(2) | 保健体育科(小学校5年)での実践 他者理解を深め,良好な人間関係づくりを促進する授業 |
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@ | はじめに | ||||||
今の子どもたちは,生活経験の違いによる「二極化現象」などと言う言葉でいわれるように,運動技能に大きな差がみられる。そのような中で,体育の授業で一番いやなことは,「友達に文句を言われた時」と答えている子どもが8割を占めているという調査結果もみられる。 ここでは,児童同士及び教師と児童の人間関係づくりをする「心理・社会的援助」の視点から,子ども同士の人間関係づくりをねらいとして,構成的グループ・エンカウンター(以下SGEと略)を取り入れるとともに,教育相談的配慮を通した授業を設定した。授業は,障害走のめあて学習の中に「マッサージ」のエクササイズを組み入れて,5年生で実施した。 |
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A | 実践研究 | ||||||
ア | 単 元 連立方程式 | ||||||
イ | 単元について | ||||||
本単元は,2元1次方程式やこれらを連立させた方程式を解くことの意味を知り,解法を理解し習熟するとともに,それらを実際的な問題の解決に応用することができ ることをねらいとしている。 | |||||||
ウ | 生徒の実態(男子18人 女子16人,計34人) | ||||||
生徒は学習に取り組む態度は非常に真面目で真剣である。しかし,学習態度が受けの生徒が多く意欲的な学習態度とは言えない。また,お互いに協力して学習を進めたり高め合って学習しようとする姿勢が薄いように感じる。 一方,このクラスは4月から学級担任が学級経営の目標として,生徒相互のよりよい人間関係づくりを目指して学級経営を行ってきている。そのため,クラスの雰囲気は良い方である。 |
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エ | 学習形態 | ||||||
・ | グループ学習で行う。 | ||||||
・ | めあて@とめあてAではグループ構成員を替える。 | ||||||
・ | エクササイズでは,めあてAのグループの中から2人組を自由に作る。 | ||||||
オ | 目標 | ||||||
○ | インターバルを調子よく走ったり,障害をうまくまたぎ越したりして,友達と競走したり,記録に挑戦したりして楽しむことができる。 | ||||||
○ | 互いに協力し,役割を分担して安全に練習できる。 | ||||||
カ | 学習計画 (9時間扱い,本時はその3時) | ||||||
第1次 | オリエンテーション……1時間 | ||||||
第2次 | めあて@ 簡易なコースでのグループ対抗 めあてA 自己の記録に挑戦する |
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キ | 本時の学習 | ||||||
(ア) | 目標 | ||||||
・グループで役割を決め,ベストを尽くして競走できる。 ・自己の課題を理解し,フォームを工夫して練習できる。 ・友達の個性や思いに気づき,他者理解を深める。 |
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(イ) | 準備・資料 学習カード,ハードル,筆記用具 | ||||||
(ウ) | 展 開 | ||||||
B | 授業の結果と考察ー4種類のサポートの視点からー | ||||||
ア | 児童相互の人間関係と学習意欲 | ||||||
陸上競技は本来個人競技だが,リレーなどのチームゲームとしても子どもたちに親しまれている。そこでの人間関係で問題になるのは,かけ足の遅い子がチームの中でどう受け入れられているかである。 友達からの「遅いなあ」「早くしろよ」などという声は,心を傷つけられると同時にその運動を嫌いにさせ,学習意欲を無くしてしまいかねない。その子はその子なりにがんばっていることを感じられる人間関係づくりをめざしてエクササイズを取り入れた。 エクササイズのねらいは,子どもたちに「よりよい人間関係をつくるためのゲーム」であることと,これから協力して練習していく仲間とよい関係であってほしいという教師の願いを伝えた。友達の工夫したことや苦労していること等を知り,自己の学習への取り組みへの意欲を向上させる機会として学習のまとめであることを話した。留意点として「黙ってうなずきながら聞くこと。話したくないときや話すことがなければ黙ってマッサージだけしてあげる」ことを伝え,同じインターバルで練習した仲間の中から2人組を作った。 2人組では,男女のペアもできたが,特にいやがる様子は見られず,教師の説明を聞いて静かな雰囲気で始めた。オーバーにうなずいている子もみられ,楽しそうな表情をしていた。耳元で話すため,話し声はほとんど聞こえないぐらいであった。 子どもたちの反応は,「気持ちよかった」と一様に評価するとともに,「友達も苦労しているんだなあ」と感じた子や「体育のことの話ができてよかった」,「自分の練習で思ったことなどを気軽に言えた。友だちの気持ちも聞けてよかった」など,学習の参考になったという感想も聞かれた。 授業後,マッサージを行って気づいたことや感じたことなどの記述をみると,「話す時,人に話をちゃんと聞いてもらうのはいいなあと思った」,「自分の話を黙って聞いてもらえて気持ちよかった」など相手に話す立場での感想と「友達がしゃべりかけてくれた」,「マッサージをされながら話を聞くと心が落ち着いて気持ちよかった」など話を聞く立場での感想との両面で好印象を与えている。 感想には,緊張したり,話すことがなかったりしたものも2,3あり,すぐに効果として現れるとは言えないが,よい手応えを感じた。 |
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イ | 教師・児童間の人間関係と学習意欲 | ||||||
第1時のオリエンテーション後のアンケート結果から,子どもたちの障害走への不安の大半は「引っ掛かってしまう」(はずかしい,けがをする,うまくとべない)ことであった。そこで,ねらい@では一番低くしたハードルを使用(道具的サポート)することで児童のハードルへの安心感を与えるようにした。また,ストップウォッチで記録を計ったり,リレー形式の競走をしたりしたいという希望が多くあり,ねらい@ではリレー形式を取り入れ,ねらいAではグループごとの計測を3時間に1回の割合で組み入れ,練習の成果を試す機会(道具的サポート)を意図的に設定した。 さらに,アンケート設問「どんな援助がほしいか」では,技術的なポイント(どういうふうにとべば速くなるか,とぶこつを教えて)を必要としていることが分かったので,学習カードに一般的な方法を図解したり,授業の中で補説(情報・道具的サポート)をしたりした。技能構造は5つの要素に分け,ねらいAで自分に合った課題を選択し練習する場を設けた。(道具的サポート) 評価的サポートでは,一人一人のよい面を「今の跳び方いいんじゃないかな」「2台目のハードルのところがうまくいっていたね」などの言葉かけを多くするように努めた。苦手意識を持つ児童には特に,「調子はどうかな」,「だいじょうぶかな」などの言葉掛け(情緒的サポート)を心掛け,助言や指示(情報的サポート)よりも,一緒に考えていく姿勢で接した。 なかなか自分にあったインターバルが見つけられない子もみられたが,その子なりの良いところを指摘し確認する(評価的サポート)ことによって,積極的な練習態度に変わっていったようにみえた。 |
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ウ | 今後の課題 | ||||||
(ア) | 計画的にエクササイズを取り入れた授業展開を工夫するとともに,単元に合わせた実施方法を工夫していく。 | ||||||
(イ) | 自己評価の在り方を工夫し、よりよい人間関係が深まっているか検証できるようにする。 | ||||||
資料1 障害走についてのアンケート用紙 |
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資料2 ふりかえりアンケート用紙 |
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資料3 学習カード |
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