(4) | 公民科「政治経済」(高校3年)での実践 自己主張を促すディベートによる授業 |
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@ | はじめに | ||||||||||||||||||||||||||
政治経済の科目は,現代社会についての理解を深めさせ,さらに様々な課題について考察させることをねらいとしている。従って,授業では知識の教授とともに自他の価値観を理解し考察する能力を養うことが求められる。そこで,課題を深く考察させ,さらに集団の中で自信を持って自己主張し,相互に価値観を開示できるようにするために,討論形式の「ディベート」の導入を試みた。実施においては,ディベートを単なるゲームにせずに,人間関係づくりの一助にするため,構成的グループ・エンカウンターの手法としてのウォーミングアップやシェアリング等を取り入れた。なお,授業は「政治経済」の科目で,2学期の11月の2校時(50分間)に,『夫婦別姓を認めるべきだ!』の論題で,高校3年生40名を対象に普通教室で行った。 | |||||||||||||||||||||||||||
A | 実践研究 | ||||||||||||||||||||||||||
ア | 単元 法の下の平等 | ||||||||||||||||||||||||||
イ | 単元について | ||||||||||||||||||||||||||
明治憲法では平等の原則が不十分であったが,日本国憲法の第14条では明確に「法の下の平等」を規定している。しかし,現実には個人の尊厳を無視した偏見や差別が見られる。そこで,その解決が迫られていることを考えさせる。 | |||||||||||||||||||||||||||
ウ | 生徒の実態 (男子13人 女子27人 計40人) | ||||||||||||||||||||||||||
本HRでの進路希望は,大半は大学・短大進学が8割,専門学校進学が2割で学習意欲の比較的高い生徒が多い。男女の比率は3:7で,女子が多い。 | |||||||||||||||||||||||||||
エ | 学習形態 | ||||||||||||||||||||||||||
9人組のグループ(肯定側3人,否定側3人,審判3人)で,構成的グループ・エンカウンターを応用した「ディベート」を行う。議長役は教師が務める。 | |||||||||||||||||||||||||||
オ | 目標 | ||||||||||||||||||||||||||
○ | 日本国憲法下における平等の規定を理解できる。 | ||||||||||||||||||||||||||
○ | 現実に残っている差別問題を理解し,問題意識を持つ。 | ||||||||||||||||||||||||||
カ | 学習計画(3時間扱い,本時はその第3時) | ||||||||||||||||||||||||||
第1次 「法の下の平等」の規定と問題点 | ---- 1時間 | ||||||||||||||||||||||||||
第2次 「夫婦別姓」についての資料調べ,グループ編成 | ---- 1時間 | ||||||||||||||||||||||||||
第3次 『夫婦別姓を認めるべきだ!』のディベート | ---- 1時間(本時) | ||||||||||||||||||||||||||
キ | 本時の学習 | ||||||||||||||||||||||||||
(ア) | 目標 | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 夫婦別姓をめぐる討論から,男女の実質的平等や女性差別の現状を理解し,問題意識をもつ。 | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 自己主張およびプレゼンテーションの能力を身につけ,集団の中で豊かな人間関係をつくれる。 | ||||||||||||||||||||||||||
(イ) | 準備・資料 ワークシート(「資料調べ」「判定表」「アンケート」) | ||||||||||||||||||||||||||
(イ) | 準備・資料 ワークシート(「資料調べ」「判定表」「アンケート」) | ||||||||||||||||||||||||||
(ウ) | 展開 | ||||||||||||||||||||||||||
B | 授業の結果と考察−4種類のサポートの視点から− | ||||||||||||||||||||||||||
ア | 生徒相互の人間関係と学習意欲 | ||||||||||||||||||||||||||
図1のように,「振り返りアンケート」結果から,級友と助け合いができた生徒は92.5%(「はい」と「まあまあ」合計),級友に親しみを感じた生徒は97.5%であり,そして77.5%の生徒が級友に自己主張ができたと答えている。また,表1のように,自由記述では,「突っこまれて困った時,助けてくれたのでとても助かった」(A子),「今までに気付かなかった新しい発見もできるし,とても親しみがもてたと思う」(B男),「日頃おとなしい人でもこのような場ではすごく言うんだなあと思いました。級友との仲も深まったような気がします」(C子),「最初は面倒くさいと思ったけど,すごく楽しくて熱くなってました。自分の意見をチャンと言えました」(E子)と書かれている。また,授業参観をした教師たちは,「和気藹々とした雰囲気」「生徒がリラックスして自由に発言できるもので良かった」「生徒が生き生きしていた」「全く参加していない生徒が“ゼロ”だったのはすごいと思う」「生徒たちに“やらされている”という感じがなく,ごく自然に自分たちの問題として取り組んでいたのが印象的でした」と述べている。以上のことから,本授業が生徒相互に自己主張し,協力し合い,そして親密感を高めながら豊かな人間関係を築いたものと考えられる。 次に,図1のように,学習意欲の向上した生徒は90%であり,意欲的に取り組めた生徒は70%であった。また,表1の自由記述のように,「もし,自分が『夫婦別姓』の問題に関わるようなことになったら,今日の授業を思い出したい」(J子),「『夫婦別姓』の問題はディベートをしてみて改めて難しい問題なんだと思った」(H子),「笑い声などもあったけど,みんな頑張っているのが感じられた」(I男)と述べている。以上のことから,本授業が夫婦別姓から男女平等について考え,興味関心を高め,問題意識をもち,そして学習意欲を高めたものと考えられる。 |
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イ | 教師・生徒間の人間関係と学習意欲 | ||||||||||||||||||||||||||
情緒的・評価的サポートを多く行い,教師・生徒間の人間関係づくりを促進させるように心掛けた。例えば,情緒的サポートとしては,ジャンケンによる明るい雰囲気作り,発表に繰り返し技法を使っての受容,教師の自己開示をした。評価的サポートとしては,生徒を誉めたり,「ありがとう」「ご苦労さん」の言葉をかけた。しかし,図1のように,教師に受容感を持った生徒は50%であり,教師に親密感をもった生徒は57.5%とやや少なかった。これは,ディベートの性格上,時間を厳しく統制しなければならず,発表時間が短いと感じた生徒を欲求不満にしてしまったためと考えられる。このことは,F子の「意見を言っている途中に時間になってしまったりしたのでもう少し時間があった方がいいと思いました」の意見と同様のものが多数あったことや,参観教師の「発言時間が3分では短い班もあった」の意見からも窺われる。 以上のように,教師への欲求不満が受容感や親密感を損なったものの,以後の授業では「先生,またディベートやろうよ」という生徒が多く,教師への期待の高さが窺われる。なお,定期考査で,夫婦別姓についての意見を求める出題をしたところ,論理的で説得力のある解答が多かったことから,学習効果があったものと認められる。 |
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ウ | 今後の課題 | ||||||||||||||||||||||||||
(ア) | グループ学習やSGE応用の授業を実施する際には,日常的に生徒間および教師・生徒間の人間関係づくりや自己開示能力を高める必要がある。本授業では,事前にSGEを行いHRの人間関係づくりをし,また新聞の感想を三分間スピーチの形で一人ずつ発表する「ニュースプレゼンテーション」により自己主張訓練を行った。 | ||||||||||||||||||||||||||
(イ) | 発言能力の高いHR集団では,1校時(50分)でのディベートの実施は,時間不足となってしまう。教師は要領よく進行することが求められる。可能ならば,2時間連続で実施できれば効果的である。 | ||||||||||||||||||||||||||
(ウ) | 「二次的援助サービス」(親の死,転校等で問題を持ちそうな生徒への援助),及び「三次的援助サービス」(不登校,いじめ等で大きな問題をもってしまった生徒への援助)を必要とする生徒への配慮は慎重に行う必要がある。この配慮を欠いてしまうと心の傷を負わせてしまうこともある。特にグループ編成においては個別的な配慮が求められる。ここでは,くじで機械的に振り分けた。 | ||||||||||||||||||||||||||
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