U ティーム・ティーチングについての基本的な考え方

1.特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチング

 ティーム・ティーチングは,1950年代アメリカのハーバード大学教育学部の「学校および大学研究開発計画」としてスタートした。1957年に最初の実験校としてレキシントン地区の公立小学校フランクリン・スクールで実践が行われている。
 日本では,1962年(昭和37年)の『施設月報』8月号(文部省)において小林秀弥氏によって「Team Teaching」という題で紹介されている。1963年には,東京都内の小学校でティーム・ティーチングによる授業がなされている。そして,1968年から1970年にかけて実践校は増加したが,その後はあまり大きな進展は見られなかった。さらに,アメリカの原型では,教員組織の階層性(ティーム・リーダー,シニアー・ティーチャー,ティーチャー等の縦関係),学年の枠を外した教員のティーム化,大グループでの一斉指導と小グループでの指導といった特徴があったが,国内でのティーム・ティーチングは,米国のような教員組織の階層性は見られず学年の教員がティームを組む程度で,ダイナミックなグループ化はなされなかった。いわば授業改善の一つのテクニックとして実践が行われてきたのが,国内の状況であった。今日,学習指導要領の改訂や「教職員配置改善計画」等によって教師の協力的指導,教師間の連携などが取り上げられ,ティーム・ティーチングが再び注目されている。
 特殊教育諸学校においては,児童生徒の障害の重度・重複化への対応や個々の発達課題に応じたきめ細やかな指導のために教員が加配され,一つの学級に担任と担任を助ける教員として複数の教員が加わり児童生徒の指導にあたるようになる。特殊学級の例であるが,国立特殊教育総合研究所「情緒障害児の個に応じた指導援助に関する研究」(平成6年)の中には,「昭和40年代中ごろに『二学級三担任』になった頃に・・・。」という既述がある。特殊教育諸学校における複数教員での指導のスタート時期は,定かでないがこの時期に行われていたことが推測でき,このような指導形態は,その後全国へ広がっていったと考えられる。昭和54年,養護学校教育の義務制が実施され,児童生徒の障害が一層重度・重複化し,きめ細かな個々の児童生徒への支援のニーズは高まり,今日のようなティーム・ティーチングによる指導が一般化されてきた。
 特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチングの始まりは,米国のようにティーム・ティーチングとして計画的に開始されたのではなく,児童生徒等の個々の課題に即した指導の必要性から発展してきた授業改善,指導の工夫といえる。
 ここでは,こうした特殊教育諸学校における複数の教員による指導をティーム・ティーチングと呼び,分析を進めていくことにする。
 「特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチング」は,2人以上の複数の教員が協力しあい授業を行う方法であり,これには集団そのままであったり,小集団化,個別化を図り指導を分担したりするなど多様な授業の形態が含まれる。授業における教師間の関係は,主担当者と補助者に分担を分ける形もあれば,特に固定的関係を設けず共同の授業者として行う形もある。学習集団の視点で見ると,学級集団そのままであったり,学部や学年といった大きな集団で授業を行ったり,或いは,学習課題ごとに集団を再編成したり,個別化を図ったりして指導する方法であるといえる。たとえば,1学年を学習目標毎に或いは課題別にグループ分けをして指導することもその一つの形態であり,たまたまその場が1教師対1児童生徒の指導となっても,学級や学年間での教師間の協力,連携,役割分担が明確なものはティーム・ティーチングと呼べる。
 また,特殊教育諸学校では,授業のみでなく,複数担任として或いは担任と副担任として複数の教員で学級経営全般にかかわることも行われている。他の学校では見られない特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチングの特色といえる。
 ティーム・ティーチングにかかわる教員の名称も様々であるが,今回の研究では,主たる授業者をメインティーチャー(以下,MT),他の授業者をアシストティーチャー(以下,AT,AT1,AT2・・)と呼ぶこととするが,授業における役割分担によっては,T1,T2・・と表記する。

2.ティーム・ティーチングによる授業の特質

 ティーム・ティーチングによる授業の特質は,一斉授業において配慮や特別な支援を必要とする児童生徒へ個別の対応ができる可能性にあるだけではなく,その学習集団を構成する児童生徒のそれぞれの課題にきめ細かく対応できることにもある。また,課題ごとのグループを編成して授業を展開できるよさや,そのための教材をそれぞれの教師が分担して準備することができるよさなど多様な長所をもっている。図工や音楽,体育などの教科では,教員の特技を生かして楽しい活気のあるダイナミックな授業が組まれることも多い。
 こうしたティーム・ティーチングの有効性を太田俊己氏は,次のようにまとめている。
@  個々に即した対応/集団運営が可能になる。
 集団での個々の違いは少なくない。多様な活動を用意することも含め,個々の子どもが活躍できる手だてが取られる必要がある。複数担当によって実現できることは多い。個への対応を行き届いた形で行いながら,一方で全体の活動がまとまる集団化も充実を図ることができる。
A  集団での多様な活動を用意しやすい。
 一人の担当では活動の支援に制約がある。複数担当制により集団での活動の範囲と種類も広がり,子どもごとに多様な活動を設けることができる。どの子も主体的に取り組めるように多様な活動が含まれる単元・学習を考案するとともに,同時に教師の個性や力が発揮される分担についても検討するとよい。
B  集団での大がかりな活動を組みやすい。
 一人担任での活動は,規模が小さくなる傾向がある。複数がかかわって,大がかりな活動も実現しやすくなる。どの子も活躍できることにつながる,活動の多様化が図れる。
C  子どもへの幅のある対応が可能になる。
 同じ方向性を持つ授業でも,教師達の個性や気配り,対応によって,雰囲気も流れも変わる。毎日の学校生活で,複数の教師の対応と個性の違いが絶妙に織り成されることにより,子どもへの幅のある対応を生むことができる。
D  多面的な視点での子ども理解が高められる。
 一人の子ども理解は一面的になる恐れがある。違う見方を認め,検討し合うことによって,一段高い子どもの理解に発展することもできる。
E  互いの発想・方法が刺激となり実践が高められる。
 一人担当には一貫した実践を行える醍醐味はあるが,柔軟さに欠ける恐れもある。複数担当の種々の見解を刺激として,実践の水準を上げて行くことができる。
F  効率的で手厚い事前準備が可能になる。
 一人の努力では限りのあることがある。複数がかかわることにより,段取りの良い準備 が効率的にできあがり,大がかりできめ細かな授業準備が可能になる。
 一人の教員が授業や学級を担当する時,担当者の一貫した教育観,子ども観により計画が組まれ,統一性のある支援が行われるよさもあるが,固定的な実践になりやすい,大がかりな活動が組みづらい,多種の活動を用意・展開しにくい,児童生徒の個々の課題に合わせた支援が難しいなど,指導に制約も生じやすい。一方,ティーム・ティーチングでは,これらの制約を打開することができる。どのような打開策がとれ,どれだけ補えたかが,ティーム・ティーチングの有効性を判断する基準にもなる。そこで,ティーム・ティーチングのよさや有効性を意識して,日々の授業を効果的に改善することが重要である。

3.ティーム・ティーチングの学習形態

 学級という学習を営む集団を構成する児童生徒等の発達段階や学習上の課題は幅広い。障害は多様であり,支援のニーズも複雑である。それぞれのニーズに合わせて指導方法や学習形態を工夫することが大切であり,教員の協力・連携によって工夫の幅が広がる。ティーム・ティーチングを活用することによって,学習の基本集団である学級において,それぞれの学習のねらいや活動に応じてグループを編成したり,個別の指導をすることができる。また,学級の枠を越え,学年全体や学部という学習集団を作れば,大きなティームを編成でき活動の幅も広がる。体育や音楽,生活単元学習などでは,集団としてのダイナミックな活動が可能となる。大きな学習集団での運動や合奏,運動会や○○祭りといった活動においても,児童生徒の個々の指導目標に沿ったきめ細かい支援も可能である。作業学習などでは,生徒の課題ごとにグループ分けをして活動したり,作業工程を分割・分担することで多種多様な課題を用意することができる。教員の数や学習スペースなどの条件はあるが,大きな集団として学習を展開する有効性は高い。多人数による楽しいダイナミックな活動の中でも,児童生徒等の個々の課題に対応できるのはティーム・ティーチングの大きな力である。
 学習形態は,1教師対1集団がベースとなり,そこにアシストティーチャーが入ることによって様々な活動の展開が可能となる。MTやATは,固定されたものではなく,授業の中でその役割を入れ替わることも多く,学習の内容によって役割が固定的な授業,柔軟な授業などタイプが考えられる。また,複数担任制など共同で指導にあたる授業の場合には,MT,ATという関係より,T1,T2・・・として役割分担をして授業に臨む場合もある。こうした教師間の連携と,児童生徒等の学習課題,支援のニーズに対応して編成された学習集団との関係によって授業の学習形態も多様である。
 ティーム・ティーチングを有効なものとするための学習集団の編制と教師のかかわりについて太田氏は次のように分類している。

MTが主授業者となり全体をリードする。ATは,集団全体を見ていて,適時,支援が必要な子どもにかかわりを持ち,支援を行う。学習課題の理解を助けたり,活動を補助したりと,課題や場面に応じて個々の子どもへのきめ細かな指導を心掛ける。
 学習集団の大きさによって,ATの数も増えることもある。
 MTが主授業者となり全体をリードする。ATは,指導上の役割分担をし,「担当する子ども」の支援にあたる。
 全体の授業のねらいに沿い,担当する子どもを同一の学習活動ができるよう支援する。学習集団が比較的等質で特定の子どもが支援を必要と予想される場合に用いられる形であり,複数のATがそれぞれに担当することや複数の子どもを担当することもある。同一の全体活動の中での支援である。
 MTが主授業者となり全体の授業をリードする。ATは,その学習集団の中で支援が必要な子どもを担当する。
 全体の授業のねらいに沿いながら,同一の学習課題ではなく,特別な課題や子どもの実態に応じた課題を設けて学習を進める。基本集団が大人数の時は複数の小グループができることもある。
 小集団で学習を進め,教師はグループ間を巡回して指導にあたる。同一の課題や異なる課題,等質や異質と,それぞれ活動内容や集団の編成に多様な幅がある。授業の導入部は全体で行い,学習活動をそれぞれのグループごとに行い,まとめは全体で集まるような形で部分的に行われることが多いが,大きな単元のもとでは,その時間を始めから終わりまでグループごとに活動することもある。
 小集団で学習を進め,教師は担当するグループに張り付く。同一の課題を少人数できめ細かな配慮のもとに学習したり,子どもの様子に応じて設定された異なる活動をしたりする。学習の場は,教室内など共通のスペースであり,教員間で学習の進み具合を調整し合いながら授業を進めることができる。グループの担当は,複数の教師の場合もある。
 集団を活動内容などによって分割し,教師は担当するグループごとに離れた場所で学習を行う。空間的制約を解くことによって学習や活動内容に幅を持たせることができる。
 同一の単元の学習の中で一部分として分かれる場合や,空き教室を利用し課題別の学習を進めるなど長期的な計画に基づいて行われる場合もある。グループ間の連絡・調整や計画性が重要である。
 ダイナミックな活動をねらい集団を大きく編成して学習する形。
 隣接学年と合同授業として,或いは学部全体といった集団で授業を行うことによって,多人数での活気あるダイナミックな活動を行うことができる。体育や音楽の授業を始め,生活単元学習や行事への取り組み等に多く見られる形である。集団が大きくなるため,個々の課題,ねらいを共通理解し,支援の分担等を打ち合わせする必要性がある。
 これらは,学習形態の基本的なモデルである。実際の授業では,児童生徒等の目標や支援のニーズ,対応できる教員の数,学習スペースなどによって多様な形態が考えられる。例えば,T単集団−複数教師(全体支援)型とU単集団−複数教師(個別支援)型が混在する学習で,複数のATがいれば,AT1は全体の支援にあたり,AT2はC4を固定的に支援するような形がある。他の学習形態でも同様に,教師の数や学習スペースに応じて多様なバリエーションが考えらる。単独の教師による一斉授業では難しい個々の児童生徒等の課題に寄り添える学習形態として,ティーム・ティーチングの在り方が更に工夫されるべきである。
 また,ティーム・ティーチングにおけるこれらの学習形態は,T型やU型で1時間の授業を通すこともあるが,授業の導入の部分でT型を使い,W型やX型へと発展し個々の児童生徒等にきめ細かく寄り添う指導を行い,まとめを再び全体で押さえるためにT型へ戻るというような流れが使われる(図1)。学習形態の構成は,1時間の授業の中で使われることもあれば,1つの単元の学習の導入,展開,まとめという大きな流れの中でも見ることができる形である。目標や課題に応じてその学習形態の組み合わせも様々に工夫することが重要である。

4.ティーム・ティーチングの技術

 特殊教育諸学校においては,昭和40年代後半から長い経験の中で改善・工夫されてきたティーム・ティーチングであるが,一般的にティーム・ティーチングへの関心が高まったのは,文部省の第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画(平成5年度から)による「個に応じた多様な教育」のためのティーム・ティーチングの導入・配置からである。「指導方法の改善に関する教職員配置等の調査研究協力者会議」(平成5・6年度)が設けられ,研究協力校を中心に研究が進められた。ティーム・ティーチングによる指導・支援の在り方が問われ,授業改造など多くの研究が成された。
 古川治氏は,「T・Tの10の技術56のスキル」として指導・支援のスキルとしての整理を試みた。その中で,『指導技術はこれまで「名人芸」としてまね出来ないものとしてきたが,T・Tのように複数の教師が協力して授業作りをする場合は,できるだけ一方の指導技術を他方の教師が理解できて,まねたり,利用したり,共同で活用したりして,教師間で応答可能で伝達可能なものとすることが必要である。これらをT・Tのスキル・技能として位置づけて,次のように考えてみたい。』(表1)と述べている。

表1 ティーム・ティーチングの指導・支援のスキル一覧表

 指導・支援の技術  T・Tのスキル




1 課題提示の技術  パフォーマンスのスキル
 かけ合い・劇化デュエットのスキル
 複数の考え方を提示するスキル
 課題へ取り組む意欲を刺激するスキル
 ゲストティーチャー活用のスキル
 学習課題選択のスキル
 
 




2 指導の役割分担の技術  前半・後半役割交代のスキル
 指導の役割分担をローテーション化するスキル
3 発問と作業分担の技術  発問・説明,板書分担のスキル
 発問・説明,資料配布分担のスキル
 発問・説明,机間指導分担のスキル
 発問・説明,注意指導分担のスキル
4 説明円滑化の技術  発問・説明の補足説明分担のスキル
 発問・説明の演示補足分担のスキル
 説明,個別指導分担のスキル
5 指導・共同追及の技術  多様な考え方・意見を拾い上げるスキル
 一斉指導と観察の役割分担のスキル
 一斉指導と助言の役割分担のスキル
6 分けて指導する技術  コース別指導分担のスキル
 学習空間同時分割のスキル
 学級集団分割指導のスキル
 指導とトレーニング役割分担のスキル
 指導と支援の役割分担のスキル
 グループ別指導・分担のスキル
 コース別学習指導のスキル(学年T・T)
 教室内コース別学習指導のスキル(1学級内)
 多教室分離型コース別指導のスキル
 大規模T・T役割分担のスキル
7 机間指導の技術  机間指導分担のスキル
 机間指導左右二分化のスキル
 机間指導前後二分化のスキル
 机間指導列を分けるスキル
 補充指導と発展指導に役割分担するスキル
8 指名・指示の技術  つぶやきを全体に提示するスキル
 授業中断指名・指示のスキル
 意図的な指名・指示のスキル
 発問補足のスキル
 指示内容分担のスキル
 話して・聞き手両者支援のスキル
 指導と賞賛分担のスキル
 まとめ方役割のスキル
9 評価・見取りの技術  指導と見取り分担のスキル
 よさを伝えるスキル
 発言支援のスキル
 指導と評価分担のスキル
 治療と見取り分担のスキル
 採点と個別指導分担のスキル
 答え合わせと個別指導分担のスキル
 ノートの見取りと個別指導分担のスキル
 評価と指導計画改善のスキル
 知識・理解と関心・意欲・態度の評価分担のスキル





10 まとめの技術  まとめと板書のスキル
 まとめと個別指導分担のスキル
 まとめとミニ授業分担のスキル
 まとめの内容分担のスキル
 監督と教材作成分担のスキル
「ティームティーチングの教育技術」浅田 匡,古川 治 編著 明治図書(1998年)

 これらの整理は,特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチングにおいても十分に参考となるものであり,小中学校の教育課程に準ずる教育を実施する諸学校(以下,準ずる教育という)ではそのまま活用できるところが多い。しかし,学習集団の規模が全く違うこと,教科や領域を合わせた指導を始めとして多種多様な授業が展開されていること,個のニーズに対応した指導・支援の技術が必要となること等により,新たな整理をしなければならない。
 ここでは,児童生徒等の個々のニーズに対応する技術や学習活動を円滑に進ませるための技術,事故や怪我の防止といった安全面の配慮などの新たな観点を加え整理を試みた。また,ティーム・ティーチングは,複数の教員の連携・協力によって成されるが,今回は中心となって授業を進めるMTを支えながら,個々の児童生徒等にきめ細かな指導・支援を行うためのATを主軸として「特殊教育諸学校におけるティーム・ティーチングの指導・支援の技術」(表2)として整理した。

表2 ティーム・ティーチングの指導・支援の技術
場 面 指導・支援の技術   内      容
授業時間
内の協力
・分担
場の構成 教材・教具の出し入れや学習空間をねらいに沿って作り出す技術
意欲誘導 学習活動への意欲付け,集中を図る技術
理解援助 課題への理解を支援する技術
指導の分担 個人やグループを分担して指導にあたる技術
活動の補助 学習の中で障害のために困難な活動を支援する技術
評価・賞賛 評価対象者を分担し細かく見取ったり,多面的な視点から評価する技術。きめ細かな賞賛をする技術。
臨時的対応 学習時の想定外の行為へ対応する技術
健康・安全 発作やけがへの対応,事故防止のための技術
MTのサポート MTを直接補助したり,授業を構成するための技術
授業時間
外の協力
・分担
授業前の協力 共同での授業の計画の技術
共同したり分担したりする教材教具の作成の技術
授業後の協力 授業全体の評価の技術
計画の見直しなどの技術
学級経営等 学級経営の仕事の分担の技術


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