(2)  ティーム・ティーチングの実際について
@  アシストティーチャーの支援の事例
 事例の整理,分析
 研究協力員が所属する特殊教育諸学校9校の教員を対象に調査を行い,371人から回答があった。特殊教育諸学校の実際の指導場面で効果的だった支援の事例やして欲しかった支援の事例について記入を求めた。その結果数多くの「他の教員から支援してもらって良かった事例」,「あなたが行った支援がとても効果的だった事例」,「自分以外の他の授業などでとても効果的と思った事例」,「支援が欲しかった事例」等を集めることができた。
 これらの事例をティーム・ティーチングの技術ごとに整理し,内容ごとに分析を加えスキルとして項目ごとにまとめ,主だった具体的な事例を付けて以下に整理した。

表3 特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチングの指導・支援の技術・スキル

 ス キ ル  具 体 的 な 事 例



機材の操作
パソコンを操作する。
オーディオ・ビデオ機器の操作をする。
教材の提示
学習の流れに沿ったスムーズな視覚教材等を提示する。
急に必要になった教材の準備・提示をする。
教材の設置
導入のための説明と並行して必要な教材・教具を準備する。
効果つくり
音響機器の操作やピアノによる雰囲気づくりをする。
照明のコントロールで効果を出す。



活動の先導
子どもの歌よりも先に歌い,歌唱を促す。
活動課題を例示する目的で先にやる。(サーキットトレーニング)
答えに戸惑う子どもへ例示する意図で発言する。
雰囲気の盛り上げ
生徒役になり,間違って答えたりしながら活発な意見交換を促す。
授業に消極的になりがちな生徒に付き添い,一緒に活動することで心を解きほぐす。
・子どものようなリアクションをして授業の雰囲気を盛り上げる。
読み聞かせの時など合いの手を入れる。
発言の促し
ちょっとしたきっかけがあれば発言・発表できる子どもに声かけする。
意見を引き出すような意図で,「一緒に考えてみよう」等の発言をする。
活動の促し
「やってみよう」「面白そう」などのことばかけをする。
活動の流れにのりにくい子どもに,興味を引いたり,一緒に参加したりする働きかけをする。
課題への意識づけ
活動から気持ちが離れた子どもに意欲を高める声かけをする。
教材提示に時間がかかってしまうときなど,期待感を膨らませる発言をする。
学習への意欲づけ
離席した子どもを授業に向くよう対応する。
情緒的に不安定な子どもへ,情緒の安定を図り課題へ向かわせようと,スキンシップや言葉かけによって子どもの気持ちに寄り添って支援する。
しかられて落ち込んでる子へ意欲づけを図る。
教師との関係がこじれてしまったときに,対応者が代わることによって子どもがスムーズに活動に参加できるようにする。
学習の導入で,教師たちが寸劇など行い興味・関心を引き出す。



補足の説明
全体へのMTの説明では,分かりづらかった子どもに,ATが補足して活動内容などの説明をする。
子どもの反応が今ひとつの時,子どもの代弁者としてMTへ補足説明を求める質問などする。
MTの説明で用いられたその子には難しいことばを分かりやすく説明する。
MTにかわってATの専門分野(美術や体育など)を生かした説明をする。
発問の意味が分からない子どもに,ATが分かりやすく伝える。
MTの発言を繰り返し,理解の徹底を図る。
理解を促す演示
MTの説明を,ATが分かりやすくするため手本の実技をする。
良い例,悪い例を演じて見せ,子ども達が具体的に考えられる場面を作る。
手本となるよう歌を歌ったり,楽器を演奏する。
教師と子ども役を演じ,子どもの発言,発表の仕方を分かりやすく伝える。
挨拶などソーシャルスキルの手本を例示する。
発言へのヒント
MTの「海について知ってること?」に対し,他の教員が波の動作をしたり,ザザーと音を発して「波」ということばを引きだす支援をする。
問いかけに対して子どもの反応があまりないとき,ATがヒントとして一つの答えを提示する。
誤答を例示することによって,子どもへゆさぶりをかけ理解を深める。
説明の視覚化
MTが説明したことを板書し,視覚的な補助をする。
大きな集団で話を聞くとき,話のキーワードを文字で提示し,理解を助ける。
絵を描くなど分かりやすい方法で支援する。
必要に応じATが絵・写真カードを提示して理解を助ける。




発言・意思表示の代弁
うまく気持ちを表現できない子どもの気持ちを,「たのしかったよー」等と代弁する。
重度の子どもの僅かな動きから意思を読みとりMTに返す。
会話が困難な子に代わって会話や返事をする。
表現が苦手な子に代わって発表する。
活動の補助
走るコースがわからないとき伴走する。
一緒に鬼ごっこをして逃げることを示す。
トランプを持ってあげ,ゲームを一緒にやる。
野球やバレーの時,チームの一員としてゲームに入る。
手を添えて一緒に楽器の演奏をやる。
大玉乗りやトランポリン,シーツのブランコ等人手が必要な活動を補助する。
プールでの活動や体育での活動を一緒にやる。
動作・技能面の補助
ミシンやはさみの操作を補助する。
調理時のガス器具の操作や包丁を使う際の援助をする。
マヒのある子どものノートの固定やページめくりを介助する。
筆記の際に手を添えて介助する。
衣服の着脱の際,手先が動かない子どものボタンかけなど介助する。
姿勢保持・変換の介助
学習時のポジショニング作りや粗大運動などの一人では難しい活動の補助をする。
車椅子の乗り降りの補助をする。
体の向き,教材との距離を調節するなどの介助をする。




グループの指導
目標に合わせたグループをつくり指導を担当する。
実態に合わせ,課題を変えて各々に数人の指導を分担する。
活動の中で班を編制し各々の指導を担当する。
個別の指導
教科指導で,子どもが課題につまづいたときそれぞれの子に対応して適切な支援に入る。
集団内の個人差(個別目標)に合わせて個別的に指導にあたる。
一斉指導ではついていけない子どもに,個別に支援する。
課題別の指導
活動にのれない子に,その子の興味に合わせた対応をとり個別に指導する。
多動な子等集団に適応できず同じ活動ができない子どもとともに,場を変えたりしながら個別的に指導にあたる。
体調によって活動が制限され,一斉活動ができない子どもの課題を容易にして共に学習できるよう対応する。
場面の分担
歌・合奏・ダンスの分野,ボール・器械体操の分野,木工・農作業の分野等というように教師の得意分野の場面を分担する。
学習の途中でATが全体指導を引き受けMTがグループや個別の指導を行う。
しかり役,なだめ役を分担する。




評価
音楽や体育など大集団での学習で,子どもの活動の評価を分担し,細かく多面的に見る。
MTが気づきにくい,個々の子どもの細かい動きを見る。
授業の中でほとんど発言しなかった子どもが内容をどれだけ把握しているかATが個別に対応して理解度をチェックする。
賞賛
MTの賞賛を受け,より賞賛が効果的になるようATが拍手や言葉かけをする。
身近にいる子どもにATも細かな励ましや賞賛をする。
適正な評価
MTの賞賛・叱責が主観的になるのを防ぐようにATも対応する。
MTが気づかなかった発言や行動を適正に評価し取り上げる。
即時的対応
一人ずつへの細かなワークノートの指導やその場での採点などをする。
注意すべき子どもを,その場で,その時に指導する。




パニックへの対応
パニックを起こした子どもへ個別に対応し他傷や自傷行為を防ぐ。
・パニックを起こした子どもを室外へ連れ出す等個別に対応する。
情緒の安定
情緒が不安定になった子どもと共に一旦教室を離れたり,個別的に対応する。
授業の教室へ入りにくい子どもへ個別的に対応する。
突発的な事態への対応
予想しなかった子どもが突然,集団行動から逸脱した時に臨機応変な対応をする。
活動の場から離れてしまった子どもへ臨機応変に対応する。
移動中に座り込んで動かなくなった子どもに対応する。
急病等への対応
怪我人や急病者を保健室へ引率する。
具合が悪くなった子どもに対応(看護,家庭との連絡他)する。
発作を起こした子どもに対応(看護,養護教諭への連絡他)する。
排泄時の対応
トイレへの引率,援助,介助をする。
排泄の失敗の始末をする。




健康面の配慮・対応
体調がいつもと違うとき,個別に対応する。
体調を常に観察し,必要に応じて対応にあたる。
気温の変化などに注意し,体温調節を補助する。
照明の調節など学習環境の調節をする。
事故の防止
サーキット運動の時など要所に待機して安全に気を配る。
移動時の子どもの掌握など,危険の回避を図る。
理科の実験,調理,作業など危険を伴うとき事故防止に配慮してきめの細かい指導を行う。
日常的な活動の中でも,電気製品を使うときは感電事故の防止などに気配りをする。






MTのサポート
少人数での授業や重度の子が多くで発言が少ないとき,ATが子ども役となって授業を構成する。
授業態度の手本を示したり,授業態度について個別に注意する。
子どもがつまずいた部分,原因をMTに伝え,授業の流れをよりよくする。
MTの発言に頷いたり,返事をして授業の流れをよりよくする。
子どもの予想もしない発言に対して,MTに代わって答えたりする。
複数の子どもからの問いかけにMTと分担して対応する。





共通理解
子どもの様子・実態,授業のねらい等を共通理解する。
指導の分担や授業の流れを確認する。
予想されるトラブルへの対応法を事前に検討する。
授業案つくり
いろいろな授業のアイディアを出し合う。
展開についていろいろな案を出し合い内容を深める。
指導の計画を協力して作る。
教材準備
協力し合って大がかりな教材を準備する。
分担することによって幅広い教材を準備する。





授業後の整理
教材等の片づけを分担する。
授業や子どもの様子などの記録を分担する。
指導法の評価
トラブルへの対応策などアドバイスを交換したり,相談し合う。
授業後に指導の方法を学び合う。
授業の反省を話し合いによって客観的に行う。
学習・活動状況のの評価
子どもの学習活動の様子等の情報を交換する。
・各々の情報を出し合って子どもの学習・活動への評価を深める。




学級経営等の協力・分担
保護者への対応を分担する。
MTと連携をとりながら多角的に保護者へアドバイスをする。
生徒の悩みを聞くなど生徒指導上の仕事を分担する。
教師間で,悩みに対して助言,アドバイスをする。
学級事務を分担する。

 上記の表は,アンケートの結果を,各技術・スキルに振り分けたものである。これらの事例は,特殊教育諸学校において,長年培われてきたティーム・ティーチングの成果を裏付けるものでもある。また,スキル及びその具体例は,アンケート調査に記されていたものを整理したものであり,実際の授業場面ではまだ数多くの支援がなされていると思われる。今後更に,分析,整理を深めていかなくてはならない課題でもある。
 考察
 実際の授業ではこれらの技術・スキルは単独で活用されることもあるが,複合的に用いられることのほうが多い。調理実習の際の包丁の指導のような場面では,正しい持ち方や力の入れ方などの活動の補助的ねらいとともに事故防止というねらいを合わせ持って支援が行われている。離席した子どもへの支援は,学習意欲を再び高めるように意欲誘導の学習への意欲付けを図るとともに指導の分担に基づいて個別の指導や課題別の指導を適切に選択し支援にあたる。或いは,予想外の離席であれば臨時的対応として情緒の安定や突発的な事態への対応を図るとともに,場面によっては健康・安全の事故の防止のスキルを行うことになる。
 特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチングは,多数の教師がティームを組んで授業にのぞむという特徴があり,授業前の協力,授業後の協力などの技術・スキルが重要な意味を持っている。授業ばかりでなく,授業前・授業後の協力の技術・スキルを日常的に実施することが,ティーム・ティーチングを生かした良い授業となるか,教師間の連携がバラバラで子どもへの支援も統一されず効果の上がらない授業となってしまうかの重要な鍵であるといえる。離席した子どもへの対応は,ATの一存に任されるのではなく,事前の授業作りの過程で授業のねらいや子どもの課題,目標を共通理解しておくことによって,誰が対応しても同等の適切な支援が行われるべきである。また,事後にその対応が適切であったか検討する場を設けることは,更に共通理解を深め,その後の指導に生かせることになる。


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