研究の趣旨
   「自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導」(国語,算数・数学,生活,図画工作・美術,農業・工業・商業)に関する研究を行い,各学校での学習指導の改善・充実に役立てる。
   
 研究主題
  (1)  研究主題
     自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導
  (2)  教科別研究主題
     国  語 …… 主体的に表現する力が育つ国語科学習の指導の在り方
     算数・数学 …… 算数的活動・数学的活動の楽しさを味わう算数・数学科学習の指導の在り方
     生  活 …… 自ら学び,自ら考える力を育てる生活科学習の支援の在り方
     図画工作・美術 …… 児童生徒が主体的に活動できる鑑賞指導の在り方
     農業・工業・商業 …… 生徒が自ら学び,問題解決能力を高める学習指導の在り方
   
 研究を行う教科(校種)
   国語(小学校・中学校・高等学校),算数・数学(小学校・中学校・高等学校),生活(小学校),図画工作・美術(小学校・中学校),農業・工業・商業(高等学校)
   
 研究期間
   平成12年度の1年間
   
 研究方法及び研究経過
  (1)  研究協力員を委嘱して,1年間にわたり4回の研究協議会を開催した。
  (2)  研究主題「自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導」を設定するとともに,各教科ごとに教科別研究主題を設定して研究を進めた。
  (3)  研究主題に係る自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導について理論研究を行うとともに,自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導に係る教師の意識,授業の実態及び学習指導上の諸問題について調査研究を行った。調査は,県内小学校8校,中学校6校,高等学校10校の教師及び県内小学校8校,中学校6校,高等学校10校の児童生徒を対象とした。また,教科別研究主題に基づき,研究協力員の所属学校で,校種(小学校,中学校,高等学校)ごとに,平成12年に10月から11月にかけて授業研究を実施した。
   
 研究内容
  (1)  研究主題に関する基本的な考え方
     変化の激しいこれからの社会を考えたとき学習者である児童生徒の立場に立って,児童生徒に自ら学び,自ら考える力を育成することを重視した教育を行うことは重要なことである。
 教育課程審議会答申(平成10年7月29日)では,教育課程の基準の改善のねらいの一つとして,自ら学び,自ら考える力を育成することをあげ,思考力,判断力,表現力,問題解決能力を育成し、創造性の基礎を培い、社会の変化に主体的に対応し行動できるようにすることを重視する必要があるとしている。
そこで,本研究では,児童生徒の自ら学び,自ら考える力を育成することを目指して,各学校における学習指導の改善・充実に役立てることができるように,研究主題として,「自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導」を設定し,研究に取り組むことにした。
     「自ら学び,自ら考える力」の概念及び研究の視点
       児童生徒の「自ら学び,自ら考える力」を「既習の知識や経験をもとに,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく解決する能力」ととらえた。このようにとらえた「自ら学び,自ら考える力」は,児童生徒が自ら学ぶ意欲をもち,自分のよさや可能性を伸ばし,自己実現を目指すことができるようになると考えた。
 そして,「自ら学び,自ら考える力」を育成するには,単なる知識・技能の教授ではなく,論理的な思考力,批判的思考力,判断力を養うことが大切であり,特に,
(ア) 自ら課題を見つけること
(イ) 自ら学ぶこと
(ウ)自ら考えること
(エ) 主体的に判断すること
(オ) よりよく解決する能力を身に付けること
といった学び方やものの考え方を身に付けることが重要である。
     「自ら学び,自ら考える力」を身に付けるための場面の設定
       教育実践の場では,学び方やものの考え方を身に付けることが大切であり,構造図に示すように,
(ア) 自ら学ぶ,共に学ぶ場面
(イ) 多面的,総合的に考える場面
(ウ)主体的に課題を解決する場面
などの場面を授業の中に意図的に設定していく必要がある。
構造図
       なお,構造図については,高階玲治氏の著書を参考にしている。
  (2)  研究主題に関する実態調査
     研究主題に関する学習指導の実態と問題点を探るために実態調査を実施した。
     調査期間
       平成12年7月10日(月)から8月10日(木)まで
     調査対象
      (ア)  教師
         国語,算数・数学,生活,図画工作・美術,農業・工業・商業の各教科について,県内の小学校8校,中学校6校,高等学校10校の教科担当者を対象として行った。ただし,農業・工業・商業は6校の教科担当者を対象とした。
      (イ)  児童生徒
         国語,算数・数学,生活,図画工作・美術,農業・工業・商業の各教科について,県内の小学校8校,中学校6校,高等学校10校(農業・工業・商業については6校)から1〜2学級の児童生徒を対象として行った。
     全教科共通設問(教師対象)の調査結果
       普段の学習指導のなかで,児童生徒が潜在的にもっている能力をどのように育成しているかを把握するため,各学校種,各教科共通の項目「児童生徒がこれからの社会でよりよく生きるために身に付けておきたいことは何か,特に重視している事項」及び「児童生徒の『自ら学び,自ら考える力』を育成するために,特に重視している事項」の二つの視点で調査した。調査結果は表のとおりである。
集計結果
      (ア)  「児童生徒がこれからの社会でよりよく生きるために身に付けておきたいことは何か,特に重視している事項」について
       
  1. 教師全体では約半数の教師が「イ 他人を思いやる心や感動する心」をあげている。教師が,「生きる力」をはぐくむために思いやりや感動する心の基盤のうえに「自ら学び,考える力」の育成を目指していることが分かる。
  2. 「イ 他人を思いやる心や感動する心」が各校種とも最も重視されている。次に,学校種別に見ると,小・中・高等学校と校種が変わるにつれて「ウ 自ら学び,自ら学ぶ力」が多くなっている。
  3. 教科別に見ると,農業・工業・商業では,「ウ 自ら学び,自ら学ぶ力」が多く,他教科では,「イ 他人を思いやる心や感動する心」が多くなっている。これは,校種の違いが影響していると考えられる。
      (イ)  「児童生徒の『自ら学び,自ら考える力』を育成するために,特に重視している事項」について
       
  1. 教師全体では「ア 自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付ける」と「ウ 自分の考えや思いを的確に表現する力をつける」の割合が多く,児童生徒の「自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力」と「的確に表現する力」を重視していることが分かる。
  2. 学校種別に見ると,小学校では「ウ 自分の考えや思いを的確に表現する力をつける」を最も重視しているが,中・高等学校では「ア 自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付ける」が最も多い。小学校では児童が思いや考えを表現することを,中・高等学校では主体的に学ぶ力を身に付けることを重視している。
  3. 教科別に見ると,国語,生活,及び図画工作・美術では,「ウ」を多くあげている。算数・数学及び農業・工業・商業は「ア」をあげ,次いで「エ」,「オ」をあげている。これは,国語や生活や図画工作・美術については,自分の考えや思いを的確に表現する力を重視しており,算数・数学,農業・工業・商業は自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付けることを重視していることが分かる。
     各教科ごとの調査結果
       このことについては,各教科ごとの報告を参照していただきたい。
  (3)  研究主題に基づく授業研究
    教科・校種ごとに,研究協力員の所属学校の13校[小学校国語,中学校国語,高等学校国語,小学校算数,中学校数学,高等学校数学,小学校生活,小学校図画工作,中学校美術,高等学校農業,高等学校工業,高等学校商業]で授業研究を行った。
     
《主な参考文献》
 高階玲治 『学校の特色を生かす総合的学習のマネジメント』明治図書,2000年
 森 敏昭 「子どもの思考力・表現力を育てる指導」『自ら学び自ら考える力の育成』ぎょうせい,1998年


[目次]