研究の成果
   本研究では,表現力に関する実態調査を踏まえて,基礎的・基本的な事項の徹底と学習したことの充実感や成就感を感得できるようにする場の設定,学習意欲を高める学習指導の工夫・改善,及び児童生徒相互の交流を重視した学習活動の展開に関する手だてを講じ,授業研究を行った。以下に,実態調査の結果明らかになった問題点と,研究主題に迫るための手だての有効性の中から主なものについて述べる。
  (1)  実態調査から
     表現力に関する実態について,児童生徒は,「表現技能」や「自分の感想をまとめる」などを挙げ,技能向上や目的や場面に応じて話したり聞いたりする能力が求められている。教師では,「系統的計画的指導」の数値が高く,次に表現内容を充実させる指導を考えている。児童生徒には,自分の考えを大切にし,目的や場面に応じて話したり聞いたりする能力を高めることが求められている。技能的な面の指導や系統的な指導を生かして,音声言語の表現の学習意欲を高める指導の工夫が望まれる。
 表現の評価にかかわる面については,児童生徒がよいところや足りないところの具体的な助言を強く期待していることがうかがえた。児童生徒が積極的に自分の表現力の伸びを自覚できるような方策をとることも必要であると考える。
  (2)  授業研究から
     小学校第5学年「自分の立場や考えをはっきりさせて話し合おう」の実践では,想像しうる未来の架空の会議という設定により,想像力をはたらかせた自由な思考をする中から豊かな表現内容を獲得し,それを論理的に表現できた。また,相手意識や目的意識等の言語意識を明確にもって活動することにより,表現意欲を喚起することができた。
 中学校第2学年「目的に沿って効果的に対話しよう」の実践では,目的に沿って効果的に対話する学習を設定し,目的や方向に沿って効果的に話したり相手の意図を考えながら聞いたりすることを意識した対話の学習の工夫改善を試みた。その結果,生徒は相手意識や場面意識を明確にもち効果的な対話活動ができた。
 高等学校第1学年「文学作品をディベートしよう」の実践では,小説「羅生門」を扱う中で,ディベートを通して,老婆の悪の論理や下人の行動について他者の意見を聞き,さまざまな視点があることに気付き,それらの意見を尊重しながら,自分の考えを論理的に表現する学習活動を試みた。その結果,生徒は発表用シートを事前にまとめ,相手を説得できる論拠をもった文章を主体的に表現することができた。また,相手の意見を聞き,自分の考えをまとめるに際して,ディベートのビデオの活用を図り学習活動を展開した。
 
おわりに
 1年間にわたり,自ら学び,自ら考える力を育てることをねらいとして,理論研究,調査研究,授業研究を行ってきた。児童生徒に対し,国語科においての主体的な表現力を育てるために,指導内容と言語活動との密接な関連を図る。さらに,児童生徒の主体的な学習活動を促しながら日々の授業の中でも,学習目標の明確化を図り,児童生徒の興味・関心や学習意欲を高めるための適切な支援や指導の在り方を究明していく必要があろう。


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