一人一人が成就感をもつ「総合的な学習の時間」の評価の在り方
― 自己評価を生かして ―
北茨城市立常北中学校
 主題設定の理由
   学習指導要領解説「総則編」には「総合的な学習の時間」の評価について,「生徒自らが設定した課題や学習計画,追究の過程を自ら振り返り,評価し,改善を図っていくことは,この時間のねらいを実現する上でも極めて重要な役割を果たすものである。また,どのような課題に取り組んだとしても,生徒が具体的な学習活動を通して,探求したこと,感じたこと,学んだことを振り返り,その課題について今後どのように関わっていくべきかを考えることが大切であり,活動全体を振り返り,生き方を探るための評価を工夫する必要がある。」と示されている。
 本校でも, 今年度, 気づく力・考える力・実行する力・反省する力の育成を目指して,各学 年,「出会い」「発見」「体験」のテ−マのもとに「総合的な学習の時間」に取り組んでいる。
 本校の生徒は,明るく活気があり行動的である。生徒会活動や部活動に意欲をもって取り組む生徒が多い。しかし,一方で学習活動や生活の場で最後まで根気強くやり遂げられない生徒,自信が持てず,自分の考えを主張することが苦手な生徒も見られる。
 そこで,教師が,生徒一人一人に成就感や,達成感を味わわせる評価の在り方を探ることにより,生徒は自信を持ち,学ぶことの喜びや楽しさを味わい,自ら学び, 考え, 行動する意欲が高まってくるであろう,そしてさらに体験活動や表現活動が促進されるであろうと考え,本主題を設定した。
 
 研究のねらい
  (1)  総合的な学習の時間を展開する中で,自分の学習活動や成果を振り返ることにより,成就感や達成感を味わえるような評価の方法を探る。
  (2)  学習過程における評価の観点を明らかにする。
  (3)  自己教育力を高める自己評価の在り方やポ−トフォリオ評価の在り方を探る。
 
 「評価」の基本的な考え方
  (1)  どんな知識を獲得したかよりも,自ら学ぼうとしたか,学び方を身につけたか,自分なりの表現ができたか,洗練されてきたかなどについて評価し,次の活動への意欲付けができるように配慮する。
  (2)  学習活動に対しては,常に評価の視点を持ち,生徒の自己評価の力を育成することが必要だが,数値的な評価はしない。
  (3)  学習の過程で培われる能力を重視し,生徒のよさや意欲や態度, 進歩などに着目して個に応じた評価をする。
  (4)  比較的長い期間をかけて,一人一人の生徒の変化,成長の軌跡をとらえるような評価をする。
 
 活動の実際とその考察
  (1)  第2学年「常北中ハロ−ワ−ク」−自分らしい生き方を求めて−
     目標
     
  • 世の中の職業を知ったり自分の適性について考えたりすることを通して,進路を決定する力を身につける。
  • 働く人たちの喜びや苦労を知ったり,どのようにして社会に役立っているかを知ることで働くことの意義について考える。
  • 働きながら生活する上でのル−ルやマナ−の大切さを知ることを通して,社会人としての生き方を学ぶ。
     主な活動内容
      (ア)  学習課題設定の段階
         1年生の時に学習した職業調べをもとに体験してみたい職業を選択する。自分の選択した職業を体験して,調べてみたいことを課題として設定した。自分の生き方とかかわりをもつためには,意欲をもって活動できる職業ということで, なるべく生徒の希望にそう事業所で体験できるように留意した。受け入れ可能な事業所と人数のリストが生徒の希望職種と合致するように調整した。できるだけ生徒の希望を取り入れるため,保護者の協力を得て,事業所の開拓も試みた。課題については,自分の生き方につながるものか,追究し続けられるものかという視点から生徒と対話し,生徒の思いを聞いたり,アドバイスをしたりする時間を設けた。
      (イ)  学習計画立案の段階
         希望の職種が決まり,グル−プ編成がされ,いつ,どこで,どのように,どのような体験をするのか計画を立てた。課題に沿って見通しをもって計画を立てられているか,自分の力で取り組める計画になったか,友達と協力して活動することができたかの観点で自己評価をした。
      (ウ) 体験活動の段階
         参加生徒171名に対し,当日受け入れてくださった事業所は,43カ所である。事前打ち合わせが済んでいたので,比較的スム−ズに活動していた。教師がグル−プを組んで各職場を訪問し,観察による評価を行うと共に励ましの声をかける。帰校後は,報告書の作成をする。この報告書をもとに新聞づくりや発表会を行うので,体験内容を書くと共に感動したこと, 疑問点, 新たな気づきなどを記録するように指導した。
     考察
       本校での職場体験学習は5年目を迎えたが,従来は進路指導上のねらいを設定して展開してきた。今年度は「総合的な学習の時間」に位置づけ「自分らしい生き方を求めて」というねらいのもとに,再構成して取り組んだ。
 課題づくりでは,一年生後半に学習した「職業調べ」での職場見学や職業調べ発表会を振り返りながら,個人の課題を設定した。しかし,この段階では実際の体験はしていないためか,観念的なものが目立った。
 体験活動の際には,生徒が自分の興味・関心のある事業所を選択したので,目的意識をもち意欲的に取り組む姿が見られた。報告書をみると,一つの職業にはいろいろな能力が求められること,挨拶や言葉遣いなどの礼儀や時間を守ることの大切さなどを,現場で関わった方たちから学んだことが多く書かれていた。働くことの楽しさ,つらさ,厳しさを知る機会となった。
 また,このような学習の記録をポートフォリオの形で累積すると共に,自己評価をしながら進めたので,自分の学習の成果や課題を逐次確認することができた。教師もそれらを把握することで,生徒の学習の過程における生徒の思いやつまずきを知り,個に応じた支援を適時行った。
  (2)  評価
     評価の観点と方法
     

 
・活動への意欲・関心・態度
・課題を発見し,解決しようとする力
・他者との積極的なかかわり
  (コミュニケ−ション能力)
・学習の成果のまとめ・発表する表現力
・生き方の広がり・深まり

 
・自己評価
・相互評価
・ポ−トフォリオ評価
 教師の観察による評価
     評価の実際
      (ア)  学習段階ごとの自己評価
         学習の取り組みを客観的に振り返れるようにし,次への意欲的な学習につながるようにした。一人一人の生徒の自分に対する評価の違いがとらえられ,個に応じた支援に役立たせることができた。
      (イ)  毎時間ごとの自己評価「学習のあゆみ」(資料2)
         毎時間の学習活動を簡単に記録して,あしあととして残し,次の活動につなげた。
      (ウ)  学習の累積による評価(ポートフォリオ評価)
         総合的な学習の時間では,学習の過程を常に振り返ることができるように個人ファイルをもたせ,ワ−クシ−トや収集した情報,考えや感想を記入した記録をとじこませている。また,友達や地域の方,保護者の感想やコメント,教師の助言や感想なども書き加えられるようにしている。自分が学習した内容がすべてとじこまれているファイルは,追究途中で立ち止まったときに,新たな気づきを与えてくれる情報源でもある。
 生徒が,自分自身の学びを確認でき,次への見通しを持ったり振りかえることで,満足感や成就感を味わえるようにしていきたいと考えているが, 現時点ではまだ目指すべきポ−トフォリオ評価には至っていない。
 
 今後の「評価」の在り方と改善への視点
  (1)  適切な評価を行うためには,系統的,計画的な学習の積み重ねが必要である。学習活動を通して「育てたい力」を明確にし,どの場面で,どのような方法で力をつけていくのかを明らかにした単元構想や評価計画の作成が求められる。
  (2)  個人学習ファイルを作成してきたが今後の活動の意欲付けや次への課題発見に結びつくような効果的な活用方法や評価方法を工夫する必要がある。
  (3)  自己評価は自分の学びを自分で主体的によりよくしていくためのものなので,「次の学習の目標や伸ばしたい力」 という項目を入れて,生徒に自己修正・自己改善を習慣づける工夫が必要である。
  (4)  今年度本校では,学校裁量の時間35時間を総合の学習の時間にあてて活動してきた。この「常北中ハロ−ワ−ク」は19時間の予定であったが,アンケ−トの集約や「職場体験発表会」のまとめの時間は放課後を活用することも多かった。じっくり,ゆったりと考えさせ,主体的な学びを保障することが今後の改善点である。次ページに掲載されている単元構想案は,この反省に基づき,改善を図ったものである。
  (5)  体験活動には意欲的に取り組むが,目標の一つである「生き方」につながる課題が持てず,活動だけに終わっている生徒がいる。そのための指導・支援の在り方について工夫していく必要がある。
  (6)  一日の職場体験学習では体験できる内容にも限界がある。さらに,今後は事業所の協力を得ながら拡充を図り,仕事を通じて自分の生き方や在り方について考えさせていく。

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