構造図に示すように，
（ア） 自ら学ぶ，共に学ぶ場面
（イ） 多面的，総合的に考える場面
（ウ） 主体的に課題を解決する場面
などの場面を授業の中に意図的に設定していく必要がある。


※ 構造図については，高階玲治氏の著書を参考にしている。

（２） 　研究主題に関する実態調査
　研究主題に関する学習指導の実態と問題点を探るために実態調査を実施した。
ア 　調査期間
　平成12年９月２日（土）から９月８日（金）まで
イ 　調査対象
（ア） 　教師
　社会・地理歴史・公民，理科，音楽，家庭及び技術・家庭，体育・保健体育，外国語（英語）の各教科について，県内の小学校100校，中学校100校，高等学校50校の教科担当者を対象として行った。
（イ） 　児童生徒
　社会・地理歴史・公民，理科，音楽，家庭及び技術・家庭，体育・保健体育，外国語（英語）の各教科について，県内の小学校10校，中学校12校，高等学校11校から１〜２学級の児童生徒を対象として行った。
ウ 　全教科共通設問（教師対象）の調査結果
　普段の学習指導のなかで，児童生徒が潜在的にもっている能力をどのように育成しているかを把握するため，各校種，各教科共通の項目「児童生徒がこれからの社会でよりよく生きるために身に付けておきたいことは何か，特に重視している事項」及び「児童生徒の『自ら学び，自ら考える力』を育成するために，特に重視している事項」の二つの視点で調査した。調査結果は表のとおりである。

表　全教科共通設問（教師対象）集計結果　（割合％）

（ア） 　「児童生徒がこれからの社会でよりよく生きるために身に付けておきたいことは何か，特に重視している事項」について
ａ 　「イ　他人を思いやる心や感動する心」が各校種とも最も重視されている。教師が，「生きる力」をはぐくむために思いやりや感動する心の基盤の上に「自ら学び，自ら考える力」の育成を目指していることが分かる。次に重視されているのが「ウ　自ら学び，自ら考える力」である。
ｂ 　教科別に見ると，社会・地理歴史・公民と家庭及び技術・家庭では，「ウ　自ら学び，自ら考える力」が多く，理科，音楽，体育・保健体育，外国語（英語）では，「イ　他人を思いやる心や感動する心」が多くなっている。特に音楽では60%の教師が，体育・保健体育では50.5%の教師が「イ」を選んでおり，感性を重視している音楽，チームで助け合うことや達成感を重視している体育・保健体育の特性が強く表れている。
（イ） 　「児童生徒の『自ら学び，自ら考える力』を育成するために，特に重視している事項」について
ａ 　教師全体では「ア　自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付ける」と「ウ　自分の考えや思いを的確に表現する力をつける」の割合が高い。
ｂ 　校種別に見ると，小学校に比べ，中・高等学校では「ア　自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付ける」を選ぶ割合が増加し，その一方で，「エ　自ら問題を発見し解決する力をつける」と「ウ　自分の考えや思いを的確に表現する力をつける」を選ぶ割合は小学校，中学校，高等学校の順で減少している。小学校，中学校に比べ，高等学校では「イ　自らの力で論理的に考える力をつける」が増加しており，児童生徒の発達段階に応じ，重視しているものが異なることが分かる。
ｃ 　教科別に見ると，音楽の教員は他の教科の教員と選択の傾向が大きく異なっており，「ウ　自分の考えや思いを的確に表現する力をつける」を57.5%が選んでいる。次に「ア　自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身につける」を選んでいる割合が高い。
　その他の教科は「ア」を選んでいる割合が高い。次いで，社会・地理歴史・公民と家庭及び技術・家庭では「エ　自ら問題を発見し解決する力をつける」の割合が高く，理科，体育・保健体育，外国語（英語）では「イ　自らの力で論理的に考える力をつける」の割合が高くなっており，教科による違いが表れている。
エ 　各教科ごとの調査結果
　このことについては，各教科ごとの報告を参照していただきたい。
（３） 　研究主題に基づく授業研究
　教科・校種ごとに，研究協力員の所属学校の16校［小学校社会，中学校社会，高等学校地理歴史・公民，小学校理科，中学校理科，高等学校化学・生物，小学校家庭，中学校技術・家庭，小学校音楽，中学校音楽，小学校体育，中学校保健体育，高等学校保健体育，中学校外国語（英語），高等学校外国語（英語）］で授業研究を行った。
《主な参考文献》
高階玲治 『学校の特色を生かす総合的学習のマネジメント』明治図書，2000年
森敏昭 「子どもの思考力・表現力を育てる指導」『自ら学び自ら考える力の育成』
ぎょうせい，1998年

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