刊行にあたって


 第15期中央教育審議会第一次答申(平成8年7月)は,これからの学校教育の在り方として,「ゆとり」の中で「生さる力」を育むことを提言しています。「生きる力」について,同答申は「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」,「自ら律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」,そして,「たくましく生きるための健康や体力」を重要な要素として挙げています。
 学校教育は,子ども一人一人が,「生きる力」を育むために,基礎的・基本的な内容を身に付けさせ,個性を生かし,自分の力で課題を解決する喜びを味わわせるような援助を重視する必要があります。学校教育相談は,この「生きる力」を育むための援助を進める上で大さな役割を担っていると考えます。
 ところで,児童生徒の学校不適応に対する適切な指導・援助をはじめ,一人一人の児童生徒又はその保護者への望ましい対応の在り方を見いだすための教育相談の充実が叫ばれて久しいものがあります。教育相談の極めて重要な役割は,教師と児童生徒及び児童生徒相互のよりよい人間関係を深め,このことを基盤にして,児童生徒が主体的に行動し,自己実現に向かうことができるよう指導・援助することであると考えます。
 研究報告書第10集は,「児童生徒の自己実現を援助する学校教育相談の在り方」について,研究を進めたものです。ロージャズの来談者中JL、療法,マスローの自己実現,石隈利紀氏の学校心理学の理論を基に,人間関係を基盤とした授業について理論研究を進めました。また,調査研究では,児童生徒の学習意欲,児童生徒相互の人間関係,教師と児童生徒の人間関係及び学習意欲と人間関係との相関関係に関する意識調査を行いました。そして,実践研究ではこれらの結果を踏まえ,小学校,中学校,高等学校において4種類のサポートを取り入れた授業を展開しました。さらに,別冊資料編として,「授業に生かすカウンセリング実践事例集」を作成しました。本研究報告書が十分活用され,各学校における学習指導,児童生徒への対応,教育相談活動の指針となれば幸甚です。
 最後に,本研究を進めるに当たって,適切な御助言をいただき研究の指針を与えて下さいました筑波大学助教授石隈利紀先生,熱心に研究され貴重な研究資料・事例を提供していただきました関係学校及び研究協力貝の先生方に心から感謝の意を表します。

 平成12年3月
茨城県教育研修センター所長  秋山 和衛


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