芸術科における「総合的な学習の時間」の展開の在り方
― 美術科・音楽科における様々な特色ある活動の利用による工夫 ―
県立取手松陽高等学校
1  主題設定の理由
   普通科のみの高校から美術科・音楽科を併設し6年目を迎えた本校に於いて,「総合的な学習の時間」の展開を考えたとき,本校の特徴である美術科・音楽科における工夫が不可欠であると考えた。同時に,普通科における「総合的な学習の時間」の展開を考えた場合も,その一助となるのではないかと考えた。
 美術科を備えた高校としては本校が県内では唯一で,音楽科も備えた県立高校として本県のみならず隣接県からも多大な関心を寄せられている。そして,その科の特徴ある様々な工夫のもとでの学習と共にその成果を徐々に築いて来ている。しかしながら,ここで更なる発展を期し総合的な学習についての一考を試みた。
 
2  研究のねらい
   今回の研究に於いては特に次のような3点について重点をおいた。
  (1)  美術科・音楽科における「総合的な学習の時間」の展開において,現行の美術科・音楽科の教育課程の中で行われているもの等の長所を保ちつつ,その特色ある活動の中でその展開が可能かどうかを考察する。
  (2)  ややもすれば専門の技能追究に終わる恐れのある学習活動を,「総合的な学習の時間」の展開により主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の(在り方)生き方を考えることができるようにする。
  (3)  生徒が興味・関心,進路等に応じて設定した課題について,知識や技能の深化・総合化を図り,また自己の在り方生き方や進路について考察し発展させる。
 
3  「評価」の基本的な考え方
   評価については,これまでの教科学習のようなテスト中心の評価でなく,様々な場面で様々な生徒の活動の中で評価が行われるように考えねばならない。
  (1)  支援のための評価を大切にする。
     教育課程審議会の答申(平成10年7月29日)2(2)イ(オ)では,「『総合的な学習の時間』の評価については,この時間の趣旨,ねらい等の性質が生かされるよう,教科のように試験の成績によって数値的に評価することはせず,活動や学習の過程,報告書や作品,発表や討論などに見られる学習の状況や成果などについて,児童生徒のよい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況などを踏まえて適切に評価することとし,例えば指導要録の記載においては,評定は行わず,所見等を記述することが適当であると考える。』と示されている。 従って「総合的な学習の時間」における評価は,学習に取り組む中で見られるよい面を積極的に取り上げることが大切である。
  (2)  評価の方法
     生徒一人一人のよい点や進歩の状況をのがさず評価できるよう,多様な評価項目や柔軟な評価の場面を設ける。
     「総合的な学習の時間」においては,体験的な学習,問題解決的な学習,調べ方や学び方を身につける学習などとともに,自ら調べ・まとめ・発表する活動,話し合いや討論などの生徒の主体的な活動が重視されるようになる。
 調べる活動に意欲を示す生徒もいれば,生き生きと発表することを得意とする生徒もいる。このような生徒の特性を評価するためには,多様な評価項目と評価の場面を柔軟に設ける工夫が必要である。そして,継続的に評価するとともに,よい点や進歩の状況を記録に残すことが大切である。
 
4  活動の実際とその考察
   上記の観点のもとに,美術科・音楽科について次のように考えた。
  (1)  美術科・音楽科における活動について
     現行の教育課程及びそれぞれの科の活動は,次の表1,表2に示すとおりである。
    表1、2
  (2)  美術科・音楽科の特色ある活動について
     本校美術科・音楽科について,専門学科の性質上次のような特色ある活動がある。
    ア  美術科における活動
      (ア)  美術科講演会…美術の一流専門家を招いて美術科全生徒対象の2時間程度の講演会。
      (イ)  夏季特別講座…普段の授業内容で体験できない美術芸術領域を2日間実習する講座。
      (ウ)  中学生体験学習…中学3年生を対象に美術科の授業内容や受験方法を公開する。
      (エ)  小中学生対象学校開放講座…本校生を教師役にして版画・陶芸の作品を制作する。
      (オ)  写生旅行…夏休みに景勝地に出かけて2泊3日で油絵を制作する。
      (カ)  芸術鑑賞会…日展を中心にして美術の歴史的な流れや現代の作品・作家に親しむ。
      (キ)  美術科展…卒業制作を中心として在校生作品を加えて作品の発表を校外で行う。
      (ク)  冬季特別講座…冬休みにヌードモデルを使って人物デッサンの実技を実習する。
    イ  音楽科における活動
      (ア)  ミニコンサート…実技検査前に放課後校内で行う1学年3日間程度のコンサート。
      (イ)  芸術鑑賞会…年2回程度,一流音楽芸術(オペラ・バレエ等)を科全員で鑑賞する。
      (ウ)  公開レッスン…年2回程度一流演奏者を招き,代表生徒の演奏について保護者にも公開で指導を受ける。校外で行うこともある。
      (エ)  中学生体験学習…中学3年生を対象に音楽科の授業内容や受験方法を公開する。
      (オ)  小中学生対象学校開放講座…本校生を教師役にしてバイオリン等のレッスンを行う。
      (カ)  定期演奏会…全生徒が,取手市のホール等で,日頃の学習結果を公開演奏発表する。
      (キ)  卒業演奏会…その年の卒業学年生徒が1月に取手市のホール等で公開演奏発表する。
  (3)  活動の実際について
     実際の活動については,生徒が美術科・音楽科の特色ある活動の中で取り上げたもののどれかに結びつけて,どのような目標のもとにその活動を進めていったらよいか。そして,生徒は自分の将来とどうつながっていくかを探求していくようにする。
    ア  1年次(1単位時間)
      ・  ガイダンス1(「総合的な学習の時間」のねらいと学習の心構え)
      ・  ガイダンス2(「総合的な学習の時間」の日程と計画の説明)
      ・  各自の高校生活と進路と夢
      ・  自己の在り方生き方について
      ・  取り上げる活動の紹介
      ・  予備調査(仮テーマ提出と集計)
      ・  ガイダンス3(予備調査の結果による調整)
       1年次においては,これから行う「総合的な学習の時間」について2回のガイダンスによってねらい等を説明する。その後,生徒各自の進路等についてのレポートを提出させる。次に,その他の活動の中には1年生だけにまだ行っていないものがあるため,「総合的な学習の時間」におけるその他の活動の内容について教師側から説明する。次に,予備調査を行い,仮テーマを提出させる。行った学習については逐次レポートを提出させ,毎回のレポートに生徒自身の感じた問題点を記入させる。その内容について教師の所見・保護者の感想を記入するようにする。それらをもとに次回のレポートに今回の問題点等の要約を記入させ,「総合的な学習の時間」を繰り返す。
    イ  2年次(1単位時間)
      ・  カウンセリングウィーク(仮テーマについて仮担当者のアドバイス)
      ・  テーマの決定
      ・  担当教員の決定
      ・  それぞれの科による「総合的な学習の時間」展開への全体のオリエンテーション
      ・  今後の学習計画の立案
      ・  担当教員のアドバイス
      ・  学習研究の方法等の決定
       2年次においては,カウンセリングウィークで1年次に出された仮テーマを分類し決定した仮担当者によるアドバイスをもとに,更に掘り下げたテーマにすべきか等を検討させ,テーマを決定する。同時に,担当教員を決定する。決定したテーマや担当者を一覧にし,美術科・音楽科のそれぞれで全体のオリエンテーションを行い,今後の学習計画の立案について説明する。その後,何度かの担当教員のアドバイスを受け,学習研究の方法等の決定をする。2年次まででは,生徒は主に内容の理解と方向付けを感じ取ることに終始するが,その中で自分の将来と結びつけて考えられるようにアドバイスすべきである。
    ウ  3年次(1単位時間)
      ・  カウンセリングウィーク(仮テーマについて仮担当者のアドバイス)
      ・  その他の活動による実際の活動
      ・  中間まとめの提出
      ・  中間まとめ発表会
      ・  中間発表による反省と新たな課題の発見
      ・  グループ別発表会
      ・  全体発表会
      ・  反省と次年度の課題
      ・  全員の報告書の提出
       3年次においては,テーマに従ったその他の活動を展開する中で,自分の役割を意識させ,これまでの途中経過と自分の考えについて中間まとめと発表会を実施し,新たな課題の発見と反省点をその後の活動に生かせるようにする。ここでは本人と教師のみでなく,友達のよい点を感じ取らせたり友達間の指摘等も生かせるように工夫する。グループでの発表の後に全体発表会,そして反省によって明らかになった次学年への課題を含め,3年間にわたる「総合的な学習の時間」についての報告書を提出させる。
 
5  今後の「評価」の在り方と改善への視点
   これまで,以上のような活動を考えてきたが,今後の更なる改善として次のようなことを考えねばならない。
  (1)  実際の学習活動に即した多様な評価方法を取り入れる
     「総合的な学習の時間」では,知識や技能の習得といった測定しやすい資質や能力よりも,価値判断をしたり,感性を磨いたり,考え方を拡大・深化したり,直接体験したりする学習活動に重点が置かれるので,総合的な判断に基づいた評価が求められる。
 実際の学習活動に即した評価方法を工夫する際,一つの評価方法で生徒の学習状況をすべてとらえることは困難である。観察法による記録,チェックリストを用いた記録,学習カードの記入状況,製作物や作文,ワークシートやノートなどの作品,自己評価など,いくつかの評価方法を組み合わせて,生徒のよい点や進歩の状況をとらえていくことが大切である。
  (2)  自己評価や相互評価の工夫をする
     評価によって生徒自らが学習活動の発展性に気付き,自分のよさを生かし高められたことを実感し,自分に自信をもてるようにすることが大切である。
 そのためには,教師による評価ばかりでなく児童生徒の作品やワークシート,感想などをファイリングし,蓄積した学習記録をもとに学習状況や学習の深まりに気付かせるポートフォリオを活用した評価などを取り入れるなど,自己評価の仕方について工夫改善することも必要である。
  (3)  学科間の連携や相互関係について
     今回のこの活動例は,美術科・音楽科内の活動として考えてきた。しかし,学校全体としての「総合的な学習の時間」を考える上では,生徒相互の科をこえた活動(学科間連携等)を考えなければならない。今後の課題である。

[目次へ]