【授業研究3】 | 高等学校商業「簿記」において授業展開を工夫することによって生徒が自ら学び,問題解決能力を高める授業の実践 |
(1) | 授業研究のねらい | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
平成15年度より実施される学習指導要領(商業)の中で「自然言語」(日本語・外国語),「人工言語」(情報関連),「会計言語」(簿記)の育成の重要性が示され,このうちの「会 計言語」(簿記)は,伝統的に商業の基礎科目として位置づけられており,指導内容や指導 方法などの様々な研究が行われてきた。しかし,科目の性質上,主な授業展開の方法は「知識注入型」となってしまい,生徒に対して興味・関心を与えることが困難になりつつある。 そこで,その問題を解決するための糸口として,@生徒の心を引きつけるための効果的指 導,A「動き」をもった授業展開,B相互学習の実施によって学習への意欲をもたせることをねらいとして,生徒が「学ぶ」ことに対して興味・関心をもつことのできる授業展開を探る。 |
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(2) | 授業展開の工夫によって生徒が自ら学び,問題解決能力を高める授業の手だて | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「簿記」という科目の性質は,知識の連鎖的理解が重要であるが,学習することを受験の ためという意識をもっている生徒は,ペーパーテストに備えて授業内容を断片的に理解することで満足していると考えられる。このことは,簿記を学習する上で戸惑いを作る要因になり,章を重ねるたびに生徒が「諦め」の感を持つことになる。そのため,授業内容につながりをもたせ,生徒自らが知識を欲するための授業展開をすることによって,簿記学習の重要性や科目の魅力を知らせ,学習することに継続性をもたせることができると考える。そして,生徒が「学ぼうとする心」の動きをもつことによって,簿記に限らず「学ぶこと」という共通点から他の教科・科目においても何らかの影響を与え,「学ぶことの価値」を体得させることができると考えられるのではないだろうか。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 生徒を自主的に取り組ませる工夫 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
授業時間の中で,生徒相互間で指導し合う時間を生徒の反応や授業の雰囲気などから1回5分程度の時間を使って2〜3回設定する。この時間を「みんなが指導者」と称し,他人に教えることによって生徒個々に責任感と自信をもたせ,クラスの連帯感を養う。また,授業開始10分前(休み時間)を利用して,「授業前のトレーニング」を実施し,授業に望む前の意識の高揚を図る。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 生徒参加型の授業展開の工夫 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
生徒が興味・関心をもつことのできる学習方法を模索すると,教師の主導的な授業展開ばかりでなく,生徒が動きをもって参加できる生徒主体の授業展開を実施することができる。そして,その目的は「模擬取引」を行うことによって達成されるものと考える。また,板書事項を書き写すのが苦手な生徒のために,授業1時間ごとに内容を整理したプリントを作成し,重要事項などをプリントに直接記入させ,各自のノートに貼付させる。そして,「簿記ノート」を作成することによって,ひとつの内容を自分なりの視点で捉えることができ,再確認する際に有効的な活用ができると考える。(資料1) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ウ | 評価方法の工夫 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「簿記」の授業が毎日あることから,週の最後の授業時に「1週間のまとめと反省」として生徒個々に自己評価させる。その記入内容は,1週間という期間において,どのような学習内容を実施したか,また,授業態度などを含めての反省や理解できていない内容や疑問点を記入し提出させる。提出させた自己評価票は,次週の初めの授業時にアドバイスを添えて生徒に渡す。その効果は,自己評価を行わせることによって,自分がどのような内容を復習すべきかが理解でき,何よりも指導者(教師)が生徒個々の理解度を把握することができるものと考える。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | 授業の実践 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 題材 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第3章 社債 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 目標 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
社債の意味や発行・償還時の処理方法を「社債カード」の使用により,動きの中から理解させると同時に,他社の社債の購入時の処理や株式との違いも合わせて取り組み,理解を図る。また,生徒が自ら考え,主体的に取り組むために,難題に突き当たった時であっても,生徒相互間で問題を解決することによって,個々に責任をもたせ,他の生徒に教えることによって,学習した結果に対しての自信を育む。なお,時間配分については,柔軟性をもたせ,生徒の理解度や取り組む姿勢を観察しながら授業を展開する。(資料2) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ウ | 準備・資料 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
教科書(明解簿記上・下 一橋出版), 自作プリント(簿記講義ノート), 社債カード,小テスト(5伝票) |
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エ | 本時の展開 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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オ | 指導の実際(社債カード使用時) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
A | :社債を発行した時点での処理 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
社債券をBに対して発行し,運転資金¥100を借り入れたのであるから現金は増えるのか,減るのかを考えてみよう。 次に,現金が増減した理由を考えてみよう。その理由を現金と仕訳した相手側に仕訳してみよう。その仕訳が発行時の仕訳となります。 |
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B | :社債を購入した時の処理 Aに対して資金¥100を貸し出したのであるから現金は増えるのか,減るのかを考えてみよう。 次に現金の増減の理由を考えてみよう。その理由を現金の相手側に仕訳すればよいのだが,自分の手許に社債券という紙(証券)が1枚あります。よって,その理由として紙(証券)を表さなければなりません。しかし,ただの紙ではなく,価値の有る紙ですからどのような勘定で表現しますか。考えてみよう。間違って表現してもかまいません。自分の考えで仕訳してください。 |
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(4) | 授業の結果と考察 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本時の授業内容は,生徒にとって,取引自体が想像のつかないものであるため,理解の困難な内容であった。しかし,「社債カード」の利用によって授業に動きをもたせることができ,生徒たちも簡単な模擬取引を実際に行うことにより,苦痛を感じることなく授業に取り組むことができたのではないだろうか。また,生徒相互間で学習し合うことによって,責任感や連帯感をもたせるばかりでなく,生徒が一人で問題を抱えるのではなく,自分たちの疑問を様々な方法によって解決できるようになったと考える。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 「みんなが指導者」の導入 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
理解の難しい内容であっても,他人に教えるということから責任感が芽生え,取り組み方も積極的になってくる。また,生徒間で連帯感ができ,授業において「和」を持たせることができたと考えている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 「社債カード」を利用した学習について | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
模擬的に取引を行うことによって,それぞれの動きが把握できるため,理解が難しい取引の処理であっても,座学的な学習と比較すると生徒はその学習内容について受け入れやすくなったのではないだろうか。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ウ | 「授業前10分間のトレーニング」の有効性について | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 「できる」という自信をつける機会となる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(イ) | 授業に向ける気持ちの切り替え | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ウ) | 計算処理能力などの向上 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(エ) | 資格取得に対する意識づけ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(5) | 授業研究の成果と課題 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 研究の成果 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
授業において,生徒個々に責任感や満足感を与え,向上心を持たせるためにはどのよう な学習指導の方法や展開が有効であるかを試みたが,「動きのある授業」を展開することにより,「受け身」で学習してきた生徒たちが,簿記の授業に対して積極的に参加するようになった。また,生徒相互で成長し合うことにより「学習することの楽しさ」を知るための指針を与えることができたのではないだろうか。また,このことは,うまく機能すれば教育的効果が予想以上に大きく,副産物的だが資格取得に対しての意識の高揚にもつながり,自ら問題に取り組もうとする姿勢が見られた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 今後の課題 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 生徒相互学習の課題 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
生徒相互での学習は,互いが教える立場や教わる立場になって実施されるものではあるが,「みんなが指導者」の取り組みのねらいは,立場を時間内に入れ替えて行うことに有意性がある。しかし,時の経過につれてその立場に偏りが生じてしまい,ねらいから外れつつある。よって,実施方法などを考え,うまく機能するように修正していきたいと考えている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(イ) | 生徒から教師に対しての評価 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学年末において1年間を総括して生徒から評価を受ける。その評価は,点数による評価ではなく,@簿記講義ノートに対する評価,A課題などの評価,B授業に対する評価,C授業に対しての提案というような項目を設けて実施する。 生徒の声を聞くことにより,授業を展開しながらも常に責任感を持つことができ,指導方法の工夫など,今まで以上に指導者自らが向上心を持つことができると考える。そして,この評価を重視することにより,「生徒」と「教師」がともに学習し,成長を図っていくものになると考えられる。 |