はじめに
 新学習指導要領では,「特色ある教育活動を展開する中で,自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。」とし,さらに職業教育に関して配慮すべき事項では,「生徒の実態を考慮し,職業に関する各教科・科目の履修を容易にするため特別な配慮が必要な場合には,各分野における基礎的又は中核的な科目を重点的に選択し,その内容については基礎的・基本的な事項が確実に身に付くように取り扱い,また,主として実験・実習によって指導するなどの工夫をこらすようにすること。」といった考え方を示した。
 以上のことを踏まえ,教科に関する研究主題「自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導」を受けて,農業・工業・商業科では「生徒が自ら学び,問題解決能力を高める学習指導の在り方」を研究主題として設定し,「問題解決能力の育成」の面から研究を進めることにより,専門教育としての基礎的・基本的な知識や技術の習得を図り,教材・教具の開発や学び方を身に付けさせるような授業研究を通して研究主題の究明に取り組んだ。
 
 研究のねらい
   農業・工業・商業科の各教科において,実態調査をもとに調査研究及び授業研究を行い,生徒が自ら学び,問題解決能力を高める学習活動に取り組めるよう,学習指導の在り方を究明する。
 
 研究主題に関する基本的な考え方
   生徒が自ら学び,問題解決能力を高めるためには,生徒に授業に対する興味・関心をもたせるとともに,それによって授業に対する目的意識を高め,さらに学習意欲を喚起させることにより,主体的に学ぶことができるといった環境づくりが必要である。
 そこで,農業・工業・商業科の学習においては,専門教育としての基礎的・基本的な知識や技術の習得を図るため,特色ある学習形態の実践や生徒一人一人の能力に応じた授業展開を推進し,生徒が問題解決をする手だてを講じ,学習評価の在り方についての工夫・改善をし,これからの専門教育に関する教科の学習指導に生かすことにした。
 
 農業・工業・商業科における自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導に関する実態調査
   研究協力員の所属する県立高等学校の生徒及び教師を対象に,研究主題に関する基本的な考えについて実態調査を実施した。
  (1)  調査対象
    生徒・・・ 研究協力員の所属する県立高等学校6校の第3学年各2学級〔農業(農業科・畜産科・生活科学科・食品化学科)・工業(機械科・情報技術科・電子機械科)・商業(商業科)〕を対象とした。回答者は,419人。
    教師・・・ 研究協力員の所属する県立高等学校(農業・工業・商業)6校の教科担当教員を対象とした。回答者は,167人。
  (2)  実施時期 平成12年7月10日から平成12年7月17日まで
  (3)
 調査項目,調査結果及び分析  【表中の数値は,全回答者数に対する各問の回答者数の割合(%)である。】
     生徒の実態調査
      (ア)  授業に対する目的意識について
         授業に対する目的意識(表1)では「進学や就職に備えるため」が生徒全体の40%を超え,「知識を身につけるため」が全体で30%を超えている。
 また,「学んだことが将来の生活に役立つ」は農業科で20%を超え,授業の内容が直接的に将来に関わる農業科の特徴であると考えられる。全体的には割合が低いが,「人格を向上させるため」は商業科で約10%を示している。
 これらの結果から,それぞれの学科の特徴が目的意識に反映されていると考えられるが,生徒が進路のことや将来の生活設計を真剣に考えていることが窺える。
表1
      (イ)  授業に望んでいるものについて
         意欲的に取り組める授業(表2)では「授業内容がよく理解できる授業」が全体で30%を超え,生徒は理解できる授業を望んでいる。「資格取得に関係する授業」も高い割合を示し,特に商業科においては全校をあげて資格取得に積極的に取り組んでいる様子が分かる。また,「自ら体を動かす実習の授業」は農業科・工業科で高い割合を示し,実習中心の授業に期待を寄せている。
表2
      (ウ)  学習意欲について
         高校生活で身に付けておくべきもの(表3)では,全体に割合が平均しているが「主体的に判断,行動できる能力」が全体で30%にせまり,「人間性,国際性,社会性」と「個性を伸ばして,創造性を培うこと」は全体で20%を超えている。このことにより,生徒自身が主体的に判断,行動し,人間性,国際性,社会性,創造性を積極的に身に付けることを望んでいる様子が分かる。
表3
      (エ)  問題解決の手だてについて
         授業で困難な問題にあった時の解決法(表4)では,「友人に相談」が高い割合である。また,「先生に相談」もすべての学科で10%を超え,最終的な相談は教師に任せている。「見通し(仮説)をたてる」など,自分で考えたり,「図書館やインターネット等で調べる」などの調べ学習については全体で4%と割合が低く,研究主題から考えれば,調べ学習や見通しを立てることに対しても生徒自らが取り組むことが大切である。
表4
      (オ)  評価に対する希望について
         学習成績で評価して欲しい観点(表5)では,「学習態度や意欲の評価」が全体で50%を超え,「自己評価や生徒同士の相互評価など」も全体で20%を超え,生徒を多面的に評価する具体的な方法について考える必要がある。
表5
     教師の実態調査
      (ア)  授業に対する目的意識について
         生徒がよりよく生きるため身に付けさせておきたいこと(表A)は「人を思いやる心や感動する心」,「自ら学び,自ら考える力」が全体で30%を超え,商業科は「人を思いやる心や感動する心」が,工業科は「自ら学び,自ら考える力」が50%に近い。商業科は,生徒にビジネス教育充実のため,農業科・工業科は,実習中心の授業を推進するため,自ら行動する力を身に付けさせたい教師の気持ちが表われている。
表A
         自ら学び,自ら考える力を育成するための重視事項(表B)では,「自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付ける」が全体で30%を超え,これは表Aの項目の「自ら学び,自ら考える力」が高い割合を示していることと関連が見られる。また,ほとんどの項目が軒並み1割強の割合を見せており,自ら学び,自ら考える専門教育を行う上で,すべて重要な項目であることが分かる。
表B
         授業で生徒にどのような目的をもたせているか(表C)では,「教養を高め,人格を向上させるため」,「学んだことが将来の生活に役立つと思うから」が全体で30%を超えている。その背景として専門教育に関する教科においては,知識一辺倒の授業だけではなく,人格を向上させ,職業観や勤労観の確立を目的として,学習指導に取り組んでいる様子が見られる。
表C
      (イ)  授業に対する姿勢について
         授業展開の留意事項(表D)では,「新しい知識や技能を身に付けることに喜びや達成感を感じさせる」, 「生徒一人一人の良さや可能性を伸ばし,個性を大切にする」,「自ら考え学ぶ力を生徒に発揮させる授業方法の検討と実践」がほぼ30%で,これは,生徒に対して一人一人のよさや個性を大切にし,生徒の能力を伸ばすことにより喜びや達成感を感じさせる授業を重視していることが分かる。
表D
         授業の効果をあげるための手だて(表E)では,「指導計画の工夫」が約40%で,「副教材の活用」,「特色ある学習形態の実践」が全体で20%を超えている。授業の効果をあげるためには,綿密な指導計画を練り,一人一人の生徒を授業の各場面で生かせるような指導法を考え,そのために効果的な副教材の活用,特色ある学習形態の実践に心がける必要性があると思われる。
表E
      (ウ)  学習意欲について
         学習意欲を高める手だて(表F)では,「教材・教具・機器の使用」が全体で40%,農業科では50%を超えている。「能力に応じた授業展開」は全体で30%にせまり,「習熟度に応じた指導法」は工業科・商業科では20%を超えている。このことは, 学習意欲を高めるためにパソコンをはじめとする「教材・教具・機器の使用」が十分にされているためであると考えられる。また,「能力に応じた授業展開」,「習熟度に応じた指導法」の割合が高いのも生徒一人一人が能力に応じた授業展開を望んでおり,教師側も学習意欲を高める手だてとして十分認識している様子が窺われ,習熟度別授業や課外授業等を講じる必要性があると思われる。
表F
      (エ)  問題解決能力について
         授業実践における問題解決能力育成のための重視事項(表G)では,「生徒自らが考える時間の確保」が全体で40%を占め,「自分の考えや思いが自由に表現できる場の設定」が農業科・工業科で,「グループ学習による生徒相互での討議」は商業科で高い割合を見せている。このことは,生徒たちにじっくり考えさせる時間を与え,自分の考えを 自由に表現できる場を大切にし,グループ学習による生徒同士の話し合いも大切にし たいと考えている表われである。教師側としては,授業展開に余裕をもたせ,教師主導から生徒主体へ変わるように,学習指導面での工夫が必要であると思われる。
表G
         問題解決能力育成の目的(表H)では,「自己実現のため」が全体で約40%にせまり,「社会の変化に対応するため」,「生活力の向上をはかるため」が全体で20%を超え,これは教師が生徒に自分の力で未知の分野を切り開くことに期待を寄せていることの表われである。また,専門教育に関する教科の指導は,社会の変化に迅速に対応する必要があり,社会の変化を十分に読み取ることが大切であると考えられていると思われる。
表H
  (4)  実態調査結果のまとめ
     教師は,生徒が自ら学び,問題解決能力を高めるためには,授業に対する目的意識や「自ら学び,自ら考える力」を高めることが必要であると考え,授業において「自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付ける」ことを重視事項としている。また,将来の生活に役立つことを目的として,学習指導に取り組ませることが大切であると考えられる。
     教師は授業において,生徒の勤労観や職業観を確立し,問題解決能力を育てる教育の充実を図るため,個別指導の徹底,分かる授業,生徒主体型の授業,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具を活用した指導法など,学習指導の改善と充実に努めることが大切であると考えられる。
     生徒が教師に「授業内容がよく理解できる授業」,「資格取得に関係する授業」,「実習中心の授業」を期待し,人間性,国際性,社会性を積極的に身に付けたいという希望をもっていることは,進路や将来の生活設計を真剣に考えてのことと思われる。
 
 研究主題に迫るための手だて
   生徒及び教師を対象とした実態調査の結果を踏まえ,次のような手だてを講じ,授業研究を通して検証することにした。
  (1)  授業の効果をあげるため,「授業計画の工夫」,「副教材の活用」,「特色ある学習形態の実践」を推進する。
  (2)  生徒の学習意欲を高めるため,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具を活用した指導法の研究を行い,能力に応じた授業展開を推進する。
  (3)  問題解決の手だてとしては,自ら学び,自ら考える力を育成する目的から,生徒の実態調査で圧倒的に多かった「友人に相談」するといったことを生かし,見通し(仮説)をたてたり,図書館やインターネット等を活用する場や機会を増やすようにする。
  (4)  自ら学ぶ意欲や学習態度を考慮した学習評価の在り方について工夫・改善を図る。
 
 授業研究
   研究の基本的な考えと実態調査の結果を踏まえ,専門教育に関する基礎的・基本的な知識や技術の習得を図り,生徒が自ら学び,問題解決能力を高める学習指導の在り方を究明するため,農業・工業・商業科の各教科において授業研究を行った。


[農業・工業・商業科目次]