【授業研究2】 | ||||
中学校第2学年 「目的に沿って効果的に対話をしよう −『日本語』についてトーク!−」 | ||||
(1) | 授業の構想 | |||
本単元の発想や構想の基盤となったのは,以下の3点である。 まず,本研究の国語科の研究主題「主体的に表現する力が育つ国語科学習指導の在り方」と,それにかかわる実態調査の結果である。調査結果によれば,小,中,高等学校とも「話すことや聞くことの学習で望んでいること」として,多くの児童生徒が「対話」の学習を挙げている。中学校においても,47.7%の生徒が「対話」の学習を望んでいる。 次に,新中学校学習指導要領からとらえた今後の国語科指導の方向である。特に,新領域「話すこと・聞くこと」においては,目的や方向に沿って効果的に話したり,相手の意図を考えながら聞いたりする能力が重視されている。そこで,言語活動例として示された「対話」を通して,その力を育てようと考えた。 さらに,本校2年生の実態である。生徒は,これまでに「話すこと・聞くこと」の言語活動として,ディベートやパネルディスカッションなどの「討論」を経験している。特に,パネルディスカッションについては,文学作品の学習にその導入を試み,論理的に発言したり,話を正確に聞き分けたりしながら,自分の考えを深めることができた。一方で,知人同士の「会話」は日常生活の中で行っているが,目的や方向に沿って効果的に話したり,相手の意図を考えながら聞いたりすることを意識した「対話」の学習は経験していない。 そこで,単元「目的に沿って効果的に対話をしよう」を設定し,生徒にとって身近なトーク番組という形式の中で,目的に沿った効果的な対話の学習を展開していこうと考えた。 |
||||
(2) | 指導の手だて | |||
ア | 「トーク番組」形式の導入 | |||
「目的に沿って効果的に対話」をする学習が初めてであることを考慮し,生徒が意欲的にかつ自然にそうした対話を経験できる形式として「トーク番組」を考えた。トーク番組であるため,「話し手と聞き手」という固定化された関係ではなく,出演者全員が対話に参加できるというメリットもある。 | ||||
イ | 「対話」を経験するための場の設定 | |||
番組の中に「ゲストとのトーク(ゲストへのインタビュー)」を位置づける。ここでのシナリオは,話題の骨子(項目)のみとし,相手の話の展開に沿って,その場で対応しながらテーマについての対話を経験できるようにする。 | ||||
ウ | ゲストティーチャーの活用 | |||
解説者的な立場となるゲストは,社会人講師と本校の国語科教師に依頼する。「対話」はおしゃべりではなく,初対面の人やよく知らない人との新たな情報交換や交流との定義(花田修一氏)もある。おしゃべりではない「対話」を意識させるには,生徒よりもゲストティーチャーが適切であると考えた。 | ||||
エ | 教材の工夫 | |||
対話や番組づくりのヒントにするため,テレビ番組やラジオ講座テキストの教材化を図る。また,トーク番組のテーマに対する課題意識を喚起するため,文化庁の「国語に関する世論調査」や説明文「『日本語』ってなんだろう」(東京書籍2年)を導入で用いる。 | ||||
(3) | 学習指導案 | |||
ア | 単元 | 目的に沿って効果的に対話をしよう −「日本語」についてトーク!− | ||
イ | 目標 | |||
○ | トーク番組づくりやトーク番組での対話を通して,自分なりに対話についての考えを深め,話し言葉や対話生活を豊かにしようとする。(関心・意欲・態度) | |||
○ | 相手の立場や考えを尊重し,目的や方向に沿って話題を整理しながら,効果的に話したり,質問したりすることができる。(話すこと・聞くこと) | |||
○ | 相手の立場や考えを尊重し,目的や方向に沿って対話が展開するように話を聞き分けながら,自分の考えを深めることができる。(話すこと・聞くこと) | |||
○ | 話の内容や意図に応じた適切な声量・速さ・言葉遣いなどに注意して,相手に分かりやすく話すことができる。(言語事項) | |||
ウ | 指導計画(9時間取り扱い) |
|||
エ | 本時の学習 | |||
(ア) | 目 標 | |||
○ | トーク番組の発表の中で,相手の話の展開に沿って効果的に対話をすることができる。 | |||
○ | トーク番組の評価の観点に従って評価したり,よいところを指摘しあったりして,自分なりに対話についての考えを深めることができる。 | |||
(イ) | 展 開 |
(4) | 授業の考察 | |||
「目的に沿った効果的な対話」についての学習が深まったかどうかを,対話の技術を学んだ第4時,対話を経験した本時(第8時),そして単元全体という3点から考察する。 | ||||
ア | 第4時に関する考察 | |||
テレビのトーク番組のVTRやラジオ講座のテキストから,インタビューや対話の技術,番組の構成や出演者の役割について学ぶことをねらった時間である。 まず,「ニュースステーション」(テレビ朝日)を視聴した。特集内容の進め方や出演者の役割を確認できるワークシートを用意しておくことで,生徒は,「テーマの紹介・レポーターの報告・ゲストとのトーク(インタビュー)」という流れに改めて気付いたり,出演者の役割を再確認したりすることができた。 次に,「徹子の部屋」(テレビ朝日)を視聴した。視聴のポイントとして,「話すときの態度」,「多くを聞き出す技術」,「質問の仕方」という三つの観点を示すとともに,ゲストとの対話を文字に起こしたプリントを用意した。資料1は,視聴後に班で話し合った対話の技術をまとめたものである。生徒は,言葉遣い,質問事項,質問の順序や方向性だけでなく,視線や相づちなどの非言語的行動にも気付くことができたことが分かる。 さらにまとめでは,「NHKアナウンサーの『はなす きく よむ』」(NHKラジオ)のテキスト内容であるキャスターの“インタビュー観”を読み,「聞き上手」の条件について確認することができた。 集中してVTRに見入る生徒の表情や,第8・9時の番組発表でこの時間に学んだ対話の技術が大いに生かされることなどから,生徒にとって身近な音声言語を教材化することの重要性を実感する時間となった。 |
||||
イ | 第8時(本時)に関する考察 | |||
まず,第4時に学んだ対話の技術を,相互評価の観点として生徒に示した。発表や相互評価の場において,対話の技術を意識化させることに有効であった。 次に,四つの班がトーク番組を発表した。六つの班からなる学級であるが,班ごとの発表時間を確保するため,二つの班の発表は次時に譲った。全体的には,各班がそれぞれのテーマに沿って,トーク番組を疑似体験することにより,普段は見られない生き生きとした生徒の活動が見られた。また,ゲストティチャーを迎えたことにより,必然的に対話を意識させることもできた。 各班がトーク番組で取り上げたテーマは,A班が「いろいろな土地の方言」,B班が「若者言葉」,C班が「流行語について…」,D班が「方言」である。それぞれのテーマについては,各班2〜3人のレポーター役の生徒からユーモアのある報告や発表が行われた。クイズ形式やアンケート結果を織り交ぜるなど随所に工夫が見られたのは,視聴者という相手意識やレポーターの報告という場面意識を生徒が明確にもっていたためと考えられる。目的に沿った効果的な対話がねらいではあるが,取り上げたテーマに関する調査活動を通して,日本語に対する関心が高まったことは副次的効果として挙げられよう。 番組のメインである「ゲストとのトーク(インタビュー)」においては,ゲストの話の展開に沿って,その場で対応しながら対話を進めることがある程度できていた。ゲストの話に共感したり,言葉を繰り返したり,さらにはゲストの発言を促す言葉を使う場面も見られた。資料2のD班の「ゲストとのトーク」にもその一部があらわれている。視線や相づちなどの非言語的行動はどの班でもしっかりと意識され,共感的に聞こうとする態度が育ちつつあることも実感できた。 また,ゲストの話題に応じて自分たちの調査資料を提示したり,プロデューサー役の生徒がメッセージカードで出演者に対話を促したりと,場面に応じて対話の活性化を図っていた。一人一人の生徒が学習のねらいをしっかり把握していたと考えられる。 |
||||
ウ | 単元全体の考察 | |||
資料3は,単元の最後に行った「振り返りアンケート」に綴られた「対話」について学んだことである。「対話」に楽しさだけでなく難しさを感じた生徒が多いのは,目的や方向性のないおしゃべりではなく,目的に沿った効果的な対話を意識したあらわれと考えられる。 対話を営む能力は,生得的に備わっているものではなく,経験させることによって身に付くものである。今回の授業を通して生徒は,目的に沿った効果的な対話の進め方という単なる方法論だけではなく,すぐれたトーク番組を疑似体験することにより,対話の生産性に気付き,対話の必要性を体験的に理解することができたと考えられる。 一方で,レポーター役やプロデューサー役の中には,ゲストとの対話に積極的に参加できなかった生徒もいる。対話は,多くの学習活動において取り入れることが可能であるため,対話能力の育成という観点から意図的な対話活動を経験させていきたい。 |