【授業研究3】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
高等学校第1学年「文学作品をディベートしよう−羅生門−」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(1) | 授業の構想 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究主題の表現することにかかわる実態調査から,高校生は話すことの学習や活動で,「人の意見を注意して聞き,自分の考えや感想をまとめることができないこと」を困っていることとし,「話題を見つけて,話す事柄をはっきりさせること」,「話す材料の集め方や話の組立てに関すること」「相手や場面に応じた言葉の使い方に関すること」などを,話すことや聞くことの学習の中で教えて欲しいと考えていることが分かる。 そこで今回は,「国語表現T」の学習指導要領の内容に「目的や場に応じて,言葉遣いや文体など表現を工夫して話したり書いたりする。」内容の取り扱いに「指導に当たっては『自分の考えを明確にして,スピーチ,発表,討論など』の言語活動を行うこと」とあるように本研究の主題である「主体的に表現する力」の育成を文学作品にディベートを取り入れることで試みてみたい。 本校の生徒の場合,授業に対しては受け身的で,自分の考えをもって論理的に意見を述べたり,相手の考えを尊重して話し合ったりする態度や能力が十分に身に付いていない。そこで,小説「羅生門」を扱う中で,一方的で文学的な文章読解に偏りがちな指導の在り方を改め,ディベートを通して,老婆の悪の論理や下人の行動について自分以外の人の意見にも耳を傾け,そこにはさまざまな視点があることに気付き,それらの意見を尊重しながら,自分の思考を深め,考えを論理的に表現することを目的とした授業の展開を試みた。 |
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(2) | 指導の手だて | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 学習過程の工夫 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ディベートを通して,さまざまな視点があることに気付かせるために内容の読解は文章表現に即して指導するようにした。その中で,問題点(ディベートの命題としようとするところ)は,強調して指導する。さらに,それについては,自分なりの意見を予めまとめさせておくこととする。それを,アンケートの形で賛否両論にまとめ,なぜ,自分は賛成なのか,反対なのかその根拠について理由をまとめさせておくことにする。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 参考ビデオの視聴 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
何人かの生徒は中学校において「ディベート」と言う言葉は聞いたことはあるが,全員がそのやり方について明確に理解しているわけではないので,ディベートの形式を理解するために参考のディベートビデオを視聴させる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ウ | 発表用シート(ディベート用フォーマット)の利用 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
初めてディベートに取り組む生徒も多く,また,普段から自分の意見をまとめて発表することに慣れていない生徒たちなので,予め,発表する内容をまとめて原稿を作成しておくように指導し,ディベートを行う際もそのメモシートを見ながら発表してもよいこととする。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エ | 題材(ディベートの命題)の工夫 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
羅生門の中に出てくる老婆が引剥(は)ぎをする行為(老婆の悪の論理)や老婆の論理を聞いた後に下人の取った行動など,生徒が共感できるか,許せないと思うかなど,比較的意見を述べやすくて意見が分かれるところをディベートの命題に選ぶなど題材を工夫する。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | 学習指導案 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 単元 文学作品をディベートしようー羅生門ー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イ | 目標 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 文章に描かれた人物,情景,心情などを表現に即して読み味わう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(イ) | ディベートを通して作品に主体的にかかわり,論拠をあげて自分の意見を述べたり, 自分以外のさまざまな視点あることに気づき,相手の意見を尊重することができる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ウ | 学習計画 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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エ | 本時の学習 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 目 標 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(イ) | 準備・資料 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(ウ) | 展開 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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オ | 評価 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(4) | 授業の考察と課題 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ア | 授業考察 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 参考ビデオ視聴と発表用シート利用の効果 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本時の授業において,「老婆の悪の論理」についてディベートを行ったが,参考に模範ディベートのビデオを視聴させておいたので,形式は簡略したものであったが,ディベートの形式や流れを理解して,さらに体験的に学ぶことができたようである。 また,命題に対しての自分の意見を予め発表シートにまとめさせておき,ディベートの際もそのシートを利用してよいこととしたので,意見発表そのものはスムーズにできた。さらに,発表用シートを事前にまとめさせておいたことは,生徒が自分で自分の意見を何度も読み返して,論理的な文章であるか,相手を説得できるような論拠をもった文章であるか推敲できたので,主体的に表現することができた。 |
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(イ) | 簡略化したディベートと題材(ディベートの命題)の効果 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
今回行ったディベートは命題について肯定側・否定側それぞれ5人ずつ選出して,肯定側・否定側の意見,反駁(ばく),結論を5人それぞれが発表する形式を取った。このことによって,命題に対して肯定の立場であっても,否定の立場であっても,論拠は人によっていろいろで,さまざまな視点があるということが明らかになった。また,そこには,「老婆の悪の論理」を肯定するか否定するかという,生徒にとっては比較的意見を述べやすく,しかも意見が分かれる点を命題に選んだ効果もあったと考えられる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(ウ) | ディベート記録シート記入の効果 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ディベーター以外の生徒には,審判としてディベート記録シートへメモを取らせた。 また,生徒たちは普段,メモを取りながら話を聞く経験が少ないので,慣れずに大変であったようであるが,審判として緊張感をもちながら,集中して真剣にディベーターの意見に耳を傾けることに繋がった。また,肯定側・否定側それぞれのディベーターが意見を述べていく中で,論拠が明確になっているか,筋道が通っているかなど正確に把握し,最後に判定をする時の判断材料とすることができた。 |
(エ) | 生徒の感想から(役割) | |||
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イ | 今後の課題 | |||
(ア) | ディベートを含め,意見発表がしやすい雰囲気というものがある。まず,教室の雰囲気が和やかで節度があり,生徒達の心が開かれていることが必要だ。それはすぐにつくりあげることはできないし,生徒の個人差のでるところでもある。しかしながら,毎日の授業の中で教師と生徒の関係,教室の雰囲気,節度を保つ工夫は必要であろう。 | |||
(イ) | ディベートを行う場合,発表者の内容,形態,構成とも充分であったとしても小さな声や消極的な態度では発表はうまくいかない。しっかりとした声と明瞭な発声は基本的な言葉の力であるが,身に付いていない生徒が多い。心が開かれていることと関連するが,普段の授業の中での音読や意見発表にも生かされることなので,発声の仕方,話す速度から始める必要がある。 | |||
(ウ) | 今回は文学作品を扱いながら,一方的な文章読解の指導に偏ることなく表現に即した指導を心がけたつもりであるが,ディベーターである生徒の意見の論拠となっているものは生徒自身の発想の豊かさからくるものが多く,もっと生徒同士が文章表現の中から,論題に対する意見の論拠を探せるような場,授業形態を工夫するべきであった。 | |||
(エ) | 今回,多くの生徒にとって,初めてのディベートを取り入れた授業であった。ディベートの形式,手順を説明し,参考にディベートのビデオを視聴させたところ,いきなりでは多くの生徒が口を開かないであろう。その理由の多くは,「何を話してよいかわからないから」である。そこで,事前に話す内容を原稿の形で用意をさせたが,肯定側,否定側双方の反駁(はんばく)が,リアルタイムでかかわってこない。相手の意見を聞きつつ,それにからめた自分の意見をまとめる力が要求されるが,自分で話そうと思うことを要領よくまとめて,人前で発表することに慣れていかなくてはならない。そのためには,リアルタイムで命題に対して立論,反駁(はんばく)ができるディベートに取り組みたい。 |