第8 まとめ/小学校
 
 平成12年5月に実施した「総合的な学習の時間」研修講座受講者(591人)へのアンケート調査において,「実施上の課題」として上位にあげられた項目と数値は次のとおりである。
   どのように課題をもたせるか ─────── 58.7%  
   活動をどうつくるか(単元のつくり方) ─────── 48.5%  
   年間活動計画の作成 ─────── 37.0%  
   テーマや学習内容をどうするか ─────── 35.1%  
 「総合的な学習の時間」の取り組みを平成11年度以前から開始した小学校は282校を数え, 全体の47.8%を占めるが,県内半数の小学校において課題づくりと単元づくりが実施上の課題となっている。
 また,平成12年6月に,教務主任研修講座及び学年主任研修講座受講者へのアンケート調査において,「評価」の項目については,次のような結果であった。
   今のところ明確には位置付けていない ─────── 33.6%  
   学習のまとめで振り返り活動を位置づけている程度 ─────── 29.9%  
   これから検討する予定である ─────── 24.6%  
   今年度は評価計画を立てるまではいかない ─────── 6.7%  
   活動計画の中に評価項目を入れて実施している ─────── 5.2%  
 「明確に位置付けていない」,「これから検討する」,「今年度は評価計画を立てるまではいかない」を合わせると65%になる。
 平成14年度の新学習指導要領全面実施を見据えたとき,現在,実践上の課題となっている課題づくり,単元づくりに加えて,同時に「評価」を考えていくことが重要である。本年度に本研修センターが実施した「総合的な学習の時間」に関わる講座の研究協議の中でも「評価」に関わる話題が数多く出されている。
 ここでは,小学校5校の実践事例をもとに,「総合的な学習の時間」の評価の在り方と改善の視点について考察する。
 
 実践事例について
  (1)  自己評価の工夫
     5校の実践事例は,それぞれに特色ある評価の取り組みが行われている。共通している点として「自己評価」を重視していることが挙げられる。
 実践事例では,自己評価が単なる感想や反省の記述で終わらないようにするための工夫がなされている。一般的に自由記述の自己評価は「おもしろかった」,「楽しかった」という感想にとどまりやすい。教師側もそれに対して「児童は楽しく活動していた」と表面的に捉えてしまいがちである。そこで,児童自身に活動のめあてを明確にもたせたり,児童が自己評価する際の観点を示したりする必要がある。実践事例においては,「カードに記入する時間を確保すること」,「相互評価,他者評価を取り入れて自己評価に生かすこと」などの工夫が見られる。
  (2)  学習過程への評価の位置付け
     学校として共通理解を図り,学習過程に評価活動を位置付けた取り組みも報告されている。学習過程に評価を位置づけるには,どこでどんな力を育てるのかが明確になっていなければならない。事前に目標や育てたい力を明確にしていくことが重要である。
  (3)  単元の評価から改善へ
     実践事例には,児童へのアンケートをはじめ外部からの評価も取り入れて,実施した単元を評価し,次年度の改善点をを考察したものがある。多様な視点から単元の評価を行い,次年度への改善を図っていくことが重要である。
 
 評価の在り方について
  (1)  児童が自ら振り返ろうとする自己評価を
     学習活動を展開する中で,児童自らが設定した課題や学習計画,追究の過程を振り返って評価し,改善を図っていくことは,「総合的な学習の時間」のねらいを実現する上で極めて重要な役割を果たすものである。ここに,自己評価の重要性がある。
 これまで,教科等の学習においても自己評価の実践はなされてきているが,児童が自ら振り返ろうとする態度を育成するというより,教師の評価のための資料という色合いが強く,教師が定めた評価の観点に沿って,どの程度できたかを中心に活動を振り返るという形式が多かった。もちろん,児童の自己評価は教師の評価のための重要な資料となるが,それ以上に自ら振り返ろうとする態度を育成するという点から自己評価の在り方を考えていくことを大事にしたい。児童が「書かされている」と思うものでなく,「振り返ると新たなものが見えてくる」と思える自己評価への転換を図ることが重要である。
 まずは,自己評価の場をどうつくるかである。自分の活動はどうであったか,を振り返る時間を確保したい。そして,活動を思い出せるもの(使った資料,制作物など)が手元にあり,自由に見られるようにしたい。活動を振り返って児童相互に活動の中で発見したよさを発表し合うような相互評価を取り入れていくことも大切である。
 自己評価の観点については,教師が設定するだけでなく,発達段階や児童の実態に応じて児童自身に設定させていくようにしたい。
 また,児童の自己評価に対する教師の助言は,活動への意欲を高めると共に,自ら振り返ろうとする態度を育成する上で重要な意味をもつ。児童の自己評価への共感を基本としながらも,児童自身が気付いていないよさや今後の活動への方向性を明確にしていくような助言でありたい。
 学習ファイルについては,資料を順に差し込むだけでなく,差し込む際に,日付やその資料への思い(選んだ理由など)を付せん紙等に書いて添付しておくことが大切である。児童が資料を見返し,まとめていく際に役立つだけでなく,教師が児童の学習の過程を見取る上でも貴重な資料となる。
  (2)   支援に結びつく評価を
     「総合的な学習の時間」の評価については,学習過程や学習状況や成果などについて,児童のよい点,意欲や態度,進歩の状況などを踏まえて行うことが重要視される。
 教師は,活動に取り組む姿から児童の学びの姿を捉えていくことが課題になる。「めざす児童像」や「育てたい力」に近づけたいという思いが先走ると,「課題が見付けられない」「意欲が足りない」といったマイナスの評価に陥りがちであることを留意したい。児童の今の活動の姿が何を起因として,何に支えられたものなのか,そして,どこへ進もうとしているのか,また教師である自分は児童がどう進んでいくことを望んでいるのかを一人一人の児童について把握し,吟味し,検討し,それを記録しておきたい。この評価は,児童の次の活動への支援に密接に結びつくものでなければならない。
 「総合的な学習の時間」の評価は,児童の実態を把握し,児童の学びの姿を見取り,指導,支援に生きるものをめざしたい。
 
 改善への視点について
  (1)  実践した単元を見直すこと
     本年度に実践した単元を下記のような視点で見直したい。
  • 目標,内容,活動構想は児童の実態から見て適切であったか。
  • 活動構想が児童の実態,児童の興味・関心に合ったものであったか。
  • 活動の流れ,時間数は,児童の活動を十分に保障するものであったか。
  • 保護者,地域との連携を図りながら活動が進められたか。
  • 児童の「総合的な学習の時間」への意欲の高まりが見られたか。
 実施した単元を見直すことにより,今後,どこを,どのように改善すべきかが見えてくる。
 また,3学年から6学年までの「総合的な学習の時間」の学習活動の一連の流れを目標,内容,単元について,順序性,系統性,発展性から見直すことが大切である。
  (2)  課題設定までの段階を大切にすること
     児童の課題設定に関しては,次の二つの視点を大切にしたい。
 一つは,課題設定するまでの時間の確保である。体験をして,すぐに課題を設定するということがよく見られる。どんな体験をさせることが児童の課題意識を高めるのかを検討するとともに,児童がその体験の中から自らの課題を生み出すまでの時間を十分に確保できるようにしたい。
 もう一つは,児童の「自ら課題を見付ける力」の捉えである。この力は「総合的な学習の時間」でねらう資質,能力の一つである。追究するに足る課題を見付けるということは大人でさえも難しい。課題を見付ける力は,例えば下記のような段階が考えられる。それぞれの段階や児童の興味,関心に応じた適切な教師の支援が必要である。
  • 教師等と共に考えて設定できる。
  • 示されたいくつかの課題例から選んで設定できる。
  • 教師等からの助言をもとに自分で設定できる。
  • 自分で設定できる。
 ここで重要なことは,「児童が自分で課題を設定したと実感できるように」教師が支援していくということである。
  (3)  各教科等との関連を踏まえること
     「総合的な学習の時間」は,各教科等で身に付けた知識や技能を相互に関連付け,総合的に働くようにすることを目指すものである。つまり,「知の総合化」の視点を重要視している。各教科等で学習した知識や技能,調べ方や学び方が「総合的な学習の時間」の学習過程のどの場面でどのように生かされるのかを明確にしていくことが大切である。

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