【授業研究1】
   小学校第1学年「ひきざん(2)」
 
(1)  授業の構想
  表1 研究主題「算数的活動の楽しさを味わう算数科学習指導の在り方」に迫るためには,子ど も一人一人が目的意識をもって主体的に取り組めるような指導法の改善が必要である。自分らしさを発揮し学び合いながら算数のよさを見つけだしていく過程において,さまざまな算数的活動に取り組むことにより,考える楽しさに気付けるようにすることが大切と考える。そのためには,子ども自らが問題をつかみ,解決への意欲を高めるような場面設定や単元構成の工夫,既習事項に目を向け,それを生かしながら,さまざまな方法で解決できるような学習の場や支援の工夫,さらには,自力で導き出した考えを広げ,互いに深めて算数のよさに気付いていく場の設定が必要と考える。
 一方,表1の算数科学習についての意識調査から子どもたちの実態を見てみると,質問1の「どんなとき楽しいと思うか」に対して,「友達がよい考えを出したき」と「自分の考えが発表できたとき」が6人で最も多かった。このことから,子どもたちが学び合いの場に関心をもっており,友達の様々な考えを聞くことや自分の考えを友達に伝えることに喜びを感じていることが分かる。しかし,「おはじきやブロックを使って考えるとき」を回答した子どもが5人いるものの,「いろいろなやり方を見つけたとき 」, 「自分で考えたり調べたりするとき」と回答した子どもは少なく,自ら工夫して問題解決に取り組めるような場の工夫が必要と考える。
 質問2の「どんなとき算数は便利と思うか」に対しては,「簡単にやる方法が見つかったとき」,「前に使ったアイディアが,また使えたとき」を多くの子どもが回答していることから,算数のよさに関心を示し始めていることが分かる。しかし,「学習したことを使って新しい問題が解けたとき」,「算数で学習したことを生活の中で使えたとき」を回答した子どもは少なく,応用的な算数的活動を取り入れ,活動を楽しむことにより算数のよさを味わえるように工夫することが大切と考える。
 そこで,ひきざん(2)の単元の終末において,本単元までに見いだした数学的なアイディア,数や計算にかかわる気付きを生かして問題を解決する場面を設定し,子ども自らが算数的活動に取り組めるよう工夫していきたいと考えた。
(2)  指導の手だて
   算数的活動の楽しさを味わうことと算数のよさ
     清水静海氏(筑波大学)は,「クレアール 算数的活動を楽しむ子ども」の中で,算数を生かしたり,役立てたりする場面について,「いずれも算数のはたらき,よさなどを分かりなおし,よりよく分かるようになる機会として重要である。」と述べている。また,算数のよさを算数的な活動の動因としてとらえ,その指導の充実を図る必要性を述べている。このことから,算数のよさは,算数的活動に取り組むうえで重要であり,算数的活動を楽しむという点において,算数のよさの感得が大きくかかわってくると考える。
 そこで,本単元で押さえたい算数のよさを次のようにとらえ,単元を構成した。
  • 数を二つに分けて計算するよさ
  • 10のまとまりをほどくよさ
  • 減加法のよさ
  • 減々法のよさ
  • 順番に考えたり,整理したりするよさ
  • 減法の決まりに着目することのよさ
   単元構成の工夫
     単元の導入において,既習事項を基にこれから学習することについて見通し,解決への意欲を高めるためにオリエンテーションを位置付け,既習の計算とは違う“繰り下がりのある引き算”について,一人一人が問題意識をもてるようにする。そして,子どもたちの考えを生かして,いくつかの解決方法の見通しをもたせ,減加法と減々法のよさに気付けるように数値に配慮して単元を構成することにする。
 また,減法が用いられる場の理解や計算カードによる習熟の学習についても既習事項を生かしながら見通しをもたせ,小単元全体の中で問題解決的な過程を取れるように構成を工夫する。なお,計算カードについては,カード作りを取り入れ,落ちや重なりのない作り方の工夫として順序性の考えのよさに気付いたり,差が一定のときや差が1ずつ変化したときなどの被減数と減数の関係に着目したりして,減法の決まりに気付いたりできるようにする。
   学習したことを生かす場面の工夫
     算数的活動について,小学校学習指導要領解説算数編(文部省 平成11年5月)の中で示された一つに「応用的な算数的活動:学習したことをさまざまな場面に応用する活動」とある。またその意義として挙げている中に「算数と他教科を関連させる活動を構想しやすいものとする。」とある。
 本実践はこの二つに焦点を当て,算数で学んだ繰り下がりの引き算の学習を体育の授業の中に取り入れ,そこでの体験を算数の授業に生かし,子どもたちの思考活動へとつなげることにする。
 まず,問題設定に当たって,前時に体育科との合科授業を行い,基本の運動「とんだり,はねたり」の学習の中で,数カードを引き,式を構成して計算の習熟を図りながら,差の分だけ飛んだり跳ねたりし,相手チームを追い越した方が勝ちという運動をする。この体験を生かして,次時に問題場面を設定することにより,一人一人が問題を受け止め,問題意識をもって問題解決に取り組むことができるようにする。
   算数のよさに気付いていく場の工夫
     子どもたちが一人一人の発想を生かして取り組めるように,オープンエンドな問題を提示し,ブロック,図,数図カード,計算カード,等の学習コーナーを設置する。このため,子どもたちの活動は多様になることが予想されるので,ティーム・ティーチング(以下T・T)指導の形態をとり,支援の充実を図るようにする。また,自力解決の時間を十分確保し,自分なりに方法を工夫しながら問題解決を図り,算数的活動の楽しさを味わえるようにする。さらに,自分が考えた方法を友達に伝え,深めていく場を設定したうえで,集団で練り上げ,自分の活動を振り返ることにより,算数のよさに気付けるようにする。
(3)  授業の展開
   目  標
    ゲームの場面から問題を把握し,学習したことを生かしながら自分なりに工夫して問題解決に取り組む。
    さまざまな解決方法を比較検討することを通して,減法の決まりに着目することのよさに気付く。
   展開
展開
   
(4)  授業の記録
記録

(5)  授業の考察
   体験活動を生かした問題設定について
     「おいかけっこゲーム」で体験したことが問題場面として提示されたので,授業記録や表2の授業後の自己評価の結果比較のaから分かるように問題の内容をつかみ,繰り下がりの引き算において,差が8か9になる式を考えればよいことを理解することができた。
   算数的活動の様子について
     授業の記録からも分かるように,子どもたちは5つの学習コーナーのうち,式,計算カード,数図カード,図の4つのコーナーを選択し,意欲的に問題解決に取り組んだ。その中で順序性に着目して考え始めたのは,15人中8人であり,教師の「これで全部ですか」という投げかけに,被減数を順番に数え始め順序性に着目できたのは,5人であった。また,式コーナーや,計算カードを選択した子どもの中に,数図コーナーやブロックコーナーに行き,確かめをする姿が見られた。
 式作りでは,見通しをもって被減数の一位数と減数の大きさの違いや差が一定の場合の被減数と減数の変化に着目して解決していた。これは,計算カード作りや追いかけっこゲームの中で,被減数や減数,差に着目する活動を経験したためと考えられる。また,計算カードでは,順序性に着目した子は,被減数と減数の変化に気付いており,数図カードやブロックでは,差が一定の場合の被減数と減数の変化や被減数の一位数と減数の大きさの違いに気付くことができた。学習コーナーを選択した理由については,授業後に聞いてみると,「式で順番に考えていけばすぐに見つけられる」,「 計算カードは式が書いてあるので見つけやすい」など,今までの算数的活動を基に選択の理由を話すことができていた。
 これらのことは,表2のb,cについての自己評価の結果が,たしざん(2)に比べよくなっていることにも表れており,子どもたちが目的意識をもって自分なりに工夫しながら,問題解決に取り組むことができたことにつながると考える。
   算数のよさの感得について
     表2のd,eからも分かるようにグループや全体の話し合いを通して,新しい気付きを友達に伝えたり,友達の考えのよさに気付いたり,既習事項を生かせたことを認め合ったりして算数のよさに触れることができた。授業後の振り返りの中にも,「 順番に考えるのは便利」,「 数図カードで確かめると1ずつ減ったり増えたりするのがよく分かった」など考え方や方法についてのよさについて記述されていた。また,発展問題では,答えが6になるカードを考えるのに15人全員が順番に考えており,13人がすべてを書き出していた。
(6)  まとめと今後の課題
   体育の授業と関連付けた授業を展開したことにより,子どもは体験を通して,算数的な気付きを生み出し,さらに,それらの気付きや今までに学んだことを自ら問題解決に生かすことにより,算数のよさを味わうことができた。しかし,グループの話し合いを子どもたちの力で深めていくことは,教師の支援がないと難しさがあった。今後さらに,子ども自らが算数的な気付きを見いだすような場の設定を工夫するとともに,子ども同士の話し合いを通して互いの考えを深め合えるように,学び合いの場を意図的計画的に設定していきたいと考える。また,個に応じた支援を充実させるためのT・Tによる指導の工夫も図っていきたい。

[算数・数学科目次]