【授業研究2】 高等学校工業「課題研究」において生徒が自ら学び,問題解決能力を高めるための支援の在り方
(1)  授業研究のねらい
   「課題研究」は自分の興味・関心のある研究テーマを設定し,その問題の解決を図る学習を通して,専門的な知識と技術を深め,問題解決能力や自発的・創造的な力を養う科目である。
 ここでは,生きる力をはぐくむことを目指して展開されるこの学習活動の中で,一人一人の生徒が個性を発揮し意欲的に取り組み,自分の良さや可能性を発揮し,自らの力で理論的に考え,主体的に判断・行動し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するための支援の在り方について研究する。
(2)  生徒が自ら学び,問題解決能力を高めるための手だて
   個性を発揮し,学習意欲を高めるための工夫
     テーマの設定では,生徒の希望に沿った身近な課題を設定し,自主的・計画的に取り組めるよう配慮する。また,テーマは自力で課題の解決を図ることができる可能性のあるもので,学習活動を通して自らの学力を高め,応用性のある知識や技術を身に付けることができるものであること,さらに身近なところから発想し,学習への興味・関心が高められるテーマであることなどに配慮する。
 授業展開の中では,生徒一人一人の考えを尊重し,グループでの話し合いにより方針を決定させる。また,新しい知識や技術を身に付けることに喜びや達成感を感じられるように工夫する。作業内容は適性を考えて分担し,協力して1つの物をつくることで連帯感を養い,学習意欲が持続するよう計画する。
 さらに,生徒達の主体的な活動を援助するため,安全作業の心得や工作機械・工具等の取り扱いを十分指導し,加工手順がイメージできるようにする。
   問題解決能力を高めるための工夫
     自ら学び,自ら考える力を育成するため,図書館やインターネット等で調べたり,グループでの相談の時間などを十分確保する。
   学習評価の工夫
     実態調査によると,「学習態度や意欲を評価して欲しい」と願う生徒が半数以上であることから,毎時間の自己評価と学習活動の段階毎に生徒同士の相互評価を行う。
(3)   授業の実践
   電子機械科3年1組 課題研究テーマ
   
分類 テ ー マ 内     容
製作 バーベキューセットの製作  製作を通して設計や各種機械加工法を学習する。
電話台の製作  CADを用いた設計,機械加工や溶接技術を習得する。
牽引トンボ及び外野フェンスの製作  野球部用フェンス等の製作を通し,設計や金属材料の加工方法を習得する。
ミニUFOキャッチャーの製作  身の回りの自動制御機械の構造や制御方法などを理解するため,UFOキャッチャーを製作する。
教室用本棚と傘立ての製作  製作を通して,工作機械の操作方法や溶接技術を習得する。
野球部用屋根付きベンチの製作  大型のベンチの製作を通して,工作機械の操作方法や機械加工技術を習得する。
研究 CGの研究と製作  3DCGソフトの各種の機能を学び,各自のオリジナル作品を制作する。
50cc原動機付自転車の研究  2サイクル50ccエンジンのカットモデルを製作することで構造や働きを学習する。
制御に関する研究  鉄道模型(Nゲージ)を通して,シーケンス制御やセンサ技術を習得する。
スピーカーの研究と製作  スピーカーについて研究し,設計製作をする。完成後は特性も測定し,性能を評価する。
   年間指導計画(スピーカーの研究と製作)
    年間指導計画
   学習指導案 実施 平成12年10月30日(月) 2,3時限
    学習指導案
(4)  授業の結果と考察
   授業効果をあげるための工夫
    (ア)  生徒自身が計画を立てて研究や製作ができるようにするために,前期に実習(4単位)を実施し,課題研究に必要な知識や技術を身につけさせた後,後期に課題研究(2単位)を実施した。
 集中的に週6時間展開できたので作業効率も上がり,目標が達成できた。
スピーカーの製作
    (イ)  指導は電子機械科の職員全員(8人)が担当したので,生徒と教員との交流も深まり生徒一人一人に細かな指導ができた。
   学習意欲を高めるための工夫
    (ア)  テーマの設定では,自分の希望するテーマの研究や製作に取り組むことが学習意欲を高めるための重要な要素となるので,過去の研究報告書や他校の資料等を提示して,生徒たちにテーマを決定させた。そのため計画や準備の段階から積極的な学習活動が展開できた。
 また,テーマは身近なところから発想し,徐々に学習への興味・関心が高められるように設定したことによって,諦めや挫折がなく意欲的な活動が継続された。
エンジンのカットモデル製作
    (イ)  展開の中では,グループ内でそれぞれの考えや思いを述べさせ,話し合いで方針を 決定させたり,適性に応じて作業を分担することで責任感や連帯感が生まれ,グルー プの一員としての存在価値を見いだし,積極さがみられた。
    (ウ)  研究報告書の作成や発表会では,パソコンやデジタルカメラ,ビデオカメラ等の各種機器を使ったプレゼンテーションに特に興味を示し,積極的な活動がみられた。発表の練習にも緊張しながら熱心に取り組んでいた。
   問題解決のための手だて
    (ア)  図書館やインターネット等で調べたり傘立ての製作グループ内での相談の時間を十分設けたことで自分たちの力だけで問題を解決し,理解を深め方針の決定や変更までできるようになった。
    (イ)  溶接や塗装,エンジン等の専門的な分野で,経験と勘に頼るような部分の疑問点については,地域の専門家に適切なアドバイスをいただき解決できた。
   学習評価の工夫
     自己評価を通して,生徒自身の研究への活動意欲や工夫・改善等への創造性が評価発表会の様子の対象となることを知ることで,取り組む気持ちにも変化が現れた。
 また,相互評価は協力関係を客観的に指摘されるので,各自の役割分担を全うし,協力しようとする態度にも変化がみられた。
傘立ての製作 発表会の様子
(5)  授業研究の成果と課題
   研究の成果
     課題研究の支援の在り方については,以下のような総合的な取り組みが有効な手だてであることを確認した。
    (ア)  テーマの設定から研究や製作まで,できる限り生徒たちの考えを生かせるように支援する。失敗も許容するが最初から不可能と思われるようなことや安易な方向に流れそうになった場合には理由を明らかにし修正や変更を促す。
    (イ)  展開の中では,新しい知識や技術を身につけることに喜びや達成感を味わうことができるような感動の場面を演出する。また,一人一人の役割分担をはっきりさせ責任を担うことで,連帯感を養い意欲的に活動することができるように,適性に応 じた作業を分担させることも有効である。
    (ウ)  調べる時間や考える時間,さらにその結果を述べさせる時間等を確保するため,ゆとりのある学習計画を立てる。高度なテーマや目標でなくとも十分な学習効果が期待できる。
   課題
    (ア)  テーマの設定は生徒たちの希望により決定するが,どんなテーマを希望するかは,入学時から課題研究実施前までの普段の指導の中での生徒たちへの働きかけが大きく影響してくる。今後も生徒たちが興味・関心を示すであろう幅広い分野の知識や技術を多数備えておく必要がある。指導者としては生徒たちにいつでも十分な支援ができるよう技術研修に励むことが責務である。
    (イ)  毎年の本校卒業生のアンケートからも「課題研究」は,最も楽しく, 最も積極的に参加できた科目として挙げられているとおり,多くの生徒たちの生き生きとした姿が見られる。しかし,専門科目の座学の授業については,難しいと感じる生徒もあり,授業への参加意欲に乏しい面がある。今後は,本研究の手法を他の科目においても生かすための工夫について実践研究をしたい。

[農業・工業・商業科目次]