研究の成果
  (1)  児童の意識の変容をつかむための調査について
     児童の意識の変容から本研究の成果を見るため,質問紙による調査を実施した。対象は,授業研究を行った茨城県内の小学校の2年生(40人),3年生(23人),4年生(30人),5年生(72人),合計165人である。2年生には,質問内容を説明しながら回答させた。調査内容は,体育学習と向上心に関する質問2項目,体育学習と工夫に関する質問5項目,体育学習と豊かな体験に関する質問6項目,友人との関わりに関する質問3項目,教師との関わりに関する質問2項目,学び方に関する質問2項目,技能・体力の向上に関する質問2項目,体育学習中の態度に関する質問4項目,体育学習と遊びに関する質問2項目である。それぞれの質問には,「全くそう思う」5点から「全くそう思わない」1点までの等間隔の尺度を設定した。児童は,1から5の数字に○印を付ける方法で回答した。
  (2)  授業前後の児童の意識の変容
     児童の意識の変容をつかむため,授業前後の意識の違いを平均値の差を求めて検討した。その結果,授業前後で有意な差が認められた項目は28項目中18項目であった。その一部を表1に示した。
  表1 授業前後の児童の意識の変容
     工夫している姿を調査した「問5 どうやればもっと楽しくなるか,考えている。」,「問6 動きを工夫して運動している。」,「問10 用具のつかい方を工夫している。」の質問に対し,有意な差が認められ,比較的大きな向上が見られた。これらの結果から推測して,今回の授業は,児童の工夫を引き出したのではないかと考えられる。また,体力の向上と活動量に対する意識を調査した「問26 体育の授業では,体力がつく。」と「問27 体育の授業では,夢中になって運動している。」の質問に対し,比較的大きな向上が見られた。更に,児童の自ら進んで運動に親しむ習慣を調査した「問1 体育の学習で学んだことを取り入れて遊んでいる。」と自主的な運動の実践を調査した「問13 自分から進んで取り組んでいる。」の質問に対し,比較的大きな向上が見られた。
 以上の結果から,今回の授業が創造性を培いながら,体力を向上させ,自ら進んで運動に親しむ習慣を身に付け,自主的に運動が実践できる児童を育成することにある程度貢献したのではないかと考えられる。また,問2や問3から考えて,今回の授業は,児童の工夫を引き出しながらも,体育を好きにし,体育を楽しいと感じさせた授業でもあったと推測できる。
  (3)  練習方法の工夫と向上心との関連
     向上心を調査した「どうやればもっと楽しくなるか,考えている。」と工夫する姿を調査した「練習方法を工夫して運動している。」との関連を見るため,授業前後の差を算出し,差同士の相関係数を算出した。その結果,相関係数は,0.3(5%水準で有意)であった。高学年の児童のみで,相関係数を算出すると0.47(0.1%水準で有意)であった。
 この結果から,向上心が高まった児童は,練習方法を工夫するようになっていることがうかがえる。今回の,仮説の大きな柱である,願い(向上心)を大切にした授業は,創造性を培う授業であると推測できる。
  (4)  練習方法の工夫と練習計画との関連
     高学年の児童(72人)を対象に,練習計画の向上を調査した「練習の計画を立てるのが上手になった。」と工夫する姿を調査した「練習方法を工夫して運動している。」との関連を見るため,授業前後の差を算出し,差同士の相関係数を算出した。その結果,相関係数は,0.28(5%水準で有意)であった。この結果から,練習の計画を立てるのが上手になった児童は,練習方法を工夫するようになっていることがうかがえる。児童一人一人が自己の目標を持ち,その目標達成のための活動を適切に考え実践するために,高学年の児童は,練習計画を立てる学習を充実させる必要がある。そのことによって,児童の創造性を培うことができると考える。
  (5)  授業研究から捉えた成果
     児童相互の認め合い励まし合う場の設定は,児童の工夫を引き出すことができると考えられる。
     運動を楽しめるような学習過程は,用具の使い方や動きといった児童の工夫を引き出すのに有効であると考えられる。
     自分たちの練習したことを発表する場を設けることは,友達とのかかわりを深め,児童の向上心と工夫を引き出すのに有効であると考えられる。
     児童にめあてを持たせることができると共に,友達の動きを参考にできる場が設定された授業は,児童の工夫を引き出すのに有効であると考えられる。
     自分の力に合わせて目標を設定できる単元構成は,児童の向上心を高め,動きの工夫を引き出すのに有効であると考えられる。
 
お わ り に
 「創造性を培う体育学習の指導の在り方」を研究主題に,「体力の向上」,「児童が自ら進んで運動に親しむ資質や能力の育成」を視点に,理論研究,調査研究,授業研究を行ってきた。「児童の願い(向上心)を大切にして,豊かな体験のある授業展開をすれば,創造性を培うことができるであろう。」と仮説を立て,さらにそれを構造化し,その仮説構造に従って,授業研究を行った。その結果,これらの授業は,創造性を培いながら,体力を向上させ,自ら進んで運動に親しむ習慣を身に付け,自主的に運動が実践できる児童を育成することに,ある程度貢献したことが明らかになった。

[目次へ]