第10 まとめ/高等学校
 
 平成12年5月,県立高校全111校に対して行った「総合的な学習の時間」に関するアンケート調査(教育庁高校教育課実施)によると,本年度実施または実施予定にある学校が約10校,これに係る検討委員会を組織している,または組織するという学校が約80校という現状にある。そのような中で,評価の在り方や改善への視点の研究については時期尚早とする向きもあるが,本来評価は目標と一体化して存在するものであり,また改善の視点は計画立案の段階において扱う所に意義あるものとして,県内5校の協力を得て,積極的に取り組んだ。
 
 実践事例について
  (1)  普通科における事例 I
     県立日立北高等学校は,数年来進路指導に重点を置き,進学率において飛躍的な伸びを示している。その更なる向上を目指し,生徒の適性,人生における自己実現等への配慮について改善を図るという趣旨から,主体的に自己の進路を切り開いていく生徒の育成を「総合的な学習の時間」に求めた。その実現に向け,進路指導全体に係る「進路研究」と,総数20に及ぶ進路に関するテーマから各自1つを選択して行う「課題研究」を順次行う構成をとった。
  (2)  普通科における事例 II
     県立波崎柳川高等学校では,文武両道,進路の充実に努め,大学進学から就職まで幅広い進路において,その成果の向上が見られる。同校の「総合的な学習の時間」では,自ら課題を見付け解決していく力を高めることを通して,生徒達がより一層自らの人生観・職業観を培い,進路意識を高め学習に意欲的に取り組んでいくことをねらいとした。単元構想案では,課題追究活動の中心に体験活動を据え,職場勤労体験等の展開に種々の工夫を施している。
  (3)  職業学科(商業科)における事例
     県立水戸商業高等学校では,生徒達は入学時からある程度の職業観や目的意識を持ち,前向きに学習し進路の実現を図り,また課外活動の実績にも目を見張るものがあるという。同校は,基本的に「総合的な学習の時間」を「課題研究」で代替えする構想をもっている。これまでの課題研究の指導の実績に,「生き方への振り返り」を加えた工夫・改善の試みは,他の職業学科ばかりでなく,「課題研究」の先進校として普通科高校においても参考となる。
  (4)  美術科・音楽科における事例
     県立取手松陽高等学校では,県内唯一の美術科,県南唯一の音楽科をもち,生徒達は県内外の広い地域から集まり,専門的な学習,技術,技能を深めようと努めている。芸術科の「総合的な学習の時間」の単元構想では,自己の在り方生き方を追究し進路を明確にし,進路の実現に向けた学習活動の一層の充実をねらいとしている。その課題追究活動では,1年次の課題設定に向けたガイダンス,2年次の学習計画立案のための相談活動の充実に特色をもつ。
  (5)  総合学科における事例
     県立八千代高等学校では,県内唯一の総合学科が設けられ,生徒は進学や資格取得等の目的意識を明確にもち,「夢をかたちに」をモットーに進路実現・自己実現を図る教育を推進している。「総合的な学習の時間」では,生きる力を育むため,自己教育力の育成をねらいとし,「産業社会と人間」,「課題研究」,「学校設定の時間」,「教科」等との関連・位置付けを工夫している。特に,ディベートを活用した調査法,まとめ方等を学ぶ内容は興味深い。
 
 評価の在り方について
   「総合的な学習の時間」の導入に伴う教師の評価観の転換について,加藤幸次氏は,@学習結果から学習過程についての評価,A教師主体の評価から生徒主体の自己評価,B問題解決活動を育てるという3点を示している。 山口満氏は,カリキュラム開発のゴール・フリーモデルについて,「目標だけにとらわれず,アドリブなど学習過程で生起するさまざまな予期されなかった出来ごとを含むことのできるようなカリキュラム評価や授業評価を行おうとするものである。」と,また,教育課程について,「まず最初に,何のために,何を教育内容として取り上げるのか,そもそも授業時数や一単位時間など教育課程の基本的な枠組をどのように設定するのか・・・から始めなければならない。」と述べている。これらを視野に入れ,「総合的な学習の時間」の「単元構想案」に基づいて進められた実践研究校の事例を分析し,今後の評価の在り方について考察した。それらを,生徒が学習したことに対する評価すなわち学習評価(assessment)と,教育計画に対する評価(evaluation)に分けて整理した。
  (1)  学習評価について
     本研究における単元構想案では,課題追究活動について,ガイダンス→課題の設定→計画→実践→まとめ→発表→省察→次時への構想という一連の学習過程において,それぞれ「育てたい力」を時系列的に明示し,それらに対応して,学習過程における評価の欄を設け,自己評価についても明示する様式とした。また,育てたい力と評価の間には,「活動構想」,「活動への支援」を記す構成とし,各学校の単元構想案がまとめられた。
 この課題追究活動で,生徒がまず差し掛かる難題は,課題の設定である。「卒論は,テーマが決まれば全体の2/3は終了する。」,と主張する大学教授もある程に,研究における課題設定は難関であり,評価を踏まえ様々な工夫・改善が求められる。これについては,全体の1/3程度に及ぶ等の時間配分,およびガイダンス・講演会・個別面談の積極的な活用等の内容に関して,様々な工夫が見られた。
 5つの単元構想案に共通する内容として,課題追究活動全体に,その学習過程を見取る手法として,ポートフォリオ評価の考え方が,レポート・報告書作成等において取り入れられ  ている。この評価法においては,生徒が学習過程を様々な方法で記録し,ファイルにとじ込み,これを再構成するところにポートフォリオ本来の意義がある。この再構成の活動を,特に重視したい。
 さらに,この学習過程においては,認知面と情意面,認知面では内容知と方法知について,生徒が何を学んだかを記録し評価を加え,学習の改善に生かしたい。
  (2)  教育計画についての評価
     本単元構想案においては,まず,生徒,学校,保護者,地域等の実態を踏まえ,目指す生徒像を明確にし,学習環境づくり,家庭・地域との連携等を明記する形式とした。さらに,学年・教科等の協議を経て,単元で育てたい力を単元の目標として示し,評価の視点・方法,成果と課題,改善への視点を記し,単元の改善・新設に役立つ構成とした。
 ここで重要なことは,生徒の学習過程についての評価を教育計画に如何に反映させるかである。また,年間または3年間の指導計画の系統性,一貫性についての配慮も不可欠であり,本単元構想案とは別に,生徒の年次ごとの自己評価及び教師による評価等をもとに,その改善を図りたい。その他,保護者や第三者による外部評価,教師の協働体制づくり,危険防止または危険回避,外部への説明責任等についての評価の視点も大切である。
 
 改善への視点について
   学習指導要領の改訂においては「生きる力」の育成を基本とし,「総合的な学習の時間」では,主に「学び方」,「調べ方」,「人としての在り方生き方」の育成をねらいとしている。よって,この時間における改善の視点は,「学び方」,「調べ方」,「人としての在り方生き方」の育成が教育計画の目標に照らして,適切に図られているかどうかにかかる。その「総合的な学習の時間」の先進校においては,優れた取り組みと共に,2・3年と実践を重ねるに連れ,活動内容がマンネリ化し新鮮味を失う例(小学校において)も見られる。易きに流れず,絶えず改善を図っていく視点から,その材料となる評価の意義が大きいことは明かである。
  (1)  自己評価の客観化
     生徒の自己評価について,県立日立北高等学校では,「どれだけ客観的な自己評価を行えるかがこの『総合的な学習の時間』の存在意義」と捉えている。「評価することは,評価する者が評価される。」と言われるが,自己評価は自己の価値基準に基づいて評価されるので,自己の価値基準が問題となる。この価値基準とは,モノの見方・考え方やバランス感覚であり,この向上こそが「生きる力」の育成の一つである。加えて,自己の課題追究活動をはぐくむという観点からも,より客観性の高い自己評価が求められることは確かである。
 そのためには,自己の学習過程を適切に累積的に見取れる評価法の工夫・改善と共に,相互評価や教師による評価の提示,県立八千代高等学校の構想にあるディベートの活用等が,評価において有効に作用するであろう。
  (2)  ガイダンス機能の充実
     ガイダンス機能の充実は,県立取手松陽高等学校・県立八千代高等学校の構想案で特筆されるが,これは今回の学習指導要領の改定によって初めて明記された。その第1章総則第6款の5には,「学校の教育活動全体を通して」,「現在及び将来の生き方を考え行動する態度や能力を育成することができるよう」とあり,教師には,学習共同体としての機能の充実のため,生徒には,目的づくりのため「総合的な学習の時間」において大いに活用を図りたい。
  (3)  体験的活動の重視
     県立波崎柳川高等学校では,実生活との関連を図った体験的な学習等の充実を図ることを構想案の中心に据えている。中野重人氏は,「生きる力」とは“やる気”,“自分で考える”,“他とともに”の三つにまとめ,これを育てるには,実感を伴ってわかり,受け入れる体験学習が大切である,と述べている。今後,社会体験・自然体験を含めた体験活動は,ボランティア活動,インターンシップ等の意義からも,さらに求められよう。
  (3)  体験的活動の重視
     県立波崎柳川高等学校では,実生活との関連を図った体験的な学習等の充実を図ることを構想案の中心に据えている。中野重人氏は,「生きる力」とは“やる気”,“自分で考える”,“他とともに”の三つにまとめ,これを育てるには,実感を伴ってわかり,受け入れる体験学習が大切である,と述べている。今後,社会体験・自然体験を含めた体験活動は,ボランティア活動,インターンシップ等の意義からも,さらに求められよう。
  (4)  活動意欲の低い生徒に対する配慮
     県立水戸商業高等学校で提言する「問題や目的意識の低い生徒が,研究活動に対する意欲を高め,主体的に活動しやすくするような工夫や手引き書の作成等,支援体制の確立」は,課題追究活動の指導において,最も留意すべき視点の一つとして受け止め実践に繋げたい。
  (5)  教育計画の工夫・改善
     新学習指導要領の移行期に入り,基礎・基本の充実の問題がしばしば新聞等を賑わしている。課題追究について多年に亘る指導実績をもつ県立水戸商業高等学校の,「教科指導の充実が課題研究活動の根幹である。」という提言は,今後の「総合的な学習の時間」の成功の鍵となろう。また,教科指導の概念形成過程に系統性を有するように,「総合的な学習の時間」の最終段階に当たる高校では,小・中学校におけるこの学習成果の把握も欠かせない。

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