はじめに
 新しい学習指導要領解説の生活編では,改訂の基本方針として,第1に,「児童が身近な人々,社会及び自然と直接かかわる活動や体験を一層重視する」こと,第2に,「直接かかわる活動や体験の中で生まれる知的な気付きを大切にする指導が行われるようにする」こと,第3に,「各学校において,地域の環境や児童の実態に応じて創意工夫を生かした教育活動や,重点的・弾力的な指導が一層活発に展開できるようにする」ことを挙げている。生活科の基礎・基本は,子どもが身近な人々,社会及び自然と直接かかわる中で行われるところの具体的な活動や体験である。そこで,子どもが,身近な人々,社会及び自然と直接かかわる活動を通して,多様な見方や考え方を培い,豊かな表現力を育てる生活科学習に焦点を当て,子どもの自ら学び,自ら考える力を育てる生活科学習の支援の在り方を究明することにした。
 
 研究のねらい
   生活科学習の指導に関する実態調査結果をもとに,子どもが身近な人々,社会及び自然と直接かかわる活動や体験を通して,多様な見方や考え方を培い,豊かな表現力を育てることに焦点を当て,子どもの自ら学び,自ら考える力を育てる生活科学習の支援の在り方を究明する。
 
 研究主題に関する基本的な考え方
  (1)  生活科学習における,子どもの自ら学び,自ら考える力を育てるとは
     嶋野道弘氏注)は,生活科における,子どもの自ら学び,自ら考える力を育てるには「子どもが身近な人,社会及び自然と直接かかわり,それらとやりとりする」ことが大切であると述べている。また,「子どもは身近な環境とのやりとりの中で,新たな思いや願いを生み出す。それは,子どもにとって,どうにかして実現したいめあてである。子どもはそれに向かって,自ら問題に気付き,自ら考えるなどして,よりよく問題を解決していこうとする。」と述べている。これらのことより,本研究では,生活科において,子どもの自ら学び,自ら考える力を育てるためには,子どもが,身近な環境と直接かかわり,それらとやりとりすることができるよう支援していくことが大切と考える。
  (2)  子どもが身近な人々,社会及び自然などの環境と直接かかわり,それらとやりとりするための支援について
     子どもが身近な人々,社会及び自然などの環境と直接かかわり,それらとやりとりするためには,第1に,子どもが身近な環境に興味・関心をもつよう支援することが大切である。身近な環境に自分としてどのようにかかわっていくか,子どもに身近な環境に対する思いや願いをもたせることである。第2に,身近な環境に対して生じた,子どもの思いや願いを生かすよう支援することが大切である。具体的には,子どもが思いや願いを生かして実際に活動したり,体験したりできるように,多様な素材や用具を準備したりする等子どもの活動を手助けすることである。第3に,子どもが自分を振り返り,自分自身や自分の生活について理解を深めるよう支援することが大切である。それには,自分の思いや願いが生かされた活動や体験が,充実したものだったか,また,友達の活動や体験と比べてどうだったか,というように,自分の活動を振り返ったり,友達の活動を共有しそれを自分の活動と比較することにより,その後の活動や体験に生かせるようにすることが大切である。そしてこれらの一連の学習が次の子どもの新たな興味・関心につながっていくと考える。
  (3)  子どもの知的な気付きと子どもの表現活動について
     新しい学習指導要領では,知的な気付きを大切にする指導を行うよう示されている。子どもの直接かかわる体験や活動は,それを通して気付いたこと等を子どもに自覚されて意味をなし,価値あるものとなる。それには表現活動を通して,その活動を振り返ってとらえ直すことが大切である。
 注)嶋野道弘(文部科学省視学官)『新しい教育課程と学習活動の実際生活』,東洋館出版,1999年
 
 生活科における自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導に関する実態調査
   研究主題の基本的な考えに基づき,自ら学び,自ら考える力を育てる生活科学習を支援する上での教師や児童の実態について調査を実施した。
  (1)  調査対象
     教師の調査は,今年度の研究協力員の小学校教師と,10年次研修講座(小学校・生活)を受講した教師を対象に実施したものである。(男6人,女72人,計78人)また,児童の調査は,今年度の研究協力員の小学校2年生を対象に実施したものである。(小学校8校の児童,男118人,女99人,計217人)
  (2)  実施時期  平成12年7月10日(月)から平成12年8月10日(木)まで
  (3)  調査項目,調査結果及び分析
     【表中の数値は,全て総回答数に対する各問の回答数の割合(%)である。】
     教師の実態調査の分析
      (ア)  これからの社会で児童に身に付けさせたいこと
        表1 新しい生活科の学習指導要領の改訂では,人とのかかわりをより一層重視することが求められている。他人を思いやる心は,人とかかわる上で基本となるものである。表1で,選択肢イの回答率が最も高いのは,他人を思いやる心や感動する心を大切にしたいという教師の思いの現れである。
      (イ)  「自ら学び,自ら考える力」を育成するために重視していること
        表2 表2で,選択肢ウ,アの回答率が高いのは,児童の考えや思いを表現する表現力や学ぶ力を身に付けさせることを重視しているからである。また,イ,オの回答率が低いのは,小学校低学年を「自ら学び,自ら考える力」を育てるための基礎を養う学年と位置付けているためと考えられる。
      (ウ)  「自ら学び,自ら考える力」を育てることを意識して授業をしているか
        表3 表3では,選択肢ア,イを合わせて90%を越えることから,児童の「自ら学び,自ら考える力」を育てることを意識した授業が意識的に実践されていることが推察できる。
      (エ)  「自ら学び,自ら考える力」が身に付く場面
        表4 児童は体験的な活動を好み楽しんでいるが,ただ体験するだけでは学習の目的が見付けられない児童もいる。表4から,児童が自分のやりたいこと調べたいことが見付けられた場面や,新たな気付きをした場面で,児童の「自ら学び,自ら考える力」が身に付く,と感じていることが分かる。また身近な人々,自然などの環境に積極的にかかわる場面で身に付く,と考えている教師も多い。
      (オ)  「自ら学び,自ら考える力」を育てるのに問題になること
        表5 表5で,選択肢イの回答率が高いのは,主体的学習は重要であるが,一人一人に応じた支援の難しさの現状を示すものである。児童がどのような発想や夢をもつか児童の反応を予想し対応したり,学習の場を工夫することが,ウ,エの解決につながると考えられる。一人一人に応じた支援のために,ティーム・ティーチングなどの指導形態を授業に取り入れ,その活用を通して授業改善していく必要があると考える。
      (カ)  「自ら学び,自ら考える力」を育てるために講じている手だて
        表6 表6より,講じている手だてで多かったのは,選択肢イの「具体的な体験活動を重視し実践する」ということであった。中教審答申では,具体的な体験活動の重要性を認識しながらも,活動内容が画一的な指導に偏りがちな面が指摘されている。生活科の学習では地域との関わりを一層重視し,地域に関心をもつことができるよう配慮し,その上で体験活動を重視した学習を促したい。
      (キ)  「自ら学び,自ら考える力」を育成するための効果的なはたらきかけ
        表7 表7より効果的なはたらきかけとして多かったのは選択肢オとエである。児童の多様な活動を支援するためにも,思いや願い,気付きを的確にとらえる必要がある。児童の気付きをどのように授業に生かすかによって,その後の活動の深まり具合も変わってくるものと考えられる。
      (ク)  「自ら学び,自ら考える力」の評価
        表8 表8より,評価においては,選択肢イとウが回答率が高かった。児童の自己評価の大切さや活動する中での見取りの必要性を指摘しているものである。児童が体験したり活動したりした中での表情・仕草・つぶやきなどは児童理解の上で重要でありそれらを的確に把握することで望ましい授業展開をすることが可能になる。児童の活動を更に発展させるためにも,児童の心や感性の広がりと深さを十分に感じ取り,評価の手だてを工夫していきたいものである。
     児童の実態調査の分析
      (ア)  授業への取り組み
        表9,10 表9では,子どもたちの生活科に対する好感度は非常に高く,好きと答えている児童が 70 %を超えている。生活科が,作業的,体験的学習が多いことも一因であると考えられる。表10より,探検をしたり,物をつくったりすることは好きだが,発表会をすること等はあまり好きではないことがうかがえる。生活科の特性から,授業の中に発表する場を意識的に取り入れていく必要がある。
      (イ)   授業中の活動について
        表11 表11では,授業中に自分の考えを友達に知らせることができたと解答した児童が多く見られた。表現力を高めたいと考え実践している生活科の授業が多いことがうかがえる。また表12では,生活科の授業において分からないときは,友達,家の人,先生等に聞く児童が80%と最も多い結果であった。低学年であっても,本等を使って自分で調べる態度も養いたいものである。
      (ウ)  自己評価と学習の広がり
        表13、14 表13,14より,友達の評価ができる,と感じている児童が多く,生活科の学習が事後にも何らかの形で生かされていることが分かる。
  (4)  実態調査のまとめ
     教師は,子どもの自ら学び,自ら考える力の育成の必要性を感じ,子どもの思いや願いを生かすよう,具体的な体験活動を重視し実践している。しかし,子どもの自発性に基づいた活動において,どうしたら個に応じた支援ができるか,という難しさを感じている。子どもの自ら学び,自ら考える力を育てるためには,子どもの気付きを大切にし,広めていくことが大切であると考えている。また,評価では,自己評価や授業中のつぶやきや表現の観察を重視していることが明らかになった。
 
 研究主題に迫るための手だて
   実態調査の結果を踏まえ,次の(手だてT)〜(手だてW)を講じて研究を進めた。
  (1)  子どもが「身近な環境と直接かかわり,それらとやりとりする」ための支援について
     (手だてT) …子どもが身近な環境に興味・関心をもつための支援
      支援表や発見カードの活用,ティーム・ティーチングの導入,人材マップの整備等
     (手だてU) …子どもの思いや願いを生かすための支援
      多様な素材や用具の準備,ヘルプカードの導入,調べ方カード等
     (手だてV) …子どもが自分を振り返り,自分自身や自分の生活について理解を深めるための支援
      振り返りや互いの体験を共有するの場の設定等
  (2)  子どもの表現力を高めるための支援について
     (手だてW) …子どもが,思いや願いを広めるための支援
      概念地図等の活用,ブレイン・ストーミング等
 
 授業研究
   研究主題に関する基本的な考えと実態調査の結果を踏まえ,子どもが身近な環境と直接かかわるための生活科の支援の手だてを講じて授業研究を行った。


[生活科目次]