【授業研究4】 高等学校第2学年国際情報通信「情報活用1」
インターネットで取得した情報でプレゼンテーション資料を作成し発表する
    茨城県立日立商業高等学校  大津 圭司
(1)  プレゼンテーション用ソフトウェア活用のねらい
   インターネットで取得した情報の活用方法について学んできたが,実際的な活用の場面として,プレゼンテーション用ソフトウェアを利用する事によって,より具体的に情報手段を活用する方法を習得する。さらに,発表の練習を実施することにより,生徒の情報活用能力や表現力の育成をねらう。
(2)  インターネットの利用環境
   OCNエコノミーを利用し,インターネット常時接続の環境を構築している。
 インターネットを利用した授業を実施するにあたっては,前日の夜にホームページ自動巡回ソフトウェアを利用して,当日利用する情報を収集し,授業の円滑な運営を図っている。
 電子メールのアドレスは,利用についてのガイダンスを数時間行った後,情報処理関連の授業選択者全員に与えている。電子メールのデータは,フロッピーディスクに保存するようにしている。日常的に使用する生徒も多いため,生徒の自主的な運用と管理を促している。
 授業以外でのインターネットの利用については,昼休みや放課後(15:30〜17:00)に解放している。運用に当たっては,プロキシサーバを利用した運用時間の管理を行い,解放時間以外には,インターネットにアクセスできないようにしている。取得情報の制限に関しては,フィルタリング用ソフトウェアを利用し,成人娯楽・性行為・ギャンブル・ゲーム・違法行為・犯罪行為・デートサービス等のジャンルで,情報のフィルタリングを実施している。
 学校全体でのインターネット利用環境の詳細については,図4-8 及び,参考資料(平成11年度日立商業高等学校ネットワーク構成)を参照していただきたい。
(3)  授業の実践
   単元名  情報活用1
   単元の目標
    インターネットで取得した情報の活用方法を理解する。
    著作権や肖像権等,個人の権利やプライバシーについて理解する。
    インターネットには個人の権利やプライバシーを侵害している情報があることを理解する。
    プレゼンテーション資料の作成と発表を行う。
   指導計画(20時間)
     第1次  インターネット検索システムの活用方法について(4時間)
     第2次  インターネットからの情報の取得と情報モラルについて(8時間)
      第1時 画像データ(GIF・JPGファイル)について
      第2〜3時 音楽データ(MIDIファイル)について
      第4時 圧縮データについて
      第5時 その他のデータ形式について
      第6〜8時 各種のデータの利用法と情報モラルについて
     第3次  プレゼンテーション資料の作成と発表(8時間)
      第1〜5時 プレゼンテーション資料の作成方法と作成
      第6〜8時 プレゼンテーションのまとめ [本時は第8時]
   本時の指導
    (ア)  目 標
      作成したプレゼンテーション資料を使って発表を行い,生徒自身がその評価をする。
      インターネットで取得したデータの活用方法について理解する。
    (イ)  準備・資料
       生徒が発表を行う準備を整える。
 生徒が作成した評価表を集計するための評価集計表を準備する。
    (ウ)  展 開
  展 開
   左の図は,生徒の発表風景である。
 昨年度は,視聴覚室を利用して発表を行ったが,生徒の発表だけに終わってしまったという反省もあり,今年度は通常利用しているコンピュータ室で実施した。生徒が行う最初の発表でもあるため,使い慣れているコンピュータを操作し,教師のアドバイスも簡単にできるこの発表形式の方が,内容的には充実したものになった。
 右の図は,発表を見学している生徒の様子である。中央のディスプレイに発表者の資料が表示されている。また,各自のコンピュータには,発表の評価を入力するワークシートが開かれている。発表終了後,構成内容・芸術性・発表内容の3つの観点から,評価を5段階で入力するようになっている。
 下の図は,発表に利用したコンピュータ室である。左右にコンピュータが10台ずつ向かい合わせに20台並んでいる。今回発表資料を表示した生徒間の中央にあるディスプレイは,通常は教材の提示や操作方法の指示に利用している。
 下の図は,生徒が利用した評価表である。表計算ソフトウエアで作成し,評価の集計をしやすくした。評価の観点を,構成点・芸術点・発表点に分けたのは,発表を聞く生徒に様々な観点から発表をみてほしいと考えたためである。
図4-1 発表の様子
図4-2 生徒間中央のディスプレイ
  図4-3、図4-4
   下の図は,生徒が利用した評価表である。表計算ソフトウエアで作成し,評価の集計をしやすくした。評価の観点を,構成点・芸術点・発表点に分けたのは,発表を聞く生徒に様々な観点から発表をみてほしいと考えたためである。
  図4-5 プレゼンテーション評価表
(4)  授業の結果と考察
   生徒によるプレゼンテーション資料の作成と発表は,生徒の情報活用能力や表現能力の育成に効果がみられた。このことは授業展開をしている段階で,発表内容が授業内容の単純な紹介ではなく,自分自身の趣味や主張が入ったものになったことからも理解できる。
 プレゼンテーション資料のページは,図4-6 のように,国際情報通信(1学期を振り返って)というタイトルに,6つの見出しを加え,その内容を生徒にまとめさせた。
 作成に当たって,文字の装飾方法や画像を貼り付ける方法,音楽データを貼り付ける方法,文字を入力する方法等,基本的なプレゼンテーション資料の作成方法を教え,作業に当たらせた。
 基本的な操作方法を教えただけのため同じような内容のプレゼンテーション資料ばかりになる懸念もあったが,完成作品をみると,個性豊かな作品が出来上がった事に驚いてしまった。生徒に,クラスメイトに対する発表という事を意識させながら,作成に取り組ませたのが,テーマや目的のある発表に繋がったと考えられる。
 左の作品は,総合点で最高点をとった生徒の作品だが,画像を多用し,面白みのある印象的な作品に仕上がっていた。
 また,自分の趣味をクラスメイトに理解してもらうために,発表内容を自分の趣味的な事柄に絞り,プレゼンテーション資料では足りない部分を補うべく,熱く語ってくれた生徒など,印象的な発表が多かった。
 このように,目的のある主体的な発表に取り組む生徒が多かったことも,生徒に発表を前提に作成を行わせた成果と考えられる。
図4-6 タイトル
図4-7 生徒作品
(5)  授業研究の成果
   授業研究でインターネットを道具として利用することのすばらしさを再認識することになった。インターネットでMIDIのデータを探し出す授業の後には,音楽に興味のある生徒が,インターネットの検索システムを利用し,自分の好きな曲を探すのに熱中したことがあった。また,旅行に行くので,インターネットで旅費を計算したいという生徒や,東京に住むのでインターネットでアパートを探したいという生徒も現れた。訪ねてきた生徒には,検索の仕方を教え,そのようなことができるホームページを,検索システムで探す手助けを行った。このことは,私自身にインターネットが道具なのだということを再認識させてくれ,生徒にはインターネットという道具の利用方法を教えなければいけないことを確認させてくれた。
 また,生徒に電子メールの利用方法を教えると,新しい友人をインターネットで捜し,交際を始めるものがでてきた。私が考えるより多くの可能性を生徒がインターネットを利用することによって,見つけていくことに驚かされることも多かった。
 インターネットを授業で教えていくと,インターネットの活用方法は,人によって様々な方法が考えられるのだということに気がついてくる。授業で便利な利用を教えることは,生徒の工夫を生み,新たな活用方法を生み出していく。学校でインターネットを利用することについては,インターネットを利用できるかどうかの差ではなく,楽しみながら学んでいくこと・工夫していくことを,インターネットという道具を通して理解できるかできないかの差まで生んでしまう。
 インターネットを利用した授業展開をしていくなかで,インターネット上の情報を意欲的に活用しようとする生徒が出てきたことが,一番の成果であると考えられる。
(6)  今後の課題
   フィルタリング用ソフトウェアに関して,生徒に閲覧させたい情報までもがフィルタリングされてしまうという問題が発生した。この問題はフィルタリング用ソフトウェアの持つ登録情報の問題であり,学校としては個別に閲覧可能に設定するしかないようである。
 インターネット接続回線が,どうしても40人での授業展開には障害となってしまっている。現在,OCNエコノミーでインターネットに接続しているが,少なくとも3倍の情報量の回線がないと授業の成立が難しい。生徒に教えておきたいインターネットのサービスも,接続回線が細い(一度に取得できる情報量が少ない)ため教えることができない。実際の授業展開では,通常は画像の表示をせず,自分のほしい情報を見つけたときにだけ表示するようにしている。しかし,インターネット上のホームページには画像が表示できないと,内容すら理解できないものが多く授業展開の弊害となっている。
 本校では,昼休みや放課後に,生徒にインターネット利用を開放しているが,あまりにも利用者が多いため,一人一人の活用がなかなか進まないという皮肉な結果となっている。情報を取得するまでの待ち時間がかかりすぎるため,活用するに足りる情報を取得するのに,数日かかることもある。このような学校の状況から,多くの生徒は自宅でインターネットを利用するようになるが,自宅で利用できない生徒は,学校で利用するしかなく,自宅での利用ができない多くの生徒がインターネットを活用するために集まってくる。
 生徒によっては「課題研究」での報告書をまとめるために,通常の授業や放課後の利用だけでは,十分に資料を集めることができず,利用終了時刻の17時過ぎに利用の許可を受けるものもみられた。生徒の帰宅時間が遅れることやインターネット利用規則もあり,通常の解放時間以外には生徒の接続を禁止すべきところである。しかし,充実した報告書には多くの情報が必要なため,熱心な生徒ほど調べなければならない情報が増える。このような問題の解決には,インターネット接続回線が現在の 128kbpsから 1.5Mbps程度(10倍以上)にすることが必要である。このことにより,インターネットを利用した情報活用に,無駄な待ち時間がなくなる。情報の検索・取得が早くなり,多くの情報を比較検討する余裕が生まれる。生徒には妥協しない本当の意味での情報活用が可能になる。また,情報先進国のアメリカにおいては,89%の学校でインターネット接続ができるようになっている。そのうち35%の学校では,インターネット接続用として 1.5Mbpsの接続回線が配備されている。このようなアメリカの現状と本校での実状からも,情報教育の推進・効果的な教育を生徒に実施するためには,インターネットに接続するためのストレスのない接続回線が,最低限必要であると考えられる。
 情報モラルについての効果的な指導方法も課題として残っている。試行錯誤はしているが,これといった決定的な指導方法がみつかっているわけではない。それどころか,校内で掲示板を利用させてみると,匿名のいたずら書き等の書き込みがみられた。このような,掲示板をみるのが不特定多数の生徒であることを理解していない書き込みが,本校での情報モラルの必要性を訴えていた。この掲示板を閉鎖することでは根本的な対策とはならないため,現在のところ掲示板へのリンクのページにモラルに関しての記述を入れ,書き込み内容の確認をしたりしている状況である。今後は,このような実験的な運用ではなく,掲示板の管理者を生徒に募り,校内でのテーマを持った掲示板を運営させることも検討している。
 授業での指導に当たっていても,インターネット上で閲覧できるデータに,著作権や肖像権を侵害しているようなものが多くみられた。不法な音楽データをインターネット上で販売し,検挙された例などを生徒に話しながら,授業展開を行っているのが現状である。
 このような広範囲にわたる情報モラルの指導については,日頃の授業での指導を中心に,ネットワークを利用する様々な場面においての指導の積み重ねや,工夫が必要であることを実感している。また,体験的に情報モラルを学んでいく必要性もあるため,掲示板などインターネットの双方向通信の利点を生かした学校内ネットワークの有効な活用方法も,さらに検討していかなければいけないと考えている。
図4-8 インターネット接続用のネットワーク構成図
 
参考資料:「平成11年度 日立商業高等学校ネットワーク構成」

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